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大学数学基礎解説
文献あり

Gaussの超幾何定理の積分表示を用いない証明

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Gaussの超幾何定理の積分表示を用いない証明を紹介します. 超幾何定理の証明としては積分表示を使うものを紹介されることが多いですが, 積分表示を使うと, 級数と積分の入れ替えや積分と極限の入れ替えを行う必要があり, 議論を細かく詰めるのが難しくなってしまいます. そこで, 本記事では級数の変形において少し工夫を行うことで, 級数の範囲内で議論を完結させ, 超幾何定理を証明します.
なお, この証明方法はDuverneyを参考にしました.

定理の主張

複素数αおよび自然数nに対して, (α)nを次のように定める.
(α)n={1(n=0),(α+n1)(α)n1(n>0)

複素数α, β, γ, zに対して, γ0,1,2,のとき,
F(α,βγ;z):=n=0(α)n(β)n(γ)nn!zn.

複素数α, β, γγ0,1,およびRe(γαβ)>0をみたすとき,
F(α,βγ;1)=Γ(γ)Γ(γαβ)Γ(γα)Γ(γβ).

補題

qNのとき, (p)n(q)n=Γ(q)Γ(p)npq(1+O(1n)).

Stirlingの公式より, Γ(p+n)=(p+ne)p+n2πp+n(1+O(1n))であるため,
(p)n(q)n=Γ(q)Γ(p)Γ(p+n)Γ(q+n)=Γ(q)Γ(p)eqpnpq(1+pn)p+n(1+qn)q+nq+np+n(1+O(1n))=Γ(q)Γ(p)npq(1+O(1n)).

α,β,γCかつγNかつRe(γαβ)>0のとき
(γα)(γβ)F(α,βγ+1;1)=γ(γαβ)F(α,βγ;1).

(γα)(γβ)F(α,βγ+1;1)=n=0(γα)(γβ)(α)n(β)n(γ+1)nn!=n=0(γα)((γ+n)(β+n))(α)n(β)n(γ+1)nn!=n=0(γ(γα)(α)n(β)n(γ)nn!(γα)(α)n(β)n+1(γ+1)nn!),
γ(γαβ)F(α,βγ;1)=n=0γ(γαβ)(α)n(β)n(γ)nn!=n=0(γ(γα)(α)n(β)n(γ)nn!γβ(α)n(β)n(γ)nn!)
である. ここで,
(α)n(β)n(γ)nn!=O(n1(γαβ)),
(α)n(β)n+1(γ+1)nn!=O(n1(γαβ))
より, 上の2式で和の順序を交換することができ,
n=0(γα)(α)n(β)n+1(γ+1)nn!=n=0γβ(α)n(β)n(γ)nn!
を示すことに帰着できる.
n=0γβ(α)n(β)n(γ)nn!=n=0γ(β+nn)(α)n(β)n(γ)nn!=n=0(γ(α)n(β)n+1(γ)nn!γ(α)n(β)n(γ)n(n1)!)
であり,
(α)n(β)n+1(γ)nn!=O(n(γαβ)),
(α)n(β)n(γ)n(n1)!=O(n(γαβ))
および, limnan=limnbn=0かつn=0(anbn)が収束するとき, n=0(anbn+1)も収束してn=0(anbn+1)=b0+n=0(anbn)であることを用いると,
n=0(γ(α)n(β)n+1(γ)nn!γ(α)n(β)n(γ)n(n1)!)=n=0(γ(α)n(β)n+1(γ)nn!γ(α)n+1(β)n+1(γ)n+1n!)=n=0(γ(γ+n)γ(α+n))(α)n(β)n+1(γ)n+1n!=n=0(γα)(α)n(β)n+1(γ+1)nn!
となる.
したがって, 補題3が示された.

α,β,γCかつγNのとき,
limmF(α,βγ+m;1)=1.

N>max{Re(α),Re(β),Re(γ)}となるようにNZ+をとる.
F(α,βγ+m;1)=n=0(α)n(β)n(γ+m)nn!=n=0N1(α)n(β)n(γ+m)nn!+n=N(α)n(β)n(γ+m)nn!
であり, 第1項はmにおいて1に収束する.
また, 第2項は
n=N(α)n(β)n(γ+m)nn!=n=0(α)N+n(β)N+n(γ+m)N+n(N+n)!=(α)N(β)N(γ+m)NN!n=0(α+N)n(β+N)n(γ+m+N)n(1+N)n
である.
ここで, α=Re(α)+|Im(α)|, β=Re(β)+|Im(β)|, γ=Re(γ)とおき, γ+m0αβ>0となるようにm0Nをとる.
mm0のとき,
|(α+N)n(β+N)n(γ+m+N)n(1+N)n|(α+N)n(β+N)n(γ+m+N)n(1+N)n(α+N)n(β+N)n(γ+m0+N)n(1+N)n
であることから
|n=0(α+N)n(β+N)n(γ+m+N)n(1+N)n|n=0(α+N)n(β+N)n(γ+m0+N)n(1+N)n<
であり, また, mにおいて(α)N(β)N(γ+m)NN!0であるため,
n=N(α)n(β)n(γ+m)nn!0(m)
がわかる.
したがって, 補題4が示された.

超幾何定理の証明

補題2, 補題3, 補題4を使うことで超幾何定理を示すことができます.

補題3を繰り返して用いると, nNに対して
F(α,βγ;1)=(γα)n(γβ)n(γ)n(γαβ)nF(α,βγ+n;1)
がわかる.
右辺においてnとすると, 補題2および補題4より,
limn(γα)n(γβ)n(γ)n(γαβ)nF(α,βγ+n;1)=Γ(γ)Γ(γαβ)Γ(γα)Γ(γβ)
である.
したがって,
F(α,βγ;1)=Γ(γ)Γ(γαβ)Γ(γα)Γ(γβ)
が示された.

参考文献

[1]
Daniel Duverney, An Introduction to Hypergeometric Functions, Birkhaeuser, 2024
投稿日:13日前
更新日:13日前
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  2. 補題
  3. 超幾何定理の証明
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