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負の約数を根に持つ多項式について2

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この記事 で登場したcn(k)を別の方法で求められないか,というのが今回の記事の主旨です.
記号の定義と重要な定理をもう一度書いておきます.

fn(x)=d|n,0<d(x+d)

σx(n)=d|n,0<ddx

数列{cn}を次を満たすようにとる.

fn(x)=k0cn(k)xk

cn(k)=1k!dkdxkfn(0)

cn(k)を微分を用いずに計算することが今回の目標になります.求めるにあたり,次の関数を定義します.

cn,k(x)=1k!dkdxkfn(x)

すなわち,cn,k(0)=cn(k)である.

σm,n(x)=d|n,0<d1(x+d)m    (x0)

すなわち,σm,n(0)=σm(n)である.

各関数の微分での計算規則は次の通りです.

各関数の計算規則
  • ddxfn(x)=fn(x)σ1,n(x)
  • ddxσm,n(x)=mσm+1,n(x)
  • ddxcn,k(x)=(k+1)cn,k+1(x)

この計算規則から,dkdxkfn(x)=fn(x)Qn,k(x)となる関数Qn,kの存在が予想されます.
Qn,k(x)について考えてみましょう.

fn(x)Qn,k+1(x)=(k+1)! cn,k+1(x)=k!((k+1)cn,k+1(x))=k!ddxcn,k(x)=ddxfn(x)Qn,k(x)=fn(x)ddxQn,k(x)+Qn,k(x)ddxfn(x)=fn(x)(ddxQn,k(x)+σ1,n(x)Qn,k(x)) Qn,k+1(x)=ddxQn,k(x)+σ1,n(x)Qn,k(x)

となり,関数Qn,kkに関する漸化式ができました.初項を考えると,

fn(x)=d0dx0fn(x)=fn(x)Qn,0(x)

よりQn,0(x)=1とわかります.よってcn(k)を求めるためには,漸化式

Qn,k+1(x)=ddxQn,k(x)+σ1,n(x)Qn,k(x)    (Qn,0(x)=1)

の一般項を求めればよいとわかります.解法は見当もつかないので,具体的に計算して一般項を予想します.簡単のためσm,n(x)=σmとしています.
k=6まで頑張って計算すると

Qn,0(x)=1

Qn,1(x)=σ1

Qn,2(x)=σ12σ2

Qn,3(x)=σ133σ1σ2+2σ3

Qn,4(x)=σ146σ12σ2+8σ1σ3+3σ226σ4

Qn,5(x)=σ1510σ13σ2+20σ12σ3+15σ1σ2230σ1σ420σ2σ3+24σ5

Qn,6(x)=σ1615σ14σ2+40σ13σ390σ12σ4+45σ12σ22+144σ1σ5120σ1σ2σ315σ23+40σ32+90σ2σ4120σ6

となります.だんだん規則性が見えてきましたね.
Qn,k(x)は次のような式であると予想できます.

k=0のとき
Qn,0(x)=1

k>0のとき
Qn,k(x)=(1)k(m1,,mk)Sk i=1k1imi1mi!(σi,n(x))mi    (Sk={(m1,,mk)(N{0})k|i=1kimi=k})

k>0のときでこれを数学的帰納法で証明していきます.と言っても,そのまま証明しようとすると計算がきついので少し工夫します.
そのための準備として次の二つの補題を示しておきます.

Qn,k(x)σ1,n(x),,σk,n(x)の多項式で表される.

Qn,k(x)の漸化式と計算規則から明らか.

Qn,k(x)の各項で,σi,n(x)の次数をmk,iとおくとi=1kimk,i=kとなる.

数学的帰納法で証明する.
k=1のときはQn,1(x)=σ1,n(x)より成り立つ.k=tのとき成り立つと仮定すると,i=1timt,i=tが成り立つ.
Qn,t+1(x)=ddxQn,t(x)+σ1,n(x)Qn,t(x)
であるから,右辺第2項ではmt+1,1=mt,1+1となりi=1t+1imt+1,i=t+1となる.
右辺第1項の微分では,(計算規則によると)mt,j>0であるようなjに対して,jmt,jσj+1,n(x)σj,n(x)Qn,k(x)に掛けて総和をとるという操作を行っているため,mt+1,j=mt,j1 , mt+1,j+1=mt,j+1+1となりi=1t+1imt+1,i=i=1j1imt,i+jmt+1,j+(j+1)mt+1,j+1+i=j+2t+1imt,i=i=1j1imt,i+jmt,jj+(j+1)mt,j+1+(j+1)+i=j+2t+1imt,i=1+i=1timt,i=t+1
となる.以上よりk=t+1のときでも成り立つ.

