束とは, 任意の非空有限部分集合に対し最小上界と最大下界を持つ半順序集合のことである.
特に, 任意の$2$元$a$,$b$についてその最小上界と最大下界が存在し, それらを順に$a\lor b$,$a\land b$と書く.
このとき, 次が成り立つ.
束$L$の任意の元$a$,$b$,$c$に対し, 次が成り立つ.
さらに, 2はそれぞれ$\{a,b,c\}$の最小上界, 最大下界に一致する.
この命題の証明は, 読むよりも自分で考えたほうが早いかもしれない.
1を示す. $\lor$については, $a\lor b$も$b\lor a$も$L$の部分集合$\{a,b\}$の最小上界であるため成り立つ. $\land$についても同様である.
2を示す. 1より, $(a\lor b)\lor c$が$\{a,b,c\}$の最小上界であることを示せば十分である. まず$a\leq (a\lor b)\lor c$を示す. これは$\lor$の定義より$a\leq a\lor b$, $a\lor b\leq(a\lor b)\lor c$であることより従う. $b$についても同様である. $c\leq (a\lor b)\lor c$も$\lor$の定義よりわかる. あとは$\{a,b,c\}$の上界$x$について$(a\lor b)\lor c\leq x$を示せば良い. $\lor$の定義より, $a\leq x$かつ$b\leq x$から$a\lor b\leq x$が従う. 更に$c\leq x$なので, 再び$\lor$の定義より$(a\lor b)\lor c\leq x$が従う. これで$\lor$の場合が示された. $\land$の場合も同様である.
3を示す. $\lor$の定義より$a\leq a\lor(a\land b)$であるため, $a\lor(a\land b)\leq a$を示す. そのためには$a\leq a$, $a\land b\leq a$を示せばよいが, 一つ目は半順序集合の定義より成り立ち, 二つ目は$\land$の定義より成り立つ. もう一つの式についても同様である.
逆に, これらの関係式は束を特徴づける.
二項演算$\lor$, $\land$を持つ集合$L$について次が成り立つとする. このとき, $a\lor b=b$となるとき, またそのときのみ$a\leq b$となる順序が入り, この順序について$L$は束をなす. さらに, その束に対して定義される$\lor$, $\land$は与えた演算に一致する.
まず, $a\lor a=a$を示す. これは次の式変形によりわかる.
$$
a\lor a = a\lor (a\land (a\lor a)) = a
$$同様に$a\land a=a$も示せる.
次に, $a\land b = a \Leftrightarrow a\leq b$を示す. $a\land b=a$とすると,
$$
a\lor b = (a\land b)\lor b=b\lor(a\land b)=b\lor(b\land a)=b
$$より$a\leq b$が従う. 逆に$a\leq b$, つまり$a\lor b=b$とすると
$$
a\land b=a\land(a\lor b)=a
$$となり従う.
定義された順序$\leq$が半順序になっていることを示す. まず, $a\leq a$を示すには$a\lor a=a$を示せばよいがこれはすでに示した. $a\leq b$かつ$b\leq a$のとき$a=b$を示す. $\leq$の定義から$a\lor b = b$, $b\lor a = a$なので
$$
a=b\lor a=a\lor b=b
$$より従う. 最後に$a\leq b$, $b\leq c$ならば$a\leq c$を示す. $a\lor b = b$, $b\lor c = c$なので
$$
a\lor c=a\lor (b\lor c)=(a\lor b)\lor c=b\lor c= c
$$より$a\leq c$が従う. これで与えられた順序$\leq$により$L$が半順序集合になることが示された.
$L$の任意の非空有限部分集合$X$についてその最小上界が存在することを$X$の元の個数に関する帰納法で示す. $|X|=1$のときは明らか. $|X|< n$で成り立つと仮定して$|X|=n$の場合を考える. このとき, $L$の元$a$とある$n-1$元集合$Y$について$X=\{a\}\cup Y$と書ける. $Y$は最小上界を持ち, これを$b$と置く. $a\lor b$が$X$の最小上界であることを示す. $X$の任意の元$x$について$x\leq a\lor b$を示す. つまり$x\lor (a\lor b)= a\lor b$を示せば良い. $x=a$のとき,
$$
x\lor (a\lor b)=a\lor (a\lor b)=(a\lor a)\lor b = a \lor b
$$より成り立つ. $x\neq a$のとき,
$$x\lor (a\lor b)=(x\lor a)\lor b = (a\lor x)\lor b = a\lor (x\lor b)
$$
であるが, $x\in Y$であり, $b$が$Y$の最小上界であるため$x\leq b$, つまり$x\lor b=b$である. これで$X$の任意の元$x$について$x\leq a\lor b$が示された. 次に$X$の任意の上界$z$について$a\lor b\leq z$を示せば良い. これは$(a\lor b)\lor z = z$を示すことに等しい. $z$は$Y$の上界でもあることに注意すると$a\lor z=z$, $b\lor z=z$であることがわかり,
$$
(a\lor b)\lor z = a\lor (b\lor z)=a\lor z = z
$$より従う. これで$L$の任意の非空有限部分集合に対して最小上界が存在することが示された. 最大下界についても同様である. これで$L$が与えられた順序によって束をなすことが示された.
最後に, この束に対して定義される$\lor$と$\land$が与えた演算に一致することを示す. つまり, $\{a,b\}$の最小上界, 最大下界が与えられた$a\lor b$, $a\land b$に一致することを示す. $a\leq a\lor b$を示す. これは$a\lor (a\lor b)=a\lor b$を示すことに等しい. これは
$$
a\lor (a\lor b)=(a\lor a)\lor b=a\lor b
$$より従う.
同様に$b\leq a\lor b$も示せる. 次に$a\leq x$, $b\leq x$となる$x$について$a\lor b\leq x$を示す. これは$(a\lor b)\lor x=x$を示すことに等しい. $\leq$の定義より$a\lor x = x$, $b\lor x= x$であることに注意すると
$$
(a\lor b)\lor x=a\lor(b\lor x)=a\lor x=x
$$となり示せる. $\land$の場合も同様である.