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大学数学基礎解説
文献あり

大きな関数のだいたいの形を見よう(スケーリング入門)

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前書き

この記事は 仮の人 さん主催の Advent Math Calendar2023 (AMC2023)のDay7にあたる記事になります。競技数学をたしなむ人(競技数学er)が好き勝手数学等を語ろう!! という趣旨のアドベントカレンダーになってます。毎日面白い記事が上がってますので気になるものから全部読んでください。僕もDay3に 近畿大学数学コンテストの参戦記 を書いてますので、気になる人やコイツ誰だ?と思う人は読んでくださるとうれしいです。

今回は解析(微分積分)の内容になります。一部大学数学の内容もありますが、なるべく全体通して高校数学で読めるようにしてあります。

なお以下のパラメータaが自然数nのときは 黒木玄先生のこちらのPDF でいろいろな手法で説明されてますので紹介させていただきます。

記法

  • 実数全体の集合をR、非負実数全体の集合をR0とする。
  • 集合ARに対して関数1A(x):RRを以下で定める。
    1A(x)={1(xA)0(xA)
  • exexp(x)とも書く。

スケーリングとは

今回は具体的な「上がって下がる」「大きな」関数の大まかな形を捉えるという内容である。正の実数aに対して、定義域値域共に非負実数である関数fa(x):R0R0は以下の条件を満たすとする。

  • fa(0)=limxfa(x)=0
  • fa(x)x=xaで最大値を取り、0xxaで単調増加かつxaxで単調減少
  • limaxa=かつlimafa(xa)=

このとき、グラフy=fa(x)のおおまかな形を捉えるために平行移動および拡大縮小を施す。y軸方向についてはy=1fa(xa)yとする、つまり最大値fa(xa)だけ縮小すればyの最大値は1となる。x軸方向については、xaだけ平行移動して原点で最大値をとるようにするのはいいとして、x軸方向の縮小率laをどうすれば非自明な面白い形が出てくるかは気になる。つまり

g(t):=lima1fa(xa)fa(xa+lat)(t(,))

で定めるg(t)について、縮小が足りなくてg(t)=1(t(,))となったり逆に縮小しすぎてg(t)=0(t0)とならないような、ちょうどいい縮小率laと概形g(t)を調べる。こういう操作を数学ではスケーリング(scaling)という。今回はfa(x):=xaexという具体的な関数列についてスケーリングを施すことでaが十分大きいときのグラフy=fa(x)の大まかな形を探る。また、その結果を用いた応用例についても触れる。

fa(x)=xaexのスケーリング

fa(x):=xaexとする。fa(x)x=aで最大値(a/e)aをとる。x=0で最小値を取りx=aで最大値を取るためx軸方向の縮小率はla=aで良さそうな気がするが、t01+t<etである(この不等式は微分を用いて示せる)ため

fa(a+at)fa(a)=(a+at)aeaataaea=(et(1+t))a0(a)

となり、これは縮小しすぎてグラフが潰れてしまっている。

logfa(a+lat)fa(a)=log(a+lat)aealataaea=lat+alog(1+lata)
ここでεが十分に小さいならばlog(1+ε)ε12ε2であることから

lat+alog(1+lata)lat+a(lata12(lata)2)=la2t22a
であるためla=aのときにg(t)=exp(12t2)に収束することが予想でき、実際に成立する。

fa(x)=xaexのスケーリング

fa(x)=xaexとする。このとき、任意の実数tについて

lima1fa(a)fa(a+ta)=exp(12t2)

定理1の証明はある定数C>0について
|ε|<12|log(1+ε)(ε12ε2)|<Cε3
が成立することが(Taylor展開の剰余項を評価したり単純に微分することで)示せるので、それを用いてlog(1+ε)ε12ε2の箇所を正当化すれば良い。

定理1からaが十分大きいときのfa(x)=xaexのだいたいの形はexp(12t2)であると思える(かもしれない)。exp(12t2)は正規分布の確率密度関数(の定数倍)に一致する。このことについて、パラメータaが自然数nのときの確率論的な解釈について触れる。指数分布(確率密度関数はf0(x)1{x>0}=ex1{x>0})に従う独立同分布な確率変数の列(Xn)について中心極限定理から
k=1nXknn
nとして正規分布N(0,1)(確率密度関数は12πexp(12x2))に分布収束することに対応する。指数分布の一般化であるガンマ分布の再生性という性質からk=1nXkの分布がfn1(x)1{x>0}=xn1exに一致することが分かる。この事実が定理1と対応する。

