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で登場した$c_n(k)$を別の方法で求められないか,というのが今回の記事の主旨です.
記号の定義と重要な定理をもう一度書いておきます.
$$ f_n(x)=\prod_{d\vert n,0\lt d} (x +d) $$
$$ \sigma_x(n)=\sum_{d\vert n,0\lt d} d^x $$
数列$\lbrace c_n \rbrace$を次を満たすようにとる.
$$ f_n(x)=\sum_{k\geq 0} c_n(k)x^k $$
$$ c_n(k)=\dfrac{1}{k!} \dfrac{d^k}{dx^k} f_n(0) $$
$c_n(k)$を微分を用いずに計算することが今回の目標になります.求めるにあたり,次の関数を定義します.
$$ c_{n,k}(x)=\dfrac{1}{k!}\dfrac{d^k}{dx^k} f_n(x) $$
すなわち,$c_{n,k}(0)=c_n(k)$である.
$$ \sigma_{m,n}(x)=\sum_{d\vert n,0\lt d} \dfrac{1}{(x +d)^m} \ \ \ \ (x\geq 0) $$
すなわち,$\sigma_{m,n}(0)=\sigma_{-m}(n)$である.
各関数の微分での計算規則は次の通りです.
この計算規則から,$\dfrac{d^k}{dx^k} f_n(x)=f_n(x)Q_{n,k}(x)$となる関数$Q_{n,k}$の存在が予想されます.
$Q_{n,k}(x)$について考えてみましょう.
\begin{align} f_n(x)Q_{n,k +1}(x) &=(k +1)! \ c_{n,k +1}(x)=k!\big((k +1)c_{n,k +1}(x)\big)=k!\dfrac{d}{dx} c_{n,k}(x) \\ &=\dfrac{d}{dx} f_n(x)Q_{n,k}(x) \\ &=f_n(x)\dfrac{d}{dx} Q_{n,k}(x) +Q_{n,k}(x)\dfrac{d}{dx} f_n(x) \\ &=f_n(x)\left(\dfrac{d}{dx} Q_{n,k}(x) +\sigma_{1,n}(x)Q_{n,k}(x)\right) \\ \therefore \ Q_{n,k +1}(x)&=\dfrac{d}{dx} Q_{n,k}(x) +\sigma_{1,n}(x)Q_{n,k}(x) \end{align}
となり,関数$Q_{n,k}$の$k$に関する漸化式ができました.初項を考えると,
$$f_n(x)=\dfrac{d^0}{dx^0} f_n(x)=f_n(x)Q_{n,0}(x)$$
より$Q_{n,0}(x)=1$とわかります.よって$c_n(k)$を求めるためには,漸化式
$$ Q_{n,k +1}(x)=\dfrac{d}{dx} Q_{n,k}(x) +\sigma_{1,n}(x)Q_{n,k}(x) \ \ \ \ (Q_{n,0}(x)=1) $$
の一般項を求めればよいとわかります.解法は見当もつかないので,具体的に計算して一般項を予想します.簡単のため$\sigma_{m,n}(x)=\sigma_m$としています.
$k=6$まで頑張って計算すると
$$ Q_{n,0}(x)=1 $$
$$ Q_{n,1}(x)=\sigma_1 $$
$$ Q_{n,2}(x)=\sigma_1^2 -\sigma_2 $$
$$ Q_{n,3}(x)=\sigma_1^3 -3\sigma_1\sigma_2 +2\sigma_3 $$
$$ Q_{n,4}(x)=\sigma_1^4 -6\sigma_1^2\sigma_2 +8\sigma_1\sigma_3 +3\sigma_2^2 -6\sigma_4 $$
$$ Q_{n,5}(x)=\sigma_1^5 -10\sigma_1^3\sigma_2 +20\sigma_1^2\sigma_3 +15\sigma_1\sigma_2^2 -30\sigma_1\sigma_4 -20\sigma_2\sigma_3 +24\sigma_5 $$
$$ Q_{n,6}(x)=\sigma_1^6 -15\sigma_1^4\sigma_2 +40\sigma_1^3\sigma_3 -90\sigma_1^2\sigma_4 +45\sigma_1^2\sigma_2^2 +144\sigma_1\sigma_5 -120\sigma_1\sigma_2\sigma_3 -15\sigma_2^3 +40\sigma_3^2 +90\sigma_2\sigma_4 -120\sigma_6 $$
となります.だんだん規則性が見えてきましたね.
