本稿では,距離空間における集積点,閉集合,閉包の概念についてまとめる.
以下,$(X,d)$を距離空間とし,$x\in X, r>0$に対して$B(x,r):=\{y\in X:d(x,y)< r\}$と定める.また,$A$を$X$の部分集合とする.
$x\in X$が$A$の集積点であるとは,任意の$\varepsilon>0$に対して$B(x,\varepsilon)\cap(A\setminus\{x\})\neq\varnothing$が成り立つことをいう.
集積点の定義は「$x$は$A$の元を用いていくらでも近似できる」ということを意味している.これを点列の言葉で置き換えたのが次の命題である.
次の2条件は同値である.
$1\Rightarrow2$を示そう.$x\in X$を$A$の集積点とする.このとき,各$n=1,2,\cdots$に対して$B(x,n^{-1})\cap(A\setminus\{x\})\neq\varnothing$であるから,その元を1つ選んで$x_n$とおく.すると,点列$\{x_n\}_{n=1,2,\cdots}$は定義より$x_n\in A\setminus\{x\}$($n=1,2,\cdots$)を満たす.さらに,任意の$\varepsilon>0$に対して$1< N\varepsilon$となるような$N\in\mathbb{N}$をとれば,$n\geq N$のとき$d(x_n,x)< n^{-1}<\varepsilon$が成り立つから$\displaystyle\lim_{n\to\infty}x_n=x$である.以上より$1\Rightarrow2$が従う.
$2\Rightarrow1$を示そう.点列$\{x_n\}_{n=1,2,\cdots}$を$x_n\in A\setminus\{x\}$($n=1,2,\cdots$)かつ$\displaystyle\lim_{n\to\infty}x_n=x$を満たすものとする.このとき,任意の$\varepsilon>0$に対して$n\geq N$ならば$d(x_n,x)<\varepsilon$となるような$N\in\mathbb{N}$が存在し,特に$x_N\in B(x,\varepsilon)\cap(A\setminus\{x\})\neq\varnothing$である.従って,$x\in X$は$A$の集積点であり,$2\Rightarrow1$が成り立つ.
次の2条件について,$1\Rightarrow2$は成り立つが$2\Rightarrow1$は成り立たない.
$1\Rightarrow2$は命題1の$1\Rightarrow2$からわかる.$2\Rightarrow1$の反例を挙げよう.
$X=\mathbb{R}$,$A=[0,1]\cup\{2\}$とし,点列$\{x_n\}_{n=1,2,\cdots}$を$x_n=2$($n=1,2,\cdots$)により定める.このとき,点列$\{x_n\}_{n=1,2,\cdots}$は$x_n\in A$($n=1,2,\cdots$)かつ$\displaystyle\lim_{n\to\infty}x_n=2$を満たすが,$2$は$A$の集積点ではない.実際,$B(2,2^{-1})\cap(A\setminus\{2\})=(3/2,5/2)\cap[0,1]=\varnothing$である.
閉集合は集積点の概念を用いて定義できる.
$A$が$X$の閉集合であるとは,$A$の任意の集積点が$A$に属することをいう.
閉集合の定義もやはり点列の言葉で言い換えることができる.
次の2条件は同値である.
$1\Rightarrow2$を示そう.$A$を$X$の閉集合とし, 点列$\{x_n\}_{n=1,2,\cdots}$が$x_n\in A$($n=1,2,\cdots$)かつ$\displaystyle\lim_{n\to\infty}x_n=x\in X$を満たすとする.$x_N=x$なる$N\in\mathbb{N}$が存在するとき,点列の満たす条件より$x\in A$である.また,すべての$n=1,2,\cdots$に対して$x_n\neq x$が成り立つとき,点列$\{x_n\}_{n=1,2,\cdots}$は$x_n\in A\setminus\{x\}$($n=1,2,\cdots$)かつ$\displaystyle\lim_{n\to\infty}x_n=x\in X$を満たすから,命題1より$x$は$A$の集積点である.よって,$A$は$X$の閉集合であるから$x\in A$である.以上より$1\Rightarrow2$が従う.
