2
大学数学基礎解説
文献あり

正の偶数に対するゼータ値ζ(2n)を有理型関数の部分分数展開を用いて求める方法

487
1
$$$$

この記事では、$\mathbb{C}$上の有理型関数の部分分数展開を考えることで、正の偶数に対するゼータ値の公式を求める方法を説明します。

正の偶数に対するゼータ値

任意の正の偶数$2n$に対し、
$$\zeta(2n)=\frac{(-1)^{n+1}(2\pi )^{2n}B_{2n}}{2(2n)!}$$
が成り立つ。
ただし、$B_{n}$$n$番目のベルヌーイ数とし、$\frac{z}{e^z-1}= \sum_{n=0}^{\infty}\frac{B_n}{n!}z^n$で定義される。

この定理を示すために、$\mathbb{C}$上の有理型関数$\pi \cot \pi z$の部分分数展開を示します。

$\pi \cot \pi z$の部分分数展開

$\mathbb{C}$上の有理型関数として、$$ \pi \cot \pi z=\frac{1}{z}+\sum_{n\in \mathbb{Z}\setminus \lbrace 0 \rbrace}(\frac{1}{z-n}+\frac{1}{n})$$
が成り立つ。

有理型関数とは、極の集合が離散集合であり、定義域から極を除いた領域上で正則関数であるような関数のことです。恒等的に$\infty$でないようなリーマン球面値正則関数であるということもできます。有理型関数は、有理関数の一般化です。

有理関数$R(z)$に対しては、その有限個の極を$b_1,\cdots ,b_n$とすれば、定数項を持たない多項式$P_j(z)$を用いて$b_j$の主要部は$P_j(1/(z-b_j))$と書け、さらに多項式関数$g(z)$を用いて、$R(z)=\sum^{n}_{j=1}P_j(1/(z-b_j))+g(z)$と部分分数展開できますね。(check!)

このことを一般化して、$\mathbb{C}$上の有理型関数$f(z)$を考えます。すると、$f$の極は有限個とは限らなくなります。例えば、$\pi \cot \pi z$の極の集合は$\mathbb{Z}$です。そこで、$f$の極を$\lbrace b_j \rbrace ^{\infty}_{j=1}$とします。$f$に対しても、$g(z)$$\mathbb{C}$上の正則関数として、有理関数と同様な展開:$$ f(z)=\sum^{\infty}_{j=1}P_j(1/(z-b_j))+g(z)$$を考えたくなりますが、ここで、$\sum^{\infty}_{j=1}P_j(1/(z-b_j))$が収束するかどうかが問題となります。実際、これは後に注意するように収束しない場合があります。
$\sum^{\infty}_{j=1}P_j(1/(z-b_j))$は、$\mathbb{C}$上の有理型関数からなる級数なので、有理型関数からなる級数の収束を定義します。

有理型関数からなる級数の収束性

$D\subset \mathbb{C}$を領域、$\Lambda$を可算無限の添え字集合、$(f_{\lambda})_{\lambda \in \Lambda}$$D$上の有理型関数列とする。

  1. $A\subset D$上で$\sum f_\lambda$一様(絶対)収束するとは、ある有限集合$F\subset \Lambda$が存在して、$\lambda \in \Lambda \setminus F$なら$f_\lambda$$A$内に極を持たず、かつ$\sum_{\lambda \in \Lambda \setminus F}f_\lambda$$A$内で一様(絶対)収束することをいう。
  2. $\sum f_{\lambda}$$D$広義一様収束するとは、任意のコンパクト集合$K\subset D$に対し、1.の意味で$\sum f_\lambda$$K$上一様収束することをいう。

さて、通常の領域上の正則関数列と同様に、次の事実が成り立ちます。

有理型関数の総和も有理型関数、項別微分可能性

$D\subset \mathbb{C}$を領域、$(f_{\lambda})_{\lambda \in \Lambda}$$D$上の有理型関数列とする。
$\sum f_\lambda$$D$上広義一様収束するならば、和$f=\sum f_\lambda$$D$上の有理型関数である。さらにこのとき、導関数列$(f'_{\lambda})_{\lambda \in \Lambda}もD$上の有理型関数列であり、$\sum f'_\lambda$$f'$$D$上広義一様収束する。

