リーマン積分とダルブー積分の定義から出発し、1変数の定積分論を組み直しながら、統計学・確率論で繰り返し現れる積分操作の意味を確かめていく。実数の完備性、コンパクト性と一様連続性、中間値の定理、有限区間での置換積分・部分積分といった初等実解析の基本事項は既知の事項として、本稿で使う形は §1.4 に集約した。
議論は原則として1変数リーマン積分の内部で閉じるようにしている。期待値がいつ存在するか、大数の法則がどこまで使えるか、確率密度の正規化定数が何に支えられているか——こうした統計の基礎が積分論のどこに依存するかは、その都度示していく。
今回の執筆にあたり、 湘南理工学舎さんの記事 を多分に活用させていただきました。解析学の基礎をザックリ確認したい場合にかなりオススメです。
積分を微分の逆演算、あるいは「曲線の下の面積」として済ませているうちは、極限操作をいつ交換してよいか、与えられた確率密度が可積分かどうかといった問いには答えられない。必要なのは、極限の存在そのものを判定できる定義である。まず微積分学の基本定理に依存しないリーマン積分を置き、それと同値で解析的に扱いやすいダルブー積分を並べて、両者の一致を確かめる。
閉区間 $[a,b]$($a< b$)上の有界な実数値関数 $f:[a,b]\to\mathbb{R}$ を考える。$[a,b]$ の分割 $P$ とは有限個の点列
$$
a=x_0< x_1< x_2<\cdots< x_{n-1}< x_n=b
$$
であり、各小区間の幅を $\Delta x_i=x_i-x_{i-1}$、分割のノルム(メッシュ)を $\|P\|=\max_{1\le i\le n}\Delta x_i$ と定める。各小区間から代表点$\xi_i\in[x_{i-1},x_i]$ を選び、代表点の組を $\xi=(\xi_1,\dots,\xi_n)$ とするとき、$f$ のリーマン和を
$$
R(f;P,\xi)=\sum_{i=1}^{n} f(\xi_i)\,\Delta x_i
$$
と定義する。同じ分割 $P$ でも代表点 $\xi$ の選び方によって値は変わりうる。ある実数 $L$ が存在して、任意の $\epsilon>0$ に対しある $\delta>0$ が存在し、$\|P\|<\delta$ を満たすいかなる分割・いかなる代表点の選び方に対しても $|R(f;P,\xi)-L|<\epsilon$ となるとき、$f$ はリーマン可積分であるといい、$L=\displaystyle\int_a^b f(x)\,dx$ と書く。
代表点の取り方は無数にあり、そのすべてに対して同じ極限が出ることを直接確かめるのは骨が折れる。これを避けるのが次のダルブーの定式化で、代表点を選ぶ代わりに各小区間の上限・下限を使う。
$f$ は有界だから、実数の完備性により各小区間で上限・下限が実数として存在する:
$$
M_i=\sup_{x\in[x_{i-1},x_i]} f(x),\qquad m_i=\inf_{x\in[x_{i-1},x_i]} f(x).
$$
これらを用いて上ダルブー和(過剰和)と下ダルブー和(不足和)を
$$
U(f,P)=\sum_{i=1}^{n} M_i\,\Delta x_i,\qquad L(f,P)=\sum_{i=1}^{n} m_i\,\Delta x_i
$$
で定める。$m_i\le f(\xi_i)\le M_i$ より、同一分割では代表点によらず常に $L(f,P)\le R(f;P,\xi)\le U(f,P)$ が成り立つ。さらに、すべての分割にわたる下積分・上積分を
$$
\underline{\int_a^b} f(x)\,dx=\sup_P L(f,P),\qquad \overline{\int_a^b} f(x)\,dx=\inf_P U(f,P)
$$
と定義する。両者が一致するとき $f$ はダルブー可積分であるといい、その共通の値をダルブー積分と呼ぶ。
$P'$ が $P$ の細分($P\subset P'$)ならば
$$
L(f,P)\le L(f,P')\le U(f,P')\le U(f,P).
$$
小区間 $[x_{i-1},x_i]$ にただ1点 $y$ を追加する場合を考えれば十分である。全区間の下限 $m_i$ は部分区間の下限 $\inf_{[x_{i-1},y]}f$ および $\inf_{[y,x_i]}f$ 以下だから、
$$
m_i\,\Delta x_i\le \Big(\inf_{[x_{i-1},y]}f\Big)(y-x_{i-1})+\Big(\inf_{[y,x_i]}f\Big)(x_i-y),
$$
すなわち下ダルブー和は減少しない。上限についても同様に上ダルブー和は増加しない。有限個の点の追加はこの操作の繰り返しだから、主張が従う。
任意の2分割 $P_1,P_2$ に対し、共通細分 $P^{*}=P_1\cup P_2$ をとると $L(f,P_1)\le L(f,P^{*})\le U(f,P^{*})\le U(f,P_2)$ となる。ゆえに、どの分割による下ダルブー和も、別のどの分割による上ダルブー和を超えない。特に下積分は上積分以下である。
有界関数 $f$ について、ダルブー可積分であることとリーマン可積分であることは同値であり、その積分値は一致する。
ダルブー可積分とし、$\underline{\int}f=\overline{\int}f=I$ とおく。リーマン可積分性(ノルムに関する定義)を示すため、任意の $\epsilon>0$ に対しある $\delta>0$ が存在して、$\|P\|<\delta$ なるいかなる分割・代表点に対しても $|R(f;P,\xi)-I|<\epsilon$ となることを示す。
任意の $\epsilon>0$ をとる。上限・下限の定義から分割 $P_1,P_2$ を選んで $L(f,P_1)>I-\tfrac{\epsilon}{4}$、$U(f,P_2)< I+\tfrac{\epsilon}{4}$ とできる。共通細分 $P_0=P_1\cup P_2$ をとると、細分の単調性(補題)から $U(f,P_0)\le U(f,P_2)$、$L(f,P_0)\ge L(f,P_1)$ ゆえ
$$
U(f,P_0)-L(f,P_0)\le U(f,P_2)-L(f,P_1)<\tfrac{\epsilon}{2}.
$$
この $P_0$ の内部の分点全体を $S$ とし $|S|=N_0$ とおく。$M N_0>0$ のとき $\delta=\dfrac{\epsilon}{4M N_0}$ とし、$M N_0=0$ のときは $\delta$ を任意の正数とする。
$\|P\|<\delta$ なる任意の分割 $P$ をとる。$P$ の小区間のうち $S$ の点をその内部に含むものを「悪い区間」と呼ぶ。$S$ の各点は高々1つの $P$ の小区間の内部に属する($P$ の分点と一致する点はどの小区間の内部にも属さず、その小区間を分割しない)から、悪い区間の個数は高々 $N_0$ 個である。悪い区間以外の小区間では、共通細分 $P\cup P_0$ をとっても新たな分点は加わらず、上下和の差への寄与は変わらない。悪い区間 $[x_{i-1},x_i]$ を細分すると、上限は各小片で減少(または不変)、下限は増加(または不変)するので、細分後の $U-L$ への寄与は非負であり、したがって細分による減少分はもとの寄与 $(M_i-m_i)\Delta x_i\le 2M\|P\|$ を超えない。ゆえに悪い区間全体からの減少分の合計は高々 $2M N_0\|P\|$ で、
$$
0\le\big(U(f,P)-L(f,P)\big)-\big(U(f,P\cup P_0)-L(f,P\cup P_0)\big)\le 2M N_0\,\|P\|.
$$
細分の単調性より $U(f,P\cup P_0)-L(f,P\cup P_0)\le U(f,P_0)-L(f,P_0)<\tfrac{\epsilon}{2}$ だから、$\|P\|<\delta$ とあわせて
$$
U(f,P)-L(f,P)<\frac{\epsilon}{2}+2M N_0\|P\|<\frac{\epsilon}{2}+2M N_0\,\delta\le\frac{\epsilon}{2}+\frac{\epsilon}{2}=\epsilon.
$$
ダルブー積分の定義より $L(f,P)\le I\le U(f,P)$、また $L(f,P)\le R(f;P,\xi)\le U(f,P)$ だから
$$
|R(f;P,\xi)-I|\le U(f,P)-L(f,P)<\epsilon.
