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高校数学の問題-その2

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初めに

この記事では前回と同様に高校時代に作問した問題の中からそれなりに良い出来だと思ったものを一つ紹介します。(この文章は以下の紹介する問題が良問であることを一切保証しません。)
問題設定としてはありふれていそうなので、すでに解いたことがある人もいるかもしれないです。その際もし未知の問題を期待をしていたなら期待に沿えなくて申し訳ないです。
今回も問題のすぐ下に解答を書くので解きたい人は注意してください。
この記事を書くにあたって一度解きなおしましたが、私は約四時間かかりました。

問題

平面上に三つのA,B,C円があり、半径はそれぞれa,b,cである。
この三つの円は互いに他の二つの円と外接しており、この三つの円に囲まれた領域をDとする。
a+b+c=1の条件の下で領域Dの面積の最大値およびそのときのa,b,cの組(a,b,c)をすべて求めよ。
ただしa,b,cを一つ決めると上記の状態および領域Dが線対称な図形を除きただ一つに定まることは断りなしに用いてよい。

解答の前に

解答の際以下の有名な不等式と等式を使います。

イェンゼンの不等式

関数f(x)は開区間(a,b)で定義されており二回微分可能とする。このとき(a,b)で常にf(x)<0ならば、任意の自然数n2と任意のn個の0より大きく1より小さい実数λ1,,λnおよび任意のn個のaより大きくbより小さいの実数x1,,xnに対し、λ1++λn=1のもとで
λ1f(x1)++λnf(xn)f(λ1x1++λnxn)が成立する。等号成立条件はx1==xnの値がすべて等しいときである。

上の不等式は、二階導関数の符号を反転させたf(x)>0のときは不等号の向きが逆にります。また開区間に限らず一般の区間についても成立します。これらの不等式はまとめてイェンゼンの不等式と呼ばれています。下に解答に使う上記の場合についての証明の概略を載せます。詳細は参考文献[1]などを参照してください。

概略

数学的帰納法で証明する。
(i)n=2のとき、まずx1<x2のときを考える。λ1=tとおくと、仮定より0<t<1およびλ2=1tが成立する。さて、g(t)=f(tx1+(1t)x2)tf(x1)(1t)f(x2)と置く。仮定より、t=0,1のときも含めて[0,1]a<x1tx1+(1t)x2x2<bであるから、定義域を[0,1]に拡張しておく。このとき、g(t)=(x1x2)f(tx1+(1t)x2)f(x1)+f(x2)g(t)=(x1x2)2f(tx1+(1t)x2)仮定により、常にa<tx1+(1t)x2<bであるから、仮定より[0,1]で常にg(t)<0である。したがって、[0,1]g(t)は狭義単調減少である。
次に、f(x)は閉区間[x1,x2]上二回微分可能なので、平均値の定理より、f(x1)f(x2)x1x2=f(c)を満たすx1<c<x2が存在する。このとき、g(t)=(x1x2)(f(tx1+(1t)x2)f(c))であるから、f(x)<0よりf(x)の狭義単調減少性を用いると、g(0)=(x1x2)(f(x2)f(c))>0g(1)=(x1x2)(f(x1)f(c))<0により、中間値の定理から[0,1]g(t0)=0となるt0がただ一つ存在する。これにより、増減表
t0t01g++0g0+0 を得る。これより g(t)0 が得られ、λ1f(x1)+λ2f(x2)f(λ1x1+λ2x2)の成立が示された。増減表より等号成立条件はt=0,1のときである。
x1>x2のときも全く同様にして
λ1f(x1)+λ2f(x2)f(λ1x1+λ2x2)および等号成立条件t=0,1がわかる。
また、x1=x2のときは常にg(t)=0となる。 したがって、0<t<1のときの等号成立条件はx1=x2であるから、n=2のときは成立する。
(ii)n=kの仮定のもと、n=k+1のとき
y1=λ1x1++λkxkλ1++λky2=xk+1 s1=λ1++λk s2=λk+1とおくとy1,y2,s1,s2n=2のときの仮定を満たすので、s1f(y1)+s2f(y2)f(s1y1+s2y2) を得る。
ui=λis1(i=1,,k) とおくと、u1++uk=1 y1=u1x1++ukxkとなるから、帰納法の仮定より、u1f(x1)++ukf(xk)f(u1x1++ukxk)=f(y1)となり、λ1f(x1)++λk+1f(xk+1)s1(u1f(x1)++ukf(xk))+s2f(y2)s1f(u1x1++ukxk)+s2f(y2)s1f(y1)+s2f(y2)f(s1y1+s2y2)を得る。s1y1+s2y2=λ1x1++λk+1xk+1であるから、λ1f(x1)++λk+1f(xk+1)f(λ1x1++λk+1xk+1)を得る。等号成立条件は、y1=y2,x1==xkときである。これはx1==xk+1と同値なので、n=k+1のときも成立する。

タンジェントの積和公式

x+y+z=π2のとき、等式1tanxtanytanz=1tanx+1tany+1tanzが成立する。ただしtanx,tany,tanxはすべて0以外の値を持つものとする。

tanx=1tan(π2x)=1tan(y+z)=1tanytanztany+tanz
より、tanxtany+tanxtanz+tanytanz=1を得る。両辺tanxtanytanz
で割ると求める式が得られる。

