初めに
この記事では前回と同様に高校時代に作問した問題の中からそれなりに良い出来だと思ったものを一つ紹介します。(この文章は以下の紹介する問題が良問であることを一切保証しません。)
問題設定としてはありふれていそうなので、すでに解いたことがある人もいるかもしれないです。その際もし未知の問題を期待をしていたなら期待に沿えなくて申し訳ないです。
今回も問題のすぐ下に解答を書くので解きたい人は注意してください。
この記事を書くにあたって一度解きなおしましたが、私は約四時間かかりました。
問題
平面上に三つの円があり、半径はそれぞれである。
この三つの円は互いに他の二つの円と外接しており、この三つの円に囲まれた領域をとする。
の条件の下で領域の面積の最大値およびそのときのの組をすべて求めよ。
ただしを一つ決めると上記の状態および領域が線対称な図形を除きただ一つに定まることは断りなしに用いてよい。
解答の前に
解答の際以下の有名な不等式と等式を使います。
イェンゼンの不等式
関数は開区間で定義されており二回微分可能とする。このときで常にならば、任意の自然数と任意の個のより大きくより小さい実数および任意の個のより大きくより小さいの実数に対し、のもとで
が成立する。等号成立条件はの値がすべて等しいときである。
上の不等式は、二階導関数の符号を反転させたのときは不等号の向きが逆にります。また開区間に限らず一般の区間についても成立します。これらの不等式はまとめてイェンゼンの不等式と呼ばれています。下に解答に使う上記の場合についての証明の概略を載せます。詳細は参考文献[1]などを参照してください。
概略
数学的帰納法で証明する。
(i)のとき、まずのときを考える。とおくと、仮定よりおよびが成立する。さて、と置く。仮定より、のときも含めて上であるから、定義域をに拡張しておく。このとき、仮定により、常にであるから、仮定よりで常にである。したがって、上は狭義単調減少である。
次に、は閉区間上二回微分可能なので、平均値の定理より、を満たすが存在する。このとき、であるから、よりの狭義単調減少性を用いると、により、中間値の定理からでとなるがただ一つ存在する。これにより、増減表
を得る。これより が得られ、の成立が示された。増減表より等号成立条件はのときである。
のときも全く同様にして
および等号成立条件がわかる。
また、のときは常にとなる。 したがって、のときの等号成立条件はであるから、のときは成立する。
(ii)の仮定のもと、のとき
とおくとはのときの仮定を満たすので、 を得る。
とおくと、 となるから、帰納法の仮定より、となり、を得る。であるから、を得る。等号成立条件は、ときである。これはと同値なので、のときも成立する。
タンジェントの積和公式
のとき、等式が成立する。ただしはすべて以外の値を持つものとする。
以降問題の解答に入る。
解答
円の中心をとし、円の接点を、円の接点を、円の接点をとする。
円は点で接しているので、点を通る共通接線を持つ。であり、はに対して反対側にあるので、となる。したがってはこの順に一直線上にある。全く同様におよびもこの順に一直線上にあることがわかる。(ここでいう一直線上にあるとは、互いに異なる三点を通る直線が存在することを指す。平面の公理よりこれは存在すれば一意である。)
また、三角形に対し、と置く。
領域の面積をと置く。先ほど示した事実より、である。ここで、であるから、ヘロンの公式より、に対し、扇形の面積の公式より、したがって、を得る。次に、余弦定理より、であるから、に注意して、となる。これをについて解くと、半角公式より、を得る。まったく同様にして、が得られる。さらに、は三角形の内角であるから、であり、したがってである。
これにより、は全て正であるから
さらに、タンジェントの積和公式より、であるから、を定義域とする関数
を考えると、となる。煩雑なので計算は省略するが、であり、と置くと、よりに注意して、となる。のときであったから、の範囲で常にであり、はの範囲で単調増加となる。のとき、であるから、はのとき常に正であり、これによりはのとき常に負である。したがって、であるから、イェンゼンの不等式より、として不等式
を得る。また、およびより、相加相乗平均の不等式から、を得る。この二つの不等式から、となり、等号成立条件は、かつである。これよりは仮定および等号成立条件をを満たす唯一の組であることがわかる。以上をまとめると、領域の面積は最大値をとり、そのときのの組はである。
補足
領域の一意性は、二つの状態に対し、三角形とは三つの辺がそれぞれ等しいので合同であり、対応する合同変換をとるとにより二つの状態が重なることと合同変換の計量不変性から示せます。細かいことは長くなるので書きません。
参考文献
[1]
受験の月 凸不等式② イェンゼンの不等式、n変数の相加平均と相乗平均の関係の証明
[2]
高校数学の美しい物語 タンジェントの美しい関係式