$$
$\epsilon>0$ は任意だから、$f$ はリーマン可積分であり、その積分値は $I$ に等しい。
逆に、任意の代表点付きリーマン和がある値 $I$ に収束するとする。任意の $\epsilon>0$ をとると、十分小さい $\delta>0$ が存在して、$\|P\|<\delta$ なる任意の分割 $P$ と任意の代表点の選び方に対し $|R(f;P,\xi)-I|<\epsilon$ が成り立つ。このような $P$ を1つ固定する。各小区間 $[x_{i-1},x_i]$ で、上限 $M_i$ に十分近い点 $\xi_i$ を $M_i-\dfrac{\epsilon}{b-a}< f(\xi_i)\le M_i$ となるように選べる。すると
$$
U(f,P)-\sum_i f(\xi_i)\Delta x_i=\sum_i\big(M_i-f(\xi_i)\big)\Delta x_i<\frac{\epsilon}{b-a}\sum_i\Delta x_i=\epsilon
$$
であり、かつ $\sum_i f(\xi_i)\Delta x_i< I+\epsilon$ だから $U(f,P)< I+2\epsilon$。同様に下限 $m_i$ に近い点をとって $L(f,P)>I-2\epsilon$。ゆえに
$$
I-2\epsilon< L(f,P)\le\underline{\int}f\le\overline{\int}f\le U(f,P)< I+2\epsilon
$$
が成り立ち、$\epsilon>0$ は任意ゆえ $\underline{\int}f=\overline{\int}f=I$。よって $f$ はダルブー可積分で、その積分値は $I$ に等しい。
| 積分のアプローチ | 定義の基礎概念 | 長所 | 短所 |
|---|---|---|---|
| リーマン積分 | 代表点 $\xi_i$ による和の極限 | 面積近似・区分求積の直感に直結 | 任意の代表点での収束証明が煩雑 |
| ダルブー積分 | 各小区間の上限・下限による和の上限・下限 | 完備性と順序関係により解析的に厳密 | 上限・下限の計算が複雑な関数で直感を得にくい |
この先で断りなく使うリーマン積分の基本性質を、ここに集めておく。いずれも定義から標準的に導かれるので証明は省く([1][2])。
可積分性の判定には、次のダルブーの可積分条件を繰り返し用いる。
有界関数 $f$ がダルブー可積分(=リーマン可積分)であるための必要十分条件は、任意の $\epsilon>0$ に対して $U(f,P)-L(f,P)<\epsilon$ を満たす分割 $P$ が存在することである。
(上積分と下積分の一致と同値であり、$\Leftarrow$ は明らか、$\Rightarrow$ は thm-darboux 冒頭と同じ共通細分の議論による)
$[a,b]$ 上のリーマン可積分関数 $f,g$ と実数 $\alpha,\beta$ について次が成り立つ。
可積分になる関数を見きわめることは、期待値や分散がいつ存在するかを論じる前提になる。
$[a,b]$ 上の連続関数、および $[a,b]$ 上の単調関数はリーマン可積分である。
連続の場合:ハイネ・カントールの定理により $f$ は一様連続。任意の $\epsilon>0$ に対し十分小さな $\delta>0$ をとれば、幅 $\delta$ 以下の小区間で振動 $M_i-m_i<\epsilon/(b-a)$ を満たすので、$\|P\|<\delta$ なる分割で $U(f,P)-L(f,P)=\sum(M_i-m_i)\Delta x_i<\epsilon$。
単調の場合(増加とする):各小区間で上限は右端 $f(x_i)$、下限は左端 $f(x_{i-1})$ となる。幅を一定 $\Delta x$ にとれば
$$
U(f,P)-L(f,P)=\sum_{i=1}^{n}\big(f(x_i)-f(x_{i-1})\big)\Delta x=\big(f(b)-f(a)\big)\Delta x
$$
と望遠鏡和(隣接項が相殺する和)になり、$\Delta x\to0$ で $0$ に収束する。いずれもダルブーの可積分条件を満たす。
集合 $S\subset\mathbb{R}$ がルベーグ測度ゼロであるとは、任意の $\epsilon>0$ に対して、高々可算な添字集合 $K$ と開区間の族 $\{I_k\}_{k\in K}$ が存在し、$S\subset\bigcup_{k\in K} I_k$ かつ $\sum_{k\in K}|I_k|<\epsilon$ を満たすことをいう。
有限集合はもちろん、有理数のような可算集合も測度ゼロである。実際、有理数を一列に並べ、第 $k$ 番目の有理数を中心とする長さ $\epsilon/2^{k+1}$ の開区間で覆えば、総和は $\sum_{k=1}^{\infty}\epsilon/2^{k+1}=\epsilon/2<\epsilon$ に抑えられる。
$[a,b]$ 上の有界関数 $f$ がリーマン(ダルブー)可積分であるための必要十分条件は、$f$ の不連続点全体の集合がルベーグ測度ゼロであることである。
(概略のみ示す。開被覆の端点処理と分割の境界調整は標準的なので [1][3] に譲る。)各点 $x$ における $f$ の振動を
$$
\omega_f(x)=\lim_{\delta\to0^{+}}\left(\sup_{y\in[a,b],\,|y-x|<\delta}f(y)-\inf_{y\in[a,b],\,|y-x|<\delta}f(y)\right)
$$
で定める($\delta$ が小さくなると上限は単調非増加、下限は単調非減少ゆえ括弧内は単調非増加で下に有界だから、この極限は常に存在し $\inf_{\delta>0}$ に等しい)。$f$ が $x$ で連続であることと $\omega_f(x)=0$ は同値だから、不連続点集合は
$$
D=\bigcup_{n=1}^{\infty}D_{1/n},\qquad D_{\eta}=\{x\in[a,b]:\omega_f(x)\ge\eta\}
$$
と表される。各 $D_{\eta}$ は閉集合(ゆえに $[a,b]$ 内でコンパクト)である。
(可積分 $\Rightarrow$ 測度ゼロ) $f$ を可積分とし、$\eta>0,\ \epsilon>0$ を固定する。ダルブーの条件より、ある分割 $P$ で $U(f,P)-L(f,P)<\eta\epsilon$ とできる。$D_{\eta}$ の点を内部に含む小区間では振動が $\ge\eta$ だから、それらの小区間の長さの総和を $\Sigma$ とすると $\eta\,\Sigma\le\sum_i(M_i-m_i)\Delta x_i<\eta\epsilon$、すなわち $\Sigma<\epsilon$。これらの小区間(の内部)は分点を除いて $D_{\eta}$ を覆い、除外される分点は有限個で測度ゼロだから、$D_{\eta}$ は測度ゼロである。$\eta=1/n$ とすれば $D=\bigcup_n D_{1/n}$ は可算個の測度ゼロ集合の和ゆえ測度ゼロ。
(測度ゼロ $\Rightarrow$ 可積分) $D$ を測度ゼロとする($M=\sup_{[a,b]}|f|>0$ としてよい。$M=0$ なら $f\equiv0$ で可積分は自明)。目標誤差 $\rho>0$ を任意にとり、$\eta=\dfrac{\rho}{2(b-a)}$ とおく。$D_{\eta}\subset D$ は測度ゼロだから、$D_\eta$ を覆う有限個の開区間の和 $G$ で $|G|<\dfrac{\rho}{4M}$ となるものがとれる($D_\eta$ は有界閉集合ゆえコンパクトで、有限被覆で足りる)。$G$ を互いに素な有限個の開区間の和 $G=\bigcup_{j=1}^{r}(\alpha_j,\beta_j)$ と表し、すべての端点 $\alpha_j,\beta_j$ を分割 $P$ の分点に含める。
$E=[a,b]\setminus G$ 上では各点 $x$ で $\omega_f(x)<\eta$ だから、$x$ は「$V_x\cap[a,b]$ 上の $f$ の振動が $<\eta$」を満たす開区間 $V_x\ni x$ をもつ。$\{V_x:x\in E\}$ はコンパクト集合 $E$ の開被覆ゆえ有限部分被覆をとり、そのルベーグ数を $\lambda>0$ とする。$P$ のノルムを $\lambda$ 未満に細かくとる(端点 $\alpha_j,\beta_j$ は分点として保持する)。端点をすべて分点に含めたので、各小区間 $I$ について、その内部 $I^\circ$ が $G$ の一つの成分に含まれるか、または $I\subset E$ であるかのいずれかである。前者(内部が $G$ に含まれる小区間)では、端点が $G$ に属さない場合もあるため振動を $\omega_I(f)\le 2M$ と粗く評価する。この種の小区間の長さの総和は、有限個の端点を除いて $|G\cap[a,b]|$ に等しい。後者の小区間は $E$ に含まれ、直径が $\lambda$ 未満だから、ルベーグ数の性質によりある $V_x$ に含まれ、その上での振動は $<\eta$ である。よって
$$
U(f,P)-L(f,P)\le 2M\,|G\cap[a,b]|+\eta\,(b-a)<\frac{\rho}{2}+\frac{\rho}{2}=\rho.
