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東大数理院試過去問解答例(2016B08)

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ここでは東大数理の修士課程の院試の2016B08の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

2016B08

$\mathbb{R}^3$上の$2$次形式$Q(u)=x^2+y^2-z^2$(但し$u={}^t(x,y,z)\in\mathbb{R}^3$)に対して、
$$ M=\left\{u\in\mathbb{R}^3\backslash\{0\}\middle|Q(u)=0\right\} $$
$$ \mathrm{SO}(2,1):=\{g\in\mathrm{SL}(3,\mathbb{R})|Q\circ g=Q\} $$
を考える。$M$に相対位相を考える。

  1. $M$$C^\infty$級多様体の構造をもち、群$\mathrm{SO}(2,1)$$M$への作用は推移的であることを示せ。
  2. $M$の開部分集合$\left\{u={}^t(x,y,z)\in M\middle|xyz\neq0\right\}$上の微分形式
    $$ -\left(\frac{x}{y}-\frac{y}{x}\right)dz+\left(\frac{x}{z}-\frac{z}{x}\right)dy-\left(\frac{y}{z}-\frac{z}{y}\right)dx $$
    $M$上の$C^\infty$級微分形式に一意的に拡張できることを示せ。以下この微分形式を$\alpha$とおく。
  3. $\alpha$$\mathrm{SO}(2,1)$の作用で不変であることを示せ。
  4. 実数$\ell$について、$M$上の微分形式
    $$ \beta_\ell:=(x^2+y^2+z^2)^\ell\alpha $$
    を考える。$\beta$が閉形式になるためには$\ell=-\frac{1}{2}$であることが必要充分であることを示せ。また$\beta_\ell$は完全形式にはなり得ないことを示せ。
  1. $M=Q|_{\mathbb{R}^3\backslash\{0\}}^{-1}(0)$であるから、正則値定理から$M$$\mathbb{R}^3\backslash\{0\}$の部分多様体である。次に作用が推移的であることを示す。まず実数$r\neq0$について行列
    $$ A(r)=\begin{pmatrix} \frac{1}{2}\left(r+\frac{1}{r}\right)&0&\frac{1}{2}\left(r-\frac{1}{r}\right)\\ 0&1&0\\ \frac{1}{2}\left(r-\frac{1}{r}\right)&0&\frac{1}{2}\left(r+\frac{1}{r}\right) \end{pmatrix} $$
    $\mathrm{SO}(2,1)$の元で、${}^t(1,0,1)$${}^t(r,0,r)$に移す。一方行列
    $$ B(\theta)=\begin{pmatrix} \cos\theta&-\sin\theta&0\\ \sin\theta&\cos\theta&0\\ 0&0&1 \end{pmatrix} $$
    $\mathrm{SO}(2,1)$の元で、${}^t(1,0,1)$${}^t(\cos\theta,\sin\theta,1)$に移す。以上より任意の$u={}^t(r\cos\theta,r\sin\theta,r)$に対して$u=B(\theta)A(r){}^t(1,0,1)$であるから推移性が従う。
  2. $z=r,x=r\cos\theta,y=r\sin\theta$と座標変換する。このとき
    $$ \begin{split} &-\left(\frac{x}{y}-\frac{y}{x}\right)dz+\left(\frac{x}{z}-\frac{z}{x}\right)dy-\left(\frac{y}{z}-\frac{z}{y}\right)dx\\ &=-\left(\frac{1}{\tan\theta}-\tan\theta\right)dr+\left(\cos\theta-\frac{1}{\cos\theta}\right)(\sin\theta dr+r\cos\theta d\theta)-\left(\sin\theta-\frac{1}{\sin\theta}\right)(\cos\theta dr-r\sin\theta d\theta)\\ &=-rd\theta \end{split} $$
    と表せ、これによって$M$上の微分形式に拡張できる。
  3. まず$\mathrm{SO}(2,1)$$A(r),B(\theta)$及び
    $$ X(t):=\begin{pmatrix} 1-\frac{t^2}{2}&-t&\frac{t^2}{2}\\ t&1&-t\\ -\frac{t^2}{2}&-t&1+\frac{t^2}{2} \end{pmatrix} $$
