はじめに
細かく分けて示していきます.(本を持っていらっしゃる方向けに)-idealってなんだよってね.思いませんでしたか?僕は思いましたよ(泣).以前の記事で示した事実も使っていきますので良ければご参照ください.
ちょっと準備
以下の議論で必要になるので,次のように定義します.
付値環(参考文献[2]の96ページ)
整域が付値環であるとは,その商体の各元についてならばが成り立つことをいう.
付値環の一般論として,次が成り立ちます.
付値環のイデアルについてまたはが成り立つ.特に,極大イデアルが一つしかないので付値環は局所環である.
かつとすれば,任意のについて,ではありえない.なぜなら,これが成り立つとすると,がイデアルなので,となり,仮定に矛盾してしまうからである.よって.は付値環だから.よって.ゆえにが成り立つ.
本題-1
以下,を体における自明でないdiscreteな指数付値とします.
ならばを満たすので,となり,ですね.はの部分環なので整域.また,はの商体でもあることも,商体がを含む最小の体であることからすぐに分かります.よっては定義1の意味で付値環です.
本題-2
イデアルになることは命題2と同様にしてわかる.ならばより,または.よっては素イデアルである.
実は以下が成り立ちます.
が定義1の意味で局所環なので,の極大イデアルをとしたとき.です.と仮定すると,を満たすが存在することが分かります.より,はの可逆元です.これはが極大イデアルであることに矛盾します.よって命題が証明されました.
さらに,次のこともわかります.ここで,をに属する正規付値に取り換えてもやは変わらないので,出てくる付値は正規付値として考えます.
をにおける正規付値とします.
をの自明でない任意のイデアルとすれば,はより大きい整数の集合なので最小値を持ちます.それをとし,を満たすを取っておきます.は正規付値なので,でを満たすものもあります.よって,は以上のすべての整数の集合であることが分かりますね(より帰納的に).すると,任意のについてとすれば,で,よって,の単元があってと分かる.よってです.
命題5があれば命題4いらないじゃんと思うかもしれませんが,その通りです.深い意味はありません.ただ,命題5を示すのに命題4がいるかなと思っていたら別にそうでもなかったというだけの話です.せっかく証明を書いたので記念に残しています.
本題-3
次に文献[1]の謎の単語-idealについての話をします.これは要するに分数イデアルのことであると思われます.定義しておきましょう.
分数イデアル
を整域,をその商体とする.このとき,のでない部分-加群がの分数イデアルであるとは,0でないの元が存在してを満たすことである.
代数的整数論の文脈でよく見る単語ですが,付値論でも出てくるのですね.
さて,次が成り立ちます.以下でもは正規付値としてます.
の分数イデアルはでないの元が存在して,をみたす.とよりには最小値がある.それをとする.をみたすを取っておく.は正規付値なのでをみたすを取っておく.すると.よって.これをとおくと,.ゆえに.一方,任意のについて,.よって.これをとおくと.よって.ゆえに.特に,の時を考えれば,が分かるので,である.一意性はであることから明らかであろう.
終わりに感想をちょっと
結構難しいものですね.ここまで見ていただいてありがとうございます.