$$
$\rho>0$ は任意ゆえ、$f$ はダルブーの可積分条件を満たす。
この先の平均値定理や収束判定では、可積分関数の積がまた可積分であることを何度か使う。ダルブー和から初等的に示せる(ルベーグ判定を使えば早いが、ここでは初等的な証明を主にする)。
$f,g$ が $[a,b]$ 上でリーマン可積分ならば、積 $fg$ もリーマン可積分である。
$f,g$ は可積分ゆえ有界であり、$|f|\le A,\ |g|\le B$ とおけて $fg$ も有界である。小区間 $I$ 上の $h$ の振動を $\omega_I(h)=\sup_I h-\inf_I h$ と書く。$I$ の任意の2点 $x,y$ で
$$
|f(x)g(x)-f(y)g(y)|\le|f(x)|\,|g(x)-g(y)|+|g(y)|\,|f(x)-f(y)|\le A\,\omega_I(g)+B\,\omega_I(f)
$$
だから、両辺の $x,y$ にわたる上限をとって $\omega_I(fg)\le A\,\omega_I(g)+B\,\omega_I(f)$。よって任意の分割 $P$ で
$$
U(fg,P)-L(fg,P)=\sum_I\omega_I(fg)\,|I|\le A\big(U(g,P)-L(g,P)\big)+B\big(U(f,P)-L(f,P)\big).
$$
任意の $\epsilon>0$ に対し、$A,B>0$ のときは $f,g$ の可積分性より分割 $P_f,P_g$ を選んで $U(f,P_f)-L(f,P_f)<\dfrac{\epsilon}{2B}$、$U(g,P_g)-L(g,P_g)<\dfrac{\epsilon}{2A}$ とできる。共通細分 $P=P_f\cup P_g$ をとれば、細分による単調性から同じ不等式が $P$ に対しても成り立つので、上の評価より $U(fg,P)-L(fg,P)<\epsilon$。よって $fg$ はダルブー条件を満たす($A=0$ または $B=0$ のときは $f$ または $g$ が恒等的に $0$ で $fg\equiv0$ ゆえ自明)。(別証:$fg$ の不連続点集合は $D(fg)\subset D(f)\cup D(g)$ を満たし、右辺は測度ゼロ集合の有限和集合ゆえ測度ゼロだから、thm-lebesgue からも従う。)
$$
D(x)=\begin{cases}1 & (x\in\mathbb{Q}),\\ 0 & (x\notin\mathbb{Q}).\end{cases}
$$
実数の稠密性より、いかなる小区間にも有理数と無理数がともに含まれるので $M_i=1,\ m_i=0$。ゆえに任意の分割で $U(D,P)=b-a,\ L(D,P)=0$ となり、上積分と下積分は一致しない。よって $D$ はリーマン可積分でない。$D$ は $[a,b]$ の全点で不連続であり、不連続点集合の測度は $b-a>0$ だから、thm-lebesgue とも整合する。
$$
T(x)=\begin{cases}\dfrac{1}{q} & \left(x=\dfrac{p}{q}\in\mathbb{Q},\ \gcd(p,q)=1,\ q\ge1\right),\\ 0 & (x\notin\mathbb{Q}).\end{cases}
$$
ただし $0=0/1$ とみなし $T(0)=1$ とする。$T$ はすべての有理数で不連続、すべての無理数で連続という性質をもつ。
任意の無理数 $x$ と $\epsilon>0$ をとる。$1/q\ge\epsilon$ を満たす整数 $q\ge1$ は有限個($q\le1/\epsilon$)しかなく、有界近傍、たとえば $(x-1,x+1)$ において、そのような $q$ を分母にもつ既約分数も有限個である。それらと $x$ の距離の最小値を $\delta$($x$ は無理数ゆえ $\delta>0$)とすれば、$(x-\delta,x+\delta)$ 内の任意の有理数は $q>1/\epsilon$ を満たす。よってこの近傍の任意の $y$ に対し $|T(y)-T(x)|=T(y)<\epsilon$ となり、$T$ は無理数で連続である。一方、各有理数の任意の近傍には $T=0$ をとる無理数が存在するので、有理数では不連続。不連続点集合は $\mathbb{Q}$(可算、測度ゼロ)ゆえ、thm-lebesgue より $T$ はリーマン可積分。(ルベーグの定理に頼らずとも初等的に示せる:集合 $E_\epsilon=\{x\in[a,b]:T(x)\ge\epsilon\}$ は分母 $q\le1/\epsilon$ の既約分数に限られ有限集合である。各点の周囲に総長 $<\delta$ の互いに素な開区間をとり、それらの端点と $E_\epsilon$ の各点を分割点に加える。これらの区間に対応する小区間では振動を $1$($T$ の最大値)で評価し、それ以外の小区間では $T<\epsilon$ ゆえ振動は $\le\epsilon$。したがって $U(T,P)\le \delta+\epsilon(b-a)$ となり、$\delta,\epsilon$ を任意に小さくできる。下ダルブー和は下記のとおり $L(T,P)=0$ だから、$U(T,P)-L(T,P)=U(T,P)$ を任意に小さくでき、ダルブーの可積分条件が従う。)各小区間が無理数を含み $m_i=0$ だから $L(T,P)=0$、したがって $\int_a^b T(x)\,dx=0$。
平均値定理は、積分値を被積分関数の一点の値で置き換えるための道具である。期待値の評価や、この先の広義積分の極限評価で繰り返し使う。
$f$ が $[a,b]$ で連続、$g$ が $[a,b]$ で可積分かつ符号一定(常に $g\ge0$ または常に $g\le0$)とする。このとき、ある $c\in[a,b]$ が存在して
$$
\int_a^b f(x)g(x)\,dx=f(c)\int_a^b g(x)\,dx.
$$
$g\ge0$ とする。$f$ は連続ゆえ可積分、$g$ も可積分だから、積 $fg$ は可積分であり $\int_a^b fg$ は存在する(cor-product)。$f$ は連続だから最大値 $M$・最小値 $m$ をとり、$m\,g(x)\le f(x)g(x)\le M\,g(x)$。辺々積分して
$$
m\int_a^b g(x)\,dx\le\int_a^b f(x)g(x)\,dx\le M\int_a^b g(x)\,dx.
$$
まず $\int_a^b g=0$ の場合、この不等式の両端がともに $0$ となるので、ただちに $\int_a^b f(x)g(x)\,dx=0$ を得る。このとき任意の $c\in[a,b]$ で $f(c)\int_a^b g=0$ となり、主張は自明に成立する。次に $\int_a^b g>0$ の場合、$\dfrac{\int_a^b fg}{\int_a^b g}\in[m,M]$ となるので、$f$ の連続性と中間値の定理より、これを $f(c)$ とする $c\in[a,b]$ が存在する。最後に $g\le0$ の場合は、非負可積分関数 $-g$ に上の結果を適用すればある $c\in[a,b]$ で $\int_a^b f(x)\big(-g(x)\big)\,dx=f(c)\int_a^b\big(-g(x)\big)\,dx$ となり、両辺に $-1$ を掛けて所望の等式を得る。
第二平均値の定理は、後のディリクレ判定法で効いてくる。$g$ に微分可能性を課さないので、なめらかとは限らない重み関数にも使える。証明はリーマン–スティルチェス積分や有界変動の測度を持ち出さず、1変数リーマン積分だけで済ませる。名称や定式化($f,g$ のどちらを単調にとるか、ボネ形かワイエルシュトラス形か)には文献差があるので、ここでは次の形を採り、標準的な扱いは [2] に委ねる。
$f$ が $[a,b]$ で可積分、$g$ が $[a,b]$ で単調とする。このとき、ある $\xi\in[a,b]$ が存在して
$$
\int_a^b f(x)g(x)\,dx=g(a)\int_a^{\xi} f(x)\,dx+g(b)\int_{\xi}^{b} f(x)\,dx.
