二次曲線の焦点の座標を係数から計算する 焦点座標という記事でapu_yokaiさんが一般の場合の楕円・双曲線の焦点の座標を計算されていました。
この記事に触発されまして、わたしは一般の場合における楕円の面積を載せようと思います。
平行移動と回転移動により標準形に持っていくこともできますが、ここでは積分で求めます。
直交座標系が設定されている平面上の二次曲線は一般に次のように表されます。
この記事では ii. の一般式の場合で計算を進めます。
$ax^2+2bxy+cy^2+2dx+2ey+f=0$
この式は$$\pmatrix{x&y&1}\pmatrix{a&b&d\\b&c&e\\d&e&f}\pmatrix{x\\y\\1}=0$$のように対称行列を用いて書くことができます。
対称行列$M$と実数$\mu,\nu$を次のように定義しておきます。
$$M\coloneqq\pmatrix{a&b&d\\b&c&e\\d&e&f}$$
$$\mu\coloneqq\det M=acf+2bde-ae^2-cd^2-b^2f$$
$$\nu\coloneqq\widetilde{m}_{3,3}=M_{3,3}=ac-b^2$$
二次曲線$ax^2+2bxy+cy^2+2dx+2ey+f=0$が楕円であるための条件は次の通りです。
$ax^2+2bxy+cy^2+2dx+2ey+f=0$が楕円になるための必要十分条件は、$\nu>0$かつ$a\mu<0$である。
また、この条件は$\nu>0$かつ$c\mu<0$と同値である。
証明は「二次曲線の分類」で検索すれば出てくると思いますのでここでは省略します。
[追記:$\nu>0$の条件を載せているwebサイトはいろいろ見つかりますが、$a\mu<0$の方の条件を載せているwebサイトはあまりあまり多くないですね。$a\mu<0$でないとどうなるかを簡単に書いておくと、$\nu>0$かつ$a\mu>0$だと$ax^2+2bxy+cy^2+2dx+2ey+f=0$の左辺が常に正あるいは常に負となってしまって式を満たす$(x,y)$が存在せず、$\nu>0$かつ$a\mu=0$だと$ax^2+2bxy+cy^2+2dx+2ey+f=0$を満たす$(x,y)$はただ一つだけになります。※下に
追記の追記
を書きました。]
以降、この記事ではこの条件を満たしているとして計算を進めます。
$ax^2+2bxy+cy^2+2dx+2ey+f=0$が楕円になるとき、$a\neq0$,$c\neq0$である。
$\nu=ac-b^2>0$なので、$ac>b^2\geq0$より$a\neq0$,$c\neq0$となる。
$$ax^2+2bxy+cy^2+2dx+2ey+f=0$$
を$y$について整理して解きます。
$$cy^2+2(bx+e)y+ax^2+2dx+f=0$$
および$c\neq0$より、
$$y=\frac{-(bx+e)\pm\sqrt{\Delta'}}{c}$$
となります。ここで、
\begin{align}
\Delta'&=(bx+e)^2-c(ax^2+2dx+f)\\
&=-(ac-b^2)x^2+2(be-cd)x-(cf-e^2)\\
&=-(ac-b^2)\left(x-\frac{be-cd}{ac-b^2}\right)^2+\frac{(be-cd)^2}{ac-b^2}-(cf-e^2)\\
&=-(ac-b^2)\left(x-\frac{be-cd}{ac-b^2}\right)^2+\frac{-c(acf+2bde-ae^2-cd^2-b^2f)}{ac-b^2}\\
&=-\nu\left(x-\frac{be-cd}{\nu}\right)^2+\frac{-c\mu}{\nu}\\
&=-\frac{1}{\nu}\left(\nu x-(be-cd)\right)^2+\frac{-c\mu}{\nu}\\
&=\frac{-c\mu}{\nu}\left(1-\frac{\left(\nu x-(be-cd)\right)^2}{-c\mu}\right)
\end{align}
です。
$\Delta'$を$x$の関数とみなす場合、$\nu>0$,$-c\mu>0$に注意して式変形の5行目を見ると、$\Delta'$は上に凸で$x$軸と2点で交わる放物線であることがわかります。
ここで、$\Delta'$が$x$軸と交わる2点を$x_1,x_2\,(x_1< x_2)$とおくと、
$$x_1=\frac{be-cd-\sqrt{-c\mu}}{\nu},\quad x_2=\frac{be-cd+\sqrt{-c\mu}}{\nu}$$
となります。これを用いると$\Delta'$の符号は次のようになります。
$$\begin{cases}
