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東大数理院試過去問解答例(2024B10)

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ここでは東大数理の修士課程の院試の2024B10の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

解答と問題を上げる前にこの問題ではフーリエ変換とその性質をフルに使っていくのでそのおさらいをします。

絶対可積分関数$f:\mathbb{R}\to\mathbb{C}$に対して、$f$フーリエ変換
$$ {\color{red}\widehat{f}}(\xi):=\int_{-\infty}^\infty f(x)e^{-2\pi i\xi x}dx $$
で定める。

以下フーリエ変換の性質を述べていきます。但し
$$ L_p(\mathbb{R}):=\left\{f:\mathbb{R}\to\mathbb{C}\middle|\int_{-\infty}^\infty|f(x)|^pdx<\infty\right\} $$
$$ (f\ast g)(x):=\int_{-\infty}^\infty f(x-y)g(y)dy $$
と定義します。$f\ast g$$f,g$畳み込み積と言って、$\frac{1}{p}+\frac{1}{q}=1+\frac{1}{r}$なる$ p,q,r\in[1,\infty]$に対して$L_p(\mathbb{R})$の元と$L_q(\mathbb{R})$の元の畳み込み積は$L_r(\mathbb{R})$の元になります。

  1. フーリエ変換は単射線型準同型$L_1(\mathbb{R})\hookrightarrow L_\infty(\mathbb{R})$を定義し、任意の$f\in L_1(\mathbb{R})$に対して$f$は一様連続であり、極限
    $$ \lim_{|\xi|\to\infty}|\widehat{f}(\xi)|=0 $$
    が満たされている。
  2. $L_2(\mathbb{R})\cap L_1(\mathbb{R})$上ではフーリエ変換に等しくなるようなユニタリ作用素$L_2(\mathbb{R})\simeq L_2(\mathbb{R})$が一意に存在する(以下この同型による$f$の像も$\widehat{f}$と表記し、$f$フーリエ変換と呼ぶ)。
  3. 任意の$f\in L_1(\mathbb{R})$及び$g\in L_2(\mathbb{R})$に対して等式
    $$ \widehat{f}\widehat{g}=\widehat{f\ast g} $$
    が成り立つ。

これらの証明は色々なところに転がっているので省略します。フーリエ変換のおさらいは以上です。

ここから問題の証明......といきたいところですがもう一つ補題を示します。

任意の$f\in L_1(\mathbb{R})$に対し不等式
$$ \left|\int_{-\infty}^\infty f(x)dx\right|\leq\int_{-\infty}^\infty|f(x)|dx $$
が成り立つ。この不等式の等号が成立するのは$f$の偏角が殆ど至る所定数であるときであり、またそのときに限る。

初めに$\theta$
$$ \left|\int_{-\infty}^\infty f(x)dx\right|=e^{i\theta}\int_{-\infty}^\infty f(x)dx $$
を満たすようにとる。このとき
$$ \begin{split} \left|\int_{-\infty}^{\infty} f(x)dx\right|&=e^{i\theta}\int_{-\infty}^\infty f(x)dx\\ &=\int_{-\infty}^\infty e^{i\theta}f(x)dx\\ &=\int_{-\infty}^\infty \mathrm{Re}\left(e^{i\theta}f(x)\right)dx\\ &\leq \int_{-\infty}^\infty |e^{i\theta}f(x)|dx&=\int_{-\infty}^\infty |f(x)|dx\\\\ \end{split} $$
であるから不等式が示せた。そしてこの不等式の等号が成り立つには固定した$\theta$に対して殆ど至る所
$$ \mathrm{Re}\left(e^{i\theta}f(x)\right)=|e^{i\theta}f(x)| $$
を満たすことが必要充分であることがわかり所望の結果が従う。

ここから問題を述べ、それを示していきます。

2024B10

$f\in L_1(\mathbb{R})$に対して以下の条件(i)(ii)は同値であることを示しなさい。

  1. $\sup_{\|g\|_2=1}\|f\ast g\|_2=\|f\|_1$
  2. ある非負関数$r$及び実数$s,t$が存在して、$\mathbb{R}$上殆ど至る所$f(x)=r(x)e^{i(sx+t)}$である。

但し
$$ \|f\|_p:=\left(\int_{-\infty}^\infty |f(x)|^pdx\right)^{\frac{1}{p}} $$
と定義し、また条件(i)に於いて$g$$\|g\|_2=1$なる$L_2(\mathbb{R})$の元全体を走っているものとする。

まず補題1(2)(3)を用いることで、不等式
$$ \begin{split} \sup_{\|g\|_2=1}\|f\ast g\|_2&=\sup_{\|g\|_2=1}\|\widehat{f\ast g}\|_2\\ &=\sup_{\|g\|_2=1}\|\widehat{f}\widehat{g}\|_2\\ &=\sup_{\|g\|_2=1}\|\widehat{f}{g}\|_2\\ &=\|\widehat{f}\|_\infty&\leq\|f\|_1 \end{split} $$
が成り立っていることがわかる。よって(i)は最後の不等式が実は等号になっていることと同値である。ここで補題1(1)より
$$ \|\widehat{f}\|_\infty:=\sup_{\xi\in\mathbb{R}}\left|\int_{-\infty}^\infty f(x)e^{-2\pi ix\xi}dx\right|=\max_{\xi\in\mathbb{R}}\left|\int_{-\infty}^\infty f(x)e^{-2\pi ix\xi}dx\right| $$
$$ \|f\|_1=\int_{-\infty}^\infty|f(x)|dx $$
であるから、補題2と合わせて、上の不等式に於ける等号が成立するためには、上記の$\infty$ノルムの式の右辺に於ける最大値を実現するような$\xi$及びある$t$について殆ど至る所
$$ f(x)e^{-2\pi i(x\xi+t)}=|f(x)| $$
が満たされていることが必要充分であることがわかる。よって(i)と(ii)の同値性が示せた。

投稿日:617
更新日:620

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藍色の日々。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。リンクはX(旧Twitter)アカウント

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