$$
なお、$g$ が非負単調減少であれば($g(b)=0$ を要さず)$\displaystyle\int_a^b f(x)g(x)\,dx=g(a)\int_a^{\xi} f(x)\,dx$ が成り立ち、これをボネの形と呼ぶ(下の証明のステップ1〜3で実際にこの形が示され、そこから一般形が導かれる)。ワイエルシュトラス形で特に $g(b)=0$ とした場合も、右辺第2項が消えて同じ形が得られる。
$f$ はリーマン可積分ゆえ有界であり、$K_f=\sup_{x\in[a,b]}|f(x)|<\infty$ が定まる。また $g$ は単調ゆえ可積分だから、積 $fg$ もリーマン可積分であり(cor-product)、$\int_a^b fg$ は存在する。$g$ を単調減少として証明する(単調増加の場合は末尾で述べる)。まず特別な場合として、$g$ が非負単調減少のとき(ボネの形)
$$
\int_a^b f(x)g(x)\,dx=g(a)\int_a^{\xi} f(x)\,dx\qquad(\exists\,\xi\in[a,b])\tag{$\ast$}
$$
を示す。$F(x)=\int_a^x f(t)\,dt$ とおくと $F$ は連続で $F(a)=0$ である。
ステップ1(階段近似による和への帰着). 分割 $P:a=x_0< x_1<\cdots< x_n=b$ をとり、$g$ を各小区間の左端の値で置き換えた和
$$
S(P)=\sum_{i=1}^{n} g(x_{i-1})\int_{x_{i-1}}^{x_i} f(x)\,dx=\sum_{i=1}^{n} g(x_{i-1})\big(F(x_i)-F(x_{i-1})\big)
$$
を考える。積 $fg$ は可積分ゆえ、$\int_a^b fg$ は各小区間上の積分の和に分解できる。$g$ の単調減少性から $0\le g(x_{i-1})-g(x)\le g(x_{i-1})-g(x_i)$($x\in[x_{i-1},x_i]$)ゆえ、
$$
\left|\int_a^b fg-S(P)\right|=\left|\sum_{i=1}^{n}\int_{x_{i-1}}^{x_i}\big(g(x)-g(x_{i-1})\big)f(x)\,dx\right|\le\sum_{i=1}^{n}\int_{x_{i-1}}^{x_i}\big|g(x)-g(x_{i-1})\big|\,|f(x)|\,dx\le\sum_{i=1}^{n}\int_{x_{i-1}}^{x_i}\big(g(x_{i-1})-g(x_i)\big)K_f\,dx=K_f\sum_{i=1}^{n}\big(g(x_{i-1})-g(x_i)\big)\Delta x_i.
$$
右辺は $K_f\|P\|\sum_{i=1}^{n}\big(g(x_{i-1})-g(x_i)\big)=K_f\|P\|\big(g(a)-g(b)\big)$ で抑えられ、$\|P\|\to0$ で $0$ に収束する。ゆえに $S(P)\to\int_a^b fg$。この評価は、左端の値による階段関数 $x\mapsto g(x_{i-1})$ が $g$ に一様収束することを要求していない。$g$ にジャンプ不連続があっても、$\sum_i\big(g(x_{i-1})-g(x_i)\big)$ は望遠鏡和として $g$ の全変動 $g(a)-g(b)$ にちょうど等しく、これに $\|P\|$ を掛けた量が $0$ に収束することだけを用いているからである。近似したのは可積分関数 $f$ ではなく単調な重み $g$ であり、$g$ の変動の有限性がこの誤差評価を担保している。
ステップ2(アーベルの部分和による評価). $F(x_0)=F(a)=0$ に注意し、$S(P)$ にアーベルの部分和公式を適用する:
$$
S(P)=\sum_{i=1}^{n} g(x_{i-1})\big(F(x_i)-F(x_{i-1})\big)=\sum_{i=1}^{n-1}\big(g(x_{i-1})-g(x_i)\big)F(x_i)+g(x_{n-1})F(x_n).
$$
係数 $g(x_{i-1})-g(x_i)\ (i=1,\dots,n-1)$ と $g(x_{n-1})$ はすべて非負($g$ は非負単調減少)であり、その総和は
$$
\sum_{i=1}^{n-1}\big(g(x_{i-1})-g(x_i)\big)+g(x_{n-1})=g(x_0)=g(a).
$$
すなわち $S(P)$ は $F(x_1),\dots,F(x_n)$ の、総重み $g(a)$ の非負線形結合である。したがって $F$ の $[a,b]$ 上の最小値 $m_F$・最大値 $M_F$ を用いて、分割 $P$ によらず
$$
g(a)\,m_F\le S(P)\le g(a)\,M_F.
$$
ステップ1の極限をとれば
$$
g(a)\,m_F\le\int_a^b f(x)g(x)\,dx\le g(a)\,M_F.
$$
ステップ3(中間値の定理). $g(a)=0$ なら $g$ は非負単調減少ゆえ $g\equiv0$ となり $(\ast)$ は自明。$g(a)>0$ のとき $\dfrac{1}{g(a)}\int_a^b fg\in[m_F,M_F]$ であり、$F$ は連続だから中間値の定理よりある $\xi\in[a,b]$ で $F(\xi)=\dfrac{1}{g(a)}\int_a^b fg$、すなわち $\int_a^b fg=g(a)F(\xi)=g(a)\int_a^{\xi} f$ が成り立つ。これで $(\ast)$ が示された。
一般形への還元. $g$ が一般の単調減少関数のとき、$h(x)=g(x)-g(b)$ は非負単調減少で $h(b)=0$ ゆえ $(\ast)$ が適用でき、ある $\xi\in[a,b]$ で
$$
\int_a^b f\,h=h(a)\int_a^{\xi} f=\big(g(a)-g(b)\big)\int_a^{\xi} f.
$$
$\int_a^b fg=\int_a^b f\,h+g(b)\int_a^b f$ に代入して
$$
\int_a^b fg=\big(g(a)-g(b)\big)\int_a^{\xi} f+g(b)\int_a^b f=g(a)\int_a^{\xi} f+g(b)\int_{\xi}^{b} f.
