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グラスマン多様体について。定義と基本的性質。

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 グラスマン多様体は教養の線形代数(「教養」というのは、これくらいは知ってろという意味ではなく、教養課程で習う程度のという意味です)程度で色々な計算ができ、代数幾何やトポロジーの諸概念を理解する例として大変便利だと後輩に話したところ、どうもグラスマン多様体に触れられる易しい教科書がないようだと後輩が嘆いていたので、私が書きます。というのがおおよそ本稿の執筆の動機です。
 数学というものの性質上、衒学趣味の小難しい書き方になってしまいますが、ぜひ手元に紙とペンを用意し、行列をたくさん書いてグラスマン多様体に親しんでください。

定義などなど

グラスマン多様体

可換体k上の有限次元ベクトル空間kn+mm次元部分空間全体の集合をGrk(n,m)と書き、k上の(n,m)グラスマン多様体と呼ぶ。

本稿ではk=Cとして色々な性質を考えていきます。このときに単にGr(n,m)と書くことにします。また、nを固定している状況でGr(m)と書いたりもすることがあるかもしれません。

m=1のとき

Gr(n,1)Cn+1の一次元ベクトル空間全体であるので、これは世界一大事な代数多様体ことPnとなります。

 さて、“多様体”と名が付くからにはmanifoldなりvarietyなりの構造が入ってほしいので、入れましょう(実はどちらの構造も入ります)。まず、定義より次の全射があります:
M(n,m):={AMat(n+m,m)rk(A)=m}Gr(n,m)[v1vm]Span{v1,,vn}

 要するに、部分空間に対してその基底を何でもいいから取りなさいということになります。まず、この全射による商位相をGr(n,m)の位相として採用します(manifoldの構造を入れるためには、本当ならこの位相が第二可算でハウスドルフであることを確かめないといけないわけですが、気になる人は自分で確かめてみてください。手間はかかりますが、そんなに難しいものではないと思います)。
 さて、まずM(n,m)の開被覆{Vα}(ただし、α=(α1,,αm)は多重指数で1α1<<αmm+nを満たす整数の組すべてを走るようにとります)を次のようにとります:
Vα:={AM(n,m)det(Aα)0}
 ただし、AαAの第αi行たちを取り出してきた小行列とします。これがM(n,m)の開被覆になることは階数の特徴づけのうちの一つのほとんど直接の言いかえになるので、(Vαに慣れる意味も込めて)自分で確かめてみてください。このとき、AVαAαの逆行列を右から掛け算するとα行目たちを取り出した小行列がm×m単位行列になっているような行列が得られます。このとき同一視M(nm,m)C(nm)×mの下で、AAα1α行目以外たちをすべてC(nm)×mへ送ります(字面だけを見るとよくわからないと思うので小さいサイズの行列で計算してみながら構成を追ってみてください)。

上の構成をそのままGr(n,m)まで落とすことで、グラスマン多様体上に座標系を誘導することを確かめよ。

 さて、無事にmanifoldの構造が入ったのでvarietyの構造も入れてしまいましょう:

プリュッカー埋め込み

写像Pr:Gr(n,m)P(mCm+n)P(n+mm)1Pr(Span(v1,,vm))=v1vmで定める。これをグラスマン多様体のプリュッカー埋め込みという。

 さて、このプリュッカー埋め込みが実際に埋め込みになっていることは後日気が向けば別の記事で説明することにしましょう。周の定理と呼ばれる強い定理を用いればプリュッカー埋め込みによってグラスマン多様体が代数多様体になることは分かりますが、代数的な関係式を直接見つけてくることもできます。

プリュッカー埋め込みによるグラスマン多様体の像の満たす代数関係式を求めよ。
ヒント:具体的な成分表示を使って行列の計算に帰着せよ。

 いろいろ計算しながら読まれてきた方はそろそろ疲れてきたでしょうし、私も疲れてきたので今回はこの辺りにして、次回からグラスマン多様体の幾何的な諸性質を見ていきましょう。誤植や数学的な誤り、こんなん教養の線形代数でわかるわけないやろ等のご意見は随時お待ちしております。

投稿日:2024227
更新日:2024227
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