0
大学数学基礎解説
文献あり

『代数函数論』の補題1.2を示そう

22
0

はじめに

細かく分けて示していきます.(本を持っていらっしゃる方向けに)o-idealってなんだよってね.思いませんでしたか?僕は思いましたよ(泣).以前の記事で示した事実も使っていきますので良ければご参照ください.

ちょっと準備

以下の議論で必要になるので,次のように定義します.

付値環(参考文献[2]の96ページ)

整域R付値環であるとは,その商体Lの各元xについてxRならば1/xRが成り立つことをいう.

付値環の一般論として,次が成り立ちます.

付値環RのイデアルI,JについてIJまたはIJが成り立つ.特に,極大イデアルが一つしかないので付値環は局所環である.

xIかつxJとすれば,任意の0yJについて,x/yRではありえない.なぜなら,これが成り立つとすると,Jがイデアルなので,x=(x/y)yJとなり,仮定に矛盾してしまうからである.よってx/yRRは付値環だからy/xR.よってy=(y/x)xI.ゆえにJIが成り立つ.

本題-1

以下,νを体Kにおける自明でないdiscreteな指数付値とします.

A={xK|ν(x)0}と置いたとき,これはKの部分環である.

任意のx,yAについてν(xy)min(ν(x),ν(y))=min(ν(x),ν(y))0ν(xy)=ν(x)+ν(y)0より明らか.

xKAならばν(x)<0を満たすので,ν(1/x)=ν(x)>0となり,1/xAですね.AKの部分環なので整域.また,KAの商体でもあることも,商体がAを含む最小の体であることからすぐに分かります.よってAは定義1の意味で付値環です.

本題-2

p={xK|ν(x)>0}Aの素イデアルである.

イデアルになることは命題2と同様にしてわかる.xypならばν(x)0,ν(y)0,ν(x)+ν(y)=ν(xy)>0より,ν(x)>0またはν(y)>0.よってpは素イデアルである.

実は以下が成り立ちます.

pAの極大イデアルである.

Aが定義1の意味で局所環なので,Aの極大イデアルをmとしたとき.pmです.pmと仮定すると,ν(x)=0を満たすxmが存在することが分かります.ν(1/x)=ν(x)=0より,xAの可逆元です.これはmが極大イデアルであることに矛盾します.よって命題が証明されました.

さらに,次のこともわかります.ここで,ννに属する正規付値νに取り換えてもApは変わらないので,出てくる付値は正規付値として考えます.

AはPID(単項イデアル整域)である.

νKにおける正規付値とします.
IAの自明でない任意のイデアルとすれば,{ν(x)|0xI}0より大きい整数の集合なので最小値を持ちます.それをnとし,ν(x)=nを満たすxIを取っておきます.νは正規付値なので,tAν(t)=1を満たすものもあります.よって,{ν(x)|0xI}n以上のすべての整数の集合であることが分かりますね(ν(tx)=n+1より帰納的に).すると,任意のzIについてν(z)=n+mとすれば,ν(z)=ν(tmx)で,ν(z/(tmx))=0よって,Aの単元uがあってz=utmxと分かる.よってI=(x)です.

命題5があれば命題4いらないじゃんと思うかもしれませんが,その通りです.深い意味はありません.ただ,命題5を示すのに命題4がいるかなと思っていたら別にそうでもなかったというだけの話です.せっかく証明を書いたので記念に残しています.

本題-3

 次に文献[1]の謎の単語o-idealについての話をします.これは要するに分数イデアルのことであると思われます.定義しておきましょう.

分数イデアル

Rを整域,Kをその商体とする.このとき,K0でない部分R-加群IR分数イデアルであるとは,0でないKの元cが存在してcIRを満たすことである.

代数的整数論の文脈でよく見る単語ですが,付値論でも出てくるのですね.

さて,次が成り立ちます.以下でもνは正規付値としてます.

Aの分数イデアルapの冪として一意的に表される.

Aの分数イデアルa0でないKの元cが存在して,caAをみたす.ν(c)Zν(xy)=ν(x)+ν(y)より{ν(x)|xa}には最小値がある.それをnとする.n=ν(a0)をみたすa0aを取っておく.νは正規付値なのでν(t)=1をみたすtpを取っておく.するとν(tn/a0)=0.よってtn/a0A.これをbとおくと,tn=ba0a.ゆえに(tn)a.一方,任意のaaについて,ν(a/tn)0.よってa/tnA.これをbとおくとa=btn(tn).よってa(tn).ゆえにa=(tn)=(t)n.特に,a=pの時を考えれば,p=(t)が分かるので,a=pnである.一意性はp=(t)であることから明らかであろう.

終わりに感想をちょっと

結構難しいものですね.ここまで見ていただいてありがとうございます.

参考文献

[1]
岩澤健吉, 代数函数論
[2]
松村英之, 可換環論
投稿日:20241019
更新日:20241022
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

はじめまして!楽しい記事を書ければと思いますので、よろしくお願いします。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. ちょっと準備
  3. 本題-1
  4. 本題-2
  5. 本題-3
  6. 終わりに感想をちょっと
  7. 参考文献