まず、次の問題を解いてみよう。
$$
\lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x}=1
$$
を示せ。
これに対する一般的な証明は以下のような例が挙げられる。
半径$1$、中心角$x$の扇形と、それに接する三角形の面積から、
$$
\frac12\sin x<\frac12 x<\frac12 \tan x
$$
であり、辺々$\frac{\sin x}{2}$で割ると、
$$
1<\frac{x}{\sin x}<\frac{1}{\cos x}
$$
右辺について$x\to+0$の極限をとると、$\frac{1}{\cos x}\to1$であり、はさみうちの原理から、
$$
\lim_{x\to+0}\frac{x}{\sin x}=1
$$
すなわち
$$
\lim_{x\to+0}\frac{\sin x}{x}=1
$$
またこの式において、$x=-t$とおけば、
$$
\lim_{t\to-0}\frac{\sin x}{x}=1
$$
であり、よって、
$$
\lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x}=1
$$
一見、この方法には何ら矛盾はなく、数学的に論理が破綻しているとは考えにくい。だが、この極限を用いて三角関数の微積分公式を求め、それを使って円の面積を求めたことを考えると、この証明の最初の段階において面積評価を使うことは循環論法になる(もちろん円の面積を三角関数を用いずに求められるなら話は別だけども)。
今回は、これに対する解決方法を書いていきたいと思う。
初等的な三角関数の定義は、先ほどのように循環論法を起こしてしまう可能性があり不便である。なので、無限級数を用いて三角関数を定義する。
$$ \sin x:=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}}{(2n+1)!}x^{2n+1} \\ \cos x:=\frac{d}{dx}\sin x $$
$\sin $の定義における右辺については、$x$は実数全体で収束し、一様収束することを先に述べておこう。なお、いま定義した三角関数が古典的に定義されていた三角関数と同じく図形的性質を持つかどうかは明らかでなく、それは証明する必要がある。
先ほど定義した三角関数が古典的に定義される三角関数と同値であることを示すために、いくつかの命題、定理を示していこう。
$$ \frac{d}{dx}\cos x=-\sin x \\ \sin 0=0 \\ \cos 0=1 $$
$\cos x$を級数展開すれば、級数が一様収束することから簡単にわかる。
$$ \sin^2x+\cos^2x=1 $$
$$
f(x)=\sin^2x+\cos^2x
$$
とおくと、
$$
f'(x)=2(\sin x\cos x-\cos x\sin x)=0
$$
よって、$\sin 0=0,\cos 0=1$から、
$$
\sin^2x+\cos^2x=1
$$
命題$2$から、次の命題がわかる。
$f(x)=\cos x,\ g(x)=\sin x$とおく。$t$を媒介変数とする曲線
$$
(x,y)=(f(t),g(t))
$$
は単位円であり、この曲線上の点$P(f(t),g(t))$は、円上を反時計回りに速さ$1$で動く。
曲線が単位円となることは命題$2$から明らか。また点$P$の速さも明らか。
回転方向は$t=0$のとき$P(1,0)$であり、速度ベクトルを考えれば明らか。
命題$3$から、さらに次の命題がわかる。
命題$3$において、媒介変数$t$が$0$から$\theta$まで変化したときの移動距離は$\theta$であり、このとき$A(1,0))$に対し$∠POA=\theta$である。
速度を積分すれば導ける。角度に関しても弧度法の定義から明らか。
すなわち、次の定理が示される。
単位円上の$2$点$A(1,0),P(\cos\theta,\sin\theta)$について、$∠POA=\theta$であり、また、逆も成り立つ。
定義、命題から自明。
定理$5$は、古典的に定義された三角関数と、今回定義された三角関数の定義が同値であることを示している。
最初に出した問題を、今回新たに用いた三角関数の定義を使って解いてみよう!
$$ \lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x}=\lim_{x\to0}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}}{(2n+1)!}x^{2n}=1 $$
前回「次回はテイラー展開について書く」と言った気がする。気のせいかな。
なんかよくわからない記事を書いてしまった。やはり勢いに任せるのはよろしくない。今度から読みやすい記事を書くよう心掛ける。