$$$$
ここでは科学大数学系の修士課程の院試の2024午前02の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。
2024午前02
$n$を正の自然数とし、$M_n(\mathbb{R})$を実成分$n\times n$行列全体の為す$\mathbb{R}$線型空間とする。
- 任意の$\mathbb{R}$線型写像$f:M_n(\mathbb{R})\to\mathbb{R}$は、ある$A\in M_n(\mathbb{R})$を用いて$f(X)=\mathrm{Tr}(AX)$と書けることを示しなさい。
- 任意の$A,B\in M_n(\mathbb{R})$に対して$g(AB)=g(BA)$になるような線型写像$g:M_n(\mathbb{R})\to\mathbb{R}$を全て求めなさい。
- $M_n$の部分集合
$$
\{AB-BA|A,B\in M_n(\mathbb{R})\}
$$
で生成される部分線型空間を$V$とする。$\dim_\mathbb{R}V$を計算しなさい。
- まず$(i,j)$成分が$1$、それ以外が$0$の行列を$A_{i,j}$とし、
$$
a_{ij}=f(A_{i,j})
$$
とおく。ここで行列$A$を$A=(a_{ji})_{i,j}$、つまり$(i,j)$成分が$a_{ji}$であるような行列とおくと、$f(X)=\mathrm{Tr}(AX)$が満たされている。 - $g$が行列$S$を用いて$g(X)=\mathrm{Tr}(SX)$と表されたとする。このとき任意の行列$A,B$に対して
$$
\mathrm{Tr}(SAB)=\mathrm{Tr}(SBA)
$$
を満たす必要がある。これが満たされるのは$S$がスカラー行列のときだけである。よって求める線型写像は
$$
g_a(X)={\color{red}a\mathrm{Tr}(X)}
$$
で尽くされている(但し$a$は実数全体を走る)。 - 線型写像$g_1:M_n(\mathbb{R})\to\mathbb{R}$をとる。このとき
$$
\dim_\mathbb{R}\mathrm{Ker}g_1=n^2-1
$$
であり、$V$はこの空間に含まれるから$\dim_\mathbb{R}\leq n^2-1$である。一方相異なる$i,j$に対して、$k\neq i,j$なる$k$を取れば
$$
A_{i,j}=A_{i,k}A_{k,j}-A_{k,j}A_{i,k}
$$
であり、また
$$
A_{i,i}-A_{i+1,i+1}=A_{i,i+1}A_{i+1,i}-A_{i+1,i}A_{i,i+1}
$$
であるから、$V$は対角成分が$0$の行列たち・対角成分の和が$0$の行列たち全てを含むから$\dim_{\mathbb{R}}V\geq n^2-1$である。以上から$\dim_\mathbb{R}V={\color{red}n^2-1}$である。