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全正値正方行列の固有値は全て正で重複が無いらしい

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記事を書いた背景

記事の結論

全正値正方行列の固有値はいずれも正値で、重複が無い。

定義

全正値行列

全ての小行列式が正の実数であるような行列を全正値行列(totally positive matrix)という。

正定値行列(positive semidefinite matrix)とは異なる概念である。
全正値行列が対称行列なら正定値対称行列である。

表記

$n, p$を整数であって$1 \le p \le n$を満たすものとするとき、
\begin{align} I_p := \{\textbf{i} = (i_1, \ldots, i_p): 1 \le i_1 < \ldots < i_p \le n\} \subset \mathbb{Z}^p \end{align}
と定める。
$A = (a_{ij})_{i,j=1}^n \in \mathbb{R}^{n \times n}$$n \times n$行列としたとき、$\textbf{i}, \textbf{j} \in I_p$について、
\begin{align} A_{[p]}(\textbf{i}, \textbf{j}):= A\binom{i_1, \ldots, i_p}{j_1, \ldots, j_p} = \det(a_{i_k, j_l})_{k,l=1}^p \in \mathbb{R} \end{align}
と定める。
$A$ $p$th compound matrix  $A_{[p]}$$\binom{n}{p} \times \binom{n}{p}$行列であって、成分が$A_{[p]}(\textbf{i}, \textbf{j})$であるものとする。($I_p$には辞書式順序を入れる)

compound matrixによって、正方行列$A$が全正値行列であることは、任意の$p \in \{1, \ldots, n\}$について$A_{[p]}$が正行列(全ての成分が正)であることと言い換えられる。

補題

$n \times n$行列$B, C, D$$B=CD$を満たすとき、任意の$p \in \{1, \ldots, n\}$について$B_{[p]} = C_{[p]}D_{[p]}$が成り立つ。

Binet-Cauchyの公式そのままです。
日本語の記事が複数あります( Wikipedia 高校数学の美しい物語 )。

補題2

$A \in \mathbb{C}^{n \times n}$$n \times n$行列としその固有値を重複も考慮して$\lambda_1, \ldots, \lambda_n$とおく。
このとき$p \in \{1, \ldots, n\}$について$A_{[p]}$$\binom{n}{p}$個の固有値は$1 \le i_1 < \ldots < i_p \le n$によって$\lambda_{i_1}\cdots\lambda_{i_p}$と書けるもので尽くされる。

$A$はある正則行列$P$と上三角行列$T$によって$A = P^{-1}TP$と表せる。
ここで$T$の対角成分には$A$の固有値が並んでいる。補題2を用いれば
\begin{align} A_{[p]} = (P^{-1})_{[p]}T_{[p]}P_{[p]} = (P_{[p]})^{-1}T_{[p]}P_{[p]}. \end{align}
上三角行列のcompound matrixもまた上三角行列となること、対角成分は$T$$p$個の異なる対角成分の積で表せることがわかるので良い。

Perron–Frobenius theorem

$A \in \mathbb{R}^{n \times n}$を正行列とし$\rho(A) \ge 0$を固有値の絶対値の最大(スペクトル半径)とする。このとき、

  1. $\rho(A)$$A$の重複度1の固有値である(Frobenius根)
  2. $\rho(A)$の固有ベクトルとして全ての成分が正のベクトルが取れる。
  3. $\lambda \in \mathbb{C}$$A$$\rho(A)$ではない固有値としたとき$|\lambda| < \rho(A)$.

有名です。日本語の記事が複数あります( これ これ など)。

定理の証明

$A$$n \times n$全正値正方行列とする。
$A$の固有値を絶対値を$|\lambda_1| \ge \ldots \ge |\lambda_n| \ge 0$となるように並び替える。
$p = \{1, \ldots, n\}$についての帰納法で示せばよい。
まず$A_{[1]} = A$は正行列であるため、補題3より$\lambda_1 > \max\{0, |\lambda_2|\}$である。
次に$\lambda_1 > \ldots > \lambda_{p-1} > \max\{0, |\lambda_{p}|\}$ $(p < n)$を仮定すると、$A_{[p]}$について補題2の系および補題3を用いることで、$\lambda_1 \cdots \lambda_p$$A_{[p]}$のFrobenius根であることがわかり、$\lambda_1 \cdots \lambda_p > \max\{0 ,|\lambda_1 \cdots \lambda_{p-1}\lambda_{p+1}|\}$、つまり$\lambda_{p} > \max\{0, |\lambda_{p+1}|\}$が導かれる。
最後に$\det A > 0$であることを思い出せば、$\lambda_1 > \ldots > \lambda_n > 0$となり証明が終了する。

終わりに

本の本筋と関係があるのかどうかは読み進めていないためわからない。

参考文献

Pinkus, Allan. "Spectral properties of totally positive kernels and matrices." Total positivity and its applications (1996): 477-511.

投稿日:625
更新日:625
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