細かく分けて示していきます.(本を持っていらっしゃる方向けに)$\mathfrak{o}$-idealってなんだよってね.思いませんでしたか?僕は思いましたよ(泣).以前の記事で示した事実も使っていきますので良ければご参照ください.
以下の議論で必要になるので,次のように定義します.
整域$R$が付値環であるとは,その商体$L$の各元$x$について$x\notin R$ならば$1/x\in R$が成り立つことをいう.
付値環の一般論として,次が成り立ちます.
付値環$R$のイデアル$I,J$について$I\subset J$または$I\supset J$が成り立つ.特に,極大イデアルが一つしかないので付値環は局所環である.
$x\in I$かつ$x\notin J$とすれば,任意の$0\neq y\in J$について,$x/y\in R$ではありえない.なぜなら,これが成り立つとすると,$J$がイデアルなので,$x=(x/y)\cdot y\in J$となり,仮定に矛盾してしまうからである.よって$x/y\notin R$.$R$は付値環だから$y/x\in R$.よって$y=(y/x)\cdot x\in I$.ゆえに$J\subset I$が成り立つ.
以下,$\nu$を体$K$における自明でないdiscreteな指数付値とします.
$A=\{x\in K|\nu(x)\geq 0\}$と置いたとき,これは$K$の部分環である.
任意の$x,y\in A$について$\nu(x-y)\geq\text{min}(\nu(x),\nu(-y))=\text{min}(\nu(x),\nu(y))\geq0$,$\nu(xy)=\nu(x)+\nu(y)\ge0$より明らか.
$x\in K\backslash A$ならば$\nu(x)<0$を満たすので,$\nu(1/x)=-\nu(x)>0$となり,$1/x\in A$ですね.$A$は$K$の部分環なので整域.また,$K$は$A$の商体でもあることも,商体が$A$を含む最小の体であることからすぐに分かります.よって$A$は定義1の意味で付値環です.
$\mathfrak{p}=\{x\in K|\nu(x)>0\}$は$A$の素イデアルである.
イデアルになることは命題2と同様にしてわかる.$xy\in \mathfrak{p}$ならば$\nu(x)\ge 0,\nu(y)\geq 0,\nu(x)+\nu(y)=\nu(xy)>0$より,$\nu(x)>0$または$\nu(y)>0$.よって$\mathfrak{p}$は素イデアルである.
実は以下が成り立ちます.
$\mathfrak{p}$は$A$の極大イデアルである.
$A$が定義1の意味で局所環なので,$A$の極大イデアルを$\mathfrak{m}$としたとき.$\mathfrak{p}\subset\mathfrak{m}$です.$\mathfrak{p}\subsetneq\mathfrak{m}$と仮定すると,$\nu(x)=0$を満たす$x\in\mathfrak{m}$が存在することが分かります.$\nu(1/x)=-\nu(x)=0$より,$x$は$A$の可逆元です.これは$\mathfrak{m}$が極大イデアルであることに矛盾します.よって命題が証明されました.
さらに,次のこともわかります.ここで,$\nu$を$\nu$に属する正規付値$\nu^*$に取り換えても$A$や$\mathfrak{p}$は変わらないので,出てくる付値は正規付値として考えます.
$A$はPID(単項イデアル整域)である.
$\nu$を$K$における正規付値とします.
$I$を$A$の自明でない任意のイデアルとすれば,$\{\nu(x)|0\neq x\in I\}$は$0$より大きい整数の集合なので最小値を持ちます.それを$n$とし,$\nu(x)=n$を満たす$x\in I$を取っておきます.$\nu$は正規付値なので,$t\in A$で$\nu(t)=1$を満たすものもあります.よって,$\{\nu(x)|0\neq x\in I\}$は$n$以上のすべての整数の集合であることが分かりますね($\nu(tx)=n+1$より帰納的に).すると,任意の$z\in I$について$\nu(z)=n+m$とすれば,$\nu(z)=\nu(t^mx)$で,$\nu(z/(t^mx))=0$よって,$A$の単元$u$があって$z=ut^m x$と分かる.よって$I=(x)$です.
命題5があれば命題4いらないじゃんと思うかもしれませんが,その通りです.深い意味はありません.ただ,命題5を示すのに命題4がいるかなと思っていたら別にそうでもなかったというだけの話です.せっかく証明を書いたので記念に残しています.
次に文献[1]の謎の単語$\mathfrak{o}$-idealについての話をします.これは要するに分数イデアルのことであると思われます.定義しておきましょう.
$R$を整域,$K$をその商体とする.このとき,$K$の$0$でない部分$R$-加群$I$が$R$の分数イデアルであるとは,0でない$K$の元$c$が存在して$cI\subset R$を満たすことである.
代数的整数論の文脈でよく見る単語ですが,付値論でも出てくるのですね.
さて,次が成り立ちます.以下でも$\nu$は正規付値としてます.
$A$の分数イデアル$\mathfrak{a}$は$\mathfrak{p}$の冪として一意的に表される.
$A$の分数イデアル$\mathfrak{a}$は$0$でない$K$の元$c$が存在して,$c\mathfrak{a}\subset A$をみたす.$\nu(c)\in\mathbb{Z}$と$\nu(xy)=\nu(x)+\nu(y)$より$\{\nu(x)|x\in\mathfrak{a}\}$には最小値がある.それを$n$とする.$n=\nu(a_0)$をみたす$a_0\in\mathfrak{a}$を取っておく.$\nu$は正規付値なので$\nu(t)=1$をみたす$t\in\mathfrak{p}$を取っておく.すると$\nu(t^n/a_0)=0$.よって$t^n/a_0\in A$.これを$b$とおくと,$t^n=ba_0\in\mathfrak{a}$.ゆえに$(t^n)\subset\mathfrak{a}$.一方,任意の$a'\in\mathfrak{a}$について,$\nu(a'/t^n)\geq 0$.よって$a'/t^n\in A$.これを$b'$とおくと$a'=b't^n\in(t^n)$.よって$\mathfrak{a}\subset(t^n)$.ゆえに$\mathfrak{a}=(t^n)=(t)^n$.特に,$\mathfrak{a}=\mathfrak{p}$の時を考えれば,$\mathfrak{p}=(t)$が分かるので,$\mathfrak{a}=\mathfrak{p}^n$である.一意性は$\mathfrak{p}=(t)$であることから明らかであろう.
結構難しいものですね.ここまで見ていただいてありがとうございます.