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Some properties of the semidifferential ①

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以下, $\O \subset \R^{n}$ を開集合, $C(\O)$$\O$ 上で連続な函数全体を表す. $\R^{n}$ に於いて,全微分可能であることを単に微分可能であると呼ぶことにする. また, $Du(x)$$x\in \R^{n}$ に於ける $u$ の微分(勾配)を表すことにする.

semidifferential $D^{\pm}u(x)$ とその基本的性質について.

今回は, 凸函数に関する不等式①-命題2- で触れた劣微分及び優微分という概念の基本的性質について述べる. まず, $D^{\pm}u(x)$ の定義を確認する.

semidifferential

$u \in C(\Omega)$, $ x \in \Omega$ に対して, 集合 $ D^{+}u(x),D^{-}u(x) $ を,
\begin{align*} D^{+}u(x) := \Bigg\{ p \in \R^{n} \Bigg| \limsup_{y \to x} \frac{u(y) - u(x) - p\cdot (y-x) }{|y-x|} \leq 0 \Bigg\} \end{align*}
\begin{align*}
D^{-}u(x) := \Bigg{ p \in \mathbb{R}^{n} \Bigg| \liminf_{y \to x} \frac{u(y) - u(x) - p\cdot (y-x) }{|y-x|} \geq 0 \Bigg}
\end{align*}
と定める.これを,夫々, $x$ に於ける $u$ の superdifferential(優微分), subdifferential(劣微分)と呼ぶ.

この $D^{\pm}u(x)$ は次の命題より,通常の微分 $Du(x)$ を拡張した概念であることが分かる.

semidifferentialの性質①

$u \in C(\Omega)$, $ x \in \Omega$ とする. 次が成り立つ;
(1) $\quad$ $D^{-}u(x) = - D^{+}(-u)(x)$.
(2) $\quad$ $D^{+}u(x),D^{-}u(x)$$\mathbb{R}^{n}$ の閉集合かつ凸集合.
(3) $\quad$ $D^{+}u(x) \neq \emptyset $ かつ $D^{-}u(x) \neq \emptyset $ ならば, $u$$x$ で微分可能であり,
\begin{align*} D^{+}u(x) = D^{-}u(x) =\{Du(x)\}. \end{align*}
(4) $\quad$ $\phi \in C^{1}(\O)$ に対して,
\begin{align*} D^{\pm}(u+\phi)(x) = D^{\pm}u(x) + \{D\phi(x)\}. \end{align*}

  1. Lemma1.8, Exe2.4 を参照.

(3)より, $u$$x$ で微分可能ならば $D^{+}u(x),D^{-}u(x)$ は一点集合になり, $\{Du(x)\}$ と一致する. また(3)の対偶を考えることにより, $u$$x$ で微分不可能であれば,
\begin{align*} D^{+}u(x)=\emptyset \ または \ D^{-}u(x)=\emptyset \end{align*}
となることが分かる.

この $D^{\pm}u(x)$ は, 筆者が粘性解理論(the theory of Viscosity solution)という偏微分方程式論の或る分野を勉強する上で出会った概念である([2],[4]). 粘性解については今後言及する予定は特に無いが, この $D^{\pm}u(x)$ を用いて同値な定義を与えられるなど便利なことがある.
ここで, $D^{\pm}u(x)$ の幾何的な意味を考えよう. まず, 次が成り立つ;

semidifferentialの性質②

$u \in C(\Omega),\ x \in \O$ とする. 次の (a),(b) が成り立つ;
(a) $\quad$ $p \in D^{+}u(x)$ $\iff$
$\Exists \phi \in C^{1}(\Omega) \quad {\rm s.t.} \quad D\phi(x) = p$ かつ $u- \phi$$x$ で局所最大値をとる.
(b) $\quad$ $p \in D^{-}u(x)$ $\iff$
$\Exists \phi \in C^{1}(\Omega) \quad {\rm s.t.} \quad D\phi(x) = p$ かつ $u- \phi$$x$ で局所最小値をとる.