上の定理の証明は、例えばCartanの本を参照してください。こういった事をしっかり証明するのは、解析学の良い練習になります。

複素平面上の有理型関数の部分分数展開は、次の定理に基づいています。

Mittag-Lefflerの展開定理

$\lbrace b_j \rbrace ^{\infty}_{j=1}\subset \mathbb{C}$が、$\lim _{j\to \infty}b_j=\infty$を満たすとする。また、$\lbrace P_j \rbrace ^{\infty}_{j=1}$を定数項を持たない多項式列とする。$f(z)$$\mathbb{C}$上の有理型関数で、極の集合が$\lbrace b_j \rbrace ^{\infty}_{j=1}\subset \mathbb{C}$であり、その各々の主要部が$P_j(1/(z-b_j))$であるとする。
このとき、適当な多項式$p_j(z)$を選び、$g(z)$$\mathbb{C}$上の正則関数として、$$f(z)=\sum^{\infty}_{j=1}(P_j(1/(z-b_j))-p_j(z))+g(z)$$と表せる。

証明は、例えばAhlforsの本の五章二節に書いてありますので、そちらを参照して下さい。
Mittag-Lefflerの展開定理の最大のポイントは、$\sum^{\infty}_{j=1}P_j(1/(z-b_j))$が収束するとは限らないので、$\sum^{\infty}_{j=1}(P_j(1/(z-b_j))-p_j(z))$のように補正して広義一様収束するようにしている所です!

それでは、本題の次の定理を証明していきましょう。

$\pi \cot \pi z$の部分分数展開

$\mathbb{C}$上の有理型関数として、$$ \pi \cot \pi z=\frac{1}{z}+\sum_{n\in \mathbb{Z}\setminus \lbrace 0 \rbrace}(\frac{1}{z-n}+\frac{1}{n})$$
が成り立つ。
ただし、$$ \pi \cot \pi z=\sum_{n\in \mathbb{Z}}\frac{1}{z-n}$$は正しくない。一方で、$$ \pi \cot \pi z=\lim_{m\to \infty}\sum^{n=m}_{n=-m}\frac{1}{z-n}=\frac{1}{z}+\sum^{\infty}_{n=1}\frac{2z}{z^2-n^2}$$は正しい。わざわざ$\sum_{n\in \mathbb{Z}}$ではなく、$\lim_{m\to \infty}\sum^{n=m}_{n=-m}$と書いていることに注意せよ。

まず、$\pi \cot \pi z$$n\in \mathbb{Z}$で一位の極を持ち、その主要部は$1/(z-n)$である。これは、$\pi \cot \pi z$が周期$1$を持つことと、$0$での主要部が$1/z$であることから分かる。このことから、$\pi \cot \pi z=\sum_{n\in \mathbb{Z}}\frac{1}{z-n}$と予想できるが、右辺の級数が広義一様収束しないため、これは正しくない。そこで、Mittag-Lefflerの展開定理のように、$\frac{1}{z-n}+\frac{1}{n}$と補正して、$ \pi \cot \pi z=\frac{1}{z}+\sum_{n\in \mathbb{Z}\setminus \lbrace 0 \rbrace}(\frac{1}{z-n}+\frac{1}{n})$とすれば正しくなる。


最初に、$\sum_{n\in \mathbb{Z}\setminus \lbrace 0 \rbrace}(\frac{1}{z-n}+\frac{1}{n})$が広義一様収束するすることを示す。これには、任意の十分大きな自然数$N$に対し、$|z|\le N$で一様絶対収束することを示せばよい。まず、$|n|>N$ならば、$\frac{1}{z-n}+\frac{1}{n}$$|z|\le N$に極を持たない。$|z|\le N$のとき、$$\sum _{|n|>N}|\frac{1}{z-n}+\frac{1}{n}|=\sum _{|n|>N}\frac{|z|}{n|z-n|}\le N \sum _{|n|>N}\frac{1}{n|N-n|}<+\infty$$となるので、一様絶対収束する。最後の右辺の収束は、$\sum^{\infty}_{m=1}\frac{1}{m^2}$が収束することによる。よって、有理型関数からなる級数の収束の定義より、$\sum_{n\in \mathbb{Z}\setminus \lbrace 0 \rbrace}(\frac{1}{z-n}+\frac{1}{n})$$\mathbb{C}$上広義一様収束し、定理$3$より$\mathbb{C}$上の有理型関数を定める。

