はじめに
を合同部分群とする.
モジュラー形式の素晴らしい教科書[Diamond-Shurman]によるとカスプ形式とは以下のような特別なモジュラー形式です:
をに関する重さのモジュラー形式とする.がカスプ形式であるとは
であることを言う(上の左辺はしばしばと略記される).
(これが本にある「フーリエ展開の定数項が」という定義と同値なのは明らかである)
しかし現場ではをもっと広い行列に取りたい時がある(例えばテータ関数からなるカスプ形式を扱うときをAtkin-Lehner対合に取りたい時など).
この記事ではは実はもっと広い行列(以下に書くの元)にとっても良いことを示す.
本題
部分群(は行列式が正であることを示す)は次の2条件を満たしているとする:
作用は可移,即ち.
このようなとして次のようなものが取れる:
をに関する重さのモジュラー形式とする.このとき以下は同値:
(a) 類をのカスプとする.なるに対して
(b)
(c) はカスプ形式,即ち
(a)(b)
の左剰余類への分割
を考える.のモジュラー性より各についてに対する(b)を示せば良い.
ここでとするとが可移なのでこれらはのカスプの全てを表す:
(実際に対してと書けば,あるとがあってよりとなる.よって.)
従って仮定(a)より.
(b)(c)
より明らか.
(c)(a)
でであるとしよう.も可移であるからある
を用いて
とかける.
よってだが,を固定する行列は上三角行列であるので
とかける.
以上よりと書けば,仮定(c)より,
終わりに
カスプ形式の定義のというのは実は非本質的な箇所であることがわかった.結局はのカスプをカバーできる行列ならなんでも良いのである.しかしこのことについて言及した文献が見当たらなかったので今回このような記事を書いた.