プロフィール画像を可換図式にしてる割りにはそれらしい記事を書いてないなあ、ということで、なんか書いてみます。
可換図式と言えば圏論ですね。私が圏論を初めて学んだとき、特に面白いと思ったのが随伴関手です。というわけで、この記事では随伴関手について語ります。
私自身そこまで圏論について詳しいわけではないので、基本的な内容のみとなります。何かおかしい点がありましたらご指摘頂けると幸いです。
圏や関手の定義は既知として書いていますが、仮にそれらを知らなくても、具体例を見ることで「ああ、随伴関手って『これ』のことか」となんとなく分かるかもしれません。よければ見ていってください。
いきなり定義に入る前に、導入として線形写像の話をします。
次のような文言を見たことがあるでしょうか。
線形写像は基底の行き先で決まる。
線形代数でよく出てくるやつですね。これは、厳密に言うと以下のようになります。
つまり、
①
から
②
がただ1つ決まります。逆に、②が与えられたら
このように、ある写像を考えることと別のある写像を考えることが等価である、という状況は数学ではしばしば現れます。そして、そのような状況には多くの場合随伴関手が関わっています。
圏、関手の定義は既知とします。
が存在して、任意の対象
が可換になるとき、
ここで、図式の左の縦の写像は
を対応させる写像です。右も同様。
なかなかややこしい定義ですが、とりあえず「
「左」「右」については、
なお、同値な定義がいくつか知られています(参考: wikipedia )。ここでは、できるだけ基本的な用語、概念のみで完結するものを採用しました。
ここからは、随伴関手の具体例をいくつか見ていきます。
冒頭に挙げた例からどのような随伴関手が出てくるのかを考えてみます。再掲すると、
①
②
という2つの概念が等価である、というものでした。これを圏っぽく書くと、
が定まる、と言えます。
ですが、ここでは
と書くのが正しいです。これで1つ関手ができました。
逆向きの関手について、
の部分に着目して考えます。
という関手を考えれば良さそうです (
射の対応についても一応ちゃんと書いておきます。まず、各
は、各
経験上、命題1のような綺麗な事実から関手および
まとめると、
とすると、
左随伴関手と右随伴関手は特に逆関手というわけではありませんので、合成して元に戻るといったことはありません。
こんな感じで、「○○を満たす写像が一意に存在する」といった状況を圏論的に整理すると、自然と随伴関手が現れたりします。
次は群論における例です。次の命題を考えます。
を可換にするものが一意に存在する。
群論でよく使われる事実ですね。ここにも随伴関手が隠れています。分かるでしょうか?ちょっと分かりにくいかもしれません。
対象:任意の群
射:
実際に圏をなすかどうか気になる方は、確かめてみてください。
命題3における「群準同型
なる単射を与えています。全射性もすぐに分かります (与えられた
ここからどのような関手が得られるでしょうか。上で現れた2つの
で、もう1つは
ですね。それぞれ射の対応も自然に定まります。
3つめは、テンソル積に関する例です。テンソル積をよく知らないという方は、読み飛ばしても大丈夫です。
この同型、ご存じでしょうか。 もうちょっと一般化した形 もありますが、この記事では簡単のため、上記の形で扱います。
で定める。
で定める。
さて、随伴関手を頭に置いた状態でこの命題を見たらどうでしょうか。なんかもうあからさまに随伴関手の形してますよね。すなわち、
と定めれば、
加群について学んだことのある方は、「テンソル積の右完全性」と「Homの左完全性」のように、テンソル積とHomがある種の双対的な性質を持っていることをご存じかと思います。それは偶然ではなく、実はこれらは随伴関手という概念によって繋がっていた、という訳です。
今回は、随伴関手のいくつかの例を見ました。数学の様々な場面に現れる似たような事実を統一的に表せる、というのはまさに圏論らしい話ですね。今回見たものはほんの一例であり、まだまだ数学の世界には随伴関手が溢れています。「○○を満たす写像が一意に存在する」という場面に出会ったら、「お、随伴か?」と思いましょう(例外もあるので悪しからず……)。
ただ、今回の話はただ名前を与えただけです。「だから何?」と言われてしまえばぐうの音もでません。
例えば「左随伴関手ならば○○である」といった性質があれば、それは数学における様々な概念に対して○○が示されたことになり、とても嬉しいですね。実際、代表的な性質で「右随伴関手は極限を保つ、左随伴関手は余極限を保つ」というのがあります。このあたりの記事も書ければ書きたいと思います(未定)。