はじめに
こんにちはQooです.大学で数学を学んでいます.
今回は1年ほど前に数学とは直接関係の無い内容のTwitterスペースで話題に挙がっていた問題を解いてみたら面白かったので,それについて書きたいと思います.
記事のレベルとしては群の準同型定理ぐらいまで知っている人を想定して書きました(上に書いたような経緯からできるだけ前提知識なしで読めるようにしたかったため).
群の作用が出てきますが,この記事で使う事柄は
群の作用について
のところにまとめてあります(ほとんどが定義です).
なるべく多くの人が読める記事にするために丁寧な記述を心がけました.
間違いなど見つけたら優しく教えてもらえると有難いです.
この記事で考えたい問題
この記事では次の問題を解きたいと思います.
を正の整数とする.正角形(の時は1点,の時は線分とする)が一つ与えられ,その頂点を以下の条件を満たすように向き付きの辺で結ぶ.
(条件) 正角形の各頂点について.
このとき条件を満たすような図形は何通りあるか?ただし回転によって重なるものは同一視する.
ここでは頂点を始点とする辺の個数,は頂点を終点とする辺の個数を表します.
この問題ではループ(始点と終点が同じである辺)を許しています.
この記事の目標は以下の式を示すことです.
mondaiの状況で条件を満たすような図形の総数をとするとは次の式で表される.
ただしはオイラーのトーシェント関数.
例
ここではmondaiで考える図形についてのいくつかの例を挙げておきます.
条件を満たす図形の例
のときの例を以下に示します.
の例
の例
条件を満たさない図形の例
次に示す図形はどれも条件を満たしません.
条件を満たさない例
回転によって重なる図形の例
次に示す図形は横に並んでいるものは回転によって重なるので同一視します.
回転で重なる例
回転で重ならない図形の例
次に示す図形はどの二つも回転で重ならないので同一視されません.
回転で重ならない例
mondaiの条件を満たす図形一つに対して辺の向きを無くしたときに同じ形になる図形がいくつあるかはその図形が含む頂点数3以上のサイクルの数やその図形の対称性によって変わります.例えば上の例だと辺の向きがある図形と辺の向きを無くした図形が3対1に対応していますが,2つのサイクルから成る図形で"対称性の低いもの"は4対1に対応します.
準備とこの記事で使う記号
mondaiを解くための準備としてこの記事で使う範囲の事柄をまとめておきます.知っている人は適宜読み飛ばしてください.
記号のまとめ
この記事で使う記号のまとめ
- で正の整数全体の集合を,で整数全体の集合を表します.
- 正の整数に対してで次対称群を表します.
- 特に断らなければは上の全単射全体の成す群とみなし,同値類を単にと書きます.
- 群に対してでの自己同型全体の成す群を,での内部自己同型全体の成す群を表します.
- 集合に対して上の全単射全体の成す群をと書きます.
- 全体集合とその部分集合に対してと書きます.
- をオイラーのトーシェント関数とします.つまり,任意の正の整数に対してでと互いに素である以下の正の整数の個数を表します.
- 数列に対してはをの正の約数すべてについて渡って和を取ることを表します.
次の定理は参照できると便利なのでここで紹介しておきます.
を集合とし,全射が与えられているとする.このとき上の二項関係を
によって定めるとは同値関係であり,を自然な全射とすればを満たす全単射がただ一つ存在する.
は各の一点の逆像を集めた集合です.こう考えるとsyousyazouは当たり前に思えるかもしれません.
が同値関係であることは省略.
まずを満たすが一意に存在することを示します.に対してと書きます.このときとしてありうるのは
のみです.これが well-defined であることを見ればよいです.
とすると定義からなので上のは well-defined です.
は作り方から明らかにを満たし,さらには全射なのでも全射です.
次に単射性を示します.とするとなのでの定義から,つまりです.
オイラーのトーシェント関数の性質
ここではオイラーのトーシェント関数についてこの記事で使う性質をまとめておきます.
