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オイラーの級数変換とゼータ関数の解析接続

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はじめに

 この記事ではオイラーの級数変換公式というものとそれによるゼータ関数の解析接続について解説していきます。
 オイラーの級数変換とは以下のような変換公式のことを言います。

 数列anに対し
bn=k=0n(1)j(nk)ak
とおくと
n=0(1)nan=n=0bn2n+1
が成り立つ(収束性については後述)。

発見的方法

 数列anに対し差分作用素Δおよびその反復作用を
(Δa)n=anan+1,Δka=Δ(Δk1a)
によって定めます。つまり
(Δka)n=j=0k(1)j(kj)an+j
が成り立つことに注意しましょう。

 左辺が収束するとき
n=0(1)nan=k=0N1(Δka)02k+1+n=0(1)n(ΔNa)n2N
が成り立つ。

2n=0(1)nan=(a0+n=0(1)n+1an+1)+n=0(1)nan=a0+n=0(1)n(anan+1)=(Δ0a)0+n=0(1)n(Δa)n
が成り立つので
n=0(1)n(ΔNa)n2N=22N+1n=0(1)n(ΔNa)n
にも同様の変形をしていくことでわかる。

 あとは"適当な条件下"で
limNn=0(1)n(ΔNa)n2N=0
となることが示せるので主張が得られます。

証明

 上の方法では
limNn=0(1)n(ΔNa)n2N=0
を示すのに少し面倒な手順が必要ですが、二重級数に対するフビニの定理を使えばかなり近道ができます。

フビニの定理

 二重数列am,nに対し常に
m=0n=0|am,n|=n=0m=0|am,n|
が成り立ち、またこれが有限値を取る(つまりではない)ときは
m=0n=0am,n=n=0m=0am,n
も成り立つ。

 ここでこれは二重級数の順序交換といったワードとしてよく聞くトピックではありますが、無限和はルベーグ積分とみなせることから個人的な好みとしてこれをフビニの定理と言うことにしています。二重級数の順序交換やルベーグ積分のフビニの定理の証明については随所にあると思うのでここでは特に解説しません。
 いまフビニの定理を用いるとオイラーの変換公式は簡単に示せます。

 左辺が絶対収束するとき
n=0(1)nan=n=0(Δna)02n+1
が成り立ち、この右辺も絶対収束する。

n=0xn=11x
m回微分することで
n=m(nm)xn+1=(x1x)m+1
となるのでx=1/2とすることで
n=m(nm)12n+1=1
が成り立つことに注意する。
 いま仮定より
n=0|(Δna)02n+1|n=012n+1m=0n(nm)|am|=m=0|am|n=m(nm)12n+1=m=0|am|<
と諸々の収束性がわかるのでフビニの定理より
n=0(Δna)02n+1=n=012n+1m=0n(1)m(nm)am=m=0(1)mamn=m(nm)12n+1=m=0(1)mam
を得る。

収束の加速

 オイラーの変換公式はしばしば級数の収束を加速させるのに便利な公式の一つとなっています。
 例えばanが指数関数的、つまりある|α|<1を用いてanαnとみなせるとき
(Δka)n(1α)kan
のように評価できるので
n=0(1)nan=n=0(Δna)02n+1
の左辺の収束速度は|α|n程度であるのに対し、右辺の収束速度は(|1α|/2)n程度となります。言うほど加速してないな。場合によっては遅くなりますね。
 また例えばan=f(n)みたいな場合は
f(n+1)f(n)=01f(n+x)dx
のように変形することで
(Δka)n=(1)k010101f(k)(n+x1+x2++xk)dx1dx2dxk
と表せるのでこれを上手いこと評価できれば何かハッピーな感じがしませんか?

ゼータ関数の解析接続

 実際ゼータ関数のオイラー変換を考えることによって級数の収束範囲を広げることができ、それはRe(s)1への解析接続を与えることになります。

 Re(s)>1において
ζ(s)=1121sn=0(1)n(n+1)s
が成り立つ。

 ちなみにこの右辺の収束範囲からこれはRe(s)>0への解析接続を与えています。

(121s)n=11ns=n=11ns2n=11(2n)s=n=11(2n+1)sn=11(2n)s=n=0(1)n(n+1)s
とわかる。

 これをオイラー変換することで以下が得られます(この右辺の絶対収束範囲はRe(s)>1であることに注意する)。

補題5

 Re(s)>1において
ζ(s)=1121sn=0Δn1s2n+1
が成り立つ。ただし
Δk1s=(Δk(n+1)s)0=j=0k(1)j(kj)(j+1)s
とした。

