ここでは東大数理の修士課程の院試の2025B04の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。
体$K$を
$$
K=\mathbb{Q}\left(\sqrt{2+\sqrt{2}},\sqrt{3+\sqrt{3}}\right)
$$
とする。次の問いに解答しなさい。
(1) $K/\mathbb{Q}$はガロア拡大であることを示し、拡大次数$[K:\mathbb{Q}]$を計算しなさい。
(2) $K/\mathbb{Q}$の中間体で、$\mathbb{Q}$上$4$次であるものを全て挙げなさい。但し列挙するに当たっては$K$の元$\alpha$を用いて$\mathbb{Q}(\alpha)$の形で書くこと。
(3) $K/\mathbb{Q}$の中間体$M_1,M_2$で、いずれも$\mathbb{Q}$上$8$次の非可換ガロア拡大であり、かつ$\mathrm{Gal}(M_1/\mathbb{Q})$と$\mathrm{Gal}(M_2/\mathbb{Q})$が群同型でないようなものの例を挙げなさい。
以下の答案では、基礎体を明言せずに「ガロア拡大」「ガロアである」などいった場合、全て$\mathbb{Q}$上ガロアであることを指すものとする。
(1) まず$\sqrt{2},\sqrt{3},\sqrt{6}\in K$であるから
$$
\sqrt{2-\sqrt{2}}=\frac{\sqrt{2}}{\sqrt{2+\sqrt{2}}}\in K
$$
$$
\sqrt{3-\sqrt{3}}=\frac{\sqrt{6}}{\sqrt{3+\sqrt{3}}}\in K
$$
が従う。よって$K$は$\mathbb{Q}$係数多項式
$$
((X^2-2)^2-2)((X^2-3)^2-3)
$$
の最小分解体なので、ガロアである。次に$S=\mathbb{Q}(\sqrt{2+\sqrt{2}})$及び$T=\mathbb{Q}(\sqrt{3+\sqrt{3}})$とおく。まず$S$は$\mathbb{Q}$上$4$次巡回拡大でその非自明は中間体は$\mathbb{Q}(\sqrt{2})$であるのに対し、$T$はガロアでない。実際$T$がガロアだとすると、$\sqrt{3-\sqrt{3}},\sqrt{6}\in T$になるが、このとき$\mathrm{Gal}(T/\mathbb{Q}(\sqrt{3}))$の$T$への作用が$\sqrt{6}$ないし$\sqrt{3-\sqrt{3}}$を固定し矛盾する。またこの議論から$\sqrt{2}\notin T$もわかる。以上から$S\cap T=\mathbb{Q}$が従う。よって
$$
[K:\mathbb{Q}]=[S:\mathbb{Q}][T:\mathbb{Q}]={\color{red}16}
$$
である。
(2) $G=\mathrm{Gal}(K/\mathbb{Q})$は
$$
\sigma_{a,b,c,d}\left(\sqrt{2+\sqrt{2}}\right)=(-1)^a\sqrt{2+(-1)^b\sqrt{2}}
$$
$$
\sigma_{a,b,c,d}\left(\sqrt{2-\sqrt{2}}\right)=(-1)^{a+b}\sqrt{2-(-1)^b\sqrt{2}}
$$
$$
\sigma_{a,b,c,d}\left(\sqrt{3+\sqrt{3}}\right)=(-1)^c\sqrt{3+(-1)^d\sqrt{3}}
$$
$$
\sigma_{a,b,c,d}\left(\sqrt{3-\sqrt{3}}\right)=(-1)^{b+c+d}\sqrt{3-(-1)^d\sqrt{3}}
$$
で定義される$\sigma_{a,b,c,d}$全体の集合で書ける。$G=\mathrm{Gal}(K/\mathbb{Q})$の部分群
$$
H=\{\sigma_{a,b,0,0}\}\simeq\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}
$$
$$
N=\{\sigma_{0,0,c,d}\}\simeq\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}
$$
をとる。まず$H\cap N=\{\mathrm{id}_K\}$である。また$N$はガロア拡大$S$の固定部分群なので、$N\triangleleft G$である。また$|N||H|=|G|$であることと$K/\mathbb{Q}$がガロアでない中間体を持つことを考慮すれば、$G$は非自明な半直積
$$
\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}\rtimes \mathbb{Z}/4\mathbb{Z}
$$
である。$N$の生成元を$x$、$H$の生成元を$y$を適切にとると、$G$は表示
