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高校数学から見る①-1(体論)

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$$\newcommand{bekutoru}[1]{\displaystyle\overrightarrow{\mbox{#1}\phantom{A}\hspace{-1em}}} \newcommand{bm}[1]{\boldsymbol{#1}} \newcommand{bunsuu}[2]{\dfrac{\,#1\,}{\,#2\,}} \newcommand{Deg}[0]{^{\circ}} \newcommand{dsqrt}[1]{\displaystyle\sqrt{\,#1\,}} \newcommand{foo}[1]{\ifnum#12\text{それは2だよ!}\else\text{それは2じゃないよ!}\fi} \newcommand{Gal}[0]{\mathop{\rm Gal}\nolimits} \newcommand{gauss}[1]{\left[\mkern1mu {#1}\mkern1mu\right]} \newcommand{kaku}[1]{\angle\mbox{#1}} \newcommand{kumiawase}[2]{\mathord{{}_{#1}\kern-.12em{}\text{C}_{#2}}} \newcommand{mdot}[0]{\!\cdot\!} \newcommand{sankaku}[1]{\triangle \mbox{#1}} \newcommand{suuretu}[1]{\left\{#1\right\}} \newcommand{tsqrt}[1]{\textstyle\sqrt{\,#1\,}} \newcommand{zyunretu}[2]{\mathord{{}_{#1}\kern-.12em{}\text{P}_{#2}}} $$

はじめに

過去の入試問題で,次の問題があります。

2009年神戸大学理系:第2問

$f(x)=x^3-3x+1$$g(x)=x^2-2$とし,方程式$f(x)=0$について考える。このとき,以下のことを示せ。

⑴ $f(x)=0$は絶対値が$2$より小さい$3$つの相異なる実数解を持つ。
⑵ $\alpha$$f(x)=0$の解ならば,$g(\alpha)$$f(x)=0$の解である。
⑶ $f(x)=0$の解を小さい順に$\alpha_1,\alpha_2,\alpha_3$とすれば,$$ g(\alpha_1)=\alpha_3,\quad g(\alpha_2)=\alpha_1,\quad g(\alpha_3)=\alpha_2$$
となる。

この問題を初めてみる人にとっては,「なんなんだこの問題?」「この$\bm{x^2-2}$という関数はどこから出て来たんだ?」という疑問が自然と出てくると思います。なんなら昔の僕はそうでした。しかし今の僕ならばこの問題をより深く考察することが出来ます。これは体論と絡めて語ることが出来ます。

そこでこの記事(及びその続記事)では,この問題の周辺の話題を思いつらつらと書いていきます。

方針として,

  • まずは高校生にも伝わることとして,この問題を複素数の立場から眺める。
  • 次にガロア理論(というより体論)からこの問題を眺める
  • 最後に,整数論から眺める(次回)

KeyWords: ガロア拡大,アーベル拡大,入試問題,体論,複素数

1の9乗根で表す

複素数を用いることで,話が簡明になります。特にこの節では$1$の9乗根を使うことで,$g(x)$の正体を暴いていきましょう。

まず,$\eta=\cos\bunsuu{2}{9}\pi+i\sin\bunsuu{2}{9}\pi$とします。これは$1$の原始9乗根です。$\eta^3$$1$の3乗根ですから,$$ \eta^6+\eta^3+1=0 $$
を得ます。これを$\eta^3$で割ると,$$ \eta^3+\bunsuu{1}{\eta^3}+1=0 $$です。ここで変換$\bm{t=\eta+\bunsuu1{\eta}}$を与えますと,$$ \bm{t^3-3t+1=0} $$
を得ます。これはまさしく$f(x)=0$の解になっています。すなわち,$\bbox[yellow,2pt]{\bm{t=2\cos\bunsuu{2}{9}\pi}}$$f(x)$の根になっていることが分かりました。同様にして他の解も$1$の9乗根で表すことが出来ます。具体的には,$$ \eta+\bunsuu1{\eta},\quad \eta^2+\bunsuu1{\eta^2},\quad \eta^4+\bunsuu1{\eta^4} $$が解になっています。例えば今列挙した順に$\alpha,\beta,\gamma$と置くならば,$$ \beta=\alpha^2-2,\quad \gamma=\beta^2-2,\quad \alpha=\gamma^2-2 $$
となることは容易に分かり,これはこれで$g(x)$の正体が判明しました。