 後はこの右辺の級数がC全体で正則関数を定めることを確かめればこれがゼータ関数の解析接続を与えることになります。
 ところでオイラー変換を途中でやめると補題2のように以下が成り立つのでした。

 Re(s)>1において
(121s)ζ(s)=k=0N1Δk1s2k+1+n=0(1)nΔN(n+1)s2N
が成り立つ。

 実はこの右辺の級数はRe(s)>1Nで絶対一様収束することが示せ、また補題2の証明からもわかるように
n=0(1)nΔN(n+1)s2N=n=NΔn1s2n+1
はオイラー変換となっているのでこの右辺もRe(s)>1Nで絶対一様収束する、つまり正則関数を定めることがわかります。

 上での議論から
Δkf(n)=(1)k010101f(k)(n+x1+x2++xk)dx1dx2dxk
と表せたので
ΔNns=(s)N010101(n+x1+x2++xk)sNdx1dx2dxk
が成り立つ。ただし(s)Nはポッホハマー記号
(s)N=s(s+1)(s+N1)
とした。
 そしてこれはRe(s)+N>0において
|ΔNns|<|(s)N|nRe(s)+N
と評価できるので、Re(s)+N>1において
n=0|ΔN(n+1)s2N|<|(s)N|2Nζ(Re(s)+N)
と(広義)一様収束することがわかる。

 以上により以下の公式が得られます。

Hasse-Sondowの公式

 C{1}において
ζ(s)=1121sn=012n+1m=0n(1)m(nm)(m+1)s
が成り立つ。

ζ(0),ζ(0)の計算

 上の公式はゼータ関数の解析的な性質、例えば関数等式を導出するなどには向いていませんが、特定の点における値を求めるには何かと役に立ちます。
 例えば今回参考にした INTEGERSの記事 ではWorpitzkyの公式
Bm+1=m+12m+11n=012n+1j=0n(1)j(nj)(j+1)m
から負の整数点における特殊値
ζ(m)=Bm+1m+1
を導出していたり、 tsujimotterさんの記事 ではゼータ関数を数値計算し、そのグラフを描くのに利用しています。
 ここではそういった例の一つとしてζ(0),ζ(0)の値を求めてみようと思います。今回使うのはオイラー変換された公式ではなく、補題6として示された以下の公式(N=1)
(121s)ζ(s)=12+12n=1(1)n1(1ns1(n+1)s)
を利用します。この右辺はRe(s)>1において一様収束します(絶対収束とは限らない)。

(121s)ζ(s)=k=0N1Δk1s2k+1+n=0(1)nΔN(n+1)s2N
の右辺はRe(s)>Nにおいて一様収束する。

n=0(1)nΔN(n+1)s=n=0(ΔN(2n+1)sΔN(2n+2)s)=n=0ΔN+1(2n+1)s
と変形すると、この右辺は
n=0|ΔN+1(2n+1)s|n=0|(s)N+1|(2n+1)Re(s)+N+1|(s)N+1|ζ(Re(s)+N+1)
と評価できるのでRe(s)>Nにおいて一様収束することがわかる。

 η(s)=(121s)ζ(s)とおくと
η(0)=12logπ2
が成り立つ。

 Re(s)>1において
η(s)=12+12n=1(1)n1(1ns1(n+1)s)
が成り立つので、これを微分すると
η(s)=12n=1(1)n1(lognnslog(n+1)(n+1)s)
つまり
η(0)=12n=1(1)n1(lognlog(n+1))=12n=1(log(2n1)2log2n+log(2n+1))=12log(n=1(2n1)(2n+1)(2n)2)=12log(n=1(11(2n)2))
と表せる。
 ここでウォリスの公式
n=1(11(2n)2)=sinπ2π2=2π
に注意すると
η(0)=12logπ2
を得る。

ζ(0)=12,ζ(0)=12log2π
が成り立つ。

 ζ(0)については
(121s)ζ(s)=12+12n=1(1)n1(1ns1(n+1)s)
においてs=0とすることでζ(0)=1/2が得られる。
 また
η(s)=(21slog2)ζ(s)+(121s)ζ(s)η(0)=(2log2)ζ(0)ζ(0)
に注意すると
ζ(0)=(2log2)ζ(0)η(0)=log212logπ2=12log2π
を得る。

投稿日:2024120
更新日:2024125
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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