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大学数学基礎解説
文献あり

行列の極分解

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$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{diag}[0]{\operatorname{diag}} \newcommand{GL}[0]{\operatorname{GL}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} $$

極分解について書こうと思います.

正則行列の場合

$n$次のユニタリ行列全体の集合を$U(n)$と表す.

$n$次の行列$M$正定値であるとは, $M$がエルミートで, 任意の$x\in\C^n$に対して$x\neq 0$ならば$x^*Mx>0$が成り立つことをいい, $M>0$で表す.
$n$次の行列$M$半正定値であるとは, $M$がエルミートで, 任意の$x\in\C^n$に対して$x^*Mx\geq 0$が成り立つことをいい, $M\geq 0$で表す.
また, $n$次の正定値, 半正定値行列全体の集合を(この記事では)それぞれ$M_{n,>0}(\C)$, $M_{n,\geq 0}(\C)$と表す.

極分解(正則行列)

$A\in\GL_n(\C)$に対し, $U\in U(n)$, $P\in M_{n,>0}(\C)$が一意に存在して$A=UP$が成り立つ.

$A\in M_{k,\geq 0}(\C)$に対し, $P\in M_{k,\geq 0}(\C)$が一意に存在して$A=P^2$が成り立つ.

補題の証明(タップすると展開されます)

$ $$A$は半正定値行列なので実数$a_1\geq\cdots\geq a_k\geq 0$およびユニタリ行列$U$を用いて
$$A=U^*\diag(a_1,\ldots,a_k)U$$
と対角化できる.
$P=U^*\diag(\sqrt{a_1},\ldots,\sqrt{a_k})U$とおくと, $P\geq 0$であり$P^2=A$をみたす.
これより, $P$の存在が示された.

行列$P^\prime\geq 0$$(P^\prime)^2=A$をみたすとき$P=P^\prime$であることを示す.
$\alpha$$P^\prime$の固有値とすると$\alpha^2$$A$の固有値であり, $\alpha\geq 0$より, $\alpha$$P$の固有値である.
行列$P$, $P^\prime$の固有値$\alpha$の固有空間をそれぞれ$V_\alpha$, $V^\prime_\alpha$と表す.

$\alpha\neq 0$のとき, $x\in V^\prime_\alpha$に対して$P^2x=(P^\prime)^2x=\alpha^2x$であるため, $(P+\alpha)x\in V_\alpha$である.
$V_\alpha\to V_\alpha;x\mapsto(P+\alpha)x$は全単射で, $P+\alpha$は可逆行列なので$x\in V_\alpha$となる.
これより, $V^\prime_\alpha\subset V_\alpha$である.

$\alpha=0$のとき, $Px=0\iff x^*P^*Px=0\iff P^\prime x=0$なので$V^\prime_\alpha=V_\alpha$である.

したがって, $P^\prime$の任意の固有値$\alpha$に対して$P^\prime\vert_{V^\prime_\alpha}=P\vert_{V^\prime_\alpha}$がわかる.
$\C^k=V^\prime_{a_1}+\cdots+V^\prime_{a_k}$なので$P^\prime=P$となり, $P$の一意性が示された. $\square$

まずは存在を示す.
補題2を用いて, $A^*A=P^2$となるように$P\in M_{n,\geq 0}(\C)$を定める.
このとき, $A\in\GL_n(\C)$なので$P>0$である.
$P$は正則なので$U=AP^{-1}$と定めることができ, $U^*U=P^{-1}A^*AP^{-1}=P^{-1}P^2P^{-1}=\id_n$であるため$U$はユニタリ行列である
さらに, $A=UP$も成り立っている.

続いて, 一意性を示す.
$A=UP$となっているとき$A^*A=P^*U^*UP=P^2$なので, 補題2により, $P$は一意である.
$A$は正則なので$P$も正則で, $U=AP^{-1}$は一意である.

一般の行列の場合

$U\in M_{n,k}(\C)$$U^*U=\id_k$をみたすとき, $U$等長行列という.
$V\in M_{n,k}(\C)$$VV^*V=V$をみたすとき, $V$部分等長行列という.
等長行列であるような$n\times k$行列全体の集合をこの記事では$U(n,k)$と書く.

$A\in M_{n,k}(\C)$に対し, 部分等長行列$V\in M_{n,k}(\C)$, 半正定値行列$P\in M_{k,\geq 0}(\C)$が一意に存在して次の$2$条件が成り立つ.

  • $A=VP$
  • $\Im(V^*)=\Im(P)$
$ $また, このとき$V$$\Im(V)=\Im(A)$をみたす.