\Delta'>0 & (x_1< x< x_2\,\text{のとき})\\
\Delta'=0 & (x=x_1,x_2\,\text{のとき})\\
\Delta'<0 & (x< x_1,\,x_2< x\,\text{のとき})
\end{cases}$$
$\Delta'\geq0$ならば$y=\frac{-(bx+e)\pm\sqrt{\Delta'}}{c}$は実数になるので、このとき楕円と$x$軸に直交する直線は共有点を持ちます。
$x_1< x< x_2$において$x$軸と直交する直線は楕円と2点$\left(x,\frac{-(bx+e)+\sqrt{\Delta'}}{c}\right)$,$\left(x,\frac{-(bx+e)-\sqrt{\Delta'}}{c}\right)$で交わり、$x=x_1,x_2$で$x$軸と直交する直線は楕円と1点$\left(x,\frac{-(bx+e)}{c}\right)$で接します。
楕円の面積は$x_1\leq x\leq x_2$の範囲で$\left(x,\frac{-(bx+e)+\sqrt{\Delta'}}{c}\right)$と$\left(x,\frac{-(bx+e)-\sqrt{\Delta'}}{c}\right)$を結ぶ線分の長さを積分すると求まります。
楕円の面積を$S$とすると、
\begin{align}
S&=\int_{x_1}^{x_2}\left|\frac{-(bx+e)+\sqrt{\Delta'}}{c}-\frac{-(bx+e)-\sqrt{\Delta'}}{c}\right|\,dx\\
&=\frac{2}{\lvert c\rvert}\int_{x_1}^{x_2}\sqrt{\Delta'}\,dx\\
&=\frac{2}{\lvert c\rvert}\sqrt{\frac{-c\mu}{\nu}}\int_{x_1}^{x_2}\sqrt{1-\textstyle\frac{1}{-c\mu}\left(\nu x-(be-cd)\right)^2}\,dx
\end{align}
となります。ここで
$$t=\frac{1}{\sqrt{-c\mu}}\left(\nu x-(be-cd)\right)$$
とおくと
$$t|_{x=x_1}=-1,\quad t|_{x=x_2}=1,\quad\frac{dx}{dt}=\frac{\sqrt{-c\mu}}{\nu}$$
なので、
\begin{align}
S&=\frac{2}{\lvert c\rvert}\sqrt{\frac{-c\mu}{\nu}}\int_{x_1}^{x_2}\sqrt{1-\textstyle\frac{1}{-c\mu}\left(\nu x-(be-cd)\right)^2}\,dx\\
&=\frac{2}{\lvert c\rvert}\sqrt{\frac{-c\mu}{\nu}}\int_{-1}^{1}\sqrt{1-t^2}\,\frac{\sqrt{-c\mu}}{\nu}\,dt\\
&=\frac{2\lvert\mu\rvert}{\nu^\frac{3}{2}}\int_{-1}^{1}\sqrt{1-t^2}\,dt
\end{align}
です。
この積分$I=\int_{-1}^{1}\sqrt{1-t^2}\,dt$は単位円の上半分なので$\frac{\pi}{2}$になることは明らかです。
ですが一応$I$の計算も書いておくことにすると、$t=\sin\theta$とおくことで
\begin{align}
I&=\int_{-1}^{1}\sqrt{1-t^2}\,dt\\
&=\int_{-\frac{\pi}{2}}^{\frac{\pi}{2}}\sqrt{1-\sin^2\theta}\,\cos\theta\,d\theta\\
&=\int_{-\frac{\pi}{2}}^{\frac{\pi}{2}}\cos^2\theta\,d\theta\\
&=\int_{-\frac{\pi}{2}}^{\frac{\pi}{2}}\frac{1+\cos2\theta}{2}\,d\theta\\
&=\left[\frac{\theta}{2}+\frac{\sin2\theta}{4}\right]_{-\frac{\pi}{2}}^{\frac{\pi}{2}}\\
&=\left(\frac{\frac{\pi}{2}}{2}+\frac{\sin\pi}{4}\right)-\left(\frac{-\frac{\pi}{2}}{2}+\frac{\sin(-\pi)}{4}\right)\\
&=\frac{\pi}{2}
\end{align}
となります。
よって、楕円の面積$S$は
