どうも,∃数学徒です.皆さんは初めて集合と写像について学び,偶数と自然数の濃度が等しいということを知ったとき,こうは思いませんでしたか?
そんな訳無いだろう
だって明らかに偶数の"量"÷自然数の"量"は$\frac{1}{2}$ですもん.
自然数の50%が偶数だと言われて然るべきだ!と思いませんでしたか?
濃度という概念それ自体は否定しませんが何か別の無限集合を比べる手法が欲しいところです.
これらの悩みを自然密度が解決してくれます.
1,自然密度の定義
2,具体的な結果
3,自然密度の意義を少し考察
1,自然密度の定義
A$\subset \mathbb{N}$に対して,Aの自然密度d(A)は以下で定義される.
d(A)=$\lim_{n \to \infty} \frac{ \left| [1,n]∩A \right| }{n} $
[1,n]は閉区間とし,$\left| [1,n]∩A \right|$は[1,n]∩Aの元の個数を表しているものとする.
極限値が存在するとは限らない
イメージとしてはlimの中身で1からnまでの自然数のうちのAの元の割合を計算して,nを無限大に飛ばすことで自然数全体のAの割合を出すみたいな感じです.無限集合を比べると言っておきながら,これでは自然数と自然数の部分集合しか比べられませんがね.
一般の集合に対しても使えるのが濃度という概念の良いところと言えますね.
2,具体的な結果
まず,自然数の集合$\mathbb{N}$の自然密度は1です.これは当然成り立ってほしい性質と言えるでしょう.
偶数の自然密度が$\frac{1}{2}$であることが簡単に分かるでしょう.より一般に,公差a$\in \mathbb{N}$の等差数列の項全体の集合の自然密度は初項に関わらず$\frac{1}{a}$であることが知られています.つまり,すごく大きい場所を中心に見ているわけです.最初の方はあまり関係ありません.
素数全体の集合を$\mathcal{P}$とすれば,d($\mathcal{P}$)=0であることも素数定理から示せます.(素数定理を使わなくても示せるらしいですが詳しいことは知りません)
また,平方数や立方数,一般にn乗数の自然密度はそれぞれ0であることが簡単に分かります.
3,自然密度の意義を少し考察
さっきから自然密度が0などと言っていますが,それはつまり何を意味しているのでしょうか?
いわば平方数の自然密度とは自然数の中の平方数の"割合"なわけですから,すっっごくたくさんの自然数が書かれた紙が入っている箱の中からランダムに紙を選べば,平方数が書いている確率はほぼ0であるということなのでしょう.
しかし他に数学的意義はないのでしょうか?そうしていくうちに次の命題を思いつきました.既知かもしれません.
$\lbrace a_{n} \rbrace$を狭義単調増加な自然数列とする.$\lbrace a_{n} \rbrace$の項全体の集合をAとする.
d(A)=0$\Rightarrow$$\max_{k \in \mathbb{N} }$$a_{k+1} - a_{k}$が存在しない.
d(A)=0かつ$\max_{k \in \mathbb{N} }$$a_{k+1} - a_{k}$が存在すると仮定する.
$\max_{k \in \mathbb{N} }$$a_{k+1} - a_{k}$=Mとおく.数列$\lbrace m_{n} \rbrace$を初項$a_{1}$,公差Mの等差数列とする.数列$\lbrace m_{n} \rbrace$の項全体の集合を$\mathcal{M}$とする.Aは$\mathcal{M}$より"密"に詰まっているという感覚だ.
$\lbrace a_{n} \rbrace$が狭義単調増加であるから,
$\forall n \in \mathbb{N}$,$\left| [1,n]∩A \right|$$\geqq$$\left| [1,n]∩ \mathcal{M} \right|$
したがって,d(A)$\geqq$d($\mathcal{M}$)$=$$\frac{1}{M}$$\gt$0
d(A)$=$0に矛盾し,命題が示される.
さて,素数全体の集合の密度が0であったことを思い出す.すると,今の命題から,無限に長い素数砂漠が存在することが分かります.この事実は既知で,多くの証明が存在していますが,自然密度からも示されるのは面白いですね.また,自然密度が数学的に意義のあるものだと言えるのではないでしょうか?
自然密度は色々拡張しがいがありそうです.(実は既に拡張していますが,面白そうだったらまた記事にします.面白すぎたら独り占めしてしまうかもしれません.)
読んでくれてありがとうございました.