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大学数学基礎解説
文献あり

『代数函数論』の定理1.2と定理1.3について

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はじめに

ごめんなさい.定理1.2の証明はしません.一つ目の理由は,証明にあまり難しいところがないと判断したからです.『代数函数論』を読めば分かると判断したので.気になる方は各自やっていただきたいです.2つ目の理由として,例1と例2を血肉にした方が後できっと役に立つだろうと思うからです.代数的整数論とのかかわり・後で出てくる代数函数体の初等的な例の方が大事だと思いました.それではやっていきましょう.

定理1.2

ν1,,νnを相異なるKの正規付値とする.このとき,
A={xK|νi(x)0(i)}
pi={aA|νi(a)>0}
と置いたとき,
(1)AKの部分環で,Kの任意の元はAの2つの元の商として書ける.
(2)piAの素イデアルで,KにおけるAの任意の分数イデアルII=p1e1p2e2pnen
という形に一意的に分解できる.
(3)とくに,Kの元cに対して,(c)=p1e1p2e2pnenとすれば,νi(c)=eiが成り立つ.

デデキント環の素イデアル分解に似ていますね.形としては参考書[1]の補題1.2を拡張したものといった雰囲気がします.でも,代数的整数環なんかは無限個の素イデアルがあったので(あるよね?),この命題だとなんだか満足できない気がします.そして定理1.3があるのです.

定理1.3

とりあえず,以下の事実を証明なしに使います(証明が難しそうなのでいつかちゃんとやりたいです(泣))

整域Rについて,以下は同値.
(1)Rは一次元ネーター整閉整域である.
(2)R0でないすべての分数イデアルは可逆である.

これらの同値な条件をみたす整域をデデキント環といいます.
これによって,次の命題においてA/pが体になってくれます.

Kを体Aをその部分環とする.これについて以下の二条件が成り立つとする.

  1. Kの任意の元はAの元の商で表される.
  2. KにおけるAの任意の分数イデアルはAの素イデアルの積に一意的に分解され,かつ,(KにおけるAの任意の分数イデアルは)可逆である.

(→つまり,Aをデデキント環とする.ということ.ですよね?)
このとき,pを任意のAの素イデアルとし,Kの元aについて,(a)がきっかりpnで割り切れるときνp(a)=nとすれば,これはKの一つの正規付値を与え(これをp進付値という),その剰余体はA/pと同型である.

分かりにくかったところだけ.
A/pに考察を移せば,かならず可逆元があることから,a2b=1(A/p)となる元bが存在します.よってa2b1(modp)となるbAが存在します.ca1b=a!/a2a1b=a1/a2×(1a2b)p1.よって,c=((ca1b)+a1b)A+p1
ここ以外は分かるはずです.

例2で使うので書くだけ書いておきます.証明は文献[1]を参照してください.

AKを商体に持つデデキント環とする.このとき,任意のAの元に対し付値が0以上であるようなKの付値は,必ず適当なAの素イデアルpに関するp進付値と同値である.

例1

代数的整数環はデデキント環だったので,任意の素イデアルからその代数体の付値を定めることができます.簡単で大切な例を見てみましょう.
K=Q,A=Zの場合,素イデアルは(0)もしくは(p)pは素数)という形をしていました.(0)進付値はちょっと考えにくいのでこれは除外して考えます.(p)進付値.簡単にp進付値としておきましょうか.これは任意のa/bQ(b0,a,bは互いに素)に対してpでどれだけわれるかを返すものとしてみることができます.例えば,3進付値ν3を考えると,ν3(6/5)=1,ν3(5/6)=1のようになります.νpの付値環はZ(p)による局所化,剰余体はZ/pZとなります.

例2

K=k(x)の正規付値を考えます.k0以外のすべての元に対してν(a)=0となるものを考えます.ν(x)さえ決まればいいので,これについて条件を見ていきます.ν(x)0とすれば,任意の多項式は0以上.k[x]は単項イデアル整域だからデデキント環なので(証明はいつかします.文献[2]149ページ),定理4よりνk[x]の一つの素イデアルから得られます.
ν(x)<0なら,ν(1/x)>0より,νk[1/x]の素イデアルから得ることができる(ここでもk[1/x]が単項イデアル整域.よってデデキント環であることを使った).この素イデアルは1/xを含むので,(1/x)のみであることが分かります.
kが代数閉体の時はk[x]の素イデアルは(xα)の形をしています.さっき求めたk[1/x]の素イデアルはこのような形にかけないです.教科書では前者の付値をνα,後者の付値をνと書いています.
なんだかリーマン球面(複素平面に一点(無限遠点)を付け加えてコンパクト化した空間)と似た雰囲気がしていますね.

おわりに

やーーっと§1が終わりました.もし間違いがあれば教えて頂ければ幸いです.ここまで見ていただきありがとうございました.感想ですが,代数幾何(スキーム論)で素イデアルがなぜ大事なのかが分かった気がしました(今回は単項イデアル整域しか例では扱いませんでしたが).ハーツホーンの「はじめに」でもあるのですが,「1次元正則スキーム」の例として大事なものに,代数的整数環,コンパクトリーマン面があると言っていたので,こういう例を通して,代数幾何に親しんでいけたらと思います.それでは.

参考文献

[1]
岩澤健吉, 代数函数論
[2]
Atiyah-MacDonald(新妻弘訳), 可換代数入門
投稿日:20241023
OptHub AI Competition

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投稿者

数学と物理に関心がありつつ、現在はセキュリティ分野の資格取得・業務経験の獲得を通じて、将来的には研究と実務の両立を目指しています。

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