0
大学数学基礎解説
文献あり

カスプ形式の定義の変形バージョン

212
0

はじめに

ΓSL2(Z)を合同部分群とする.

モジュラー形式の素晴らしい教科書[Diamond-Shurman]によるとカスプ形式とは以下のような特別なモジュラー形式です:

fΓに関する重さkのモジュラー形式とする.fがカスプ形式であるとは
limtf|[α]k(it)=0 (αSL2(Z))
であることを言う(上の左辺はしばしばf|[α]k(i)と略記される).

(これが本にある「フーリエ展開の定数項が0」という定義と同値なのは明らかである)

しかし現場ではαをもっと広い行列に取りたい時がある(例えばテータ関数からなるカスプ形式を扱うときαをAtkin-Lehner対合に取りたい時など).

この記事ではαは実はもっと広い行列(以下に書くHの元)にとっても良いことを示す.

本題

部分群HGL2(R)++は行列式が正であることを示す)は次の2条件を満たしているとする:

  1. 作用H(Q{})は可移,即ちH=Q{}.

  2. SL2(Z)H

このようなHとして次のようなものが取れる:

H=SL2(Z),GL2(Q)+,Z(GL2(R))+GL2(Q)+(ただしZ(G)は群Gの中心).

fΓに関する重さkのモジュラー形式とする.このとき以下は同値:

(a) 類[r]:=Γr (rQ{})Γのカスプとする.r=hなるhHに対して
f|[h]k(i)=0

(b)
f|[h]k(i)=0 (hH)

(c) fはカスプ形式,即ち
f|[α]k(i)=0 (αSL2(Z))

(a)(b)

Hの左剰余類への分割
H=iIΓhi
を考える.fΓモジュラー性より各iについてh=hiに対する(b)を示せば良い.

ここでri:=hiQ{}とするとH(Q{})が可移なのでこれらはΓのカスプの全てを表す:
Γ(Q{})={[ri]|iI}

(実際rQ{}に対してr=h (hH)と書けば,あるγΓiがあってh=γhiよりr=γhi=γriとなる.よって[r]=[ri].)

従って仮定(a)よりf|[hi]k(i)=0.

(b)(c)

SL2(Z)Hより明らか.

(c)(a)

rQ{}r=h (hH)であるとしよう.SL2(Z)(Q{})も可移であるからある
αSL2(Z)を用いて
r=α
とかける.

よってα1h=だが,を固定する行列は上三角行列Uであるので
α1h=U
とかける.

以上よりU=(ab0d)と書けば,仮定(c)より,

f|[h]k(z)=f|[αU]k=dk(f|[α]k)(Uz)0 (zi)

終わりに

カスプ形式の定義のαSL2(Z)というのは実は非本質的な箇所であることがわかった.結局はΓのカスプをカバーできる行列ならなんでも良いのである.しかしこのことについて言及した文献が見当たらなかったので今回このような記事を書いた.

参考文献

[1]
Diamond, Shurman, A First Course in Modular Forms
投稿日:2023101
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

Period
Period
47
16672

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. 本題
  3. 終わりに
  4. 参考文献