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大学数学基礎解説
文献あり

複素積分もFourier変換も使わないDirichlet積分の証明

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Dirichletの不連続積分

この記事では, R>0で正実数全体, C(R>0)で定義域がR>0な連続関数全体を表わす. 実数ax=aの右側近傍で定義された関数fに対して, limxaf(x)x>aaに近づけたときのfの極限を表わすものとする. また, よく知られた公式:ddxarctanx=(1+x2)1は前触れなく用いる.

この記事の目標は, 次の定理の証明である.

Dirichletの不連続積分

符号関数sgn:R{0}{±1}
sgn(x)={1,(x>0)1(x<0)
で定義したとき, 0でない実数xに対して次が成り立つ.
eiωxωdω=iπsgn(x)
特に,
0sin(ωx)ωdω=π2sgn(x).

後半のみを, Eulerの定理と呼ぶこともある. この定理は一般に複素積分やFourier変換を用いて証明するが, ここではそのいずれも使わない上に, 前提知識も簡単な解析学で十分である.

関数fを,
f(y)=0esysinssds(y>0)
で定めると, fC1級である. 実際,
limh0f(y+h)f(y)h=limh01h0(esh1)esysinssds=limh00(s+hn=2(s)nn!hn2)esysinssds=0esysinsdsC(R>0).
但し, 二つ目の等式ではeshのTaylor展開, 三つ目の等式では積分がh=0の近傍で連続であることを用いた. I=0esysinsdsとおくと, 部分積分法により
I=[esycoss]0y0esycossds=1y[esysins]0y20esysinsds=1y2I.
故に,
ddyf(y)=I=11+y2
が成り立つ. そこで両辺yで積分すると, ある定数Cを用いて
f(y)=Carctany
と書ける. ここからfy=0で右側連続であることが分かる. 従って,
limy0f(y)=f(limy0y)=0sinssds.
ところで, fの連続性より
limyf(y)=f(limyy)=0
であるから,
C=limy(f(y)+arctany)=π2
故に
limy0f(y)=limy0(π2arctany)=π2.
これらのことから
0sinssds=π2
を得る. 左辺の積分において, x>0においてs=ωx,x<0においてs=ωxと変数変換すると,
π2={0sin(ωx)ωxxdω,(x>0)0sin(ωx)ωx(x)dω(x<0)
となり, これをまとめれば
0sin(ωx)ωdω=π2sgn(x)
が得られる. また, cos(ωx)ω,sin(ωx)ωはそれぞれ奇関数,偶関数であるから, Eulerの公式より
eiωxωdω=cos(ωx)ωdω+isin(ωx)ωdω=2i0sin(ωx)ωdω=iπsgn(x).

参考:オイラー博士の素敵な数式, ポール・J・ナーイン,小山信也訳, 日本評論社

参考文献

[1]
ポール・J・ナーイン, オイラー博士の素敵な数式, 日本評論社, 2008
投稿日:20201119
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