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大学数学基礎解説
文献あり

【備忘録/用語集】極と有理型関数

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極と有理型関数

$D$$\mathbb{C}$内の領域,$E$$D$の閉集合とし,$D \setminus E$がまた$\mathbb{C}$内の領域になっているとする。
$f \colon D \setminus E \to \mathbb{C}$$D \setminus E$上の正則関数とし,$z_0$$E$の孤立点とする。
このとき,$z_0$を含むような$D$のある開集合$U$が存在して,$U \cap E = \{z_0\}$, すなわち,$U \setminus \{z_0\} \subset D \setminus E$が成り立つ。

上の状況で,以下の2条件は同値である。

  • $\lim_{z \to z_0} |f(z)| = + \infty$
  • $z_0$を含むような$U$のある開集合$V$$V$上の正則関数$h \colon V \to \mathbb{C}$, および正の整数$k$が存在し,$V \setminus \{z_0\}$
    $$ f(z) = \frac{1}{(z - z_0)^k} h(z) \text{, } h(z_0) \neq 0$$
    が成り立つ。

$\lim_{z \to z_0} |f(z)| = + \infty$とする。

必要であれば$U$を小さく取り替えることにより,$U \setminus \{z_0\}$$f(z) \neq 0$であるとしてよい。

$g(z) = 1/f(z)$ $(z \in U \setminus \{z_0\})$と置き,$g(z_0) = 0$と定めることで,$U$上連続かつ$U \setminus \{z_0\}$上正則な関数$g \colon U \to \mathbb{C}$が得られるが,これは$U$上正則である。

したがって,$z_0$を含むような$U$のある開集合$V$$V$上の正則関数$\tilde{h} \colon V \to \mathbb{C}$, および正の整数$k$が存在し,$V$
$$ g(z) = (z - z_0)^k \tilde{h}(z) \text{, } \tilde{h}(z_0) \neq 0$$
が成り立つ。

必要であれば$V$を小さく取り替えることにより,$V$$\tilde{h}(z) \neq 0$であるとしてよい。

このとき,$V \setminus \{z_0\}$
$$ f(z) = \frac{1}{(z - z_0)^k} \frac{1}{\tilde{h}(z)} \text{, } \frac{1}{\tilde{h}(z_0)} \neq 0 $$
が成り立つ。

(極とその位数/有理型関数)
  • 前命題の同値な条件が満たされるとき,$z_0$$f$の極であるという。
    (条件の中に現れる正の整数$k$を極の位数という。)
  • $E$$D$内に集積点を持たないような$D$の部分集合とする。
    $D \setminus E$上の正則関数$f \colon D \setminus E \to \mathbb{C}$$E$の各点を極に持つとき,組$(f, E)$$D$上の有理型関数という。
(正則関数の商)

$f, g \colon D \to \mathbb{C}$$D$上の正則関数とし,$E$$g$の零点全体からなる集合とする。

このとき,$f$$g$で割った商$h = f / g$は有理型関数として次のように定義される。
$f = 0$については$f/g = 0$と約束する。)

  • まず$D \setminus E$$h(z) = f(z)/g(z)$と定める。
  • 次に$z_0 \in E$とする。
    • もし$f(z_0) \neq 0$ならば$\lim_{z \to z_0} |h(z)| = + \infty$である。
      (このような$z_0$$h$の極となる。)
    • $f(z_0) = 0$とし,$z_0$の近くで
      $$ f(z) = (z - z_0)^k \tilde{f} (z) \text{, } \tilde{f} (z) \neq 0$$
      $$ g(z) = (z - z_0)^l \tilde{g} (z) \text{, } \tilde{g} (z) \neq 0$$
      と書けているとする。
      • $k \geq l$の場合。
        このとき,$h (z_0) = \lim_{z \to z_0} h (z)$と定める。
        $h$は$z_0$で連続となり,その周りで正則なので,$z_0$でも正則である。
      • $l > k$の場合。
        このとき,$\lim_{z \to z_0} |h(z)| = + \infty$である。
        (このような$z_0$は$h$の極となる。)

有理型関数同士の積や商も,上の例と同様にして定義される。

$\mathbb{C}$内の領域$D$上の有理型関数は2つの正則関数の商である。

$(h, E)$$D$上の有理型関数とする。

$z \in E$の位数を$k_z$としたとき,$z$たちを$k_z$位の零点に持つような正則関数$g \colon D \to \mathbb{C}$が存在する。(ワイエルシュトラスの定理)

$f = g h$と置くと,$f$$D$上正則であり,$h = f/g$が成り立つ。

付録

$D$$\mathbb{C}$内の領域とする。
$D$の部分集合$E$$D$内に集積点を持たないとき,$D \setminus E$もまた$\mathbb{C}$内の領域である。

$E$$D$内に集積点を持たないとき,$E$$D$の閉集合である。

したがって,$D \setminus E$$D$の開集合であり,$\mathbb{C}$の開集合でもある。

$z_0, z_1 \in D \setminus E$, $z_0 \neq z_1$とする。

$D$は弧連結なので,ある同相写像
$$ \gamma \colon [0, 1] \to C = \gamma ([0, 1]) \subset D$$
が存在して$\gamma (0) = z_0$, $\gamma (1) = z_1$となる。

一方,$E$$D$の離散部分集合なので,任意の$z \in E$に対し,$z$を含むような$D$のある開集合$U_z$が存在して$U_z \cap E = \{z\}$となる。

このとき,
$$ \mathcal{U} = \{ U_z \cap C \in \mathcal{P} (C) \mid z \in E \} \cup \{ (D \setminus E) \cap C \} $$
はコンパクト空間$C$の開被覆となる。

$\mathcal{V}$$\mathcal{U}$の有限部分被覆とすると,$C \cap E$から$\mathcal{V}$への単射が構成できる。
$z \in C \cap E$に対し,$z$を含むような$\mathcal{V}$の元を対応させればよい。)

したがって,$C \cap E$は有限集合である。

$\gamma$の経路を変更して$1$$z \in C \cap E$を回避することは容易なので,そのような操作を有限回繰り返して,$z_0$から$z_1$$D \setminus E$内で結ぶことができる。

これは$D \setminus E$が弧状連結であるということに他ならない。

(ワイエルシュトラス)

$\{z_n\}_{n=1}^N$ $(N \leq + \infty)$$D$の相異なる点からなる点列とし,$z_n$たち全体からなる集合が$D$内に集積点を持たないとする。
$k_n$たちを正の整数とする。
このとき,以下の条件を満たすような$D$上の正則関数$h \colon D \to \mathbb{C}$が存在する。

  • $z_n$に対し,$z_n$を含むような$D$のある開集合$U$$U$上の正則関数$g \colon U \to \mathbb{C}$が存在し,$U$
    $$ h(z) = (z - z_n)^{k_n} g(z) \text{, } g(z_0) \neq 0$$
    が成り立つ。
  • $z_n$以外の点$z \in D$では$h(z) \neq 0$である。

参考文献

[1]
高橋礼司, 複素解析, 基礎数学, 東京大学出版会, 1990
[2]
野口潤次郎, 複素解析概論, 数学選書, 裳華房, 1993
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