まず次の式を示します.
の計算方法
が(は相異なる素因数) と素因数分解されているとすると
包除原理を使います.
と互いに素の倍数でないの倍数でない
に注意します.とすると
2行目の等号はド・モルガンの法則から,4行目の等号はが相異なる素数であることから従います.
このような性質を持つ自然数からの0でない関数を乗法的関数と呼びます.
がそれぞれと素因数分解されているとします.とは互いに素なのでは互いに異なる素数でありはと素因数分解されます.よってphikousikiより
最後に次の性質を示します.
まずが素数冪の場合,つまり素数と非負整数があってと書ける場合について証明します.このとき
よりphinowaは成り立ちます.
次にとおいてが乗法的であることを示します.これが示されれば,素数冪の場合の結果からphinowaがわかります.を互いに素な自然数とします.phihazyouhoutekiより
です.の取り方からです.逆にをの正の約数とするとがの正の約数との正の約数の積として一意的に書けることを示しましょう.
とします.定め方からであり,はの正の約数なのでは自然数です.定め方からはの約数であり,とがの約数であることからはの約数であり,さらにはとの最大公約数であることからとは互いに素なのではの約数になります.
の正の約数との正の約数があってと書けたと仮定します.と,とは互いに素なのではの倍数であり,逆にはの倍数であるのでがわかり,これから直ちにも従います.
従ってとが互いに素なら
となりは乗法的関数です.以上よりphinowaが示されました.
ちなみに,メビウス関数を知っていればphikousikiの右辺を展開すると
であることがわかるので,メビウスの反転公式からphinowaの式が成立することがわかります.
群の作用について
群の作用についてこの記事で使う範囲の事柄をまとめておきます.
群の作用
群と集合について,写像
が与えられて,次の二つの条件を満たすとき,群は集合に(左から)作用するという.
このとき,をの変換群,を集合(または空間)という.
群の集合への作用を考えることは,から集合上の全単射全体から成る群への準同型を一つ与えることと同等です.
群の作用が与えられるとその作用について以下のように軌道や商が定義されます.
軌道
群が集合に作用しているとき,に対して
をの軌道という.を単にとも書く.
商
群が集合に作用しているとする.このとき上の二項関係を
によって定めるとは上の同値関係を定める.
同値関係による商集合を単にと書き,集合のによる商という.
要するには軌道全体から成る集合です.
固定化部分群
群が集合に作用しているとき,に対して
をの固定化部分群という.
この記事ではの部分群に対して
と約束します.
はの部分群になります.実際よりであり,ならよりならよりです.
不変部分集合
群が集合に作用しているとする.の任意の部分群に対して
をの-不変部分集合と呼ぶ.
特にが群で,群の集合への作用が準同型 によって与えられるとき,の任意の部分群に対して-不変部分集合はの部分群になります.
実際,をの単位元とすると任意のに対してとなるのでは空集合ではありません.さらにとすると任意のに対してよりであるのではの部分群になります.
固定化部分群と軌道の関係
群が集合に作用しているとする.について全単射
が存在する.特にが有限群のときはラグランジュの定理より
が成り立つ.
本編
問題の言いかえ
mondaiを群の作用の言葉で言いかえていきます.
正角形の頂点にとこの順に反時計回りに並ぶように名前を付けておきます.mondaiの条件を満たす辺のおき方を考えると,任意のに対してを始点とする辺と終点とする辺が一つずつ存在するので,各辺の始点に対して終点を対応させることによりの元が一つ定まります.
逆にに対してを始点としてを終点とする辺を全て置くことで条件を満たす図形が一つ定まります.
これらの対応は互いに逆の対応になっているので,以降この対応によってmondaiの条件を満たす図形全体(回転によって重なるものを同一視しない)とを同一視します.
この同一視の下,回転によって重なることは以下のように書くことができます.
上の状況でに対応する図形が回転によって重なることは次と同値
これはとすると
と言いかえることができます.
