私は解析の人間なのであまり数論的なモチベーションを持っていないのですが、面白い話題だと思ったので記事として公開しようと思います。
この記事は Wataruさんのツイート に対する解答を与えることが目的である。
$\bk=(k_1,\dots,k_r)$を許容インデックス、$k,r$を$\bk$のweightとdepthとする。その$n$回の繰り返し$\bk^n$について、
$$\zeta(\bk^n)\approx\frac1{(kn)!}B\Bigl(\frac{r}{k},1-\frac{r}{k}\Bigr)^{kn}\text{、つまり}\Bigl((kn)!\zeta(\bk^n)\Bigr)^{\frac1{kn}}\to B\Bigl(\frac{r}{k},1-\frac{r}{k}\Bigr)$$ as $n\to\infty$ である。
まず、反復積分表示を思い出す。
$w_0(t):=\frac1t,w_1(t):=\frac{1}{1-t},\ \mathbf{e}:=(\ve_1,\dots,\ve_k):=(1,\{0\}^{k_1-1},1,\{0\}^{k_2-1},\dots,\{0\}^{k_r-1})$
$$\zeta(\bk)=\int_{0\leq t_1\leq\dots\leq t_k\leq1}w_{\ve_1}(t_1)\dots w_{\ve_k}(t_k)\dt_1\dots \dt_k$$が成り立つ。
$K_\ve(x,y):=w_\ve(y)\siji_{x\leq y}$という$x,y\in[0,1]$についての非負関数(ただし$x>y$上では0)について、
$$(K'\times K)(x,z):=\int K'(x,y)K(y,z)\dy,\ (Kf)(x):=\int K(x,y)f(y)\dy$$
のように行列積のような計算ルールを入れると、反復積分表示は
$$\zeta(\bk)=(K_{\ve_1}\times\dots\times K_{\ve_k}\siji)(0)=:(K_{\mathbf{e}}\siji)(0)$$
定数関数$\siji$に$K_\ve$を何回も施したものになる。特に、インデックスの許容性はこの値が有限になることを意味する。なお、途中で値が無限大の点が出てくるのは問題がない、非負関数しか積分していないので無限大も許して計算できる。
$$K_{\mathbf{e}}(x,y)=\int_{x\leq t_1\leq\dots\leq t_{k-1}\leq y}w_{\ve_1}(t_1)\dots w_{\ve_{k-1}}(t_{k-1})w_{\ve_k}(y)\dt_1\dots \dt_{k-1}\quad\text{ただし$x>y$なら0}$$
について、$\zeta(\bk^n)=(K_{\mathbf{e}}^n\siji)(0)$である。上のような計算ルールは$K$を核に持つ積分作用素$T_K$の積として本当の行列積となり、その作用素を調べることでべき乗$T_K^n(\siji)(0)=\zeta(\bk^n)$に関する漸近表示を得る。
より一般に$[0,1]^2$上の関数$K(x,y)$が与えられたとき、作用素$T_K$を
$$(T_Kf)(x):=\int_0^1K(x,y)f(y)\dy $$
と定め、$K$を核関数と呼びます。どの関数空間上で考えるべきかは状況に依りますが、今回は$K$の正値性を生かしたいので連続関数環$C[0,1]$上で考えます。核自体が連続なら上の$T_K$は$C[0,1]$から$C[0,1]$への線形写像を明らかに与えますが、多少不連続だったりしてもjump pointが大人しかったら案外全然大丈夫だったりします。
核関数が$K(x,y)=\siji_{x\leq y}$の場合は$(Vf)(x):=\int_x^1 f(y)\dy$である。
$V\siji=1-x,\ V^2\siji=\frac{(1-x)^2}2,\ V^n\siji=\frac{(1-x)^n}{n!}$であるから$\norm{V^n}=\frac1{n!}$は指数関数より速く0に収束する。特に$V$の固有値(スペクトル)は0のみであるが、これは線形代数で言うところの冪零行列に類似している。核関数$K$をあたかも$[0,1]\times[0,1]$サイズの「行列」と思うと対角成分が0な下三角行列のように見える。このような観察により、下三角な$K$においては$K(x,y)$の$y-x$での減衰度が状況を支配していると予想できる。
積分作用素の積は積分作用素だが、$V^k$の対応する核は
$$K(x,y)=\frac{(y-x)^{k-1}}{(k-1)!}\siji_{x\leq y}$$
である。一般の積分作用素のべき乗はそんな綺麗な形の核を当然持たないので、Volterra作用素の核と比較する術を作る。
向きを保つ同相$\vp:[0,1]\to[0,1]$であって内部で微分同相なものを取る。
$\xymatrix{
C[0,1]\ar[d]_{-\circ\vp}\ar[r]^{T_K} & C[0,1]\ar[d]_{-\circ\vp}\\
C[0,1]\ar[r]^{T_{\tilde{K}}} & C[0,1]
}$
$(T_Kf)\circ\vp=T_{\tilde{K}}(f\circ\vp)$ なる$\tilde{K}$は次で与えられる:
$$\tilde{K}(x,y)=K(\vp(x),\vp(y))\vp'(y)$$
また、$K(x,y)\approx w_K(y)\frac{(y-x)^{k-1}}{(k-1)!},\tilde{K}(x,y)\approx w_\tilde{K}(y)\frac{(y-x)^{k-1}}{(k-1)!}$ が対角線$\{x\leq y\leq x+\ve\}$上で($\ve\to0$の意味で)成り立っているとき、$w_{\tilde{K}}(y)^\frac1k=w_K(\vp(y))^\frac1k\vp'(y)$である。