$g(z)=\pi \cot \pi z-\frac{1}{z}-\sum_{n\in \mathbb{Z}\setminus \lbrace 0 \rbrace}(\frac{1}{z-n}+\frac{1}{n})$とおけば、$g(z)$$\mathbb{C}$上の正則関数である。あとは、恒等的に$g(z)=0$となることを示せばよい。定理$3$より、級数と微分の順序が交換できるので、$$g'(z)=(\pi \cot \pi z)'+\frac{1}{z^2}+\sum_{n\in \mathbb{Z}\setminus \lbrace 0 \rbrace}\frac{1}{(z-n)^2}=-\frac{\pi ^2}{\sin ^2 \pi z}+\frac{1}{z^2}+\sum_{n\in \mathbb{Z}\setminus \lbrace 0 \rbrace}\frac{1}{(z-n)^2}$$となる。ここで、$$\frac{\pi ^2}{\sin ^2 \pi z}=\sum_{n\in \mathbb{Z}}\frac{1}{(z-n)^2}$$$$\cdots (\heartsuit)$$が、$\mathbb{C}$上の有理型関数として成り立つことが示されるので、$g'(z)=0$が分かる。$\heartsuit$の右辺が$\mathbb{C}$上で有理型関数に広義一様収束することは、上と同様に示せるので難しくない。難しいのはそれが、$\frac{\pi ^2}{\sin ^2 \pi z}$に一致することを示す部分であり、ここでは煩雑になるのを避けるためやらない。これは、やり方自体は初等的だが知らないと思い付くのは難しいというタイプで、証明の詳細は例えばAhlforsの五章に載っている。したがって、$g(z)=C$(定数)となる。

さて、$\sum_{n\in \mathbb{Z}\setminus \lbrace 0 \rbrace}(\frac{1}{z-n}+\frac{1}{n})$は広義一様絶対収束するので、項の順序を入れ替えて、$$\sum_{n\in \mathbb{Z}\setminus \lbrace 0 \rbrace}(\frac{1}{z-n}+\frac{1}{n})=\lim_{m\to \infty}\sum^{n=m}_{n=-m}\frac{1}{z-n}$$が成り立つ。さらに、$$\lim_{m\to \infty}\sum^{n=m}_{n=-m}\frac{1}{z-n}=\sum^{\infty}_{n=1}(\frac{1}{z-n}+\frac{1}{n}+\frac{1}{z+n}-\frac{1}{n})=\sum^{\infty}_{n=1}\frac{2z}{z^2-n^2}$$となる。よって、$$\pi \cot \pi z=\frac{1}{z}+\sum^{\infty}_{n=1}\frac{2z}{z^2-n^2}+C$$となる。ここで、$\pi \cot \pi z$は奇関数なので、$C=0$である。(証明終)

他にも、$$\frac{\pi}{\sin \pi z}=\lim_{m\to \infty}\sum^{n=m}_{n=-m}\frac{(-1)^n}{z-n}=\frac{1}{z}+\sum^{\infty}_{n=1}\frac{(-1)^n2z}{z^2-n^2}$$などが分かります。これは、上と同様に、$$\frac{\pi}{\sin \pi z}=\frac{1}{z}+\sum_{n\in \mathbb{Z}\setminus \lbrace 0 \rbrace}(-1)^n(\frac{1}{z-n}+\frac{1}{n})$$が成り立つことを示してもよいですが、$\pi \cot \pi z=\lim_{m\to \infty}\sum^{n=m}_{n=-m}\frac{1}{z-n}$であることと、$n$を偶奇に分けて$\frac{\pi}{2}\cot \frac{\pi}{2}z-\frac{\pi}{2}\cot \frac{\pi}{2}(z-1)=\frac{\pi}{\sin \pi z}$であることからも分かります。ぜひやってみましょう。なお、上でも書いたように、$$\frac{\pi}{\sin \pi z}=\sum_{n\in \mathbb{Z}}\frac{(-1)^n}{z-n}$$と書くのは誤りなので注意しましょう。

最後に、正の偶数に対するゼータ値を求めます。

正の偶数に対するゼータ値

任意の正の偶数$2n$に対し、
$$\zeta(2n)=\frac{(-1)^{n+1}(2\pi )^{2n}B_{2n}}{2(2n)!}$$
が成り立つ。
ただし、$B_{n}$$n$番目のベルヌーイ数とし、$\frac{z}{e^z-1}= \sum_{n=0}^{\infty}\frac{B_n}{n!}z^n$で定義される。