  1. Lemma1.7(a,b) を参照. また, 十分条件であることの証明は難しいが,より細かいところは[4]命題2.2 を参照のこと.

この命題により, $D^{+}u(x)$ は,
\begin{align*} D^{+}&u(x) \\ = \Bigl\{ &D\phi(x) \in \mathbb{R}^{n} \ \Big| \ \Exists \phi \in C^{1}(\Omega) \ {\rm s.t.}\ \ u-\phi \ が \ x で局所最大値をとる. \Bigr\} \end{align*}
と表される. 更に, 条件の部分を書き換えると, $\Exists \delta >0 \ {\rm s.t.} \ \Forall y \in B_{\delta}(x),$
\begin{align} (u-\phi)(y) &\leq (u-\phi)(x) \nonumber \\ \iff \qquad u(y) &\leq \phi(y) - \phi(x) + u(x). \nonumber \end{align}
ここで, $\psi(y) := \phi(y) - \phi(x) + u(x), \ y \in \Omega \ $ とおくと,
$u(y) \leq \psi(y) ,\ y \in B_{\delta}(x)$ かつ $\psi(x) = u(x)$ かつ $D\psi(x) = D\phi(x)$
が成り立つ. 従って, $D^{+}u(x)$ は次のように言い換えられる;
\begin{align*} &D^{+}u(x) \\ &= \Bigl\{ D\psi(x) \in \R^{n} \ \Big| \ \Exists \psi \in C^{1}(\Omega) \ {\rm s.t.}\ \Forall y \in B_{\delta}(x), \ u(y) \leq \psi(y) \ かつ \ u(x)=\psi(x). \Bigr\} \tag{i} \end{align*}

これにより, $D^{+}u(x)$ の元 $p$ は, 点 $u(x)$ に於いて, 上から接する滑らかな函数 $\psi$ の微分(勾配) $D\psi(x)=p$ と捉えることが出来る.

対称的に,
\begin{align*} &D^{-}u(x) \\ &= \Bigl\{ D\psi(x) \in \R^{n} \ \Big| \ \Exists \psi \in C^{1}(\Omega) \ {\rm s.t.}\ \Forall y \in B_{\delta}(x), \ u(y) \geq \psi(y) \ かつ \ u(x)=\psi(x). \Bigr\} \tag{ii} \end{align*}

となるので, $D^{-}u(x)$ の元 $p$ は, 点 $u(x)$ に於いて, 下から接する滑らかな函数 $\psi$ の微分(勾配) と捉えられる.

具体的な $D^{\pm}u(x)$ の例を見てみよう.

$D^{\pm}u(x)$ の例.

$n=1, \O=(-1,1), \ u(x)=|x|, x \in \O \ $ とすると, $u$$x=0$ で微分不可能である.(これは高校の数学Ⅲの教科書にも記載されている.)
この $u$ と点 $x=0$ に対して,
\begin{align*} D^{+}u(0)=\emptyset, \ D^{-}u(0)=[-1,1] \end{align*}
となる. この $u$$x=0$ で下に尖っている. (ii) の観点から, $x=0$ で下から接する滑らかな函数 $\psi$ の傾きは $-1$$1$ を取るとイメージが出来る.

対称的に, $u(x)=-|x|, \ x \in \O$ に対しては, (1) より,
\begin{align*} D^{+}u(0)=[-1,1], \ D^{-}u(0) = \emptyset \end{align*}
である.

次回の記事では, 命題1 (3) の内容に関して, $D^{+}u(x)$$D^{-}u(x)$$\emptyset$ になる微分不可能な函数の例を考える (予定...).

この $D^{\pm}u(x)$ や, その二階微分に相当する semi-jets $J^{\pm}u(x)$ ついて,より詳細なことを知りたい人は, [1],[2],[4]を参考にして欲しい.

参考文献

[1]. M.Bardi and I.Capuzzo Dolcetta, Optimal Control and Viscosity Solutions of Hamilton-Jacobi-Bellman Equations, Systems & Control, Birkhauser, 1997.

[2]. S.Koike, A Beginner's Guide to the Theory of Viscosity of Viscosity Solutions,2010. ( http://www.math.tohoku.ac.jp/~koike/evis2012version.pdf )

[3]. P.Cannarsa and C.Sinestrari, Semiconcave functions, Hamilton-Jacobi equations and optimal control, Progress in Nonlinear Differential Equations and their Applications,58. Birkhauser Boston, Inc., Boston, MA, 2004.

[4]. 小池茂昭,著 粘性解-比較原理を中心に- 共立講座 数学の輝き8, 共立出版.

投稿日:20201125
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投稿者

偏微分方程式論/その他,備忘録

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