変分法とは
変分法とは、汎函数の最大・最小を考えるために用いられるもので、普通の(?)函数の最大・最小を考えるために用いられる微分法に似たものです。汎函数は「函数の函数」とでも言うべきもので、通常の函数がスカラーを引数にとりスカラーを返すのに対し、汎函数は函数を引数にとりスカラーを返します。ここでは特に以下のような積分で表されるものを扱います。
なお、変分法は主に物理で用いられるため、ここでは微分可能性や微分と積分の順序交換などの細かい議論は省きます。
変分問題の解き方
微分法における最大・最小問題の解法のポイントは、について、の変化が小さくなるような、即ち停留点を見つけることにありました。
これが基本的な流れです。これと同様に汎函数でも最大・最小を議論したいのですが、などというものを考えるのは難しいです。そのため、少し違う方法でアプローチします。まず、「微分」とは本来微小変化、即ち以下のように表される量を意味します(変数函数における全微分と考えてもよいです)。
これと同様に、汎函数においても汎函数の微小変化として変分を考えます。ただ、函数の変化の仕方は色々あって扱いづらいため、函数の微小変化として「何らかの函数の微小スカラー倍」を使うことを考えます。
これを用いて、汎函数の方向のガトー微分(方向微分の一般化)を次のように定義します。
汎函数のガトー微分が定義できたので、停留函数を見つけることができます。
なお、後々のため、は汎函数の定積分の端点においてであるものとします。
Euler-Lagrange方程式
それでは、汎函数
の停留函数を求めましょう。境界条件を満たすような函数方向のガトー微分がになればよいので、
これが境界条件を満たす任意の函数に対して0になることから、次の定理が成り立ちます。
Euler-Lagrange方程式
また、この微分方程式をEuler-Lagrange方程式と呼ぶ。
凸汎函数
変分問題においては、凸汎函数と呼ばれる種類の汎函数が重要な性質を持ちます。
凸汎函数の定義
任意の函数について以下の不等式が成り立つとき、汎函数を凸汎函数であるという。
また、が凸汎函数であるとき、は凹汎函数と呼ばれます。
さて、函数が汎函数の停留函数であると分かっているとき、任意の函数に対してが成り立ちます。更にが凸汎函数であるとき、定義より次の不等式が成り立ちます。
これより、は汎函数を最小化する函数であると分かります。
しかし、定義通りに汎函数の凸性を判定しようとすると困難なので、変数凸函数の性質を利用して判定します。
変数凸函数
一般の正整数について、変数凸函数とは次の性質を持つ函数のことを言います。
次元凸函数の定義
任意の次元ベクトルとなる実数について、
が成り立つとき、を凸函数という。
式のままだとイメージが沸きづらいと思うので、グラフ的に説明します。まず、変数の場合はやなどが凸函数となります。つまり、変数の凸函数とはいわゆる「下に凸な」函数のことです。同様に変数凸函数でも、次元座標空間内にのグラフを描くと軸の負の方向(下)に出っ張った形になります。例えば変数函数は凸函数です。
このグラフのイメージから、変数凸函数のグラフ上の任意の点における接平面はグラフよりも下にあることが分かります。曲面の点でに接する平面の方程式は
ですから(はそれぞれのについての偏導関数)、次の定理が成り立ちます。
が凸函数であるとき、任意のについて、以下の不等式が任意ので成り立つ。
この性質を使って汎函数の凸性を判定します。
汎函数の凸性の判定
結論から言うと、の被積分函数をについての変数函数と見なしたとき、が凸函数になればは凸汎函数になります。以下、そのことを証明します。
まず、が凸函数であることから、
これにを代入して
両辺をで積分し、函数を用いて書き改めると
ここで、
であったので、
これが任意ので成り立つことから、が凸汎函数であることが示されました。
これで(一部の)汎函数の最小化問題が解けるようになったので、実際に簡単な例題を解いてみましょう。
例題
問題
-座標平面上で光が原点から点に進む。以下のつの場合についてその経路を求めよ。
座標平面全体が真空(屈折率)である
座標がの部分が屈折率の透明な物質で満たされている
フェルマーの原理より、光は到達時間が最小になるような経路を通ります。故に、光路を曲線 として、それぞれの場合において到達時間を計算し、それを最小化するを求めます。なお、真空中の光速はとし、始点および終点の条件から,が成り立つことに注意します。
解答
曲線の長さは
で表されるので、到達時間をとすれば
となります。は凸函数であるので、グラフを考えればは,についての凸函数であると分かります。即ち、も凸です。ですから、停留函数を見つければこれが求める函数になります。
この汎函数のEuler-Lagrange方程式は
まず、で微分してになるのは定数函数のみなので、任意定数を用いて
と書けます。これよりが求まりますが、は実数であってほしいのでとします。
が開区間全体を動くとき右辺は実数全体を動くので、これを新たにとおきます。よっては、任意定数を用いて
と書けます。ここで、境界条件,から,となり、求める函数はになります。
こちらはかなり自明な結果になりました。
解答
屈折率の物質中での光速はであるので、到達時間は
と表せます。はに依らないので、(1)と同様には凸汎函数であることが分かり、停留函数によって最小化されることになります。そして、(1)と同様のEuler-Lagrange方程式により
が成り立つことが分かります(は任意定数)。これを整理して、
ただし、は任意定数です。ここで、境界条件から
屈折率の条件を付け加えるだけで、逆双曲線函数が出てきました。
例題2
との両方が含まれるものもやっておきます。
問題
境界条件を満たす函数に対して、汎函数
の最小値をとるときのを求めよ。
解答
グラフを考えればは,についての凸函数であると分かります。即ち、も凸です。ですから、停留函数を見つければこれが求める函数になります。
Euler-Lagrange方程式を立てると
これを解いて
ただし、は任意定数。ここで、境界条件から
よって、となります。
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます。最速降下曲線やカテナリーは物理力の欠如により解説できなかったので、気が向いたら勉強して書きます。