ここでは、僕が自分なりに調べた双曲線関数の性質などをまとめたいと思う。誰得でもない記事であることを注意しておこう。
双曲線関数を以下で定義する。
$$
\cosh x=\frac{e^x+e^{-x}}{2}
$$
$$
\sinh x =\frac{e^x-e^{-x}}{2}
$$
$$
\tanh x=\frac{\sinh x}{\cosh x}
$$
他にも、$\coth x$や$\csc x$などがあるが、ここでは扱わない。
双曲線関数の性質についてまとめておこう。もっとも単純な性質として、以下の式がある。
\begin{eqnarray*} &&\cosh^2 x-\sinh^2 x=1 \\ &&1-\frac{1}{\tanh^2 x}=\cosh^2 x \end{eqnarray*}
定義から、
$$
\cosh^2 x=\frac{e^{2x}+2+e^{-2x}}{4}
$$
$$
\sinh^2 x=\frac{e^{2x}-2+e^{-2x}}{4}
$$
であるから、両辺引いて、
$$
\cosh^2 x-\sinh^2 x =1
$$
また、第2式については、第1式の両辺を$\cosh^2 x$で割れば成り立つ。
これは、双曲線関数が双曲線$x^2-y^2=1$の媒介変数となっていることを意味している。
他には、三角関数と同じように加法定理が成立する。
\begin{eqnarray*} &&\sinh(x+y)=\sinh x\cosh y+\cosh x\sinh y \\ &&\sinh(x-y)=\sinh x\cosh y-\cosh x\sinh y \\ &&\cosh(x+y)=\cosh x\cosh y +\sinh x\sinh y \\ &&\cosh(x-y)=\cosh x\cosh y -\sinh x\sinh y \\ &&\tanh(x+y)=\frac{\tanh x+\tanh y}{1+\tanh x\tanh y} \\ &&\tanh(x-y)=\frac{\tanh x-\tanh y}{1-\tanh x \tanh y} \end{eqnarray*}
上4式については指数法則を用いて展開、因数分解すれば導ける。また下2式は、上4式を用いれば$\tanh x$の定義からすぐに導ける。なので証明は略する。
後に使うので、応用例を二つほど載せておこう。
\begin{eqnarray*}
\cosh 2x&=&\cosh^2 x+\sinh^2 x \\
&=&2\sinh^2 x+1 \\
\end{eqnarray*}
\begin{eqnarray*}
\sinh 2x=2\sinh x\cosh x
\end{eqnarray*}
微分についてもまとめておこう。
$$ \frac{d}{dx}\sinh x=\cosh x \\ \frac{d}{dx}\cosh x=\sinh x \\ \frac{d}{dx}\tanh x=\frac{1}{\cosh^2 x} $$
上2式はただ計算すれば導ける。第3式についても、商の微分を行い、定理1第2式を用いれば導ける。
双曲線関数の冪級数展開についてまとめておこう。各関数のマクローリン展開は以下で与えられる。
$$ \sinh x =\sum_{n=0}^{\infty}\frac{x^{2n+1}}{(2n+1)!} \\ \cosh x =\sum_{n=0}^{\infty}\frac{x^{2n}}{(2n)!} $$
$$
e^x=\cosh x+\sinh x
$$
である。ここで、$\cosh x$は偶関数であり、$\sinh x$は奇関数であるから、それぞれのマクローリン展開は指数関数$e^x$をマクローリン展開した式の偶数次、奇数次の項が並ぶ。
$$
e^x=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{x^n}{n!}
$$
であるから、定理は示された。
他にも、$\tanh x$の冪級数展開などがあるが、僕がまだ証明を知らないため載せなかった。
最後に、あまり知られていないけど面白そうだと思った性質を挙げておく。
第一象限についてのみ考える。$\theta>0$として、双曲線$H:x^2-y^2=1$上の点$A(\cosh \theta ,\sinh \theta)$と、$x$軸上の点$B(1,0)$をとる。線分OA,OBと双曲線$H$で囲まれた領域の面積は$\frac{\theta}{2}$となる。
求める面積を$S$とおく。また、点$A$から$x$軸に下ろした垂線の足を$P$とする。すなわち、$P(\cosh \theta,0)$である。そして、三角形$OAP$の面積を$T$、線分$AP,BP$と双曲線$H$で囲まれた面積を$U$とする。すると、求める面積$S$は、$S=T-U$とかける。
$$
U=\int_1^{\cosh \theta}\sqrt{x^2-1}dx
