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大学数学基礎解説
文献あり

曲面の測地線方程式に現れるChristoffel記号を導出しよう

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本稿の説明

こんにちは.今回が2回目の投稿ですね.今回はChristoffel記号の説明を行っていきたいと思います.とはいっても,(浅学ながらあまり知らないのですが)一般のChristoffel記号というわけではなく,$\mathbb{R}^{3}$の曲面論での測地線方程式の導出に現れるChristoffel記号についての解説です.この時点で相当限られてしまうと思うので,当てはまらない方はブラウザバックしていただいて構いません.
また,今回以降はもう前回とは変わってフランクに書いていこうかと思いますので注意などは付しませんが,今回は計算量の都合からおそらく誤植が割とあると思います.
あと句読点が前と違うのはパソコンのデフォルト設定を,.としているからです.

Christoffel記号の定義から

ここまでくる限られた皆さんこんにちは.恐らくここまで読む方は曲面論をがっつり学修されているかと思います.曲面論の学習が進んでくると,測地線方程式と呼ばれる曲面論のメインディッシュともいえるものについて説明されますよね.その際,おそらく一般的な教科書では測地線方程式の前に以下の式が天下り的に定義されることでしょう.

Christoffel記号

以下の8つの滑らかな関数をChristoffel記号と呼ぶ.ただし,$E,F,G$はそれぞれ正則な曲面$p(u,v)$の第一基本量で,$E=p_{u} \bullet p_{u}, F=p_{u} \bullet p_{v}, G=p_{v} \bullet p_{v}$を満たすものとする.

$\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} \Gamma^{1}_{11} \coloneqq \dfrac{GE_{u}-2FF_{u}+FE_{v}}{2(EG-F^2)} \\ \Gamma^{2}_{11} \coloneqq \dfrac{2EF_{u}-EE_{v}-FE_{u}}{2(EG-F^2)} \\ \Gamma^{1}_{12} = \Gamma^{1}_{21}\coloneqq \dfrac{GE_{v}-FG_{u}}{2(EG-F^2)} \\ \Gamma^{2}_{12} = \Gamma^{2}_{21}\coloneqq \dfrac{EG_{u}-FE_{v}}{2(EG-F^2)} \\ \Gamma^{1}_{22} \coloneqq \dfrac{2GF_{v}-GG_{u}-FG_{v}}{2(EG-F^2)} \\ \Gamma^{2}_{22} \coloneqq \dfrac{EG_{v}-2FF_{v}+FG_{u}}{2(EG-F^2)} \end{array} \right. \end{eqnarray}$

流石に笑ってしまいますね.すべての式が厳つすぎます.これを認めて多少の計算を行っていけば当然結果が表れて幸せになれるかもしれませんが,この記号が初見ではあまりにも訳が分からなさ過ぎて気持ちが悪いという方も多いでしょう.この記事はそんな方のために,Christoffel記号を測地線方程式を導出することをモチベーションに,ほとんど何も考えずに計算をガリガリ行うことで導出しようといったものです.眺めるだけでも十分良いと思います.ぜひご覧ください.

測地線方程式とは?

釈迦に説法かもしれませんが,一応測地線の説明からしていきましょう.
いま,皆さんの目の前にあるノートに相異なる点を2点打ってみてください.このとき,その2点を結ぶ線のうち,最短のものを結んでくださいと言われたら,全員線分を引くと思われます.そう,平面上の2点を結ぶ線のうち最短のものは直線でしたよね.では質問を難しくします.平面を曲面に変えたら,答えはどうなるでしょうか.
実は,その答えが今回何度も出てきた「測地線」なのです.ということで測地線の定義と,それに係る重要な定理を見ていきましょう.証明はしません.

$\mathbb{R}^3$の任意のベクトルは曲面に接するベクトルと法線方向のベクトルの和に一意に分解できる.

測地線

曲線$\gamma(t)$を考える.いま,命題1によれば,曲面に接するベクトル$[\ddot{\gamma}]^{\mathrm{T}}$と法線方向のベクトル$[\ddot{\gamma}]^{\mathrm{N}}$を用いて曲線の加速度ベクトル$\ddot{\gamma} \in \mathbb{R}^3$
$\ddot{\gamma}=[\ddot{\gamma}]^{\mathrm{T}}+[\ddot{\gamma}]^{\mathrm{N}}$
のように一意に分解することができるが,そんな曲線$\gamma(t)$のうち,$[\ddot{\gamma}]^{\mathrm{T}}=0$となるようなものを測地線と呼ぶ.