まず、$\pi \cot \pi z$$z=0$でのローラン展開を求める。$$\pi z \cot \pi z=\pi i z \frac{e^{\pi i z}+e^{-\pi i z}}{e^{\pi i z}-e^{-\pi i z}}=\pi i z+\frac{2\pi i z}{e^{2\pi i z}-1}=\pi i z+\sum_{n=0}^{\infty}\frac{B_n}{n!}(2\pi i z)^n$$となる。ここで、$f(z)=\frac{z}{e^z-1}$とおくと、$f(z)-f(-z)=-z$より、$n\ge 1$に対し、$B_{2n+1}=0$であることが分かる。また、$f(z)$$0$でのテイラー展開より、$B_0=1,B_1=-1/2,B_2=1/6$も分かる。したがって、$$\pi z \cot \pi z=1+\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(2\pi i)^{2n}B_{2n}}{(2n)!}z^{2n}$$となる。これより、求めるローラン展開は、$$\pi \cot \pi z=\frac{1}{z}+\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(2\pi i)^{2n}B_{2n}}{(2n)!}z^{2n-1}$$と書ける。一方で、定理$5$より、$\pi \cot \pi z=\frac{1}{z}+\sum^{\infty}_{n=1}\frac{2z}{z^2-n^2}$だったので、この右辺の有理型関数を$\varphi (z)$とおくと、$\varphi (z)-\frac{1}{z}$$|z|<1$において正則関数であり、$$\varphi (z)-\frac{1}{z}=-2\sum^{\infty}_{n=1}(\frac{z}{n^2})(\frac{1}{1-z^2/n^2})=-2\sum^{\infty}_{n=1}\frac{z}{n^2}\sum^{\infty}_{m=1}(z^2/n^2)^{m-1}$$
これはさらに、$$-2\sum^{\infty}_{n=1}\frac{z}{n^2}\sum^{\infty}_{m=1}(z^2/n^2)^{m-1}=-2\sum^{\infty}_{n,m=1}\frac{z^{2m-1}}{n^{2m}}=-2\sum^{\infty}_{m=1}z^{2m-1}\sum^{\infty}_{n=1}\frac{1}{n^{2m}}$$としてよいことが、各々の級数の絶対収束性から従う。したがって、$$\varphi (z)-\frac{1}{z}=-2\sum^{\infty}_{m=1}z^{2m-1}\zeta (2m)=\sum^{\infty}_{n=1}(-2\zeta (2n))z^{2n-1}$$である。一方で、$\pi \cot \pi z$$z=0$でのローラン展開より、$$\varphi (z)-\frac{1}{z}=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(2\pi i)^{2n}B_{2n}}{(2n)!}z^{2n-1}$$であるので、この二つを比較することで、$$-2\zeta (2n)=\frac{(2\pi i)^{2n}B_{2n}}{(2n)!}$$を得る。よって、$n\ge 1$に対し、$$\zeta(2n)=\frac{(-1)^{n+1}(2\pi )^{2n}B_{2n}}{2(2n)!}$$である。(証明終)

上の公式から、具体的な正の偶数に対するゼータ値$\zeta (2n)$を求めるには、$2n$番目のベルヌーイ数が計算できればよいです。ベルヌーイ数を具体的に求めるには、$f(z)=\frac{z}{e^z-1}=\sum_{n=0}^{\infty}b_nz^n,b_n=\frac{B_n}{n!}$とおいて、$$1=f(z)\frac{e^z-1}{z}=(1+b_1z+b_2z^2+b_4z^4+\cdots )(1+\frac{1}{2!}z+\frac{1}{3!}z^2+\frac{1}{4!}z^3+\cdots )$$の右辺を展開したものと、左辺の$1$とを比較すればよいです。
特に$b_n=\frac{B_n}{n!}$は、漸化式$$b_n+\sum^{n-1}_{k=1}\frac{b_k}{(n+1-k)!}=0,b_0=1$$を満たすことが分かります。
これより、例えば$$\zeta (2)=\frac{\pi ^2}{6},\zeta (4)=\frac{\pi ^4}{90},\zeta (6)=\frac{\pi ^6}{945},\cdots $$となることが手計算でも十分確かめられますね。

今回はこれで終わりたいと思います。お疲れ様でした。

参考文献

[1]
Lars V. Ahlfors, COMPLEX ANALYSIS, 3rd ed., International Series in Pure & Applied Mathematics, McGraw-Hill Education, 1979
[2]
Henri Cartan, Elementary Theory of Analytic Functions of One or Several Complex Variables, Dover Publications, 1995
投稿日:2023115
更新日:2023115

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中