$$
$g$ が単調増加のときは $-g$ に上の結果を適用すれば同じ表式が得られる。以上で、リーマン積分の範囲のみを用いて定理が示された。
この証明は、単調な重み $g$ を左端値からなる階段関数で置き換え、その置換による積分誤差を評価したうえでアーベルの部分和公式を用いる古典的な方法である。肝心なのは、$g$ が有界変動(ここでは単調)ゆえ $\sum_i\big(g(x_{i-1})-g(x_i)\big)$ が全変動 $g(a)-g(b)$ に望遠鏡和として一致し、誤差が $\|P\|$ のオーダーで消える点にある。左端値の階段関数は $g$ にジャンプがあれば $g$ に一様収束しないから、これを「$g$ の一様近似」と述べるのは正確でない(ステップ1でも一様収束は使っていない)。一般のリーマン可積分関数はこの有界変動性をもたないため、近似の対象を可積分関数 $f$ ではなく単調な $g$ にとるのが決め手になる。なお、リーマン–スティルチェス積分を既知とすれば、$\int_a^b fg=\int_a^b g\,dF$ とみて部分積分を施す別証明もある。ただしその方法には、リーマン–スティルチェス積分の存在条件と有界変動関数に関する追加の理論が必要になるため、本稿では採用しない(リーマン–スティルチェス積分やその部分積分公式自体は測度論を用いずに古典的に定式化できる)。
期待値の計算では、積分区間が無限に伸びたり、被積分関数が特異点をもったりする場面が絶えず現れる。有界区間・有界関数の枠を外してこれを扱うのが広義積分である。
$[a,\infty)$ 上の $f$ が任意の有限な $b>a$ でリーマン可積分のとき、第1種広義積分を
$$
\int_a^{\infty} f(x)\,dx=\lim_{b\to\infty}\int_a^{b} f(x)\,dx
$$
で定義する。この極限が有限確定のとき収束、そうでないとき発散するという。$(-\infty,b]$ 上でも同様に $\displaystyle\int_{-\infty}^{b} f(x)\,dx=\lim_{a\to-\infty}\int_a^{b} f(x)\,dx$ と定める。積分区間が両側無限 $(-\infty,\infty)$ に及ぶ場合は、任意の実数 $c$ をとり
$$
\int_{-\infty}^{\infty} f(x)\,dx=\lim_{a\to-\infty}\int_a^{c} f(x)\,dx+\lim_{b\to\infty}\int_c^{b} f(x)\,dx
$$
と左右独立に極限をとり、両者がともに有限に収束する場合にかぎり収束すると定義する(収束するときこの値は $c$ の取り方によらない)。
次に、点 $c$ で $f$ が定義されていない、または $c$ の任意の近傍で $f$ が非有界となる(典型的には $\lim_{x\to c}|f(x)|=\infty$ だが、振動しながら非有界となる場合も含む)など、$c$ を含む区間で通常のリーマン積分として直接扱えないとき、第2種広義積分を次のように定める。ただし $f$ は、$c$ を除いて切り詰めた各閉部分区間上でリーマン可積分であるとする(上端の場合は各 $[a,c-\epsilon]$、内部特異点の場合は各 $[a,c-\epsilon]$ および $[c+\eta,b]$ 上でリーマン可積分)。$c$ が上端の場合は
$$
\int_a^{c} f(x)\,dx=\lim_{\epsilon\to0^{+}}\int_a^{c-\epsilon} f(x)\,dx,
$$
$c$ が下端の場合は
$$
\int_c^{b} f(x)\,dx=\lim_{\epsilon\to0^{+}}\int_{c+\epsilon}^{b} f(x)\,dx
$$
とする。第1種の場合と同様に、これらの極限が有限確定であるときに積分は収束するという。特異点 $c$ が区間の内部 $c\in(a,b)$ にある場合は、左右の回避を独立に行い
$$
\int_a^{b} f(x)\,dx=\lim_{\epsilon\to0^{+}}\int_a^{c-\epsilon} f(x)\,dx+\lim_{\eta\to0^{+}}\int_{c+\eta}^{b} f(x)\,dx
$$
と定義する。右辺の2つの極限がともに有限に存在するときにかぎり、通常の広義積分は収束するという。片側だけが発散する場合、または両側がそれぞれ無限大に発散して相殺を要する場合は、通常の広義積分は存在しない(この相殺を対称的に行うのが §7 の主値積分である)。
以下の比較では、$f$ は対象区間上で可測であり、特異点や無限遠を除く各コンパクト部分区間上でリーマン可積分(したがって可測)であると仮定する。このクラスにおいては、$\int|f(x)|\,dx$ が広義リーマン積分として収束することと、$f$ がルベーグ可積分($f\in L^{1}$)であることは同値であり、両積分の値は一致する。ただし、一般のルベーグ可積分関数が局所リーマン可積分であるとは限らない。
広義リーマン積分が切り詰め区間上の積分の極限として定義されるのに対し、ルベーグ積分は関数の正部分・負部分の積分の差として定義される。ルベーグ積分論では、非負関数の積分は $+\infty$ も許して定義され、実数値関数についても片側の積分が有限なら拡張実数値の積分が定義できる。しかし $f$ が有限な実数値としてルベーグ可積分であること、すなわち正部分・負部分の積分がともに有限(同値に $\int|f|\,d\mu<\infty$)であることを要求すると、これは実質的に絶対収束の要求に等しい。この差は、大数の法則や中心極限定理がどこまで使えるかを見きわめるときに効いてくる。
局所リーマン可積分な関数についての比較:
| 特徴 | 広義リーマン積分 | ルベーグ積分(有限値可積分) |
|---|---|---|
| 定義のアプローチ | 有界区間の定積分の極限(切り詰めによる) | 測度に基づく、非負部分と負部分の積分の差 |
| 可積分性の条件 | $\lim_{b\to\infty}\int_a^{b} f\,dx$ が有限確定 | $f$ が絶対可積分($\int_{\mathbb{R}}\lvert f\rvert\,d\mu<\infty$) |
| 条件収束の扱い | $\int f\,dx$ は収束するが $\int\lvert f\rvert\,dx=\infty$ を許容 | 有限値として積分不可(正部分と負部分の積分がともに $+\infty$ となり、$\infty-\infty$ の不定形ゆえ積分自体が定義されない) |
広義積分 $\displaystyle\int_0^{\infty}\frac{\sin x}{x}\,dx$ はリーマンの意味で収束するが、絶対収束はしない(収束は §5.1 で示す)。なお、この積分の値が $\dfrac{\pi}{2}$ であることはよく知られているが、その導出にはフーリエ解析、パラメータ微分(ファインマンの方法)、留数計算など本稿の主題を超える道具を要するため、ここでは収束性のみを扱う。絶対値をとると発散する:
$$
\int_0^{\infty}\left|\frac{\sin x}{x}\right|\,dx=\infty.
$$
区間を $\pi$ ごとに分ける。$[n\pi,(n+1)\pi]$ では $x\le(n+1)\pi$ ゆえ、分母を最大値で置き換えると
$$
\int_{n\pi}^{(n+1)\pi}\left|\frac{\sin x}{x}\right|\,dx\ge\frac{1}{(n+1)\pi}\int_{n\pi}^{(n+1)\pi}|\sin x|\,dx=\frac{2}{(n+1)\pi}.