曲面上の2点を結ぶ曲面上の滑らかな最短線が存在したとき,その弧長パラメタによる表示は測地線となる.

$\nu \coloneqq \dfrac{p_{u} \cross p_{v}}{\|p_{u} \cross p_{v}\|}$ とする.$\lbrace p_{u},p_{v},\nu \rbrace$$\mathbb{R}^{3}$の基底である.

ということで準備が整いました.以上の話から測地線になるための条件を考えて,そこからChristoffel記号を導出してみましょう.
まずは測地線の定義をふまえて$\ddot\gamma$を求めていきましょう.

$\gamma(t) = p(u(t),v(t))$ とする.これは弧長パラメタとは限りませんが測地線ならば$t$は弧長パラメタに比例します.先ず1階微分は
$\dot\gamma = p_{u}(u,v)\dot u + p_v(u,v) \dot v$
さらに2階微分を求めて
$\ddot\gamma =\ddot up_{u} + \ddot vp_v + (\dot u)^{2} p_{uu} + 2\dot u\dot vp_{uv} + (\dot v)^2 p_{vv} $

私たちの目的はこの加速度ベクトルを,$p_{u}, p_{v},\nu$の線形結合で表すことです.そうすると,前半2つの和が曲面に接する方向のベクトルであり,この2つのベクトルは独立ですから測地線の方程式はこの2つの係数が0になる連立(常微分)方程式になりますね.だいぶ時間がかかりましたが,これでモチベーションもわかり,見晴らしがかなり良くなったことでしょう.そうすれば次にやることはわかりますよね.それは,$p_{uu},p_{uv},p_{vv}$$p_{u}, p_{v},\nu$の線形結合で表すことです.ということでここからが本番です.もしかしたら楽に導出する方法があるかもしれませんが,この記事は頭を使わないことを信条としているので,またもや筋肉に身を任せ,このような問題へ帰着させましょう.$\nu$の直交性のみ注意してください.

本題

$\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} p_{uu} = a_1p_u + b_1p_v + c_1\nu \quad\quad (1)\\ p_{uv} = a_2p_u + b_2p_v + c_2\nu \quad\quad (2)\\ p_{vv} = a_3p_u + b_3p_v + c_3\nu \quad \quad (3)\\ \end{array} \right. \end{eqnarray}$
を満たすような$a_1 ,a_2, a_3, b_1,b_2,b_3,c_1,c_2, c_3$ を求めなさい.

$c_{i}\ ( i=1,2,3$)は簡単です.各式の両辺に$\nu $をかけてやれば第2基本量の定義が出てきます.これを本稿では順に$c_1=L,c_2=M,c_3 =N$と置くこととします.第2基本量の詳しい導入に関しては成書を読んでください(いつか私が記事を書くかもしれません).
さて,(1)の両辺に$p_{u},p_{v}$をかければ,第1基本量の定義から
$$ \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} p_{u}\bullet p_{uu} = a_1E + b_1F \\ p_{v} \bullet p_{uu} = a_1F + b_1 G \end{array} \right. \end{eqnarray} $$
$$ \Longleftrightarrow \begin{pmatrix} p_{u}\bullet p_{uu} \\ p_{v} \bullet p_{uu} \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} E & F \\ F & G \end{pmatrix} \begin{pmatrix} a_1 \\ b_1 \end{pmatrix} $$
$$ \Longleftrightarrow \begin{eqnarray} \left( \begin{array}{cc} a_1 \\ b_1 \end{array} \right) =\dfrac{1}{EG-F^2} \begin{pmatrix} G & -F \\ -F & E \end{pmatrix} \begin{pmatrix} p_{u}\bullet p_{uu} \\ p_{v} \bullet p_{uu} \end{pmatrix} \end{eqnarray} $$
$$ \Longleftrightarrow \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} a_1 = \dfrac{G(p_{u}\bullet p_{uu})-F(p_{v} \bullet p_{uu})}{EG-F^2} \\ b_1 = \dfrac{-F(p_{u}\bullet p_{uu})+E(p_{v} \bullet p_{uu})}{EG-F^2} \end{array} \right. \end{eqnarray} $$
分母にクリストッフェルの息吹を感じられてきましたね!ここで$p_{u}\bullet p_{uu}$,$p_{v} \bullet p_{uu} $は明示的に求められます.
先ずは簡単な1個目のほうは$p_{u} \bullet p_{uu} = \dfrac{1}{2}\ \dfrac{\partial}{\partial u} (p_u \bullet p_u) = 2^{-1}E_u \\$とできますね.初見だと面食らうかもしれませんが曲線曲面論だとよく使う手法ですので,難しくもありませんからマスターしましょう.

