この記事では、自然数を正の整数を表す用語として用いています。
今回は、ある問題を考えているときに出てきた素数に関する予想について話したいと思います。
以下、小さいほうから数えて$i$番目の素数を$p_i$と表記します。
任意の自然数$i$に対して
$$ \frac{1}{p_i}<\frac{1}{p_{i+1}}+\frac{1}{p_{i+2}}$$
が成り立つ。
実は、この予想はベルトラン=チェビシェフの定理の十分条件になっています。今回は、その証明を眺めてみます。(誤っていたら是非ご指摘をお願いします)
さて、ベルトラン=チェビシェフの定理とは以下のような定理です。
任意の自然数$n$に対して、$n< p\leqq2n$を満たす素数$p$が存在する。
この定理自体は1845年にBertrandによって予想され(この時点で、Bertrandは$n\leqq3\times10^6$で成り立つことを確認しています)、1850年にChebychevによって証明されました。このBertrandの功績からベルトラン=チェビシェフの定理はベルトランの仮説とも呼ばれています。以下、簡単のためにベルトラン=チェビシェフの定理をBCTと略記します。
予想からこの定理を導くためには少しこの形では厳しそうなので、(見た目的に)主張を弱めたものを準備します。
任意の素数$p$に対して、$p< q<2p$を満たす素数$q$が存在する。
BCTの右側の不等号にある等号は$n=1$の時のみ成り立つので、この命題は明らかにBCTが成り立てば成り立ちます。
しかし、驚くことに次の主張が成り立ちます!
次の2つの条件は同値である。
(1)BCTが成り立つ。
(2)弱い(?)BCTが成り立つ。
(1)$\Rightarrow$(2)は明らかに成り立つので(2)$\Rightarrow$(1)を示す。
$n$が$1$や素数の時は明らかなので、合成数に対して示せばよい。
$l$を任意の合成数とする。このとき、ある自然数$i$が存在して
$$ p_i< l< p_{i+1}$$
とかける。今(2)より$p_{i+1}<2p_i$が成り立つので
$$ l< p_{i+1}<2p_i<2l\qquad(\because p_i< l)$$
とかけて、$l< p_{i+1}<2l$であるから、任意の合成数$l$に対して定理が成り立つことが言えた。
特に難しい式変形をせずに示すことができました。この結果から、BCTの自然数の部分を素数に置き換えて話を進めることができるので、予想が使えそうな形になりました。では、BCTを証明していきましょう。
一般に、$p_{i+1}< p_{i+2}$が成り立つので、
$$ \frac{1}{p_{i+1}}+\frac{1}{p_{i+2}}<\frac{2}{p_{i+1}}$$
であり、予想から
$$ \frac{1}{p_{i}}<\frac{2}{p_{i+1}}$$
となる。
分母を払うと
$$ p_{i+1}<2p_i$$
となるが、これは$p_{i+1}$が$p_i$と$2p_i$の間にあることに他ならない。
いかがでしたでしょうか。一見自明に見えるほど単純な予想でしたが、ここから比較的簡単に整数論における有名事実が導かれたので、これは驚きです。途中の命題3の結果も面白いと思います。そこで問題なのは、肝心の予想の証明が全く分からないことです(反例が存在する可能性すらあります)。どなたかこの証明(反証)を知っている方はいましたら、教えていただけると嬉しいです。
では、今回はこのあたりで終わろうと思います。