\begin{align}
S&=\frac{2\lvert\mu\rvert}{\nu^\frac{3}{2}}\int_{-1}^{1}\sqrt{1-t^2}\,dt\\
&=\frac{2\lvert\mu\rvert}{\nu^\frac{3}{2}}\frac{\pi}{2}\\
&=\pi\,\frac{\lvert\mu\rvert}{\nu^\frac{3}{2}}
\end{align}
となって、 ii. の一般式での楕円の面積が求まりました。
$$S=\pi\,\frac{\lvert acf+2bde-ae^2-cd^2-b^2f\rvert}{(ac-b^2)^\frac{3}{2}}$$
また、i. の一般式の場合は$$a=A,\,b=\frac{B}{2},\,c=C,d=\frac{D}{2},\,e=\frac{E}{2},\,f=F$$を代入して整理すると次のようになります。
$$S=2\pi\,\frac{\lvert 4ACF+BDE-AE^2-CD^2-B^2F\rvert}{(4AC-B^2)^\frac{3}{2}}$$
「$\nu>0$かつ$a\mu>0$だと$ax^2+2bxy+cy^2+2dx+2ey+f=0$の左辺が常に正あるいは常に負となってしまって式を満たす$(x,y)$が存在せず、$\nu>0$かつ$a\mu=0$だと$ax^2+2bxy+cy^2+2dx+2ey+f=0$を満たす$(x,y)$はただ一つだけになります。」
本文中に追記でこのように書きましたが、もう少し詳しく書いておきます。
$ac-b^2>0$が成り立つとき$a\neq0$なので、$ax^2+2bxy+cy^2+2dx+2ey+f=0$の両辺に$a$をかけて
$$a(ax^2+2bxy+cy^2+2dx+2ey+f)=0$$
としても問題ありません。$ac-b^2>0$を利用してこの式を変形すると、
$$(ax+by+d)^2+\frac{1}{ac-b^2}\left((ac-b^2)y-(bd-ae)\right)^2=\frac{-a(acf+2bde-ae^2-cd^2-b^2f)}{ac-b^2}$$
とすることができます。
ここで、$ac-b^2>0$なので左辺は$0$以上になります。
①
$a\neq0$かつ$ac-b^2<0$となる場合を見てみましょう。
$$a(ax^2+2bxy+cy^2+2dx+2ey+f)=0$$
を変形すると
$$(ax+by+d)^2-\frac{1}{b^2-ac}\left((b^2-ac)y+(bd-ae)\right)^2=\frac{a(acf+2bde-ae^2-cd^2-b^2f)}{b^2-ac}$$
となりますが、$b^2-ac>0$なので左辺は因数分解できて
$$\left((ax+by+d)+\frac{1}{\sqrt{b^2-ac}}\left((b^2-ac)y+(bd-ae)\right)\right)\left((ax+by+d)-\frac{1}{\sqrt{b^2-ac}}\left((b^2-ac)y+(bd-ae)\right)\right)=\frac{a(acf+2bde-ae^2-cd^2-b^2f)}{b^2-ac}$$
となり、整理すると
$$\left(ax+\left(b+\sqrt{b^2-ac}\right)y+d+\frac{bd-ae}{\sqrt{b^2-ac}}\right)\left(ax+\left(b-\sqrt{b^2-ac}\right)y+d-\frac{bd-ae}{\sqrt{b^2-ac}}\right)=\frac{a(acf+2bde-ae^2-cd^2-b^2f)}{b^2-ac}$$
となります。
②
$a=0$の場合でも$c\neq0$ならば同様の計算が可能です。
③
$a=c=0$かつ$ac-b^2<0$となる場合は、
$$2bxy+2dx+2ey+f=0$$
を$b\neq0$に注意して変形すると
$$2b\bigg(x+\frac{e}{b}\bigg)\bigg(y+\frac{d}{b}\bigg)=\frac{2de-bf}{b}$$
となります。
①
$a\neq0$かつ$ac-b^2=0$となる場合、
$$a(ax^2+2bxy+cy^2+2dx+2ey+f)=0$$
を変形すると
$$(ax+by+d)^2=2(bd-ae)y-(af-d^2)$$
となります。
②
$a=0$の場合でも$c\neq0$ならば同様の計算が可能です。
③
$a=c=0$かつ$ac-b^2=0$となる場合、$b=0$になるので2次の項がなくなってしまいます。
$d\neq0$または$e\neq0$の場合は直線$2dx+2ey+f=0$であり、$d=e=0$の場合は図形を表しません。