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調和数の級数と多重対数関数

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$$\newcommand{Li}[0]{\mathrm{Li}} $$

朝起きたら, 偶然, だいぶ前になくしたと思っていた, お気に入りのノートが見つかったので, その中から1つ,


$$\begin{eqnarray} \sum_{0\lt n}\frac{H_n}{n^2}x^n=\Li_3(x)-\Li_3(1-x)+\ln(1-x)\,\Li_2(1-x)+\frac 12\ln x\ln^2(1-x)+\zeta(3)\\ |x|\leq 1 \end{eqnarray}$$

という式について, 書きたいと思います. まず, 調和数というものは以下のように定義されます.
$$\begin{eqnarray} H_n:=\sum_{k=1}^n\frac 1k \end{eqnarray}$$調和数の母関数はよく知られていて, 以下のような形をしています. (収束半径は$1$なので以下略します)
$$\begin{eqnarray} \sum_{0\lt n}H_nx^n=-\frac{\ln(1-x)}{1-x} \end{eqnarray}$$これは, 有名なMaclaurin展開,
$$\begin{eqnarray} \sum_{0\lt n}\frac{x^n}{n}=-\ln(1-x) \end{eqnarray}$$
に, $1/(1-x)$を掛けると証明することができます. 調和数の母関数を項別積分すると,
$$\begin{eqnarray} \sum_{0\lt n}\frac{H_n}{n+1}x^{n+1}=\frac{\ln^2(1-x)}{2} \end{eqnarray}$$しかし, 当時の僕はこれを見て, $n+1$よりも$n$の方がかっこいいね, と思ったので, これをもちいて以下のようなものを求めています.
$$\begin{eqnarray} \sum_{0\lt n}\frac{H_n}{n}x^n&=&\sum_{0\leq n}\frac{H_{n+1}}{n+1}x^{n+1}\\ &=&\sum_{0\leq n}\frac{H_n}{n+1}x^{n+1}+\sum_{0\leq n}\frac{1}{(n+1)^2}x^{n+1}\\ &=&\frac{\ln^2(1-x)}{2}+\Li_2(x) \end{eqnarray}$$
つまり,
$$\begin{eqnarray} \sum_{0\lt n}\frac{H_n}{n}x^n=\Li_2(x)+\frac{\ln^2(1-x)}{2} \end{eqnarray}$$となります. さて, これをさらにこれを積分していきます. しかし, 今度はそのまま積分しても分母が$n(n+1)$になって, 部分分数分解できてしまうので, 以下のように計算していきます.
$$\begin{eqnarray} \sum_{0\lt n}\frac{H_n}{n^2}x^n&=&\int_0^x\sum_{0\lt n}\frac{H_n}{n}t^{n-1}~dt\\ &=&\int_0^x\frac{\Li_2(t)}{t}~dt+\frac 12\int_0^x\frac{\ln^2(1-t)}{t}~dt\\ &=&\Li_3(x)+\frac12\int_{1-x}^1\frac{\ln^2t}{1-t}~dt \end{eqnarray}$$さて, ここで, 2項目を部分積分で愚直に計算していきます.
$$\begin{eqnarray} \int_{1-x}^1\frac{\ln^2t}{1-t}~dt&=&-\left[\ln^2 t\ln(1-t)\right]_{1-x}^1+2\int_{1-x}^1\frac{\ln t\ln(1-t)}{t}~dt\\ &=&\ln x\ln^2(1-x)-2\left[\ln t\,\Li_2(t)\right]_{1-x}^1+2\int_{1-x}^1\frac{\Li_2(t)}{t}~dt\\ &=&\ln x\ln^2(1-x)+2\ln(1-x)\,\Li_2(1-x)+2\Li_3(1)-2\Li_3(1-x)\\ &=&\ln x\ln^2(1-x)+2\ln(1-x)\,\Li_2(1-x)+2\zeta(3)-2\Li_3(1-x)\\ \end{eqnarray}$$というようになります. (項別積分なので, 厳密には極限を取る必要があります.) よってこれを代入して,
$$\begin{eqnarray} \sum_{0\lt n}\frac{H_n}{n^2}x^n=\Li_3(x)-\Li_3(1-x)+\ln(1-x)\,\Li_2(1-x)+\frac 12\ln x\ln^2(1-x)+\zeta(3) \end{eqnarray}$$というふうになって, 目的の式を証明することができました. 試しに$x=1/2$を代入してみると, $\Li_3$のところが打ち消しあって,
$$\begin{eqnarray} \sum_{0\lt n}\frac{H_n}{2^nn^2}&=&-\Li_2\left(\frac 12\right)\ln 2-\frac 12\ln^32+\zeta(3)\\ &=&\zeta(3)-\frac{\pi^2}{12}\ln 2 \end{eqnarray}$$となります. さて, 当時の僕は多重ゼータ値をよく知らなかったんですが, これはMultiple Polylogarithmsという以下の関数で理解することができます.
$$\begin{eqnarray} \Li_{k_1,\dots,k_a}(x):=\sum_{0\lt n_1\lt\dots\lt n_a}\frac{x^{n_a}}{n_1^{k_1}\cdots n_a^{k_a}} \end{eqnarray}$$
$$\begin{eqnarray} \sum_{0\lt n}\frac{H_n}{n^2}x^n&=&\sum_{0\lt m\leq n}\frac{1}{mn^2}x^n\\ &=&\sum_{0\lt n}\frac{1}{n^3}x^n+\sum_{0\lt m\lt n}\frac{1}{mn^2}x^n\\ &=&\Li_3(x)+\Li_{1,2}(x) \end{eqnarray}$$というふうになります. これをもちいてさきほどの式を書き直すと,
$$\begin{eqnarray} \Li_{1,2}(x)=\ln(1-x)\,\Li_2(1-x)+\frac 12\ln x\ln^2(1-x)+\zeta(3)-\Li_3(1-x) \end{eqnarray}$$が得られます. $\ln(1-x)$$-\Li_1(x)$と書き直すと,
$$\begin{eqnarray} \Li_{1,2}(x)=\zeta(3)-\Li_3(1-x)-\Li_1(x)\Li_2(1-x)-\frac 12\Li_1(x)^2\Li_1(1-x) \end{eqnarray}$$つまり, 僕が得ていた式はMultiple Polylogarithmsを通常のPolylogarithmsで書き表す式を与えていたということになります. $x=1$を代入してみると, 多重ゼータ値の関係式,
$$\begin{eqnarray} \zeta(1,2)=\zeta(3) \end{eqnarray}$$を得ることができます. さて, 他にも$\Li_{1,2}(x)$の特殊値を求めたいと思うかもしれませんが, それにはなかなか難しい, $\Li_3(x)$の特殊値を求める必要があるので, 割愛します. 更に積分したりしたらどうなるのかはよく知らないので, 興味があったら試してみてください.

投稿日:20201117
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Wataru
Wataru
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超幾何関数, 直交関数, 多重ゼータ値などに興味があります

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