2個目のほうはちょっと難しいかもしれません.
先ず,$F_u = \dfrac{\partial (p_u \bullet p_v)}{\partial u} = p_{uu}\bullet p_v + p_u \bullet p_{uv}$
$ \Longleftrightarrow p_{v}\bullet p_{uu} = F_u - p_u \bullet p_{uv} $

それでもまだ$p_u \bullet p_{uv}$がわかりませんね.もう一押ししましょう.
$E_v = \dfrac{\partial (p_u \bullet p_u)}{\partial v} = 2(p_u \bullet p_{uv})$
よって,$(p_u \bullet p_{uv})=2^{-1}E_v$ となって,
$p_{v} \bullet p_{uu} = 2^{-1}(2 F_u - E_v)$ を得ます.
以上によって,以下のようにまとめられます.
\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} a_1 = \dfrac{GE_u-F(2F_u -E_v)}{2(EG-F^2)} = \dfrac{GE_u-2FF_u -FE_v}{2(EG-F^2)}\\ b_1 = \dfrac{-FE_u+E(2F_u -E_v)}{2(EG-F^2)} = \dfrac{2EF_u -EE_v -FE_u}{2(EG-F^2)} \end{array} \right. \end{eqnarray}
思ったよりヘビーな計算でしたね.これにより得た結果と先に述べたChristoffel記号の定義を見比べてみれば$\Gamma^{1}_{11} ,\Gamma^{2}_{11}$に対応してることがわかりますね.このようにして導出されるわけです.
それでは,続いて$a_2,b_2$を求めて終わろうと思います.残りの3の場合は読者へ委ねます.
(2)の両辺に再度$p_u,p_v$をかけて

$$ \begin{eqnarray} \left( \begin{array}{cc} a_2 \\ b_2 \end{array} \right) \end{eqnarray} = \dfrac{1}{EG-F^2} \begin{pmatrix} G & -F \\ E &-F \end{pmatrix} \begin{pmatrix} p_{uv} \bullet p_u \\ p_{uv} \bullet p_v \end{pmatrix}$$

$\begin{eqnarray} \Longleftrightarrow \left\{ \begin{array}{l} a_2 = \dfrac{G(p_{u}\bullet p_{uv})-F(p_{v} \bullet p_{uv})}{EG-F^2} \\ b_2 = \dfrac{-F(p_{u}\bullet p_{uv})+E(p_{v} \bullet p_{uv})}{EG-F^2} \end{array} \right. \end{eqnarray}$

先ほど$p_{uv} \bullet p_u = 2^{-1}E_v$を得ていましたので,残りは$p_v \bullet p_{uv}$を考えればokですね.これは
$p_v \bullet p_{uv} = 2^{-1}( \dfrac{\partial (p_v \bullet p_v)}{\partial u}) =2^{-1}G_u $
となりますね.よって,

$\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} a_2 = \dfrac{GE_v-FG_u}{2(EG-F^2)} \\ b_2 = \dfrac{-FE_v+EG_u}{2(EG-F^2)} \end{array} \right. \end{eqnarray}$

となって,導かれました.2回目はそこまで難しい話でもなかったでしょう.やることは1,2,3すべて同じです.掴んだ感覚を頼りに3のときを導出してみることをおすすめします.

余談

考え方としては簡単ですが,計算してみろと言われれば結構息が長くて大変かもしれませんね.筆者は特に最近たくさん計算して結果を得るというのにハマっているので割と楽しみながらできました.
ただ,コンピュータに打ち込むのは結構大変だったです.それに関連して,そもそもトピックや対象とする読者の層が狭すぎるのもあると思いますが,例のごとく少ししか先行資料を調べていないので既存のものかもしれません.もっとも,ここまでしっかり書く人は相当少ないと思いますが.
最後に,本稿の反応が良ければ曲面論の解説記事をもっと書こうかと思います.

参考文献

[1]
梅原 雅顕,山田 光太郎, 曲線と曲面 -微分幾何的アプローチー, 裳華房, 296ページ
投稿日:718
更新日:719
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投稿者

数学科B2/微分幾何や統計周辺に興味があります。

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