13

調和数の級数と多重対数関数

444
0

朝起きたら, 偶然, だいぶ前になくしたと思っていた, お気に入りのノートが見つかったので, その中から1つ,


0<nHnn2xn=Li3(x)Li3(1x)+ln(1x)Li2(1x)+12lnxln2(1x)+ζ(3)|x|1

という式について, 書きたいと思います. まず, 調和数というものは以下のように定義されます.
Hn:=k=1n1k調和数の母関数はよく知られていて, 以下のような形をしています. (収束半径は1なので以下略します)
0<nHnxn=ln(1x)1xこれは, 有名なMaclaurin展開,
0<nxnn=ln(1x)
に, 1/(1x)を掛けると証明することができます. 調和数の母関数を項別積分すると,
0<nHnn+1xn+1=ln2(1x)2しかし, 当時の僕はこれを見て, n+1よりもnの方がかっこいいね, と思ったので, これをもちいて以下のようなものを求めています.
0<nHnnxn=0nHn+1n+1xn+1=0nHnn+1xn+1+0n1(n+1)2xn+1=ln2(1x)2+Li2(x)
つまり,
0<nHnnxn=Li2(x)+ln2(1x)2となります. さて, これをさらにこれを積分していきます. しかし, 今度はそのまま積分しても分母がn(n+1)になって, 部分分数分解できてしまうので, 以下のように計算していきます.
0<nHnn2xn=0x0<nHnntn1 dt=0xLi2(t)t dt+120xln2(1t)t dt=Li3(x)+121x1ln2t1t dtさて, ここで, 2項目を部分積分で愚直に計算していきます.
1x1ln2t1t dt=[ln2tln(1t)]1x1+21x1lntln(1t)t dt=lnxln2(1x)2[lntLi2(t)]1x1+21x1Li2(t)t dt=lnxln2(1x)+2ln(1x)Li2(1x)+2Li3(1)2Li3(1x)=lnxln2(1x)+2ln(1x)Li2(1x)+2ζ(3)2Li3(1x)というようになります. (項別積分なので, 厳密には極限を取る必要があります.) よってこれを代入して,
0<nHnn2xn=Li3(x)Li3(1x)+ln(1x)Li2(1x)+12lnxln2(1x)+ζ(3)というふうになって, 目的の式を証明することができました. 試しにx=1/2を代入してみると, Li3のところが打ち消しあって,
0<nHn2nn2=Li2(12)ln212ln32+ζ(3)=ζ(3)π212ln2となります. さて, 当時の僕は多重ゼータ値をよく知らなかったんですが, これはMultiple Polylogarithmsという以下の関数で理解することができます.
Lik1,,ka(x):=0<n1<<naxnan1k1naka
0<nHnn2xn=0<mn1mn2xn=0<n1n3xn+0<m<n1mn2xn=Li3(x)+Li1,2(x)というふうになります. これをもちいてさきほどの式を書き直すと,
Li1,2(x)=ln(1x)Li2(1x)+12lnxln2(1x)+ζ(3)Li3(1x)が得られます. ln(1x)Li1(x)と書き直すと,
Li1,2(x)=ζ(3)Li3(1x)Li1(x)Li2(1x)12Li1(x)2Li1(1x)つまり, 僕が得ていた式はMultiple Polylogarithmsを通常のPolylogarithmsで書き表す式を与えていたということになります. x=1を代入してみると, 多重ゼータ値の関係式,
ζ(1,2)=ζ(3)を得ることができます. さて, 他にもLi1,2(x)の特殊値を求めたいと思うかもしれませんが, それにはなかなか難しい, Li3(x)の特殊値を求める必要があるので, 割愛します. 更に積分したりしたらどうなるのかはよく知らないので, 興味があったら試してみてください.

投稿日:20201117
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

Wataru
Wataru
773
51360
超幾何関数, 直交関数, 多重ゼータ値などに興味があります

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中