$Q_{n,k}(x)$は次のような式であると予想できます.
$k=0$のとき
$
Q_{n,0}(x)=1
$
$k\gt 0$のとき
$$
Q_{n,k}(x)=(-1)^k \sum_{(m_1,\cdots,m_k)\in S_k} \ \prod_{i=1}^k \dfrac{1}{i^{m_i -1} \cdot m_i!} \big(-\sigma_{i,n}(x)\big)^{m_i} \ \ \ \ \left(S_k=\left\lbrace (m_1,\cdots,m_k)\in \left(\mathbb{N}\cup \lbrace 0 \rbrace \right)^k \vert \sum_{i=1}^k im_i=k \right\rbrace \right)
$$
$k\gt 0$のときでこれを数学的帰納法で証明していきます.と言っても,そのまま証明しようとすると計算がきついので少し工夫します.
そのための準備として次の二つの補題を示しておきます.
$Q_{n,k}(x)$は$\sigma_{1,n}(x),\cdots,\sigma_{k,n}(x)$の多項式で表される.
$Q_{n,k}(x)$の漸化式と計算規則から明らか.
$Q_{n,k}(x)$の各項で,$\sigma_{i,n}(x)$の次数を$m_{k,i}$とおくと$\displaystyle{\sum_{i=1}^k im_{k,i}=k}$となる.
数学的帰納法で証明する.
$k=1$のときは$Q_{n,1}(x)=\sigma_{1,n}(x)$より成り立つ.$k=t$のとき成り立つと仮定すると,$\displaystyle{\sum_{i=1}^t im_{t,i}=t}$が成り立つ.
$$
Q_{n,t +1}(x)=\dfrac{d}{dx}Q_{n,t}(x) +\sigma_{1,n}(x)Q_{n,t}(x)
$$
であるから,右辺第2項では$m_{t +1,1}=m_{t,1} +1$となり$\displaystyle{\sum_{i=1}^{t +1} im_{t +1,i}=t +1}$となる.
右辺第1項の微分では,(計算規則によると)$m_{t,j}\gt 0$であるような$j$に対して,$-jm_{t,j}\dfrac{\sigma_{j +1,n}(x)}{\sigma_{j,n}(x)}$を$Q_{n,k}(x)$に掛けて総和をとるという操作を行っているため,$m_{t +1,j}=m_{t,j} -1 \ , \ m_{t +1,j +1}=m_{t,j +1} +1$となり$\displaystyle{\sum_{i=1}^{t +1} im_{t +1,i}=\sum_{i=1}^{j -1} im_{t,i} +jm_{t +1,j} +(j +1)m_{t +1,j +1} +\sum_{i=j +2}^{t +1} im_{t,i}=\sum_{i=1}^{j -1} im_{t,i} +jm_{t,j} -j +(j +1)m_{t,j +1} +(j +1) +\sum_{i=j +2}^{t +1} im_{t,i}=1 +\sum_{i=1}^t im_{t,i}=t +1}$
となる.以上より$k=t +1$のときでも成り立つ.
補題3と補題4から,$m_1,\cdots,m_k$によって定まる関数$A_k$を用いて$\displaystyle{Q_{n,k}(x)=\sum_{(m_1,\cdots,m_k)\in S_k} A_k(m_1,\cdots,m_k)\prod_{i=1}^k (\sigma_{i,n}(x))^{m_i}}$と書けます.ここで,$\displaystyle{S_k=\left\lbrace (m_1,\cdots,m_k)\in \left(\mathbb{N}\cup \lbrace 0 \rbrace \right)^k \Bigg\vert \sum_{i=1}^k im_i=k \right\rbrace}$です.以降では断りなく$S_k$と書く場合はこのような集合を表すものとします.
予想を証明するためには,$\displaystyle{A_k(m_1,\cdots,m_k)=\prod_{i=1}^k \dfrac{(-1)^{m_i +1}}{i^{m_i -1}\cdot m_i!}}$であることが言えれば良いということになります.そこで公式1を用いて$A_k(m_1,\cdots,m_k)$について考えると,次の漸化式を得ます.
