有理数も無理数も、実数の中に稠密に詰まっているというのはよく知られていると思いますが、ルベーグ測度で測ってみると、この2つは全然対称ではなかったです。実は測度の意味では、実数はほとんど無理数だと言えます。ここではそれを、$\mu\text{-a.e.}$(ほとんど至るところ)の定義に沿って示していこうと思います。
$\mu\text{-a.e.}$(ほとんど至るところ)の定義をおさらいします。ここからは、測度空間として$(X, \mathscr M, \mu)$を前提とします。
$X$ の部分集合 $A$ に対して、ある $N \in \mathscr M$ が存在して、次を満たすとき、$A$ を $\mu$-零集合といいます。
$$A \subset N \quad \text{かつ} \quad \mu(N) = 0$$
ここで注意したいのは、$A$ 自身が可測である必要はないということ。あくまで「可測な測度ゼロの集合で上から覆える」だけでOKです。
各 $x \in X$ に対して定まっている命題 $P(x)$ が、ある零集合の補集合上で真であるとき、$P(x)$ は「ほとんどすべての $x$ に対して成り立つ」といい、次のように書きます。
$$P(x), \ \mu\text{-a.e.} \qquad (P(x) \ \text{almost everywhere})$$
論理式で書くとわかりやすいです。
$$\exists 零集合A \subset X, \, \text{ s.t. } \, \forall x \in A^c, \, P(x)は真$$
測度空間 $(\mathbb{R}, \mathscr{B}(\mathbb{R}), \mu)$ を考える。 ここで $\mathbb{R}$ は実数全体、$\mathscr{B}(\mathbb{R})$ は $\mathbb{R}$ 上のボレル $\sigma$-加法族、 $\mu$ はルベーグ測度とする。このとき、命題
$$ P(x) : \text{「$x$ は無理数である」} $$
は $\mu$-a.e. で成り立つ。すなわち、ある $\mu$-零集合 $A \subset \mathbb{R}$ が存在して
$$ \forall x \in A^{c}, \quad x \in \mathbb{R} \setminus \mathbb{Q} $$
が成り立つ。
測度空間として $(X, \mathscr M, \mu)$ をさっき定めましたが、問題にもある通り、それぞれ具体的に以下のように設定します。
まず、有理数全体 $\mathbb Q$ の測度が零であることを示します。有理数全体は可算なので、すべて1列に並べておけます。
$$\mathbb Q = \{q_1, q_2, \dots\}$$
任意に $\varepsilon > 0$ を固定して、各 $q_n$ を包む区間を以下のようにとります。
$$I_n = \left[\, q_n - \frac{\varepsilon}{2^{n+1}},\ q_n + \frac{\varepsilon}{2^{n+1}} \,\right]$$
閉区間だから可測で、その長さは次のようになります。
$$\mu(I_n) = 2 \cdot \frac{\varepsilon}{2^{n+1}} = \frac{\varepsilon}{2^n}$$
各有理数 $q_n$ は $I_n$ に入っているので、可算和で有理数全体を覆えます。
$$\mathbb Q \subset \bigcup_{n=1}^\infty I_n$$
単調性と劣加法性より、次が成り立ちます。
$$\mu(\mathbb Q) \le \mu\!\left( \bigcup_{n=1}^\infty I_n \right) \le \sum_{n=1}^\infty \mu(I_n) = \sum_{n=1}^\infty \frac{\varepsilon}{2^n}$$
右辺は等比級数だから、
$$\sum_{n=1}^\infty \frac{\varepsilon}{2^n} = \varepsilon \cdot \frac{1/2}{1 - 1/2} = \varepsilon$$
よって $0 \le \mu(\mathbb Q) \le \varepsilon$ となります。$\varepsilon$ は任意だったので $\varepsilon \to 0$ としてよいので、
$$\mu(\mathbb Q) = 0$$
が得られます。
↑で定義した「ほとんどすべての(almost every)x に対して成り立つ」でいうところの、$A := \mathbb Q,\ N := \mathbb Q$ とおいて考えます。
ここで $N$ が可測集合であることを確認します。$\mathbb Q = \bigcup_{q \in \mathbb Q} \{q\}$ と書けて、一点集合 $\{q\}$ なので可測です。また、有理数は高々可算でσ-加法族は可算和に閉じているので、$\mathbb Q \in \mathscr B(\mathbb R)$ となります。
このとき $A$ は、$A \subset N$ かつ $\mu(N) = 0$ となる $N \in \mathscr B(\mathbb R)$ を持つので、 $A$ は零集合です。そして $A^c = \mathbb Q^c$ の上では $x$ は無理数なので、$P(x) = xは無理数$ と命題を立てれば、以下が成り立ちます。
$$\exists\, \text{零集合}\ A \subset X,\ \text{ s.t. }\ \forall x \in A^c,\ P(x)\ \text{は真}$$
これはまさに $P(x)\ \mu\text{-a.e.}$ であることの定義そのものです。 つまり測度で見れば、実数はほとんど無理数だと言えます。