$2\Rightarrow1$を示そう.$x\in X$を$A$の集積点とすると,命題1より$x_n\in A\setminus\{x\}$($n=1,2,\cdots$)かつ$\displaystyle\lim_{n\to\infty}x_n=x$を満たす点列$\{x_n\}_{n=1,2,\cdots}$が存在する.従って,2より$x\in A$となるから,$2\Rightarrow1$が成り立つ.
$X$自身も閉集合である.
任意の$\varepsilon>0$に対して$B(x,\varepsilon)\cap A\neq\varnothing$を満たすような$x\in X$全体の集合を$A$の閉包といい,$\overline{A}$と書く.
$\overline{A}$は$A$を含む最小の閉集合である.
$A\subset\overline{A}$であることを示そう.$x\in A$のとき,任意の$\varepsilon>0$に対して$x\in B(x,\varepsilon)\cap A\neq\varnothing$ゆえ$x\in\overline{A}$が成り立つ.よって$A\subset\overline{A}$である.
$\overline{A}$が閉集合であることを示そう.$x\in X$を$\overline{A}$の集積点とし,$\varepsilon>0$とする.このとき$B(x,\varepsilon/2)\cap(\overline{A}\setminus\{x\})\neq\varnothing$であるから,その元を1つ選んで$y$とする.さらに,$y\in\overline{A}$より$B(y,\varepsilon/2)\cap A\neq\varnothing$であるから,その元を1つ選んで$z$とする.すると$d(x,z)\leq d(x,y)+d(y,z)<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon$ゆえ$z\in B(x,\varepsilon)\cap A\neq\varnothing$である.よって$x\in\overline{A}$であるから,閉集合の定義より$\overline{A}$は閉集合である.
$\overline{A}$の最小性を示そう.$F$を$A$を含む閉集合とし,$x\in\overline{A}$とする.このとき,任意の$\varepsilon>0$に対して$B(x,\varepsilon)\cap A\neq\varnothing$かつ$B(x,\varepsilon)\cap A\subset B(x,\varepsilon)\cap F$が成り立つから$B(x,\varepsilon)\cap F\neq\varnothing$である.そこで,各$n=1,2,\cdots$に対して$B(x,n^{-1})\cap F$の元を1つ選び$x_n$とおくと,点列$\{x_n\}_{n=1,2,\cdots}$は$x_n\in F$($n=1,2,\cdots$)かつ$\displaystyle\lim_{n\to\infty}x_n=x$を満たす.$F$は閉集合であるから,命題2より$x\in F$である.ゆえに$\overline{A}\subset F$である.
次の命題は,閉包がもとの集合に集積点を付け加えたものであることを示している.
$A$の集積点全体を$A'$とするとき,$\overline{A}=A\cup A'$である.
$\overline{A}\supset A\cup A'$であることを示そう.命題3より$A\subset\overline{A}$である.$x\in A'$とすると,任意の$\varepsilon>0$に対して$\varnothing\neq B(x,\varepsilon)\cap(A\setminus\{x\})\subset B(x,\varepsilon)\cap A$が成り立つから,$x\in\overline{A}$である.すなわち$A'\subset\overline{A}$である.よって$\overline{A}\supset A\cup A'$が成り立つ.
$\overline{A}\subset A\cup A'$であることを示そう.$x\in\overline{A}\setminus A$とすると,任意の$\varepsilon>0$に対して$B(x,\varepsilon)\cap(A\setminus\{x\})=B(x,\varepsilon)\cap A\neq\varnothing$が成り立つから$x\in A'$である.よって$\overline{A}\subset A\cup A'$である.
この事実から,閉包を用いて閉集合を特徴づけられることがわかる.
次の2条件は同値である.
$A$の集積点全体の集合を$A'$とする.
1を仮定すると,$A'\subset A$であるから,命題4より2が得られる.
2を仮定すると,命題4より$A=A\cup A'$である.従って$A'\subset A$であるから1が得られる.