この記事では単に半環と言ったら可換半環を指すことにする. 私は半環をちゃんと学んだことがないので標準的な用語を使っているとは限らない.
$X$を位相空間, $Y$をハウスドルフ空間とする. $f,g\colon X\to Y$が$X$の稠密な部分集合$A$上で一致しているならば$X$全体で一致している.
$f(x)\neq g(x)$とすると, 交わらない$f(x)\in U$, $g(x)\in V$が存在する. すると$f^{-1}(U)\cap f^{-1}(V)$の任意の点$y$において$f(y)\neq g(y)$である. よって$\{x\mid f(x)\neq g(x)\}$は開だが, これが空でないとすると$A$と交わって矛盾. したがって$f$と$g$は$X$上で一致する.
これはハウスドルフ空間への関数では閉部分空間しか識別することができない, ということを示唆している.
一方, 位相空間の埋め込みは開集合系の間の全射を誘導することに注意すると, 環の全射は空間の埋め込みとみなすべきである. しかし環の全射はイデアルによる剰余になっているので, より強く閉埋め込みに対応することが想像つく. アフィンスキームが分離的であることに注目すると, このことは今示した命題と類似していることがわかる. この記事では, 一般の半環に対して分離的という条件を定義し, 分離的な半環上の代数に対しては準同型定理が成り立つことを示す.
半環とは, $+, \times$について可換モノイドをなす集合$R$であって次を満たすもののことを言う.
また, 半環の射は$0,1$および加法と乗法を保つ写像である.
半環$R$の部分集合$I$がイデアルであるとは次を満たすときを言う.
半環の射$f\colon A\to B$について, $f^{-1}\{0\}$はイデアルである. これを$f$の核と呼び, $\Ker(f)$と書く.
$f(0)=0$より$0\in\Ker(f)$. $a,b\in\Ker(f)$なら$f(a+b)=0$より$a+b\in\Ker(f)$. $a\in \Ker(f)$, $b\in R$なら$f(ab)=0$より$ab\in \Ker(f)$
$A$を半環, $I$をそのイデアルとする. ある$u,v\in I$によって$x+u=y+v$とできるとき$x\sim y$となる同値関係$\sim$によって$A$を割ったものは自然に半環になる.
$x\sim y$ならば任意の$z$について$x+z\sim y+z$, $xz\sim yz$であるため明らか.
半環の射$f\colon A\to B$は$A\to A/\Ker(f)\to B$と分解する.
$a,b$がある$u,v\in\Ker(f)$によって$a+u=b+v$と出来たとする. このとき$f(a)=f(a)+f(u)=f(b)+f(v)=f(b)$なのでよい.
一般には準同型定理は成り立たない. 実際$\Nat\to\Bool$を$0\mapsto 0$, $n\neq 0$について$n\mapsto 1$とするとこれは半環の射であり, 核は$(0)$だが単射ではない.
半環の射$A\to B$が強全射であるとは, それがあるイデアル$I$によって自然な射$A\to A/I$とみなせるときを言う.
半環$R$が分離的であるとは, $h\colon R[x,y]\to R[x], h(x)=x, h(y)=x$が強全射であるときを言う. この核を$\Delta$と書く.
$R$を分離的な半環とする. $R$-代数の射$f\colon A\to B$は核が$(0)$ならば単射である.
$a,b\in A$を$f(a)=f(b)$なるものとする. 今$c\colon R[x,y]\to A$を$x\mapsto a$, $y\mapsto b$なるものとすると$R[x,y]\to A\to B$と$R[x,y]\to R[x]\to B$は一致する. よって$s\in\Delta$の$B$への像は$0$である. $f$の核が$(0)$なので$s$の$A$への像も$0$である. $R$の分離性より$R[x]\to A$が存在して$R[x,y]\to R[x]\to A$が$c$に一致する. これは$a=b$を意味する.
$R$を分離的な半環とする. $R$-代数の全射は強全射である.
分離的な半環は環だろうか?
予想が肯定的に解決できたので, 書いておく.
分離的な半環は環である.
$R$を分離的な半環とする. 任意の$a\in R$について加法逆元が存在することを示す. $f\colon R[x]\to R$を$x\mapsto a$とするとこれは全射である. よって強全射である. $f(x)=f(a)$なのである$\phi(x),\psi(x)\in\Ker(f)$があって$x+\phi(x)=a+\psi(x)$である. $\phi$の定数部分を$d$, $1$次以上の部分を$\phi'$, $\psi$の定数部分を$e$とすると, $x=0$を代入することで$d=a+e$がわかる. また$\phi'(a)+d=\phi(a)=0$なので$a+(e+\phi'(a))=0$であり, $a$は加法逆元を持つ.