まずは存在を示す.
補題2を用いて, $A^*A=P^2$となるように$P\in M_{k,\geq 0}(\C)$を定める.
$x\in\C^k$に対し, $Ax=0\iff x^*A^*Ax=0\iff Px=0$であるため, 線型写像$V_1$
$$V_1:\Im(P)\to\Im(A);Px\mapsto Ax$$
により定めることができる.
また, $V_2:\Im(P)^\perp\to 0$とし, $V:\C^k\to\C^n$$V=V_1\oplus V_2$により定める.

このとき, $V$の構成から$A=VP$および$\Im(V)=\Im(A)$が成り立つ.

$x,y\in\C^k$に対し,
$$\langle V^*Ax,Py\rangle=\langle x,A^*VPy\rangle=\langle x,A^*Ay\rangle=\langle Px,Py\rangle$$
が成り立つ.
また, $x\in\C^k$, $y\in\Im(P)^\perp$に対し,
$$\langle V^*Ax,y\rangle=\langle Ax,Vy\rangle=\langle Ax,0\rangle=0=\langle Px,y\rangle$$
が成り立つ.
以上をあわせると, 任意の$y\in\C^n$に対して$\langle V^*Ax,y\rangle=\langle Px,y\rangle$となるので
$$V^*Ax=Px$$
である.
このことから, $V\circ V^*\vert_{\Im(A)}$$Ax\mapsto Px\mapsto Ax$となるので$V\circ V^*\vert_{\Im(A)}=\id_{\Im(A)}$であり, $VV^*V=V$が得られる.
したがって, $V$は部分等長行列である.

次に, 一意性を示す.
まずは$P$の一意性を示す.
$VV^*V=V$の共役転置をとると$V^*VV^*=V^*$となるので$V^*V\vert_{\Im(V^*)}=\id_{\Im(V^*)}$である.
これより, $A^*A=P^*V^*VP=P^2$であるため, 補題2より$P$の一意性が示された.

つづいて$V$の一意性を示す.
部分等長行列$V^\prime$$V^\prime P=VP=A$および$\Im((V^\prime)^*)=\Im(V^*)=\Im(P)$をみたしたと仮定する.
このとき, $VP=V^\prime P$なので$V\vert_{\Im(P)}=V^\prime\vert_{\Im(P)}$である.
また, $x\in\Im(P)^\perp$, $y\in\C^n$に対して$\langle V^\prime x,y\rangle=\langle x,(V^\prime)^*y\rangle=0$なので$V^\prime\vert_{\Im(P)^\perp}=0=V\vert_{\Im(P)^\perp}$であり, $V=V^\prime$が示された.

極分解(一般の行列)

$n\geq k$とする.
$A\in M_{n,k}(\C)$に対し, 等長行列$U\in M_{n,k}(\C)$, 半正定値行列$P\in M_{k,\geq 0}(\C)$が存在して$A=UP$が成り立つ.
また, 上の条件をみたす組$(U,P)$全体の集合は補題3の$V$, $P_0$を用いて$\{U\in U(n,k)\mid U\vert_{\Im(P_0)}=V\vert_{\Im(P_0)}\}\times\{P_0\}$と表せる.

後半の主張を示す.
$S=\{U\in U(n,k)\mid U\vert_{\Im(P_0)}=V\vert_{\Im(P_0)}\}\times\{P_0\}$とおく.
$(U,P)\in S$ならば$A=UP$であることは明らかである.
$A=UP$のとき, $A^*A=P^*U^*UP=P^2$なので$P=P_0$である.
また, $A=UP_0=VP_0$なので$U\vert_{\Im(P_0)}=V\vert_{\Im(P_0)}$が従い, $(U,P)\in S$が示された.

前半の主張を示す.
$\{U\in U(n,k)\mid U\vert_{\Im(P_0)}=V\vert_{\Im(P_0)}\}$が空でないことを示せばよい.
$\Im(P_0)^\perp$の正規直交基底$x_1,\ldots,x_m$をひとつとる.
$n\geq k$なので, $\Im(V)^\perp$の元$y_1,\ldots,y_m$であって$\langle y_i,y_j\rangle=\delta_{i,j}$をみたすものが存在する.
$U\vert_{\Im(P_0)}=V\vert_{\Im(P_0)}$, $Ux_i=y_i$となるように$U$を定めることができ, このとき$U^*U=\id_k$が成り立つため, $\{U\in U(n,k)\mid U\vert_{\Im(P_0)}=V\vert_{\Im(P_0)}\}$は空でない.

参考文献

[1]
中神 祥臣・柳井 晴夫, 矩形行列の行列式, 丸善出版, 2012
投稿日:28日前
更新日:28日前
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tria_math
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