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大学数学基礎解説
文献あり

可換図式で圏を定義する

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この記事でやること

この記事では,圏を可換図式で定義します。というのも,せっかくMathlogでXy-picが実装されたんだから,可換図式を書いてみたいと思ったのが主な理由です。

図式をいっぱい書いたため,表示が不安定かもしれません。
また,スマホで閲覧される場合は,横向きで見ることを強く推奨します。

Category theory takes a bird’s eye view of mathematics.
(圏論は鳥の目で数学を俯瞰する.)

個人的に大好きな言葉です。格好良いなと思います。

ベーシック圏論による定義

まずはベーシック圏論(参考文献1)による定義を紹介します。

Basic Category Theory

Aとは,

  • 対象の集まりob(A)
  • A,Bob(A)について,AからBへのの集まりA(A,B)
  • A,B,Cob(A)について,合成と呼ばれる関数A(B,C)×A(A,B)A(A,C)(g,f)gf
  • Aob(A)について,A上の恒等射と呼ばれるA(A,A)の元1A

からなり,以下の公理を満たすもののことである。

  • 結合法則:任意のfA(A,B)gA(B,C)hA(C,D)について(hg)f=h(gf)が成り立つ。
  • 単位法則:任意のfA(A,B)についてf1A=f=1Bfが成り立つ

圏を可換図式で定義したい

ちょっとだけ準備します。

ファイバー積

圏を可換図式で定義するために,ファイバー積を定義しておきます。

ファイバー積

写像f:XSg:YSに対し,積集合X×Yの部分集合X×SY={(x,y)X×Yf(x)=g(y)}
を,XYS上のファイバー積と呼ぶ。fgを明示したいときは,X×f,S,gYと書くことにする。

また,ファイバー積の第一成分への射影や第二成分の射影をそれぞれ,pr1:X×SYXpr2:X×SYYで表すことにする。

可換図式

Xy-picを用いて記事を書く練習のついでに,可換図式を定義することにします。

可換図式

以下の写像の図式が可換であるとは,fp=gqであることをいう。TpqXfYgS
しばしば図中に記号を用いることで,可換であることを表す:TpqXfYgS

さて,上記の定義において,写像(p,q):TX×Y
は,ファイバー積への写像(p,q):TX×SYを誘導する。すなわち,図式で表せば以下の図式が可換になることである。Tpq(p,q)X×SYpr1pr2XfYgS
式で表せば,pr2(p,q)=qpr1(p,q)=pを満たすように(p,q)を定める。煩雑であることを恐れなければTpq(p,q)X×SYpr1pr2XfYgSと書く。もう二度とこんなに↻は使わない。

写像の可換図式UspWrVtqXfSYg
に対し,積写像p×q:U×VX×Yの制限U×WVX×SYもまたp×qで表すことにする。

さらに,写像h:YTk:ZTに対し,積集合X×Y×Zの部分集合として,X×SY×TZ:={(x,y,z)X×Y×Zf(x)=g(y),h(y)=k(z)}
と書く。f,g,h,kを明確に区別したければ,X×f,S,gY×h,T,kZと書くことにする。

X×f,S,gY×h,T,kZ=(X×SY)×hpr2,T,kZ=X×f,S,gpr1(Y×TZ)です。

圏の別定義

というわけでここまでの準備を元に,圏を可換図式で定義しましょう。

可換図式で定義する圏

集合CMと写像s:MC,t:MC,c:M×s,C,tMM,e:CM
で次の4つの図式が可換になるような6つ組(C,M,s,t,c,e)のことをという。このとき他の成分を省略してCを圏と呼ぶ。
MtM×s,C,tMcpr1pr2MsCMtsC
M×s,C,tM×s,C,tM1M×cc×1MM×s,C,tMcM×s,C,tMcM
C1Ce1CCCMts
M(et,1M)1M(1M,es)M×s,C,tMcM×s,C,tMcM

2つの定義の対応

可換図式による定義において,Cの元は圏の対象Mの元は圏のに対応します。また,A,BCの対象であり,fMs(f)=A, t(f)=Bを満たすとき,fAからBへの射と言います。sもとtまとc合成と呼ばれます。Mの元g,fに対してその対(g,f)が写像cの定義域M×c,S,tMの元であるとき,gfは合成可能であるといい,その合成c(g,f)とはgfのことです。

4つの図式のうち,一番初めに書いた図式は,合成が出来ることを表しています。

二番目の図式は,結合法則が成り立つことを表しています。

三番目の図式は,各ACに対して1Aが存在することを表しています。

四番目の図式は,単位法則が成り立つことを表しています。

まとめ

あまり可換図式による定義は見たことがありません。(同値だよね!って言っているものはあると思いますが……)可換図式によって定義することで全体像は把握できるのですが,いかんせん理解するのに時間がかかってしまいます。最初に挙げた圏の定義と見比べながら理解すると容易です。

こういう定義もあるよ!という観賞用と思っていただければ結構かもしれません。

(さすがに可換図式を入力するのは骨ですね。)ここまで閲覧いただきありがとうございます!

参考文献

  1. Basic Category Theory (Cambridge Studies in Advanced Mathematics, Series Number 143)
    (邦訳:ベーシック圏論 普遍性からの速習コース )
    (ちなみに英語版は こちらのURL にて見ることが出来ます。pdfですので,機種によってはダウンロードが始まります。留意ください。)

  2. 壱大整域(圏論)
    (日本語サイトで圏論と言えば!というサイト。Kan拡張に対するモチベーションが高いサイトです。)

参考文献

[1]
Tom Leinster, ベーシック圏論 普遍性からの速習コース, 丸善出版, 2017
投稿日:20201125
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投稿者

ぱるち
ぱるち
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数学屋さんをしています。代数,数論系に興味があり,今は楕円曲線と戯れています。Mathlogは現実逃避用という噂もあります。@f_d00123

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  1. この記事でやること
  2. ベーシック圏論による定義
  3. 圏を可換図式で定義したい
  4. ファイバー積
  5. 可換図式
  6. 圏の別定義
  7. 2つの定義の対応
  8. まとめ
  9. 参考文献
  10. 参考文献