はじめに
この記事は離散フーリエ変換についての覚書です。
記号の約束
長さの複素数列全体をと書く。
とする。また、に対し、をで割ったあまりをとおく。により、記号を次のように定義する。
これはつまり
ということ。以降、長さで一般項がの数列をとも表記する。
離散フーリエ変換
複素数列に対し、次の式で数列を定義する。
数列のことをの離散フーリエ変換といい、次のように表す。
離散フーリエ変換の性質
パーセバルの等式
の定義式から、次の式は任意の、に対して明らかに成り立つ。
したがっては線形写像である。そこで、標準基底に関する表現行列を考えると次のようになる。
とおくともう少し見た目がきれいになる。
ここでと置きなおす。このときはユニタリ行列になる。つまり、には逆行列があってとなる。
ユニタリ行列の性質から、は内積を変えない。実際
である。したがって次の等式が成り立つ。
特に、のときは次のようになる。
最後の式を「パーセバルの等式」という。
畳み込み定理
巡回畳み込みはの二項演算であり、次のように定義される。
畳み込み定理とは、離散フーリエ変換と巡回畳み込みが持つ次の関係のことである。
実際に成り立つことを確認しよう。を1つとる。の順序は勝手に交換して良いから
と変形できる。ここで、をよく見ると、これはに等しいことが分かる(ちょうど足す順番を入れ替えた形になっている)。なので
となる。すべてのについてこれが成り立つから、確かに
が確認できた。
巡回畳み込みと固有分解
畳み込み定理は線形代数によっても示せる。を、にを左から掛けた結果と考えよう。このとき、写像
は(畳み込み積の定義により)線形写像になる。
そこで、の標準基底に関する表現行列を考える。を第項がの単位ベクトルとすると
だから
であり、の表現行列は次のようになる。
一般に、このような形で書ける行列を巡回行列という。
ここで、唐突ではあるがを対角化しよう。固有方程式は次のとおりである。
まず、第1列に他の列をすべて足すと、第1列に表れる項はすべてになる。したがって、のとき第1列は0ベクトルになるので、これは解の1つである。つまり、の固有値の1つはである。
ここで第1列に、第2列に、第3列に……を掛ける。ただしである。すると
である。
次に、第1行に、第2行に、第3行に……を掛ける。
これは、とおくとの固有方程式である。の固有値の1つにがあったから、の固有値の1つに
がある。したがって、の個の固有値
が得られた。各に属する固有ベクトルは
により、定数倍の違いを除いて
である。は線形独立なので、行列では対角化できる。ところが、なので
である。ただし
である。
さて
だから、左辺にを掛けて
である。よって次式が成り立つ。