$$
総和 $\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\frac{2}{(n+1)\pi}$ は調和級数の定数倍で発散するから、絶対値の積分は $\infty$ である(ここで $\int_{n\pi}^{(n+1)\pi}|\sin x|\,dx=\int_0^{\pi}\sin x\,dx=2$ は $|\sin x|$ の周期性による)。
ルベーグの枠組みで $f$ が有限な実数値として可積分であるためには、正部分 $f^{+}=\max(f,0)$ と負部分 $f^{-}=\max(-f,0)$ の積分がともに有限でなければならない(さもなくば $\infty-\infty$ の不定形となる)。したがって $\dfrac{\sin x}{x}$ は $(0,\infty)$ 上で有限値としてはルベーグ可積分でない。
統計学で実数値確率変数 $X$ の期待値 $E[X]$ が有限な実数として存在するための必要十分条件は、$E|X|=\int|x|\,p(x)\,dx<\infty$(絶対収束)であり、これは $E[X^{+}]$ と $E[X^{-}]$ がともに有限であることと同値である。このとき $E[X]=\int x\,p(x)\,dx=E[X^{+}]-E[X^{-}]$ が矛盾なく定まる。一方だけが有限のときは $E[X]$ を $+\infty$ または $-\infty$ という拡張実数値で定義することがあるが、両者がともに無限のときは $E[X]$ は $\infty-\infty$ となり定義されない。優収束定理などの極限定理はルベーグ積分の上で述べられ、正負の相殺に頼る条件収束では積分と極限の順序交換が壊れうる。絶対収束を要求するのはそのためである。先に断った局所リーマン可積分なクラスでは、広義リーマン積分が絶対収束すれば対応する関数は有限値としてルベーグ可積分になり、値も一致するので、両者を同一視して差し支えない。
この絶対収束の要求は、確率分布のモーメントの存在条件として具体的に現れる。本稿で扱うような通常の連続型分布では、密度 $f$ はまず正規化条件 $\int_{\mathbb{R}} f(x)\,dx=1$ を満たす必要があり、リーマン積分の範囲で議論するかぎりこの積分は広義リーマン積分として理解される(確率論一般では密度の正規化はルベーグ積分によって定式化される)。次に、平均が有限な実数として存在するためには
$$
E|X|=\int_{\mathbb{R}}|x|f(x)\,dx<\infty
$$
が必要十分である。さらに二次モーメントが有限、すなわち $E[X^{2}]=\int_{\mathbb{R}} x^{2}f(x)\,dx<\infty$ であれば、$|x|\le 1+x^{2}$ より $E|X|<\infty$ も従い、このとき分散 $\operatorname{Var}(X)=E[X^{2}]-(E[X])^{2}$ は有限に定まる。したがって、通常の連続型分布では分散の有限性は二次モーメントの有限性で判定できる。これらのモーメントの有限性は、いずれも密度の裾の減衰の速さで決まる。代表的な分布についてまとめると次のようになる。
| 分布 | 密度の裾($\lvert x\rvert\to\infty$) | 有限な平均の存在 | 有限な分散の存在 |
|---|---|---|---|
| コーシー分布 | $\lvert x\rvert^{-2}$ | 存在しない | 存在しない |
| $t_\nu$ 分布(自由度 $\nu$) | $\lvert x\rvert^{-(\nu+1)}$ | $\nu>1$ で存在 | $\nu>2$ で存在 |
| 正規分布 | 指数的に減衰 | 存在 | 存在 |
これらは、絶対モーメント $\displaystyle\int_{\mathbb{R}}|x|^{k}f(x)\,dx$ の無限遠での比較判定による。たとえば $t_\nu$ 分布では密度が $|x|^{-(\nu+1)}$ のオーダーで減衰するので、被積分関数は $|x|^{k}\cdot|x|^{-(\nu+1)}=|x|^{k-\nu-1}$ のオーダーとなり、これが無限遠で可積分となる条件 $k-\nu-1<-1$、すなわち $k<\nu$ のときに限って $k$ 次絶対モーメントが有限となる($k=1$ で平均、$k=2$ で分散)。
積分の値を明示的に求められなくても、収束するかどうかだけなら判定できる。
$f$ は任意の有限区間 $[a,b]$ 上でリーマン可積分、$g$ は $[a,\infty)$ 上で単調であるとする。さらに (1) 積分上限関数 $F(x)=\displaystyle\int_a^{x} f(t)\,dt$ が有界、すなわちある $M>0$ ですべての $x\ge a$ に対し $|F(x)|\le M$;(2) $\displaystyle\lim_{x\to\infty}g(x)=0$ を満たすとする。このとき広義積分 $\displaystyle\int_a^{\infty} f(x)g(x)\,dx$ は収束する。
コーシーの収束判定法により、$x_1,x_2\to\infty$ で $\left|\int_{x_1}^{x_2} fg\right|\to0$ を示せば十分。積分の対称性から $x_1< x_2$ と仮定してよい。各有限区間上で $f$ は可積分、$g$ は単調ゆえ、積 $fg$ も可積分である(cor-product)。thm-mvt2(一般形)を区間 $[x_1,x_2]$ に適用すると、ある $c\in[x_1,x_2]$ が存在して
$$
\int_{x_1}^{x_2} f(x)g(x)\,dx=g(x_1)\int_{x_1}^{c} f(x)\,dx+g(x_2)\int_{c}^{x_2} f(x)\,dx.
$$
仮定 (1) より任意の $\alpha<\beta$ に対し $\left|\int_{\alpha}^{\beta} f\right|=|F(\beta)-F(\alpha)|\le2M$。ゆえに符号によらず
$$
\left|\int_{x_1}^{x_2} fg\right|\le2M\big(|g(x_1)|+|g(x_2)|\big).
$$
$\lim_{x\to\infty}g(x)=0$ より、任意の $\epsilon>0$ に対し十分大きな $N$ をとれば $x_1,x_2>N$ で $|g(x_1)|,|g(x_2)|<\dfrac{\epsilon}{4M}$ となり、右辺は $\epsilon$ 未満。よってコーシー条件を満たし、積分は収束する。(なお $g$ は単調かつ $0$ に収束するため常に符号一定—非負単調減少か非正単調増加のいずれか—であり、実際には $|g(x_1)|+|g(x_2)|=|g(x_1)+g(x_2)|$ となるが、上からの評価としては絶対値の和で十分である。)
$\displaystyle\int_1^{\infty}\frac{\sin x}{x}\,dx$ では、$\int_a^{x}\sin t\,dt=\cos a-\cos x$ が $|\cdot|\le2$ で有界、$g(x)=1/x$ は単調に $0$ へ収束するので、thm-dirichlet より収束する。$\dfrac{\sin x}{x}$ は $x=0$ で未定義だが $\lim_{x\to0}\dfrac{\sin x}{x}=1$ ゆえ可除特異点であり、値を $1$ と定めれば $x=0$ の近傍で有界になる。よって $\displaystyle\int_0^{\infty}\frac{\sin x}{x}\,dx$ も収束する。
$f$ は任意の有限区間 $[a,b]$ 上でリーマン可積分であり、広義積分 $\displaystyle\int_a^{\infty} f(x)\,dx$ が収束するとする。また $g$ は $[a,\infty)$ 上で単調かつ有界であるとする。このとき広義積分 $\displaystyle\int_a^{\infty} f(x)g(x)\,dx$ は収束する。
$g$ は単調かつ有界ゆえ、単調有界な関数は $x\to\infty$ で極限をもつことから $L=\lim_{x\to\infty}g(x)$ が存在する。$\tilde g(x)=g(x)-L$ は単調で $0$ に収束する。一方、$\int_a^{\infty} f$ の収束から積分上限関数 $F(x)=\int_a^{x} f$ は極限をもち、ゆえに有界。よって $(f,\tilde g)$ は thm-dirichlet の仮定を満たし、$\int_a^{\infty} f\tilde g$ は収束する。これに収束積分 $L\int_a^{\infty} f$ を加えれば
$$
\int_a^{\infty} fg=\int_a^{\infty} f\tilde g+L\int_a^{\infty} f
$$
の収束が従う。すなわちアーベルの判定法はディリクレの判定法の系である。
| 判定法 | $f(x)$ の条件 | $g(x)$ の条件 | 代表的な適用例 |
|---|---|---|---|
| ディリクレ | 積分上限関数 $F$ が有界 | 単調かつ $\lim_{x\to\infty}g(x)=0$ | 振動しつつ減衰する積分($\frac{\sin x}{x}$ など) |
| アーベル | 広義積分 $\int_a^{\infty} f\,dx$ が収束 | 単調かつ有界($0$ でなくてよい) | 収束積分に緩やかな単調重みを掛けた場合 |
ガンマ分布・ベータ分布・カイ二乗分布・$t$ 分布の正規化定数やモーメントは、ガンマ関数とベータ関数を通して書ける。どちらも広義積分で定義され、前節までの収束理論に乗っている。以下、ガンマ関数の変数は $s$、ベータ関数の変数は $m,n$ とし、統計側の変数 $x$ と混同しないようにする。
$s>0$ に対して、ガンマ関数を
$$
\Gamma(s)=\int_0^{\infty} t^{s-1}e^{-t}\,dt
$$
で定義する。
上の広義積分はすべての $s>0$ で収束する。
積分区間を $(0,1]$ と $[1,\infty)$ に分ける。$(0,1]$ では $e^{-t}\le1$ より $0\le t^{s-1}e^{-t}\le t^{s-1}$ であり、$\int_0^1 t^{s-1}\,dt=\lim_{\epsilon\to0^{+}}\big[\tfrac{1}{s}t^{s}\big]_{\epsilon}^{1}=\tfrac{1}{s}$ は $s>0$ で有限だから、比較判定法により収束する。$[1,\infty)$ では、指数関数が任意のべきを凌駕すること、すなわち
$$
\lim_{t\to\infty} t^{s-1}e^{-t/2}=0
$$
から、ある定数 $C>0$ が存在してすべての $t\ge1$ で $t^{s-1}e^{-t/2}\le C$、したがって $0\le t^{s-1}e^{-t}\le Ce^{-t/2}$ となる。$\int_1^{\infty} Ce^{-t/2}\,dt=2Ce^{-1/2}<\infty$ ゆえ、比較判定法により元の積分も収束する。
有限区間 $[\epsilon,R]$($0<\epsilon< R$)で部分積分すると
$$
\int_{\epsilon}^{R} t^{s}e^{-t}\,dt=\big[-t^{s}e^{-t}\big]_{\epsilon}^{R}+s\int_{\epsilon}^{R} t^{s-1}e^{-t}\,dt.