追記

どうやら過去にこんな問題が出されたようです。参考にしていただければと思います。

2018年千葉大理系:第12問
複素数$ z=\cos \bunsuu{2\pi}{9}+i\sin \bunsuu{2\pi}{9}$に対し,$\alpha=z+z^8$とおく.$f(x)$は整数係数の$3$次多項式で,$3$次の係数が$1$であり,かつ$f(\alpha)=0$となるものとする.
ただし,すべての係数が整数である多項式を,整数係数の多項式という.
⑴ $f(x)$を求めよ.ただし$f(x)$がただ$1$つに決まることは証明しなくてよい.
⑵ $3$次方程式$f(x)=0$$\alpha$以外の2つの解を,$\alpha$$2$次以下の,整数係数の多項式の形で表せ.
この問題,やや一遇性のある問題では…?

有理数体のアーベル拡大

ここからがメインテーマであり,長い道のりです。ガロア拡大(特にアーベル拡大)とリンクさせながら話を続けていきましょう。

ちなみに,最近は標数有限の体しか触っていなくて,有理数体のような標数0の体(有限次分離拡大が必ず単拡大になる体)を考えるのはスッキリしますね。なんかかわいいというか。愛でてあげているというか。そんな気持ちです。

アーベル拡大と3次多項式

アーベル拡大

有理数体$\mathbb Q$上のモニック(最大次数の係数は$1$)な既約多項式$f(T)\in \mathbb Q[T]$の根の$1$つを$\alpha$とする。$\mathbb Q(\alpha)$$\mathbb Q$$\alpha$を“添加”した体とするとき,$f(T)$の根がすべて$\mathbb Q(\alpha)$に属しているとき,体の拡大$\mathbb Q(\alpha)/\mathbb Q$アーベル拡大 という。

$f(T)$の最小分解体が単拡大である」「$f(T)$の最小分解体を$L$として,$\Gal(L/\mathbb Q)$がアーベル群である」などはすべて同値な言い換えです。

モニックな既約多項式$f(T)$$2$次の多項式であれば,その根を添加して出来る体はすべてアーベル拡大です。

モニックな既約多項式$f(T)$$3$次であれば,$f(T)=(T-\alpha)(T-\beta)(T-\gamma)$について,$\mathbb Q(\alpha)$がアーベル拡大であるための必要十分条件があります。

3次多項式とアーベル拡大

$a,\,b,\,c\in\mathbb Q$として,モニックな既約多項式$f(T)=T^3+aT^2+bT+c=(T-\alpha)(T-\beta)(T-\gamma)\in \mathbb Q[T]$をとる。$f(T)$の最小分解体$L$がアーベル拡大であるための必要十分条件は,$$ \delta\colon\!=(\alpha-\beta)(\beta-\gamma)(\gamma-\alpha) $$
が,$\delta\in\mathbb Q$であることである。

$\delta$が有理数だとする。また,$f(T)$の根$\alpha$をとる。このとき$\mathbb Q(\alpha)=L$であればよい。特に,他の根$\beta,\gamma$$\beta,\gamma\in\mathbb Q(\alpha)$であればよい。今,$$ f'(\alpha)=(\alpha-\beta)(\alpha-\gamma) $$
であるから,$$ \beta-\gamma=-\bunsuu{\delta}{f'(\alpha)} $$を得る。また,$3$次多項式の根と係数の関係から,$$ \beta+\gamma=-a-\alpha $$
である。したがって,例えば$\beta$については,$$ \beta=-\bunsuu12\left(\bunsuu{\delta}{f'(\alpha)}+a+\alpha\right) $$であるから,$\beta\in\mathbb Q(\alpha)$である。同様に$\gamma\in\mathbb Q(\alpha)$も分かる。

