はじめに
過去の入試問題で,次の問題があります。
2009年神戸大学理系:第2問
,とし,方程式について考える。このとき,以下のことを示せ。
⑴ は絶対値がより小さいつの相異なる実数解を持つ。
⑵ がの解ならば,もの解である。
⑶ の解を小さい順にとすれば,
となる。
この問題を初めてみる人にとっては,「なんなんだこの問題?」「このという関数はどこから出て来たんだ?」という疑問が自然と出てくると思います。なんなら昔の僕はそうでした。しかし今の僕ならばこの問題をより深く考察することが出来ます。これは体論と絡めて語ることが出来ます。
そこでこの記事(及びその続記事)では,この問題の周辺の話題を思いつらつらと書いていきます。
方針として,
- まずは高校生にも伝わることとして,この問題を複素数の立場から眺める。
- 次にガロア理論(というより体論)からこの問題を眺める
- 最後に,整数論から眺める(次回)
KeyWords: ガロア拡大,アーベル拡大,入試問題,体論,複素数
1の9乗根で表す
複素数を用いることで,話が簡明になります。特にこの節ではの9乗根を使うことで,の正体を暴いていきましょう。
まず,とします。これはの原始9乗根です。はの3乗根ですから,
を得ます。これをで割ると,です。ここで変換を与えますと,
を得ます。これはまさしくの解になっています。すなわち,はの根になっていることが分かりました。同様にして他の解もの9乗根で表すことが出来ます。具体的には,が解になっています。例えば今列挙した順にと置くならば,
となることは容易に分かり,これはこれでの正体が判明しました。
追記
どうやら過去にこんな問題が出されたようです。参考にしていただければと思います。
2018年千葉大理系:第12問
複素数に対し,とおく.は整数係数の次多項式で,次の係数がであり,かつとなるものとする.
ただし,すべての係数が整数である多項式を,整数係数の多項式という.
⑴ を求めよ.ただしがただつに決まることは証明しなくてよい.
⑵ 次方程式の以外の2つの解を,の次以下の,整数係数の多項式の形で表せ.
この問題,やや一遇性のある問題では…?有理数体のアーベル拡大
ここからがメインテーマであり,長い道のりです。ガロア拡大(特にアーベル拡大)とリンクさせながら話を続けていきましょう。
ちなみに,最近は標数有限の体しか触っていなくて,有理数体のような標数0の体(有限次分離拡大が必ず単拡大になる体)を考えるのはスッキリしますね。なんかかわいいというか。愛でてあげているというか。そんな気持ちです。アーベル拡大と3次多項式
アーベル拡大
有理数体上のモニック(最大次数の係数は)な既約多項式の根のつをとする。をにを“添加”した体とするとき,の根がすべてに属しているとき,体の拡大を アーベル拡大 という。
「の最小分解体が単拡大である」「の最小分解体をとして,がアーベル群である」などはすべて同値な言い換えです。
モニックな既約多項式が次の多項式であれば,その根を添加して出来る体はすべてアーベル拡大です。
モニックな既約多項式が次であれば,について,がアーベル拡大であるための必要十分条件があります。
3次多項式とアーベル拡大
として,モニックな既約多項式をとる。の最小分解体がアーベル拡大であるための必要十分条件は,
が,であることである。
が有理数だとする。また,の根をとる。このときであればよい。特に,他の根がであればよい。今,
であるから,を得る。また,次多項式の根と係数の関係から,
である。したがって,例えばについては,であるから,である。同様にも分かる。
逆にがアーベル拡大とすると,の任意の元に対してであることが,の定め方から簡単に分かる。よってとなる。
g(x)の正体に迫る
この定理の結果を,考えている問題に適用しましょう。今回の場合は,
で,実際にを計算してみます。
であるので,
と計算できます。ここで,根と係数の関係から,
が成り立っていましたので,これを使うことで,となり,が有理数であることが分かりました。(の正負は,の具体的な取り方によって変わります。)従って,の最小分解体は単拡大であることが分かり,特にやはを用いて表される事が分かりました。
そこで,例えばとして,の値を求めていきます。
定理の証明における計算から,
が分かります。ここで,に関する恒等式
を用いる(なぜ成り立つかは考えてみてください。)ことで,
と表すことが出来ました。ここに出てくるこそが,の正体なのです。
また,神戸大の問題のの代わりに,を与えることで類題を作成することが出来ます。
2009年神戸大学理系:第2問の改題
,とし,方程式について考える。このとき,以下のことを示せ。
⑴ は絶対値がより小さいつの相異なる実数解を持つ。
⑵ がの解ならば,もの解である。
⑶ の解を小さい順にとすれば,
となる。
ここまでのまとめ
とりあえずこの問題について,高校生でも分かること,体論から眺めることで色をつけられることを見ていきました。次回は,整数論との関連を見ていきます。ここまで見ていただきありがとうございます。
【追記】
もっと過去にさかのぼると,こんな問題がありました。
1997年早稲田大学理系:第Ⅰ問
次方程式
について以下の問いに答えよ。
⑴ の解でより大きいものは,ただつであることを示せ。
⑵ の解でより大きいものをとし,とする。
このとき,であることを示せ。
⑶ はの解であることを示せ。
本当に一致していますね。びっくりしました。