を満たすように頂点の添え字を整数の範囲まで広げておきます.
が表す図形で頂点から出た辺は頂点に入ります.この図形をだけ回転させて重なる図形がで表されるとすると頂点から出た辺はに入ることになります.
これがで書けることはは各元の行先を見ればわかります.
kaiteniikaeを踏まえるとmondaiは次のように言いかえられます.
次巡回群の次対称群への作用を次のように定める.
この作用による軌道の個数はいくつか?
の位数がであることからmondaiiikaeのは well-defined なことがわかります.
まず次の補題を示します.
有限巡回群が有限集合に作用していればこれと同様の式が成り立ちます.
巡回群の部分群はの正の約数を用いてと書けるもので尽くされます.よって
であり,staborbitよりなら
なので
また定義より任意のの部分群に対して次が成り立ちます.
従って
これらから次のように計算できます.
1行目から2行目への変形はphinowaによります.
あとはを計算すればkotaeの証明が完了します.
のへの作用がからへの準同型によって与えられていることから,の任意の正の約数についてはの部分群になります.を固定します.
を自然な射影とします.
任意にを取ります.まず全射について
であることを示します.一つ目のは定義より明らかです.より
なので二つ目ののはすぐわかります.さらにでもあることからもわかります.
これとsyousyazouから以下の図式を可換にする全単射つまりを満たす全単射が一意に存在することがわかります.
この対応は定め方から群準同型です(以下の図式を参照).
またを
によって定めることができて,であるのでは全射です.
であり,の元はの個の行先を定めれば決まることに注意すると,写像
は単射です.逆に任意のに対してによっての元が一つ定まるのでこの写像は全単射であることがわかります.従って
がわかります.準同型定理より
です.これとwanokakikaeより
以上よりkotaeが示されました.
この式の右辺はの項が支配的で
がわかります.これはほとんどの図形は回転についての対称性がないという直感とも合っています.
あまりちゃんとした言い方ではないですが,同じくらいのに対してはの値はの約数が多いほど,が小さい約数を多く持つほど大きくなります.これは,より小さい角度の回転で自身と重なるような対称性の高い図形が多いからといえます.実際にを計算すると以下のようになります.(での値は間違っている可能性があります.)
| | | | | | | | | | |
1 | 0 | | 6 | 16 | | 11 | 10 | | 16 | 645928 |
2 | 1 | | 7 | 6 | | 12 | 4244 | | 17 | 16 |
3 | 2 | | 8 | 60 | | 13 | 12 | | 18 | (10380444) |
4 | 4 | | 9 | 42 | | 14 | 46128 | | 19 | 18 |
5 | 4 | | 10 | 408 | | 15 | 4096 | | 20 | (185809896) |
今後の展望
mondaiを発展させた問として
- 裏返し(鏡映)によって重なる図形も同一視する
- 辺の向きを無くす
- 上二つの組み合わせ
が考えられると思います.
(1)では正二面体群による作用を考えればこの記事と同じように商の大きさを計算することに帰着されます.この作用はへの準同型で与えられます.
(2)は巡回群が作用する集合の方が変わります.まだちゃんと計算はしてないですが概ねこの記事と同じようにできると思います.ただ,作用する先の集合が群じゃないのでこの記事ほどきれいな議論にはならないと思います.
解けたらこれらについても書きたいと思います.
おわりに
群は対称性を記述しているとよく言われますが,この記事の例ではが回転を表しているのが見て取れますね.群の作用を考えることで「回転による違いを無視する」というのを代数の言葉で表すことができました.
この記事で扱った作用は集合の持つ代数的な構造(群構造)と整合性のある作用だったおかげで各部分群の不変集合がその構造を保ってくれて議論がすっきりしました.
いつか書こうと思って1年放置していた話をいざ書き始めたら当初の想定よりも大分長くなってしまいました.こうして大学で習ったことを使った計算ができると楽しいですね.
最後まで読んでいただいてありがとうございました.