可解性
可解性の定義
(導来列)
を代数とする。のイデアルの列を次で定める。
をの導来列(derived series)という。
である。
(可解リー代数)
を代数とする。
が可解(solvable)であるとは、あるが存在して、となることをいう。
が可換代数のとき、より、は可解である。
が非可換単純代数のとき、より、は可解でない。
可換、非可換単純の場合は、極端な例であるので、より一般的な例を見ていく。
上三角行列の可解性
定理の証明のためにいくつか準備していく。
を上三角行列とする。
は代数なので、は上三角行列である。
特に、対角成分を計算すると、上三角であることから、
対角成分はすべて
すなわち、
行列単位 は上三角行列であり、なので、がわかる。
次は、を求めていくわけだが、そのために新しく記号を定める。
(この書き方は、佐藤肇先生のリー代数入門を参考にしているので、元の参考文献であるJames E. Humphreys先生の方には書かれおらず、"level"という言葉で書かれています。)
を使う。
とすると、である。
のとき より、なので、
のときは、であり、
のときは、
のときは、のときと同様。
かつのときは、かっこ積はとなる。
さて、基底に対して補題は正しいので、結局、補題がいえる。
逆に、も分かる。(ただし、)
補題3より、なので、かっこ積で閉じているから、部分代数である。
補題3より、
補題の逆により、がの基底をすべて含むことがわかり、逆向きの包含関係がわかる。
十分大きいとは、具体的には、を満たすのことである。
以上で、定理1の証明ができた。
可解性の性質
を代数とする。
が可解ならば、の部分代数や準同型の像は、可解である。
がの可解なイデアルでも可解であるならば、も可解である。
がの可解なイデアルならば、も可解である。
をの部分代数とすると、が成り立つので、が可解ならば、も可解である。
を準同型とする。準同型の像を考えているので、としてよい。(すなわち、は始めから全射準同型としてよい。)
さて、を示す。のときは、全射性より正しい。
のとき正しいと仮定すると、
とすると、であり、
仮定より、なので、
をとり、を考えると、
仮定より、あるが存在して、となる。
このとき、なので、
より、
したがって、が成り立ち、が可解なら準同型の像も可解となる。
が可解より、あるが存在して、
を標準的な全射(canonical homomorphism)とすると、
の結果から、
が可解より、あるが存在して、
であるので、
すなわち、は可解である。
同型を使う。
まず、標準的な全射を考えると、が可解よりその像であるも可解である。したがって、それと同型であるも可解である。
とは可解であるから、の結果より、は可解である。
根基と半単純
を代数とする。
このとき、の可解なイデアルで、極大なものがただ一つ存在する。
(存在性)は明らかにの可解なイデアル
(一意性)をの可解なイデアルで極大なものとする。
このとき、任意のの可解なイデアルをとると、命題5より、
もの可解なイデアルで、特にを含む。
よって、の極大性により
すなわち、極大なものはただ一つである。
(根基)
を代数とする。
の極大可解イデアルをの根基(radical)といい、とかく。
(半単純)
を代数とする。
であるとき、は半単純(semisimple)であるという。
が非可換単純ならば、半単純である。
なぜなら、が単純より、のイデアルはまたはであり、
非可換性より、は可解でないから、であるからは半単純である。
のときは明らかなので、とする。
背理法で示す。が半単純でないとすると、はでない可解なイデアルをもつ。
つまり、のイデアルが存在して、は可解となる。
まず、より、である。
とは可解なので、命題5のより、も可解である。
これは、の極大性に矛盾する。従って、は半単純である。