2
大学数学基礎解説
文献あり

正の偶数に対するゼータ値ζ(2n)を有理型関数の部分分数展開を用いて求める方法

612
1

この記事では、C上の有理型関数の部分分数展開を考えることで、正の偶数に対するゼータ値の公式を求める方法を説明します。

正の偶数に対するゼータ値

任意の正の偶数2nに対し、
ζ(2n)=(1)n+1(2π)2nB2n2(2n)!
が成り立つ。
ただし、Bnn番目のベルヌーイ数とし、zez1=n=0Bnn!znで定義される。

この定理を示すために、C上の有理型関数πcotπzの部分分数展開を示します。

πcotπzの部分分数展開

C上の有理型関数として、πcotπz=1z+nZ{0}(1zn+1n)
が成り立つ。

有理型関数とは、極の集合が離散集合であり、定義域から極を除いた領域上で正則関数であるような関数のことです。恒等的にでないようなリーマン球面値正則関数であるということもできます。有理型関数は、有理関数の一般化です。

有理関数R(z)に対しては、その有限個の極をb1,,bnとすれば、定数項を持たない多項式Pj(z)を用いてbjの主要部はPj(1/(zbj))と書け、さらに多項式関数g(z)を用いて、R(z)=j=1nPj(1/(zbj))+g(z)と部分分数展開できますね。(check!)

このことを一般化して、C上の有理型関数f(z)を考えます。すると、fの極は有限個とは限らなくなります。例えば、πcotπzの極の集合はZです。そこで、fの極を{bj}j=1とします。fに対しても、g(z)C上の正則関数として、有理関数と同様な展開:f(z)=j=1Pj(1/(zbj))+g(z)を考えたくなりますが、ここで、j=1Pj(1/(zbj))が収束するかどうかが問題となります。実際、これは後に注意するように収束しない場合があります。
j=1Pj(1/(zbj))は、C上の有理型関数からなる級数なので、有理型関数からなる級数の収束を定義します。

有理型関数からなる級数の収束性

DCを領域、Λを可算無限の添え字集合、(fλ)λΛD上の有理型関数列とする。

  1. AD上でfλ一様(絶対)収束するとは、ある有限集合FΛが存在して、λΛFならfλA内に極を持たず、かつλΛFfλA内で一様(絶対)収束することをいう。
  2. fλD広義一様収束するとは、任意のコンパクト集合KDに対し、1.の意味でfλK上一様収束することをいう。

さて、通常の領域上の正則関数列と同様に、次の事実が成り立ちます。

有理型関数の総和も有理型関数、項別微分可能性

DCを領域、(fλ)λΛD上の有理型関数列とする。
fλD上広義一様収束するならば、和f=fλD上の有理型関数である。さらにこのとき、導関数列(fλ)λΛD上の有理型関数列であり、fλfD上広義一様収束する。

上の定理の証明は、例えばCartanの本を参照してください。こういった事をしっかり証明するのは、解析学の良い練習になります。

複素平面上の有理型関数の部分分数展開は、次の定理に基づいています。

Mittag-Lefflerの展開定理

{bj}j=1Cが、limjbj=を満たすとする。また、{Pj}j=1を定数項を持たない多項式列とする。f(z)C上の有理型関数で、極の集合が{bj}j=1Cであり、その各々の主要部がPj(1/(zbj))であるとする。
このとき、適当な多項式pj(z)を選び、g(z)C上の正則関数として、f(z)=j=1(Pj(1/(zbj))pj(z))+g(z)と表せる。

証明は、例えばAhlforsの本の五章二節に書いてありますので、そちらを参照して下さい。
Mittag-Lefflerの展開定理の最大のポイントは、j=1Pj(1/(zbj))が収束するとは限らないので、j=1(Pj(1/(zbj))pj(z))のように補正して広義一様収束するようにしている所です!

それでは、本題の次の定理を証明していきましょう。

πcotπzの部分分数展開

C上の有理型関数として、πcotπz=1z+nZ{0}(1zn+1n)
が成り立つ。
ただし、πcotπz=nZ1znは正しくない。一方で、πcotπz=limmn=mn=m1zn=1z+n=12zz2n2は正しい。わざわざnZではなく、limmn=mn=mと書いていることに注意せよ。

まず、πcotπznZで一位の極を持ち、その主要部は1/(zn)である。これは、πcotπzが周期1を持つことと、0での主要部が1/zであることから分かる。このことから、πcotπz=nZ1znと予想できるが、右辺の級数が広義一様収束しないため、これは正しくない。そこで、Mittag-Lefflerの展開定理のように、1zn+1nと補正して、πcotπz=1z+nZ{0}(1zn+1n)とすれば正しくなる。


