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大学数学基礎解説
文献あり

リー代数1.3.1 可解リー代数と巾零リー代数

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可解性

可解性の定義

(導来列)

 LLie代数とする。Lのイデアルの列を次で定める。

 L(0):=L,L(1):=[L,L],,L(k+1):=[L(k),L(k)]

 L(0)L(1)L(k)L導来列(derived series)という。

 [L,L]=Span{[x,y]L|x,yL}である。

(可解リー代数)

 LLie代数とする。
 L可解(solvable)であるとは、あるnNが存在して、L(n)={0}となることをいう。

 Lが可換Lie代数のとき、L(1)={0}より、Lは可解である。
 Lが非可換単純Lie代数のとき、L(k)=Lより、Lは可解でない。

 可換、非可換単純の場合は、極端な例であるので、より一般的な例を見ていく。

上三角行列の可解性

 上三角行列の全体tn(F):={Xgln(F)|xij=0(i>j)}は可解である。

 定理の証明のためにいくつか準備していく。

[tn(F),tn(F)]=nn(F):={Xgln(F)|xij=0(ij)}(狭義上三角行列の全体)

 X=(xij),Y=(yij)を上三角行列とする。
 tn(F)Lie代数なので、[X,Y]=XYYXは上三角行列である。
 特に、対角成分を計算すると、上三角であることから、
[X,Y]kk=l=1n(xklylkyklxlk)=xkkykkxkkykk=0 対角成分はすべて0
 すなわち、[X,Y]nn(F) [tn(F),tn(F)]nn(F)

 行列単位 Eii,Eij(i<j)は上三角行列であり、[Eii,Eij]=Eijなので、nn(F)[tn(F),tn(F)]がわかる。

 次は、[nn(F),nn(F)]を求めていくわけだが、そのために新しく記号を定める。

 g:=gln(F)とする。gの部分線型空間gp,g(p)(pN)を次で定める。
 gp:=Span{Eij|ji=p},g(p):=Span{Eij|jip}

(この書き方は、佐藤肇先生のリー代数入門を参考にしているので、元の参考文献であるJames E. Humphreys先生の方には書かれおらず、"level"という言葉で書かれています。)

 g0=dn(F)={diag(a1,a2,,an)|ajF}(対角行列の全体)
 gp={0}(pn),g(0)=tn(F),g(1)=nn(F),g(p)=k=pn1gkとかける。

 Xgp,Ygq[X,Y]g(p+q)

 [Eij,Ekl]=δjkEilδliEkjを使う。
 Eijgp,Eklgqとすると、ji=p,lk=qである。

 li=(lk)+(kj)+(ji)=p+q+(kj)
 (li)+(jk)=p+q()

 j=kのとき ()より、li=p+qなので、
 li0のときは、[Eij,Ekl]=Eilg(p+q)であり、
 li=0のときは、[Eij,Eji]=EiiEjjg0

 i=lのときは、j=kのときと同様。
 
 jkかつilのときは、かっこ積は0となる。

 さて、基底に対して補題は正しいので、結局、補題がいえる。

逆に、Eij=[Eii+p,Ei+pj](j=i+p+q)も分かる。(ただし、p+q1

 g(p)は部分Lie代数であり、さらにp+q1ならば、[g(p),g(q)]=g(p+q)が成り立つ。

 補題3より、[g(p),g(p)]g(2p)g(p)なので、かっこ積で閉じているから、部分Lie代数である。
 補題3より、[g(p),g(q)]g(p+q)
 補題の逆により、[g(p),g(q)]g(p+q)の基底をすべて含むことがわかり、逆向きの包含関係がわかる。

命題4

 L:=tn(F)とすると、
 L(1)=g(1),L(2)=g(2),L(3)=g(4),,L(k)=g(2k1)