$$
ここで $s>0$ より $\displaystyle\lim_{\epsilon\to0^{+}}\epsilon^{s}e^{-\epsilon}=0$、また指数関数が任意の冪より速く増大することから $\displaystyle\lim_{R\to\infty}R^{s}e^{-R}=0$ となる。したがって $\epsilon\to0^{+},\ R\to\infty$ の極限をとると境界項は消え、
$$
\Gamma(s+1)=s\,\Gamma(s)
$$
を得る。$\Gamma(1)=\int_0^{\infty}e^{-t}\,dt=1$ ゆえ、自然数 $n$ に対し $\Gamma(n)=(n-1)!$ となる。したがってガンマ関数は階乗を正の実数へ拡張する標準的な関数である。ただし、整数値で階乗と一致し連続であるという条件だけでは、正の実数への拡張は一意に定まらない(整数点を補間する連続関数は無数にある)。ボーア=モレルップの定理によれば、正の実数上の関数 $f$ に対して、正規化 $f(1)=1$、関数方程式 $f(x+1)=x\,f(x)$、および対数凸性($\log f$ が凸)を課すと $f(x)=\Gamma(x)$ が一意に定まる([6])。
$m>0,\ n>0$ に対して、ベータ関数を
$$
B(m,n)=\int_0^{1} x^{m-1}(1-x)^{n-1}\,dx
$$
で定義する。
上の積分は $m>0,\ n>0$ で収束し(端点で特異となる $m<1$ または $n<1$ の場合は広義積分として理解する。$m\ge1$ かつ $n\ge1$ なら被積分関数は有界連続で通常の定積分である)、$B(m,n)=B(n,m)$ が成り立つ。
特異点から引き離すため $(0,\tfrac12]$ と $[\tfrac12,1)$ に分ける。$(0,\tfrac12]$ では $1-x\in[\tfrac12,1)$ ゆえ $(1-x)^{n-1}$ はある定数 $K$ で有界。よって被積分関数は $Kx^{m-1}$ で抑えられ、$m>0$ なら $\int_0^{1/2} x^{m-1}\,dx$ が収束するので比較判定法により収束する。$[\tfrac12,1)$ は変数変換 $y=1-x$ で同じ評価に帰着し、$n>0$ なら収束。同じ変換から対称性 $B(m,n)=B(n,m)$ も従う。
$m>0,\ n>0$ に対して
$$
B(m,n)=\frac{\Gamma(m)\Gamma(n)}{\Gamma(m+n)}.
$$
証明には積分順序の交換が一度だけ要る。ここだけは2変数の操作で、被積分関数が非負なのでトネリの定理で正当化できる(本稿で2変数の定理を使うのはこの箇所に限る。§2.2・§4.2 で現れる測度論的概念はいずれも1変数の設定である)。残りはすべて1変数の変数変換である。
ステップ1(ベータ関数の別表示). $B(m,n)=\int_0^1 x^{m-1}(1-x)^{n-1}\,dx$ に $x=\dfrac{t}{1+t}$(このとき $1-x=\dfrac{1}{1+t}$, $dx=\dfrac{dt}{(1+t)^2}$, $t:0\to\infty$)を代入すると、指数を整理して
$$
B(m,n)=\int_0^{\infty}\frac{t^{m-1}}{(1+t)^{m+n}}\,dt.
$$
ステップ2($1/(1+t)^{m+n}$ の積分表示). ガンマ関数 $\Gamma(m+n)=\int_0^{\infty}u^{m+n-1}e^{-u}\,du$ において、固定した $t>0$ に対し $u=(1+t)y$($du=(1+t)\,dy$)と置換すると
$$
\Gamma(m+n)=(1+t)^{m+n}\int_0^{\infty} y^{m+n-1}e^{-(1+t)y}\,dy,
$$
すなわち
$$
\frac{1}{(1+t)^{m+n}}=\frac{1}{\Gamma(m+n)}\int_0^{\infty} y^{m+n-1}e^{-(1+t)y}\,dy.
$$
ステップ3(順序交換). ステップ2の表示をステップ1に代入する。以下に現れる二重積分は、まず非負関数に対する測度論的なルベーグ積分として解釈する。$e^{-(1+t)y}=e^{-y}e^{-ty}$ に注意すると
$$
B(m,n)=\frac{1}{\Gamma(m+n)}\int_0^{\infty}\!\!\int_0^{\infty} t^{m-1}\,y^{m+n-1}e^{-y}e^{-ty}\,dy\,dt.
$$
被積分関数は $(t,y)\in(0,\infty)^2$ で非負であるから、トネリの定理([3])により、この $t$ に依存する積分表示の代入および累次積分の順序交換がともに正当化される:
$$
B(m,n)=\frac{1}{\Gamma(m+n)}\int_0^{\infty} y^{m+n-1}e^{-y}\left(\int_0^{\infty} t^{m-1}e^{-ty}\,dt\right)dy.
$$
以下の計算で最終的な積分値が有限確定するので、§4.2 の事実(非負関数では広義リーマン積分が絶対収束すればルベーグ積分と一致する)により、これらの累次積分は通常の広義リーマン積分としての値と一致する。
ステップ4(内側積分と結論). 内側の積分は $w=ty$($y>0$ を固定)と置換して
$$
\int_0^{\infty} t^{m-1}e^{-ty}\,dt=y^{-m}\int_0^{\infty} w^{m-1}e^{-w}\,dw=\frac{\Gamma(m)}{y^{m}}.
$$
よって
$$
B(m,n)=\frac{\Gamma(m)}{\Gamma(m+n)}\int_0^{\infty} y^{n-1}e^{-y}\,dy=\frac{\Gamma(m)\Gamma(n)}{\Gamma(m+n)}.