補題3と補題4から,m1,,mkによって定まる関数Akを用いてQn,k(x)=(m1,,mk)SkAk(m1,,mk)i=1k(σi,n(x))miと書けます.ここで,Sk={(m1,,mk)(N{0})k|i=1kimi=k}です.以降では断りなくSkと書く場合はこのような集合を表すものとします.
予想を証明するためには,Ak(m1,,mk)=i=1k(1)mi+1imi1mi!であることが言えれば良いということになります.そこで公式1を用いてAk(m1,,mk)について考えると,次の漸化式を得ます.

(m1,,mk+1)Sk+1とする.

Ak+1(m1,,mk+1)=Ak(m11,m2,,mk)1ik , 0<mi+1i(mi+1)Ak(m1,,mi+1,mi+11,,mk)    (A1(1)=1)

ただし,m1=0ならAk(m11,m2,,mk)=0とする.

補題4の証明と同様のことを係数にすればよい.

予想の証明

この漸化式の一般項がAk(m1,,mk)=i=1k(1)mi+1imi1mi!    ((m1,,mk)Sk)であることを数学的帰納法で証明する.

k=1のとき,A1(1)=i=11(1)mi+1imi1mi!=1より成り立つ.

k=tのときに成り立つと仮定すると,

  1. mt+1=1のとき
    (m1,,mt+1)St+1から,m1==mt=0となる.よって
    At+1(0,,0,1)=1it , 0<mi+1i(mi+1)At(0,,0,mi+1,mi+11,0,0)=t(0+1)At(0,,0,1)=ti=1t(1)mi+1imi1mi!=t(i=1t1(i))(1)1+1t111!=(1)1+1(t+1)111!i=1t(i)=i=1t+1(1)mi+1imi1mi!
    となり成り立つ.
  2. mt+1=0のときAt(m11,m2,,mt)=A1とおいて
    At+1(m1,,mt,0)=A11it , 0<mi+1i(mi+1)At(m1,,mi+1,mi+11,,mt)=A11it , 0<mi+1i(mi+1)(j=1i1(1)mj+1jmj1mj!)(1)mi+2imi(mi+1)!(1)mi+1(i+1)mi+12(mi+11)!j=i+2t(1)mj+1jmj1mj!=A11it , 0<mi+1i(mi+1)1i(mi+1)(i+1)mi+1j=1t(1)mj+1jmj1mj!=A1(j=1t(1)mj+1jmj1mj!)1it , 0<mi+1(i+1)mi+1
    ここでA1=At(m11,m2,,mt)=(1)m11+11m12(m11)!j=2t(1)mj+1jmj1mj!=m1j=1t(1)mj+1jmj1mj!であるから
    At+1(m1,,mt,0)=(m1+1it , 0<mi+1(i+1)mi+1)j=1t(1)mj+1jmj1mj!=(t+1)j=1t(1)mj+1jmj1mj!=(1)mt+1+1(t+1)mt+11mt+1!j=1t(1)mj+1jmj1mj!=j=1t+1(1)mj+1jmj1mj!
    となり成り立つ.
    記号を混同しやすいので気を付けてください.

以上より,Ak(m1,,mk)=i=1k(1)mi+1imi1mi!    ((m1,,mk)Sk)であることを示せた.

 

ついに証明ができました.これによって,

Qn,k(x)=(1)k(m1,,mk)Sk i=1k1imi1mi!(σi,n(x))mi    (k>0)

となり,

cn,k(x)=(1)kfn(x)(m1,,mk)Sk i=1k1imimi!(σi,n(x))mi    (k>0)

となって

cn(k)=(1)kfn(0)(m1,,mk)Sk i=1k1imimi!(σi(n))mi    (k>0)

となります.fn(0)=nσ0(n)2 , σi(n)=σi(n)niを代入して

cn(k)=(1)knσ0(n)2k(m1,,mk)Sk i=1k1imimi!(σi(n))mi    (k>0)

となり,目標を達成することができました.

この式から面白いことが分かります.

(m1,,mk)Sk i=1k1(i)mi mi!=0    (k2)

定理6でn=1とすると,f1(x)=x+1でありσi(1)=1であるため,k2ではc1(k)=0となる.

かなり驚異的な結果だと思います.

終わりに

実際に定理6の式を使おうとすると分かりますが,この式はkの分割の仕方を書き出してから行うので,計算量はkの大きさに強く依存します.
そこで,計算量を減らすことができる次の定理を紹介します.

cn(σ0(n)k)=nkσ0(n)2cn(k)

証明は こちら の記事で詳しく書いてあるのでここでは省略します.

この定理を使えば,kσ0(n)kで小さいほうを選んで計算すればいいことになります.

ここまで読んでいただきありがとうございました.

投稿日:2023627
更新日:2024317
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約数関数、数列関係の記事を中心に書いていきます。 記事の内容に間違いがあれば教えてくれるとありがたいです。

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