逆に$L$がアーベル拡大とすると,$\Gal(L/\mathbb Q)$の任意の元$\sigma$に対して$\sigma(\delta)=\delta$であることが,$\delta$の定め方から簡単に分かる。よって$\delta\in\mathbb Q$となる。

g(x)の正体に迫る

この定理の結果を,考えている問題に適用しましょう。今回の場合は,$$ f(x)=x^3-3x+1=(x-\alpha)(x-\beta)(x-\gamma) $$
で,実際に$\delta$を計算してみます。$$ f'(\alpha)=(\alpha-\beta)(\beta-\gamma),\quad f'(\beta)=(\beta-\gamma)(\beta-\alpha),\quad f'(\gamma)=(\gamma-\alpha)(\gamma-\beta) $$
であるので,
\begin{align} \delta^2&=(\alpha-\beta)^2(\beta-\gamma)^2(\gamma-\alpha)^2\\ &=-f'(\alpha)f'(\beta)f'(\gamma)\\ &=-(3\alpha^2-3)(3\beta^2-3)(3\gamma^2-3) \end{align}
と計算できます。ここで,根と係数の関係から,
$$ \begin{align} &\alpha+\beta+\gamma&=&\phantom{-}0\\ &\alpha\beta+\beta\gamma+\gamma\alpha&=&-3\\ &\alpha\beta\gamma&=&-1 &\end{align} $$
が成り立っていましたので,これを使うことで,$\delta^2=81$となり,$\delta$が有理数であることが分かりました。($\delta$の正負は,$\alpha,\beta,\gamma$の具体的な取り方によって変わります。)従って,$f(x)$の最小分解体は単拡大であることが分かり,特に$\bm{\beta}$$\bm{\gamma}$$\bm{\alpha}$を用いて表される事が分かりました。

そこで,例えば$\delta=9$として,$\beta,\gamma$の値を求めていきます。

定理の証明における計算から,$$ \begin{cases} \beta=-\bunsuu12\left(-\alpha-\bunsuu{9}{3\alpha^2-3}\right)=\bunsuu12\left(-\alpha-\bunsuu{3}{\alpha^2-1}\right)\\ \gamma=\bunsuu12\left(-\alpha+\bunsuu{3}{\alpha^2-1}\right) \end{cases} $$
が分かります。ここで,$\alpha$に関する恒等式$$ \bunsuu3{\alpha^2-1}=2\alpha^2+\alpha-4 $$
を用いる(なぜ成り立つかは考えてみてください。)ことで,
\begin{cases} \beta=-\alpha^2-\alpha+2\\ \gamma=\alpha^2-2 \end{cases}
と表すことが出来ました。ここに出てくる$\bm{\alpha^2-2}$こそが,$\bm{g(x)}$の正体なのです。

また,神戸大の問題の$g(x)$の代わりに,$h(x)=-x^2-x+2$を与えることで類題を作成することが出来ます。

2009年神戸大学理系:第2問の改題

$f(x)=x^3-3x+1$$h(x)=-x^2-x+2$とし,方程式$f(x)=0$について考える。このとき,以下のことを示せ。
⑴ $f(x)=0$は絶対値が$2$より小さい$3$つの相異なる実数解を持つ。
⑵ $\alpha$$f(x)=0$の解ならば,$h(\alpha)$$f(x)=0$の解である。
⑶ $f(x)=0$の解を小さい順に$\alpha_1,\alpha_2,\alpha_3$とすれば,$$ h(\alpha_1)=\alpha_2,\quad h(\alpha_2)=\alpha_3,\quad h(\alpha_3)=\alpha_1$$
となる。

ここまでのまとめ

とりあえずこの問題について,高校生でも分かること,体論から眺めることで色をつけられることを見ていきました。次回は,整数論との関連を見ていきます。ここまで見ていただきありがとうございます。

【追記】

もっと過去にさかのぼると,こんな問題がありました。

1997年早稲田大学理系:第Ⅰ問

$3$次方程式$$ x^3-3x+1=0\qquad\cdots\cdots(\ast) $$
について以下の問いに答えよ。
⑴ $(\ast)$の解で$1$より大きいものは,ただ$1$つであることを示せ。
⑵ $(\ast)$の解で$1$より大きいものを$\alpha$とし,$\beta=\alpha^2-2,\ \gamma=\beta^2-2$とする。
このとき,$\gamma<\beta<\alpha$であることを示せ。
⑶ $\beta,\ \gamma$$(\ast)$の解であることを示せ。

本当に一致していますね。びっくりしました。

投稿日:20201114

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ぱるち
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数学屋さんをしています。代数,数論系に興味があり,今は楕円曲線と戯れています。Mathlogは現実逃避用という噂もあります。@f_d00123

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