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Twitterで出した問題の解説

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はじめに

この記事では, 次の問題を解説しようと思います. 高校範囲は少し超えます.


 n個の連続した座席があり, 順番に人が座ってゆきます.
ただし座る位置は, 既に座っている人の隣でない席から任意に選ぶとします.
 限界まで座ったときに座っている人数の期待値をEnとするとき,
極限値limnEnnを求めてください.

たぶん結構長くなりますが, よろしくお願いします.

漸化式を立てる

この問題は, 一人ずつ座っていく, ということですので, 漸化式が立てられそうだと考えてみます.

まずは初めの方の項を求めてみますと, E0=0, E1=1, E2=1 のようになります.

次にE3を考えてみましょう. 1人目が確率13で真ん中に座った場合は全部で1人, 1人目が確率23で端に座った場合は全部で2人, が座ることができますから, この期待値は131+232=53 となります.

ではこれをもとに, 漸化式を立てていきましょう.

n個の席があるとき, 1人目が1nの確率で左からk番目(1kn) の席に座ったとします. すると, 残りの席に座れる人数の期待値を, 前の項を使って表すことができます.

即ち, このとき, 左側の1(k2)番目の席と, 右側の(k+2)n番目の席について, 座れる人数の期待値はそれぞれEk2, Enk1 となります. ただしE1=0とします.

(これは, 左側に座る確率と右側に座る確率が独立ではないので変に思えますが, 期待値は独立でなくても加法性が成り立つので大丈夫です.)

従って, 1人目がk番目の席に座ったときの, 座れる人数の期待値は, 1人目を含めて1+Ek2+Enk1となります.

以上より, Enk1からnまで変化させたときのこれの和ですので,

En=1nk=1n(1+Ek2+Enk1)=1+1nk=1nEk2+1nk=1nEnk1=1+2nk=0n2Ek

と, 漸化式を立てることができました.

漸化式を解く



En=1+2nk=0n2Ek

この漸化式を解きたいのですが, 少し難しそうですし, 最終的な目標は極限ですので, ここでは母関数を用いて解いてみたいと思います.

ただし, 見慣れた形が良いので, an=Enとおかせてもらいます.

また, 説明のために下のように書き換えます.


k=0n2ak=n2(an1)

まず, f(x)=n=0anxn とおきます.

母関数に11xを掛けると係数が足されて,
f(x)1x=n=0(k=0nak)xn
即ち
n=2(k=0n2ak)xn=x21xf(x)
となります.

次に n=0xn=11xですので,
n=0(an1)xn=f(x)11x
です. 両辺を微分して,
n=1n(an1)xn1=f(x)1(1x)2
即ち
n=2n2(an1)xn=x2(f(x)1(1x)2)
となります.

以上の2式の各項の係数が等しいので関数として等しく,
x21xf(x)=x2(f(x)1(1x)2)
即ち
f(x)=2x1xf(x)+1(1x)2
なる微分方程式を得ました.

微分方程式を解く

では, 前節で得た微分方程式

y=2x1xy+1(1x)2

を解いていきましょう.

一般に, y,p,qxの関数として微分方程式y=py+qの解は, 置き換えとかをして工夫することで y=epdx(qepdxdx+C) となることから解くことができます.

今回は,
p=2x1x=21x2q=1(1x)2
ですので,
pdx=2log(1x)2xepdx=e2x(1x)2qepdxdx=e2xdx=e2x2
と, 奇跡的に(?)とても綺麗に解くことができ,
y=e2x(1x)2(e2x2+C)
となります.

最後にf(0)=0から,C=12とわかり,
f(x)=1e2x2(1x)2
を得ました!

極限を求める

最後に極限を求めていきましょう.

n=0anxn=1e2x2(1x)2

この右辺をTaylor展開することでanを明示することもできますが(実際にはΣが残ってしまいます), 母関数から直接極限を求めてみます.

a0=0なので,
limnann=limnk=1n(akkak1k1)=limx1 (1x)n=1annxn=limx1 (1x)0x1e2t2t(1t)2dt=1e22
と求められました! ただし最後にロピタルの定理を使いました.

おわりに

以上の長い計算から, 隣り合わせにならないように各人が順番に座っていくと, 大体 1212e2くらいの席が埋まるということが分かりました!

これは面白いですね. これ, 極限値は明らかに1213の間にあるので, 私はてっきり1eに収束するものと思ったのですが, それとは少し違う形が出てきてびっくりしました.

では, ここまで読んで下さった方, 本当にありがとうございました.

投稿日:20201121
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投稿者

東大数理M1

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