以降問題の解答に入る。

解答

円の中心をPA,PB,PCとし、円B,Cの接点をD、円A,Cの接点をE、円A,Bの接点をFとする。
A,Bは点Fで接しているので、点Fを通る共通接線lを持つ。lAF,BFであり、A,Blに対して反対側にあるので、AFB=πとなる。したがってA,F,Bはこの順に一直線上にある。全く同様にB,D,CおよびC,E,Aもこの順に一直線上にあることがわかる。(ここでいう一直線上にあるとは、互いに異なる三点を通る直線が存在することを指す。平面の公理よりこれは存在すれば一意である。)
また、三角形PAPBPCに対し、PA=θA,PB=θB,PC=θCと置く。
領域Dの面積をSと置く。先ほど示した事実より、S=(三角形PAPBPCの面積)(扇形PAEFの面積+扇形PBDFの面積+扇形PCDEの面積)である。ここで、PAPB=a+b,PBPC=b+c,PCPA=c+aであるから、ヘロンの公式より、s=(b+c)+(c+a)+(a+b)2=a+b+c=1に対し、三角形PAPBPCの面積=s(s(a+b))(s(b+c))(s(c+a))=abc扇形の面積の公式より、扇形PAEEFの面積=θA2a2扇形PBDFの面積=θB2b2扇形PCDEの面積=θC2c2したがって、S=abcθA2a2θB2b2θC2c2を得る。次に、余弦定理より、(b+c)2=(a+b)2+(a+c)22(a+b)(a+c)cosθAであるから、a+b+c=1に注意して、cosθA=(a+b)2+(a+c)2(b+c)22(a+b)(a+c)=a2+(b+c)abc(1b)(1c)=a2+(1a)abc1bc+bc=abca+bc=1bca1+bcaとなる。これをbcaについて解くと、半角公式より、bca=1cosθA1+cosθA=2sin2θA22cos2θA2=tan2θA2を得る。まったく同様にして、cab=tan2θB2,abc=tan2θC2が得られる。さらに、abc=bcacababc=tan2θA2tan2θB2tan2θC2PA=θA,PB=θB,PC=θCは三角形の内角であるから、0<θA,θB,θC<π,θA+θB+θC=πであり、したがって0<θA2,θB2,θC2<π2,θA2+θB2+θC2=π2である。
これにより、tanθA2,tanθB2,tanθC2は全て正であるから
abc=tanθA2tanθB2tanθC2さらに、タンジェントの積和公式より、1abc=1tanθA2tanθB2tanθC2=1tanθA2+1tanθB2+1tanθC2であるから、0<x<π2を定義域とする関数
f(x)=1tanxxtan2x を考えると、S=abc(1abcθA2abcθB2bcaθC2cab)=abc(1tanθA2+1tanθB2+1tanθC2θA2tan2θA2θB2tan2θB2θC2tan2θC2)=abc(f(θA2)+f(θB2)+f(θC2))となる。煩雑なので計算は省略するが、f(x)=2xcos2x+x3cosxsinxsin4xであり、g(x)=2xcos2x+x3cosxsinx=2x+xcos(2x)32sin(2x)と置くと、0<2x<πよりsin(2x)>0に注意して、g(x)=22cos(2x)2xsin(2x)g(x)>022cos(2x)2xsin(2x)>01cos(2x)sin(2x)>xtanx>xとなる。0<x<π2のときtanx>xであったから、0<x<π2の範囲で常にg(x)>0であり、g(x)0<x<π2の範囲で単調増加となる。x+0のとき、g(x)0であるから、g(x)0<x<π2のとき常に正であり、これによりf(x)0<x<π2のとき常に負である。したがって、0<θA2,θB2,θC2<π2であるから、イェンゼンの不等式より、n=3,λ1=λ2=λ3=13,x1=θA2,x2=θB2,x3=θC2として不等式
13f(θA2)+13f(θB2)+13f(θC2)f(θA+θB+θC6)=f(π6)=3π2を得る。また、a+b+c=1およびa,b,c>0より、相加相乗平均の不等式から、abc(a+b+c3)3=127を得る。この二つの不等式から、S1273(3π2)=39π18となり、等号成立条件は、a=b=cかつθA=θB=θCである。これよりa=b=c=13は仮定a+b+c=1および等号成立条件をを満たす唯一の組(a,b,c)であることがわかる。以上をまとめると、領域Dの面積は最大値39π18をとり、そのときのa,b,cの組は(a,b,c)=(13,13,13)である。

補足

領域Dの一意性は、二つの状態に対し、三角形PAPBPCPAPBPCは三つの辺がそれぞれ等しいので合同であり、対応する合同変換TをとるとTにより二つの状態が重なることと合同変換の計量不変性から示せます。細かいことは長くなるので書きません。

参考文献

[1] 受験の月 凸不等式② イェンゼンの不等式、n変数の相加平均と相乗平均の関係の証明

[2] 高校数学の美しい物語 タンジェントの美しい関係式

投稿日:20201123
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