最初に、nZ{0}(1zn+1n)が広義一様収束するすることを示す。これには、任意の十分大きな自然数Nに対し、|z|Nで一様絶対収束することを示せばよい。まず、|n|>Nならば、1zn+1n|z|Nに極を持たない。|z|Nのとき、|n|>N|1zn+1n|=|n|>N|z|n|zn|N|n|>N1n|Nn|<+となるので、一様絶対収束する。最後の右辺の収束は、m=11m2が収束することによる。よって、有理型関数からなる級数の収束の定義より、nZ{0}(1zn+1n)C上広義一様収束し、定理3よりC上の有理型関数を定める。

g(z)=πcotπz1znZ{0}(1zn+1n)とおけば、g(z)C上の正則関数である。あとは、恒等的にg(z)=0となることを示せばよい。定理3より、級数と微分の順序が交換できるので、g(z)=(πcotπz)+1z2+nZ{0}1(zn)2=π2sin2πz+1z2+nZ{0}1(zn)2となる。ここで、π2sin2πz=nZ1(zn)2()が、C上の有理型関数として成り立つことが示されるので、g(z)=0が分かる。の右辺がC上で有理型関数に広義一様収束することは、上と同様に示せるので難しくない。難しいのはそれが、π2sin2πzに一致することを示す部分であり、ここでは煩雑になるのを避けるためやらない。これは、やり方自体は初等的だが知らないと思い付くのは難しいというタイプで、証明の詳細は例えばAhlforsの五章に載っている。したがって、g(z)=C(定数)となる。

さて、nZ{0}(1zn+1n)は広義一様絶対収束するので、項の順序を入れ替えて、nZ{0}(1zn+1n)=limmn=mn=m1znが成り立つ。さらに、limmn=mn=m1zn=n=1(1zn+1n+1z+n1n)=n=12zz2n2となる。よって、πcotπz=1z+n=12zz2n2+Cとなる。ここで、πcotπzは奇関数なので、C=0である。(証明終)

他にも、πsinπz=limmn=mn=m(1)nzn=1z+n=1(1)n2zz2n2などが分かります。これは、上と同様に、πsinπz=1z+nZ{0}(1)n(1zn+1n)が成り立つことを示してもよいですが、πcotπz=limmn=mn=m1znであることと、nを偶奇に分けてπ2cotπ2zπ2cotπ2(z1)=πsinπzであることからも分かります。ぜひやってみましょう。なお、上でも書いたように、πsinπz=nZ(1)nznと書くのは誤りなので注意しましょう。

最後に、正の偶数に対するゼータ値を求めます。

正の偶数に対するゼータ値

任意の正の偶数2nに対し、
ζ(2n)=(1)n+1(2π)2nB2n2(2n)!
が成り立つ。
ただし、Bnn番目のベルヌーイ数とし、zez1=n=0Bnn!znで定義される。

まず、πcotπzz=0でのローラン展開を求める。πzcotπz=πizeπiz+eπizeπizeπiz=πiz+2πize2πiz1=πiz+n=0Bnn!(2πiz)nとなる。ここで、f(z)=zez1とおくと、f(z)f(z)=zより、n1に対し、B2n+1=0であることが分かる。また、f(z)0でのテイラー展開より、B0=1,B1=1/2,B2=1/6も分かる。したがって、πzcotπz=1+n=1(2πi)2nB2n(2n)!z2nとなる。これより、求めるローラン展開は、πcotπz=1z+n=1(2πi)2nB2n(2n)!z2n1と書ける。一方で、定理5より、πcotπz=1z+n=12zz2n2だったので、この右辺の有理型関数をφ(z)とおくと、φ(z)1z|z|<1において正則関数であり、φ(z)1z=2n=1(zn2)(11z2/n2)=2n=1zn2m=1(z2/n2)m1
これはさらに、2n=1zn2m=1(z2/n2)m1=2n,m=1z2m1n2m=2m=1z2m1n=11n2mとしてよいことが、各々の級数の絶対収束性から従う。したがって、φ(z)1z=2m=1z2m1ζ(2m)=n=1(2ζ(2n))z2n1である。一方で、πcotπzz=0でのローラン展開より、φ(z)1z=n=1(2πi)2nB2n(2n)!z2n1であるので、この二つを比較することで、2ζ(2n)=(2πi)2nB2n(2n)!を得る。よって、n1に対し、ζ(2n)=(1)n+1(2π)2nB2n2(2n)!である。(証明終)

上の公式から、具体的な正の偶数に対するゼータ値ζ(2n)を求めるには、2n番目のベルヌーイ数が計算できればよいです。ベルヌーイ数を具体的に求めるには、f(z)=zez1=n=0bnzn,bn=Bnn!とおいて、1=f(z)ez1z=(1+b1z+b2z2+b4z4+)(1+12!z+13!z2+14!z3+)の右辺を展開したものと、左辺の1とを比較すればよいです。
特にbn=Bnn!は、漸化式bn+k=1n1bk(n+1k)!=0,b0=1を満たすことが分かります。
これより、例えばζ(2)=π26,ζ(4)=π490,ζ(6)=π6945,となることが手計算でも十分確かめられますね。

今回はこれで終わりたいと思います。お疲れ様でした。

参考文献

[1]
Lars V. Ahlfors, COMPLEX ANALYSIS, 3rd ed., International Series in Pure & Applied Mathematics, McGraw-Hill Education, 1979
[2]
Henri Cartan, Elementary Theory of Analytic Functions of One or Several Complex Variables, Dover Publications, 1995
投稿日:2023115
更新日:2023115
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中