$$
であり、$x=\cosh t$と置換すると、
\begin{eqnarray*}
U&=&\int_0^{\theta}\sinh^2 xdx \\
&=&\int_0^{\theta}\frac{\cosh 2t-1}{2}dt \\
&=&\frac{1}{2}\cosh \theta \sinh \theta-\frac{1}{2}\theta
\end{eqnarray*}
であり、また、
$$
T=\frac12\cosh t\sinh t
$$
であるから、
$$
S=T-U=\frac12 \theta
$$
ここでは、双曲線関数と三角関数との関係についてみていきたいと思う。前章からわかるように、双曲線関数は三角関数で成り立つ性質と似たような性質が成り立っていることがわかったと思う。さらなる両者の関係を見る前に、オイラーの公式について触れておきたいと思う。
以降では、$x,y$を実数、$z$は複素数として、$z=x+iy$とすることを約束する。なお、以下で出てくる等式は$x,y$を複素数としても成り立つが、今回はあくまで実数の範囲で扱う。
$$ e^{ix}=\cos x+i\sin x $$
長くなるので証明は略する。もしかしたら、いつか書くかもしれない。
オイラーの公式を用いた三角関数の表記についても書いておこう。
$$ \cos x=\frac{e^{ix}+e^{-ix}}{2}=\cosh ix \\ \sin x=\frac{e^{ix}-e^{-ix}}{2i}=\frac{1}{i}\sinh ix $$
オイラーの公式から、
\begin{eqnarray*}
e^{ix}=\cos x+i\sin x \\
e^{-ix}=\cos x-i\sin x
\end{eqnarray*}
2式を足して、
$$
2\cos x=e^{ix}+e^{-ix} \\
\cos x=\frac{e^{ix}+e^{-ix}}{2}
$$
また、2式を引いて、
$$
2i\sin x=e^{ix}-e^{-ix} \\
\sin x=\frac{e^{ix}-e^{-ix}}{2i}
$$
また、定理2から次のことがわかる。
$$ \cos ix=\cosh x \\ \sin ix=\sinh x $$
定理2で得られた等式において、$x\to ix$とすると、
\begin{eqnarray*}
\cos ix&=&\cosh i(ix) \\
&=&\cosh (-x) \\
&=&\cosh x \\
\sin ix&=&\frac{1}{i}\sinh i(ix) \\
&=&-i\sinh(-x) \\
&=&i\sinh x
\end{eqnarray*}
これを利用して、複素変数における三角関数の加法定理を認めると、次の式が示せる。
実数$x,y$に対して$z=x+iy$とすると、
$$
\cos z=\cos x\cosh y-i\sin x\sinh y \\
\sin z=\sin x\cosh y+i\cos x\sinh y
$$
\begin{eqnarray*} \cos z&=&\cos (x+iy) \\ &=&\cos x\cos iy-\sin x\sinh iy \\ &=&\cos x\cosh y-i\sin x\sinh y \\ \sin z&=&\sin(x+iy) \\ &=&\sin x\cos iy+\cos x\sin iy \\ &=&\sin x\cosh y+i\cos x\sinh y \end{eqnarray*}
これを用いた応用例として、有名な問題を一つ出しておきたいと思う。なお、解答は省略するので各自調べてもらいたい。
方程式$\sin z=2$を解け。
最後に、前章の定理5につながる話をしたいと思う。まず、三角関数について以下のことが成り立つ。(なお、証明は簡単のため例によって略)
弧度法で表された角$\theta$に対し、単位円$C:x^2+y^2=1$上の点$A(\cos \theta,\sin \theta)$と、$x$軸上の点$B(1,0)$をとる。線分$OA,OB$と円$C$で囲まれた領域の面積は$\frac{\theta}{2}$となる。
これと定理5を見比べると、曲線の方程式における$y^2$の係数が異なるだけの、非常に類似した定理になっていることがわかる。実は双曲線関数は三角関数を定義する際にはこういった背景が存在する。それゆえ、双曲線関数は三角関数が満たすいくつかの関係式に似たような関係式を満たすのだろう。
この記事を書いていて、やはり双曲線関数は美しい関数だなと再認識した。解析系は複素まで絡んでからが本番、そしてもっと美しい側面が見えてくるのだと思う。今回取り上げられなかった式もいつかは取り上げたい。ついでに証明略としてしまった部分についても追々記事を書いて行ければなあと思う。長くなってしまったが、最後まで読んでくれてありがとう。