複素数$\alpha$が代数的数であるとは, ある$0$でない整数係数多項式$f(x)$が存在して, $\alpha$が$f(x)$の根となる, 即ち$f(\alpha)=0$を満たすときにいう. そのような多項式$f(x)$が存在しないとき, $\alpha$を超越数と呼ぶ.
虚数単位$i$は多項式$x^2+1$の根であるから, 代数的数である. しかし, 円周率$\pi$やネイピア数$e$は超越数である.
$\pi$と$e$の超越性については, 例えば次.
リンク先を見てもらっても分かるとおり, 超越性の証明は大変複雑である. そのような中で, 超越数を人工的に簡単に生成できてしまうのがGelfond-Schneiderの定理なのである.
$a\neq0,1$を代数的数,$b$を有理数でない代数的数としたとき, $a^b$は超越数である.
この定理の歴史について少し話しておく. 1920年, Alexander Gelfondは代数的数$a\neq0,1$, 正の非平方数$b$に対して$a^{ib}$が超越数であることを示し, その後, 1930年にRodion Kuzmin(ロディオン・クズミン)が同じ状況下で$a^b$が超越数であることを示した. 下の例に挙げたように, Kuzminの功績によりHilbert23の問題の第7問題のひとつ『$2^\sqrt{2}$は超越数か』が解決したことになる. そして1936年, Carl Siegel(カール・ジーゲル)が上の定理1を証明したのである.
$\sqrt{2}$は有理数ではなく, 多項式$x^2-2$の根だから代数的数である. よって, $2^\sqrt{2}$は超越数である.
さて, 本題に入ろうと思う. とはいえ, Gelfond-Schneiderの定理を用いれば非常に簡単に証明することができる.
$e^\pi$は超越数である.
Gelfond-Schneiderの定理と例1より$i^{-2i}$は超越数であり, Eulerの公式から
\begin{align*}
i^{-2i}=\pas{e^{\frac{i\pi}{2}}}^{-2i}=e^{\frac{i\pi}{2}\times(-2i)}=e^\pi.
\end{align*}
参考:オイラー博士の素敵な数式, ポール・J・ナーイン, 小山信也訳, 日本評論社