    の型の行列の積の型をしている。よってこれらの行列の作用で不変であることを示せば良い。ここで$X(t)(r,\theta)=(R,\Theta)$とすると
    $$ \begin{split} \Theta&=\arctan\frac{B}{A}\\ R&=rC \end{split} $$
    である。但し
    $$ \begin{split} A&:=\left(\left(1-\frac{t^2}{2}\right)\cos\theta-t\sin\theta+\frac{t^2}{2}\right)\\ B&:=\left(t\cos\theta+\sin\theta-t\right)\\ C&:=-\frac{t^2}{2}\cos\theta-t\sin\theta+\left(1+\frac{t^2}{2}\right) \end{split} $$
    とおいている。このとき
    $$ \frac{d\Theta}{d\theta}=\frac{B'A-BA'}{A^2+B^2}=\frac{1}{C} $$
    $$ \frac{d\Theta}{dr}=0 $$
    であるから
    $$ (X(t)^\ast\alpha)_p\left(\frac{\partial}{\partial \theta}\right)_p=-\frac{R}{C}=-r $$
    $$ (X(t)^\ast\alpha)_p\left(\frac{\partial}{\partial r}\right)_p=0 $$
    が従う。よって$X(t)^\ast\alpha=\alpha$である。
    次に$A(s)(r,\theta)=(R,\Theta)$とすると
    $$ \begin{split} \Theta&=\arctan\frac{T}{S}\\ R&=rU \end{split} $$
    である。但し
    $$ \begin{split} S&:=\frac{1}{2}\left(\left(s+\frac{1}{s}\right)\cos\theta+\left(s-\frac{1}{s}\right)\sin\theta\right)\\ T&:=\sin\theta\\ U&:=\frac{1}{2}\left(\left(s-\frac{1}{s}\right)\cos\theta+\left(s+\frac{1}{s}\right)\sin\theta\right) \end{split} $$
    とおいている。このとき
    $$ \frac{d\Theta}{d\theta}=\frac{T'S-TS'}{S^2+T^2}=\frac{1}{U} $$
    $$ \frac{d\Theta}{dr}=0 $$
    であるから
    $$ (A(s)^\ast\alpha)_p\left(\frac{\partial}{\partial \theta}\right)_p=-\frac{R}{U}=-r $$
    $$ (A(s)^\ast\alpha)_p\left(\frac{\partial}{\partial r}\right)_p=0 $$
    が従う。よって$A(s)^\ast\alpha=\alpha$である。
    最後に$B(\omega)^\ast\alpha=\alpha$もこれまでの議論と同様にして示せる(本来はきちんと書くべきところですが、ここでは冗長さを排すことを優先します)。以上から$\alpha$$\mathrm{SO}(2,1)$の作用で不変である。
  4. まず$\beta=2^\ell r^{1+2\ell}d\theta$である。よって
    $$ d\beta=2^\ell(1+2\ell)r^{2\ell} dr\wedge d\theta $$
    であるから、$\beta_\ell$は閉形式でになるのは$\ell=-\frac{1}{2}$の場合に限る。よって前半が示せた。
    以下後半を示す。前半の結果から$\beta_\ell$が完全形式になり得るのは$\beta_{-\frac{1}{2}}=-d\theta$の場合しかない。ここで$M$上の関数$f:M\to\mathbb{R}$$df=d\theta$を満たすとすると、$M$の部分集合$C=\{{}^t(x,y,1)\in M\}$に於いて
    $$ 0=\int_{C}df=\int_{C}d\theta=2\pi $$
    になるから矛盾する。よって$\beta_\ell$が完全形式になることはない。
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佐々木藍(Ai Sasaki)です。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。X(旧Twitter)→@sasaki_aiiro

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