本記事の内容は、とってもゆるい議論で成り立っています。自分が極限の順序交換と一様収束の関係を理解するのに使っているイメージを伝えるのが趣旨なので、厳密さは追求していません。また、ここで使っている$\epsilon$領域という言葉は、記事を書きやすくするために作った私の造語であり、well-definedですらありません。
今回は、二変数関数$f(x,t)$の極限において、
$$
\lim_{x\to a}\lim_{t\to b}f(x,t)=\lim_{t\to b}\lim_{x\to a}f(x,t)
$$
が成り立つのはどういうときなのか、ということについてのイメージの仕方をお話ししていきます。
$$
\lim_{x\to a}f(x)=c
$$
とは、任意の$\epsilon>0$に対して
$$
x\in U(a,\delta)\Rightarrow |f(x)-c|<\epsilon
$$
を満たす$\delta$をとることができる、ということでした。これは、$x$が然るべき条件$C:x\in U$を満たせば、$\epsilon$の差を除いて$f(x)$と$c$は等しい、と捉えることができます。これを、
$$
f(x)\overset{\epsilon}{=}c
$$
と書くことにします。($U$は十分条件としてその部分集合で代用できるので、$U$の取り方は一意的ではありません。)
上の極限を取るという操作を、「$x$を$a$に限りなく近づけることで、$f(x)$を$c$に限りなく近づける」と考えるのではなく、「$x$を$U$に入れることで、$f(x)$を$c$に$\epsilon$より近づける」と考えるのです。議論の途中で$\epsilon$に条件を課すことがなければ、すなわち任意の$\epsilon>0$で成り立つことしか行わなければ、これは結局、
$$
\lim_{x\to a}f(x)=c
$$
と読み直せるので、とりあえずは「$\epsilon$の差を除いて等しい」状態で考えよう、というわけです。
今の話を、関数族$(f_t(x))_{t\in T}$に適用してみます。これは、二変数関数$f(x,t)$を考えることに同じです。以下、$x$の定義域を$X=[0,a)$、$t$の定義域を$T=[0,b)$とします。
$$
\lim_{t\to b}f(x,t)=f(x)
$$
に、上の話をとりあえず当てはめてみると、$t$が然るべき条件を満たすとき、
$f(x,t)\overset{\epsilon}{=}f(x)$となります。しかし、$t$の条件は$x$による可能性があるので、次のようにするのがよいでしょう。
$(x,t)$が然るべき条件を満たすとき、$f(x,t)\overset{\epsilon}{=}f(x)$となる。
いちいち「然るべき条件」というのは面倒なので、この条件は$xt$平面上の領域とみなせますから、それを$\epsilon$領域と呼ぶことにしましょう。$\epsilon$領域内で、$f(x,t)\overset{\epsilon}{=}f(x)$と考えるということです。
epsilon領域
$b \in \overline{ T }$に対し、
$$
\lim_{t \to b}||f-f_t||_X=0
$$
が成り立つとき、関数族$(f_t(x))_{t\in T}$は$f$に$X$上一様収束するという。
$f(x,t)$が$f(x)$に$t\to b$で一様収束するというのは、$\epsilon$領域が次の図のように、長方形に取れるというのと等しいことがわかると思います。
一様収束
反対に、$f(x,t)$が$f(x)$に$t\to b$で一様収束せず各点収束するというのは、$\epsilon$領域が次の図のように、定義域内で無限に細くなってしまうということです。
各点収束
完全に潰れてしまう点$(a,b)$は定義域の外にあることに注意してください。でないと、各点収束すらしないことになってしまいます。
わざわざこのような言い換えをしてきたのは、極限の順序交換の話をするためです。
$$
\lim_{x\to a}\lim_{t\to b}f(x,t)=\lim_{t\to b}\lim_{x\to a}f(x,t)\ ...(A)
$$
は一般に成り立つでしょうか。ただし、$\lim_{x\to a}f(x,t)=g(t)$や$\lim_{t\to b}f(x,t)=f(x)$は、少なくとも各点収束の意味で存在するとします。また、$\lim_{x\to a}f(x)=c$も存在するとします。
$\lim_{x\to a}f(x,t)=g(t)$や$\lim_{t\to b}f(x,t)=f(x)$が一様収束か否かで場合分けして考えてみましょう。
ともに一様収束ならば、2つの$\epsilon$領域、および$c$の$\epsilon$領域は次のようになっているはずです。
ともに一様収束
つまり、$g(t)$の$\epsilon$領域のなかで、$t$を$b$に近づけていけば、$c$の$\epsilon$領域に入ることができます。これは、
$$
\lim_{t\to b}g(t)=c
$$
を意味し、$(A)$が成り立つことがわかりました。ついでに、$(a,b)$の近傍で、$c$の$\epsilon$領域にすっぽり入るものが取れますから、
$$
\lim_{(x,t)\to (a,b)}f(x,t)=c\ ...(B)
$$
も成り立ちます。
一方のみ一様収束のとき、2つの$\epsilon$領域、および$c$の$\epsilon$領域は次のようになっているでしょう。
一様収束と各点収束
このときもやはり、$g(t)$の$\epsilon$領域のなかで、$t$を$b$に近づけていけば、$c$の$\epsilon$領域に入ることができます。つまり$(A)$は成り立ちますし、同様にして$(B)$も成り立ちます。
ともに一様収束でない場合、一番"ヤバイ"のは、$\epsilon$領域が次のようになっているときです。
ともに各点収束
このとき、$g(t)$の$\epsilon$領域は$c$のそれと共通部分を持たないので、$\lim_{t\to b}g(t)=c$とは限りません。よって$(A)$が成り立つとは言えません。
このように、"$\epsilon$領域"というものをイメージすると、極限の順序交換がなぜ一様収束性と関係するのか、少しはわかりやすくなるのではないかと思います。
読んでいただきありがとうございました。