$$
$\alpha>0,\ \beta>0$ とする。ベータ分布 $\mathrm{Beta}(\alpha,\beta)$ の密度は、$0< x<1$ に対して $f(x)=\dfrac{1}{B(\alpha,\beta)}x^{\alpha-1}(1-x)^{\beta-1}$ で与えられ、区間外では $f(x)=0$ とする($\alpha<1$ のとき $x=0$、$\beta<1$ のとき $x=1$ で式は発散するので、端点 $x=0,1$ での値は分布に影響しない範囲で任意に定めてよい)。期待値は、thm-gamma-beta と漸化式 $\Gamma(s+1)=s\,\Gamma(s)$ を用いて
$$
\begin{aligned}
E[X]&=\frac{1}{B(\alpha,\beta)}\int_0^{1} x^{\alpha}(1-x)^{\beta-1}\,dx=\frac{B(\alpha+1,\beta)}{B(\alpha,\beta)}\\
&=\frac{\Gamma(\alpha+1)}{\Gamma(\alpha)}\cdot\frac{\Gamma(\alpha+\beta)}{\Gamma(\alpha+\beta+1)}=\frac{\alpha}{\alpha+\beta}
\end{aligned}
$$
と求まる。分散も同じ要領で出る。ベイズ推定の正規化定数や事後平均の計算も、結局はガンマ・ベータ関数の広義積分に帰着する。
広義積分の極限が存在しないときでも、特異点の左右から同じ速さで近づけば、値が定まることがある。これがコーシーの主値積分である。
無限区間では、中心 $c\in\mathbb{R}$ を固定し、$c$ を中心に上下限を対称に飛ばして
$$
\mathrm{p.v.}_{c}\!\int_{-\infty}^{\infty} f(x)\,dx=\lim_{R\to\infty}\int_{c-R}^{c+R} f(x)\,dx
$$
と定める。本稿では特に断らない限り $c=0$ とし、
$$
\mathrm{p.v.}\!\int_{-\infty}^{\infty} f(x)\,dx=\lim_{R\to\infty}\int_{-R}^{R} f(x)\,dx
$$
と書く。通常の広義積分が収束する場合、この値は中心 $c$ によらず通常の積分値に一致するが、主値のみが存在する場合には中心の選び方が値や存在性に影響しうる。区間 $[a,b]$ の内部の点 $c$ で $f$ が特異な場合は、左右の回避距離 $\epsilon$ を同期させて
$$
\mathrm{p.v.}\!\int_a^{b} f(x)\,dx=\lim_{\epsilon\to0^{+}}\left(\int_a^{c-\epsilon} f(x)\,dx+\int_{c+\epsilon}^{b} f(x)\,dx\right)
$$
と定める。通常の広義積分が上下限(あるいは左右の $\epsilon_1,\epsilon_2$)を独立に飛ばすのに対し、主値積分ではそれらを対称に同期させる。ここが通常の広義積分との違いである。内部特異点と無限遠を同時にもつ場合には、両方の操作を組み合わせ、たとえば $x=0$ を内部特異点とするとき
$$
\mathrm{p.v.}\!\int_{-\infty}^{\infty} f(x)\,dx=\lim_{R\to\infty}\ \lim_{\epsilon\to0^{+}}\left(\int_{-R}^{-\epsilon} f(x)\,dx+\int_{\epsilon}^{R} f(x)\,dx\right)
$$
と反復極限で定める(一般には極限の順序や取り方によって値が変わりうる。遠方が絶対収束する場合は、先に $\epsilon\to0^{+}$ の有限区間主値をとってから $R\to\infty$ とすればよい)。
$1/x$ の $[-1,1]$ 上の通常の広義積分は、$(0,1]$ で $+\infty$、$[-1,0)$ で $-\infty$ に発散し、$\infty-\infty$ の不定形として定義されない(ルベーグ積分も存在しない)。しかし主値積分では、$1/x$ が奇関数ゆえ任意の $\epsilon>0$ でカッコ内が相殺され、
$$
\mathrm{p.v.}\!\int_{-1}^{1}\frac{dx}{x}=\lim_{\epsilon\to0^{+}}\left(\int_{-1}^{-\epsilon}\frac{dx}{x}+\int_{\epsilon}^{1}\frac{dx}{x}\right)=0
$$
となる。ただしこれは通常の広義積分や期待値ではなく、特異点の左右から同じ速さで近づくという対称な打ち切りに基づく正則化値である。主値が存在しても通常の広義積分が存在するとは限らない。
コーシー分布の密度 $f(x)=\dfrac{1}{\pi(1+x^{2})}$ に対し、期待値の被積分関数 $\dfrac{x}{\pi(1+x^{2})}$ は無限遠で $1/x$ のオーダーでしか減衰しないため、
$$
\int_{-\infty}^{\infty}\left|\frac{x}{\pi(1+x^{2})}\right|\,dx=\infty
$$
であり絶対収束しない。ゆえに $E|X|=\infty$ となり、有限な期待値は存在しない(正部分・負部分の積分がともに $+\infty$ で、$E[X]$ は $\infty-\infty$ の不定形となる)。
このため、有限な期待値の存在を仮定する標準形の i.i.d. 弱法則・強法則は、コーシー分布には適用できない。もっとも、定理の仮定を満たさないことだけから標本平均の非収束が従うわけではない(仮定不成立と結論不成立は別の事柄である)。コーシー分布の場合には、さらに安定性を用いることで実際に非収束が確かめられる。独立同分布な標準コーシー確率変数 $X_1,\dots,X_n$ の標本平均
$$
\bar X_n=\frac{X_1+\cdots+X_n}{n}
$$
は、標準コーシー分布が安定分布であること(特性関数 $\varphi(t)=e^{-|t|}$ を用いて確かめられる。[4][5])から、再び標準コーシー分布に従う(本稿では事実として引用する)。もしある定数 $c$ に対して $\bar X_n$ が $c$ に確率収束するなら、確率収束は分布収束を含意するので([4])$\bar X_n$ の分布は点質量 $\delta_c$ に弱収束するはずである。しかし各 $n$ について $\bar X_n$ は同一の非退化な標準コーシー分布に従うため、そのような分布収束は起こらない。したがって $\bar X_n$ はいかなる定数にも確率収束せず、標本平均はコーシー分布の位置母数の一致推定量として機能しない。ただしこれは母数推定が不可能という意味ではない。標準コーシー分布の標本中央値は、母分布の一意な中央値 $0$ に確率収束することが標本分位点の一致性から従うので([7])、標本平均が一致推定量でなくても、位置母数の一致推定自体は可能である。
一方、被積分関数の奇関数性から、主値では
$$
\mathrm{p.v.}\!\int_{-\infty}^{\infty}\frac{x}{\pi(1+x^{2})}\,dx=\lim_{R\to\infty}\int_{-R}^{R}\frac{x}{\pi(1+x^{2})}\,dx=0
$$
となる。ただしこれは期待値ではなく、対称な打ち切りに基づく正則化値である。コーシー分布では、中央値・最頻値・主値による対称中心はいずれも $0$ だが、これは $E[X]=0$ を意味しない。期待値が有限な実数として存在するには $E|X|<\infty$ が必要であり、コーシー分布ではこの条件が破れているため $E[X]$ はそもそも定義されない。「対称分布だから平均が $0$」という推論は成り立たない。主値積分は、実軸上に極をもつ積分や、ヒルベルト変換 $\displaystyle Hf(x)=\frac{1}{\pi}\,\mathrm{p.v.}\!\int_{-\infty}^{\infty}\frac{f(x-y)}{y}\,dy$ の定義に現れる(係数 $1/\pi$ の有無は文献の規約による)。たとえば $\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\frac{dx}{x(x^{2}+1)}$ は $x=0$ に実軸上の単純極をもつため通常の意味では発散するが、これは内部特異点 $x=0$ と無限遠を同時にもつので、上の反復極限(先に $\epsilon\to0^{+}$ の有限区間主値、次に $R\to\infty$)で解釈する。被積分関数が奇関数ゆえ、任意の $R,\epsilon$ で対称な寄与が相殺され主値は $0$ に定まる($|x|\to\infty$ での減衰は $x^{-3}$ で遠方は絶対収束し、主値を要するのは $x=0$ の極のみである)。主値は通常の広義積分や期待値とは異なる正則化された値であり、確率的な平均とは別物である。
本稿で証明を省略した、または1変数リーマン積分の枠外から引用した事実については、以下の標準的な文献を参照されたい。章・定理番号は版によって異なりうるため、該当する結果名とあわせて示す。
[1] W. Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1976. リーマン(–スティルチェス)積分とその基本性質は第6章、リーマン可積分性に関するルベーグの判定条件(ほとんど至る所連続であることとの同値性)は第11章。
[2] T. M. Apostol, Mathematical Analysis, 2nd ed., Addison-Wesley, 1974. リーマン–スティルチェス積分、積分の第一・第二平均値の定理は第7章。コンパクト性・一様連続性・ルベーグ数に関する議論を含む。
[3] G. B. Folland, Real Analysis: Modern Techniques and Their Applications, 2nd ed., Wiley, 1999. ルベーグ測度・積分は第2章、フビニ・トネリの定理は §2.5。
[4] P. Billingsley, Probability and Measure, 3rd ed., Wiley, 1995. 特性関数、弱収束(分布収束)と確率収束の関係、大数の法則を扱う章を参照。
[5] W. Feller, An Introduction to Probability Theory and Its Applications, Vol. 2, 2nd ed., Wiley, 1971. 安定分布とコーシー分布の特性関数を扱う章を参照。
[6] E. Artin, The Gamma Function, Holt, Rinehart and Winston, 1964. ボーア=モレルップの定理(正規化・関数方程式・対数凸性によるガンマ関数の特徴づけ)は本書の中心的結果。
[7] A. W. van der Vaart, Asymptotic Statistics, Cambridge University Press, 1998. 標本分位点(標本中央値を含む)の一致性・漸近正規性を扱う章を参照。
これで前回の記事と合わせて、1変数の微分・積分の基礎を確認してきました。なかなかハードでしたが、自分としても大学時代は証明をすっ飛ばしてきた定理も多かったので、改めて基礎の確認ができてスッキリしました。
次回からは多変数への拡張を考えていこうと思います。