$(m_1,\cdots,m_{k +1})\in S_{k +1}$とする.
$$ A_{k +1}(m_1,\cdots,m_{k +1})=A_k(m_1 -1,m_2,\cdots,m_k) -\sum_{1\leq i\leq k \ , \ 0\lt m_{i +1}} i(m_i +1)A_k(m_1,\cdots,m_i +1,m_{i +1} -1,\cdots,m_k) \ \ \ \ (A_1(1)=1) $$
ただし,$m_1=0$なら$A_k(m_1 -1,m_2,\cdots,m_k)=0$とする.
補題4の証明と同様のことを係数にすればよい.
この漸化式の一般項が$\displaystyle{A_k(m_1,\cdots,m_k)=\prod_{i=1}^k \dfrac{(-1)^{m_i +1}}{i^{m_i -1}\cdot m_i!}} \ \ \ \ \left((m_1,\cdots,m_k)\in S_k\right)$であることを数学的帰納法で証明する.
$k=1$のとき,$\displaystyle{A_1(1)=\prod_{i=1}^1 \dfrac{(-1)^{m_i +1}}{i^{m_i -1}\cdot m_i!}=1}$より成り立つ.
$k=t$のときに成り立つと仮定すると,
以上より,$\displaystyle{A_k(m_1,\cdots,m_k)=\prod_{i=1}^k \dfrac{(-1)^{m_i +1}}{i^{m_i -1}\cdot m_i!}} \ \ \ \ \left((m_1,\cdots,m_k)\in S_k\right)$であることを示せた.
$ \ $
ついに証明ができました.これによって,
$$ Q_{n,k}(x)=(-1)^k \sum_{(m_1,\cdots,m_k)\in S_k} \ \prod_{i=1}^k \dfrac{1}{i^{m_i -1} \cdot m_i!} \big(-\sigma_{i,n}(x)\big)^{m_i} \ \ \ \ \left(k\gt 0\right) $$
となり,
$$ c_{n,k}(x)=(-1)^kf_n(x) \sum_{(m_1,\cdots,m_k)\in S_k} \ \prod_{i=1}^k \dfrac{1}{i^{m_i} \cdot m_i!} \big(-\sigma_{i,n}(x)\big)^{m_i} \ \ \ \ \left(k\gt 0\right) $$
となって
$$ c_n(k)=(-1)^kf_n(0) \sum_{(m_1,\cdots,m_k)\in S_k} \ \prod_{i=1}^k \dfrac{1}{i^{m_i} \cdot m_i!} \big(-\sigma_{-i}(n)\big)^{m_i} \ \ \ \ \left(k\gt 0\right) $$
となります.$f_n(0)=n^{\frac{\sigma_0(n)}{2}} \ , \ \sigma_{-i}(n)=\dfrac{\sigma_i(n)}{n^i}$を代入して
$$ c_n(k)=(-1)^kn^{\frac{\sigma_0(n)}{2} -k} \sum_{(m_1,\cdots,m_k)\in S_k} \ \prod_{i=1}^k \dfrac{1}{i^{m_i} \cdot m_i!} \big(-\sigma_i(n)\big)^{m_i} \ \ \ \ \left(k\gt 0\right) $$
となり,目標を達成することができました.
この式から面白いことが分かります.
$$ \sum_{(m_1,\cdots,m_k)\in S_k} \ \prod_{i=1}^k \dfrac{1}{(-i)^{m_i}\ m_i!} =0 \ \ \ \ \left(k\geq 2\right) $$
定理6で$n=1$とすると,$f_1(x)=x +1$であり$\sigma_i(1)=1$であるため,$k\geq 2$では$c_1(k)=0$となる.
かなり驚異的な結果だと思います.
実際に定理6の式を使おうとすると分かりますが,この式は$k$の分割の仕方を書き出してから行うので,計算量は$k$の大きさに強く依存します.
そこで,計算量を減らすことができる次の定理を紹介します.
$$ c_n(\sigma_0(n) -k)=n^{k -\frac{\sigma_0(n)}{2}}c_n(k) $$
証明は こちら の記事で詳しく書いてあるのでここでは省略します.
この定理を使えば,$k$と$\sigma_0(n) -k$で小さいほうを選んで計算すればいいことになります.
ここまで読んでいただきありがとうございました.