 すなわち、kが十分大きければ、L(k)={0}

 十分大きいkとは、具体的には、2k1nを満たすkのことである。
 
 以上で、定理1の証明ができた。

可解性の性質

 LLie代数とする。
 (i)Lが可解ならば、Lの部分Lie代数や準同型の像は、可解である。
 (ii)ILの可解なイデアルでL/Iも可解であるならば、Lも可解である。
 (iii)I,JLの可解なイデアルならば、I+Jも可解である。

 (i)MLの部分Lie代数とすると、M(k)L(k)が成り立つので、Lが可解ならば、Mも可解である。
 φ:LMを準同型とする。準同型の像を考えているので、M=Imφとしてよい。(すなわち、φは始めから全射準同型としてよい。)
 さて、φ(L(k))=M(k)を示す。k=0のときは、全射性より正しい。
 kのとき正しいと仮定すると、
 x,yL(k)とすると、φ([x,y])=[φ(x),φ(y)]であり、
 仮定より、φ(x),φ(y)M(k)なので、 [φ(x),φ(y)]M(k+1)
 φ(L(k+1))M(k+1)
 x,yM(k)をとり、[x,y]M(k+1)を考えると、
 仮定より、あるx,yL(k)が存在して、x=φ(x),y=φ(y)となる。
 このとき、[x,y]=[φ(x),φ(y)]=φ([x,y])なので、
 [x,y]L(k+1)より、φ([x,y])φ(L(k+1))
 M(k+1)φ(L(k+1))
 したがって、φ(L(k))=M(k)が成り立ち、Lが可解なら準同型の像Mも可解となる。
 (ii)L/Iが可解より、あるkが存在して、(L/I)(k)={0}
 π:LL/Iを標準的な全射(canonical homomorphism)とすると、
 (i)の結果から、π(L(k))={0} L(k)Kerπ=I
 Iが可解より、あるjが存在して、I(m)={0}
 (L(p))(q)=L(p+q)であるので、L(k+m)=(L(k))(m)I(m)={0}
 L(k+m)={0} すなわち、Lは可解である。
 (iii)同型(I+J)/JI/(IJ)を使う。
 まず、標準的な全射II/(IJ)を考えると、Iが可解よりその像であるI/(IJ)も可解である。したがって、それと同型である(I+J)/Jも可解である。
 J(I+J)/Jは可解であるから、(ii)の結果より、I+Jは可解である。 

根基と半単純

 LLie代数とする。
 このとき、Lの可解なイデアルで、極大なものがただ一つ存在する。

 (存在性){0}は明らかにLの可解なイデアル
 (一意性)SLの可解なイデアルで極大なものとする。
 このとき、任意のLの可解なイデアルIをとると、命題5(iii)より、
 S+ILの可解なイデアルで、特にSを含む。
 よって、Sの極大性によりS+I=SIS
 すなわち、極大なものはただ一つである。 

(根基)

 LLie代数とする。
 Lの極大可解イデアルをL根基(radical)といい、RadLとかく。

(半単純)

 LLie代数とする。
 RadL={0}であるとき、L半単純(semisimple)であるという。

 Lが非可換単純ならば、半単純である。
 なぜなら、Lが単純より、Lのイデアルは{0}またはLであり、
 非可換性より、Lは可解でないから、RadL={0}であるからLは半単純である。

 LLie代数とする。このとき、L/RadLは半単純である。

 L={0}のときは明らかなので、L{0}とする。
 背理法で示す。L/RadLが半単純でないとすると、L/RadL{0}でない可解なイデアルをもつ。
 つまり、LのイデアルIが存在して、I/RadLは可解となる。
 まず、I/RadL{0}より、RadLIである。
 I/RadLRadLは可解なので、命題5の(ii)より、Iも可解である。
 これは、RadLの極大性に矛盾する。従って、L/RadLは半単純である。

参考文献

[1]
James E. Humphreys, Introduction to Lie Algebras and Representation Theory
投稿日:110
更新日:123
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  1. 可解性
  2. 可解性の定義
  3. 上三角行列の可解性
  4. 可解性の性質
  5. 根基と半単純
  6. 参考文献