$$
G=\langle x,y|x^4=y^4=1, yxy^{-1}=x^{-1}\rangle
$$
を持つ。この元の位数は全て$4$の約数であり、位数$2$の元は$x^2,y^2,x^2y^2$である。以上から位数$4$の部分群の個数は
$$
1+\frac{12}{2}=7
$$
である。よって列挙に当たっては、互いに一致しない$K/\mathbb{Q}$の$4$次拡大を$7$個あげれば良い。ここで
$$
K_1=\mathbb{Q}(\sqrt{2},\sqrt{3})={\color{red}\mathbb{Q}(\sqrt{2}+\sqrt{3})}
$$
$$
K_2={\color{red}\mathbb{Q}\left(\sqrt{2+\sqrt{2}}\right)}
$$
$$
K_3={\color{red}\mathbb{Q}\left(\sqrt{3+\sqrt{3}}\right)}
$$
$$
K_4={\color{red}\mathbb{Q}\left(\sqrt{3-\sqrt{3}}\right)}
$$
$$
K_5={\color{red}\mathbb{Q}\left(\sqrt{3+\sqrt{3}}+\sqrt{3-\sqrt{3}}\right)}
$$
$$
K_6={\color{red}\mathbb{Q}\left(\sqrt{3+\sqrt{3}}-\sqrt{3-\sqrt{3}}\right)}
$$
$$
K_7={\color{red}\mathbb{Q}\left(\sqrt{12+6\sqrt{2}}\right)}
$$
とおく。これらは全て$\mathbb{Q}$上$4$次拡大である。まず次のことがわかる。
(a) $K_2,K_7$は$\mathbb{Q}$上巡回拡大
(b) $K_1$は$\mathbb{Q}$上非巡回アーベル拡大
(c) $K_3$は$\sigma_{0,1,0,0}$で固定される一方、$K_4$は固定されない。特に$K_3\neq K_4$。またここから相異なる$i,j\in \{3,4,5,6\}$に対して$K_i\neq K_j$が従う。
(d) $K_3$から$K_4$へ、$K_5$から$K_6$への同型が存在する。特に$K_3,K_4,K_5,K_6$はガロアではない。
(e) $K_2$は$\sigma_{0,0,0,1}$で固定される一方、$K_7$は固定されない。特に$K_2\neq K_7$
以上から$K_i$たちは互いに一致しないことがわかる。よって$K/\mathbb{Q}$の$4$次部分拡大は以上の$K_1,\cdots,K_7$で尽くされている。
(3) (2)で挙げた群$G$の位数$2$の部分群$\langle x^2\rangle$及び$\langle y^2\rangle$及び$\langle x^2y^2 \rangle$はいずれも正規部分群であり、よってこれらの部分群による剰余群が考えられる。これらの剰余群は$G$の表示に$x^2=1$または$y^2=1$または$x^2y^2=1$を条件に課して得られる群であり、これらをそれぞれ$G_3,G_1,G_2$とする。このとき
$$
G_3=\langle x,y|x^2=y^4=1, yx=xy\rangle
$$
$$
G_1=\langle x,y|x^4=y^2=1, yxy=x^{-1}\rangle
$$
$$
G_2=\langle x,y|x^4=y^4=1,yxy^{-1}=x^{-1},x^2=y^2\rangle
$$
である。ここで$G_3$はアーベル群、$G_1$は二面体群$D_8$である。一方四元数群
$$
Q_8=\langle i,j,k|i^2=j^2=k^2=ijk\rangle
$$
を取ったとき、
$$
\begin{split}
Q_8&\to G_2\\
i&\mapsto y\\
j&\mapsto x\\
k&\mapsto yx
\end{split}
$$
は位数の同じ群の間の全射準同型を定めているから同型であり、よって$G_3$は四元数群$Q_8$に等しい。以上から $M_1=K^{\langle y^2\rangle}$及び$M_2=K^{\langle x^2y^2\rangle}$とすれば、これが所望の条件を満たしている。このとき$M_1$及び$M_2$を求めるには、それぞれ$\langle y^2\rangle$及び$\langle x^2y^2\rangle$で不変な$8$次拡大を取れば良いから
$$
M_1={\color{red}\mathbb{Q}\left(\sqrt{2},\sqrt{3+\sqrt{3}}\right)}
$$
$$
M_2={\color{red}\mathbb{Q}\left(\sqrt{2},\sqrt{(2+\sqrt{2})(3+\sqrt{3})}\right)}
$$
になることがわかる。