$\approx$の意味は後ろの方でちゃんと説明します。
$$((T_Kf)\circ\vp)(x)=\int K(\vp(x),t)f(t)\dt=\int K(\vp(x),\vp(y))f(\vp(y))\vp'(y)\dy=:T_{\tilde{K}}(f\circ\vp)(x)$$
から一個目が従う。二個目は
$$K(\vp(x),\vp(y))\vp'(y)\approx w_K(\vp(y))\frac{(\vp(y)-\vp(x))^{k-1}}{(k-1)!}\vp'(y)\approx w_K(\vp(y))\frac{(y-x)^{k-1}}{(k-1)!}\vp'(y)^k$$
から従う。
対角線上$K(x,y)\approx w(y)\frac{(y-x)^{k-1}}{(k-1)!}$のとき$A:=\int_0^1w(y)^\frac1k$と置くとある$\vp$で$T_{\tilde{K}}\approx (AV)^k$となる。特に$T_K^n(\siji)(0)\approx \frac{A^{kn}}{(kn)!}$である。
ここでの$\approx$の意味は後で説明します。
$w(y)^\frac1k=A\vp'(y)$としたいが、$\int_0^1\vp'(y)\dy=1$だから$A$が決まる。これにより対角線あたりでは$T_{\tilde{K}}\approx (AV)^k$だが、$(T_{\tilde{K}}^n\siji)(0)=(T_K^n\siji)(0)$よりOK。
最後に元々の核関数について$w_K$を計算する。
$$K_{\mathbf{e}}(x,y)=\int_{x\leq t_1\leq\dots\leq t_{k-1}\leq y}w_{\ve_1}(t_1)\dots w_{\ve_{k-1}}(t_{k-1})w_{\ve_k}(y)\dt_1\dots \dt_{k-1}\quad\text{ただし$x>y$なら0}$$
$x\approx y$のとき$t_i\approx y$だから
$\begin{align}
K(x,y)&\approx\int_{x\leq t_1\leq\dots\leq t_{k-1}\leq y}w_{\ve_1}(y)w_{\ve_2}(y)\dots w_{\ve_k}(y)\dt_2\dots \dt_k\\
&=w_1(y)^r w_0(y)^{k-r}\frac{(y-x)^{k-1}}{(k-1)!}\\
\end{align}$
故に$w_K(y)=w_1(y)^r w_0(y)^{k-r}$であり、その$\frac1k$乗の積分$A$はベータ関数のことである。故に上の補題より主定理を得る。
$C[0,1]$の順序構造がようやく生きる、それは各点毎の大小のことであるが。
$$K\leq K'\overset{\text{def}}{\iff}\forall x,y\ K(x,y)\leq K'(x,y)$$
$$f\leq f'\overset{\text{def}}{\iff}\forall x\ f(x)\leq f'(x)$$
$$K\leq K',f\leq f'\Rightarrow T_Kf\leq T_{K'}f'$$
ここら辺から$K_0\leq K\leq K_1\Rightarrow (T_{K_0}^n\siji)(0)\leq (T_{K}^n\siji)(0)\leq (T_{K_1}^n\siji)(0)$が出る。
$\{x\leq y\leq x+\ve\}$上で$A^k(1-\delta)\frac{(y-x)^{k-1}}{(k-1)!}\leq K(x,y)\leq A^k(1+\delta)\frac{(y-x)^{k-1}}{(k-1)!}$ならば
$$\frac{A^{kn}(1-\delta)^n}{(kn)!}\times \mathrm{O}(n^{-\frac1\ve})\leq (T_K^n\siji)(1)\leq \frac{A^{kn}(1+\delta)^n}{(kn)!}\times\mathrm{O}(n^{\frac1\ve})$$
$$A(1-\delta)^\frac1k\leq\liminf_n,\limsup_n\Bigl((kn)!(T_K^n\siji)(1)\Bigr)^{\frac1{kn}} \leq A(1+\delta)^\frac1k$$
二個目は一個目からすぐ出るので一個目を示す。
$$K_0(x,y):=A(1-\delta)\frac{(x-y)^{k-1}}{(k-1)!}\siji_{\{y\leq x\leq y+\ve\}}$$
$$K_1(x,y):=A(1+\delta)\frac{(x-y)^{k-1}}{(k-1)!}\siji_{\{y\leq x\leq y+\ve\}}+C\siji_{\{y+\ve\leq x\}}$$
は$K_0\leq K\leq K_1$だから、$(T_{K_0}^n\siji)(1),(T_{K_1}^n\siji)(1)$の評価に帰着される。ここで、$K(x,y)=f(x-y)\siji_{\{y\leq x\}}$という形の積分作用素は互いに可換であること、$K(x,y)=f(x-y)\siji_{\{y+\ve\leq x\}}$という形だと冪零であることから二項定理でバラしてVolterra作用素での計算結果を使うと分かる。
これを元に補題4とその証明を読み直すとちゃんと証明になっている。
ここにあった問題は 別記事 で解決しました。