定理1の応用(Stirlingの公式の導出)

定理1を用いるとStirlingの公式(n!の評価式)の証明を与えることが出来る。

以下で優収束定理という補題を用意しておく。おおざっぱに言えば一定の条件下では極限と積分が交換できるという補題である。極限と積分が交換できるというのは、直感的に言えば当たり前に成り立ってほしいことであるので、そんな細かいところは気にならないよという人は飛ばしてもらって系を読んでもらいたい。

非負値の(連続関数など積分可能な)関数h(x)について以下のように定める(広義Riemann積分、今回はLebesgue積分に一致する)。
h(x)dx:=limttth(x)dx
(わかる人に言うと積分可能関数とはLebesgue可積分関数のことである。可積分の概念や以下の優収束定理など気になる人は例えば「ルベーグ積分入門(伊藤清三)」を参照してほしい。)

優収束定理

非負値の(連続関数など積分可能な)関数ha(x):RR0の列{hn}は、任意の実数xについてlimaha(x)=h(x)を満たす。また、ha(x)H(x)(xR)かつH(x)dx<を満たすaに依存しない関数H(x)が存在するとする(H(x)を優関数という)。
このとき、以下が成立する。

limaha(x)dx=h(x)dx

証明にはLebesgue積分論が要る(と認識している)ので割愛する。優関数の存在の仮定は(必要十分条件とはいかないものの)そこそこ本質的な仮定で、例えば

ha(x)=a1(0,1/a)(x)

ha(x)=1(a,a+1)(x)
は共にh(x)=0となるがha(x)dx=1であるため補題2は成立しない。

以下はStirlingの公式と呼ばれる主張である。

定理1

Γ(a):=0xaexdxとする。このとき
limaΓ(a)aaaea=2π

ga(t)=1fa(a)fn(a+ta)1{ta}とおく。
もしga(t)に優関数が存在するならば、定理1と補題2を適用して
lima1fa(a)fa(a+ta)1{ta}dt=exp(12t2)dt
x=a+taと置換して
fa(a+ta)1{ta}dt=1a0fa(x)dx=1aΓ(a)
Gauss積分 より
exp(12t2)dt=2π
上の3つの式を組み合わせるとlimaΓ(a)aaaea=2πを得る。

あとはga(t)の優関数の存在性を示す。ある定数C>0について
log(1+x)max{xCx2,1e1x}(x0)
log(1+x)x12x2(x<0)
が成立することに注意する(log(1+x))>1e1xx(0,e1) であるため、log(1+x)xCx2(x(0,e1))を満たすCを取ればよい)。
この不等式からt0については
ga(t)=1fa(a)fa(a+ta)1{ta}=exp(ta)(1+ta)a1{ta}exp(ta)(max{exp(taCt2a),exp(t(e1)a)})amax{exp(Ct2),exp(e2e1ta)}max{exp(Ct2),exp(e2e1t)}
t<0については同様にして
ga(t)exp(12t2)
が言える。exp(Ct2),exp(e2e1t)1{t0}は共に(,)で積分有限なので優関数の存在が示された。

Γ(n)について、部分積分を繰り返して
0xnexdx=[xnex]0+n0xn1exdx=n0xn1exdx=n!0exdx=n!
つまり系の結果から以下を得る。
limnn!nnnen=2π

最後に

読んでいただきありがとうございました。実はもうひとつの具体的な関数列についてスケーリングも盛り込みたかったのですが、分量の関係上断念しました。ですので、また続きの記事を書きたいと思っています。お見せしたい不思議な現象もありますので、続きが出来ましたら読んでくださると嬉しいです。

あー!記事2つ書くの大変だった!でもMathlogもnoteも触れることが出来ていい経験になりました。ありがとうございました。再度の告知になりますが、 Advent Math Calendar2023 とその1記事である 近畿大学数学コンテストの参戦記 もよろしくお願いします。

参考文献

[1]
伊藤清三 , ルベーグ積分入門(新装版), 数学選書4, 裳華房, 2017, 324
投稿日:2023126
更新日:20231219
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投稿者

研究でも研究以外でも数学やってます。解析学(微分積分論)が専門です。

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  2. 記法
  3. スケーリングとは
  4. fa(x)=xaexのスケーリング
  5. 定理1の応用(Stirlingの公式の導出)
  6. 最後に
  7. 参考文献