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現代数学解説
文献あり

一般相対性理論に必要なテンソルを大学1年生でもわかるように書いてみた[直線座標編]

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前置き

この記事の目的は、一般相対性理論に必要なテンソルおよびテンソル場の理論についてわかりやすく解説することです。

私が一般相対性理論を学ぶ上でつまづいた部分を補完する内容になっていますが、他の文献も合わせて読むことをおすすめします。

前提とする知識は以下です。

・高校までの数学

・線形代数(行列、基底、線形写像)

・解析学(偏微分、重積分)

それではさっそくはじめましょう。

テンソルとは

そもそもテンソルってなんなんでしょう?

一言でいうと、行列の拡張バージョンです。

行列には線形性がありましたね。

行列の線形性

次が成立:

(i)k(abcd)=(kakbkckd)(ii)(abcd)+(abcd)=(a+ab+bc+cd+d).

この線形性のおかげで、座標の拡大・縮小や回転ができたのでした。

ですが、行列が使えるのはあくまで直線座標の中だけです。

これから私たちは一般相対性理論で曲線座標を扱います。

そうなると行列ではない新しい概念が必要になってきます。

それこそがテンソルです。

定義を見てみましょう。

テンソル積(2変数のとき)

kをスカラー、a,b,cをベクトルとして次の3条件を満たすように演算を定義する。

(i)kab=akb=k(ab)(ii)a(b+c)=ab+ac(iii)(a+b)c=ac+bc

目を凝らして見てみてください。

線形性と似てる気がしませんか?

行列のときは2つの条件がありましたが、今度は3つです。

つまり、テンソルとは線形性を拡張した概念を取り扱える演算ということなんですね。

定義1のような性質を双線形性といいます。

そして、これをn変数に拡張した性質をn重線形性(多重線形性)といいます。

テンソルとはつまり多重線形写像のことです。

...と言っても分かりづらいと思うので、例を作って遊んでみましょう。

テンソル積(2変数のとき)

V2次元線形空間とし、a1,a2をその基底とする。
同様にW2次元線形空間とし、b1,b2をその基底とする。

このとき、VWa1b1,a1b2,a2b1,a2b2を基底とする4次元線形空間として定める。

このとき、双線形性から次のような計算ができます。

(3a1+2a2)(4b1+b2)=(3a1+2a2)4b1+(3a1+2a2)b2=3a14b1+2a24b1+3a1b2+2a2b2=12a1b1+3a1b2+8a2b1+2a2b2.

このような計算ができるのがテンソル積の特徴です。

ってそもそもなに?」と思われるかもしれません。

実は、多重線形性を持つのような演算は存在してただひとつに定まります。

具体的にそれが何なのかわからなくても(というより具体的に書き下すのは難しいけれど)、そのような演算があるのだと思っておいてください。

この性質があとあと一般相対性理論で大活躍します。

ここで1つ注意ですが、一般的にabbaです。

行列の積が交換できないのと同じような理由で、多重線形性(2変数の場合は双線形性)を持つように定義したために積が交換できなくなってしまいました。

なのでテンソル積を計算するときは必ず順序を意識してください。

たとえば、VVの基底はa1a1,a1a2,a2a1,a2a2の4つです。

基底の取り換え

次にやっていくことは基底の取り換えです。

たとえば、さっき計算した(3a1+2a2)(4b1+b2)がありましたね。

これではめんどくさいので、3a1+2a2a1,4b1+b2b1 というふうに変換してしまいましょう。

すると、(3a1+2a2)(4b1+b2)=a1b1 というふうに簡潔に表せます。

テンソルでは基底を変換することが多くあるので、そのときのルールを見つけようということです。

その前に、簡単な例で基底の変換をやってみましょう。

R2の基底(23),(14)がある。(23)(11),(14)(01)としたときのことを考える。

a(23)+b(14)=a(11)+b(01) となるとき、a,ba,bで表せ。

解答

(2134)(ab)=(1011)(ab) より、

(ab)=(1011)1(2134)(ab)=(1011)(2134)(ab)=(2113)(ab)=(2a+ba+3b).

連立方程式を解けば終わりなんですが、ここでは逆行列を使いました。

テンソルでも同じように逆行列が使えます。

やってみましょう。

a1,a2a1,a2をそれぞれでVの基底とする。このとき(a1a2)=(a1a2)(2134)が成り立っている。

基底を変換してS=a1a1+a1a2+2a2a1+5a2a2a1a1,a1a2,a2a1,a2a2の線形結合で表せ。

方法1 (最後に逆行列)

a1=2a1+3a2,a2=a1+4a2 より

a1a1=4a1a1+6a1a2+6a2a1+9a2a2,a1a2=2a1a1+8a1a2+3a2a1+12a2a2,a2a1=2a1a1+3a1a2+8a2a1+12a2a2,a2a2=a1a1+4a1a2+4a2a1+16a2a2.

よって

(a1a1a1a2a2a1a2a2)=(a1a1a1a2a2a1a2a2)(4221683463849121216).

一方、

S=(a1a1a1a2a2a1a2a2)(1125).

より

S=(a1a1a1a2a2a1a2a2)(1125)=(a1a1a1a2a2a1a2a2)(4221683463849121216)1(1125)=(a1a1a1a2a2a1a2a2)125(98311).

この解き方ではセンスが疑われますね。

もっといい方法があります。

方法2 (最初に逆行列)

(a1a2)=(a1a2)(2134)1=(a1a2)15(4132)
より、Sに代入して

S=925a1a1825a1a2325a2a1+1125a2a2.

明らかに方法2のほうが早くてシンプルですが、方法1に出てきた4×4行列に注目してください。

(4221683463849121216)=(2(2134)1(2134)3(2134)4(2134)).

なにかに気づきませんでしたか?

そう、これはテンソル積の一例になっているんです。

(2134)(2134)=(4221683463849121216)

が成立しています。

このような行列の積を特別にクロネッカー積と呼びます。

こうして見るとテンソル積が馴染み深いものに見えてくるはずです。

クロネッカー積はあくまで行列に対する特別なテンソル積であって、クロネッカー積ではないようなテンソル積も存在します。

そのような意味でテンソル積とクロネッカー積をはっきり区別していきます。

アインシュタインの縮約記法とクロネッカーのデルタ

ここから先は行列の成分が非常に煩雑になりがちなので、アインシュタインの縮約記法という画期的な記法を導入します。

一言でいうと、あるルールのもと総和記号Σを省略します。

「上と下に現れた同じ添字は媒介変数と思って総和を取る」というルールです。

たとえば、aibiiという添字が上と下に現れていますね。なので、

aibi=a1b1+a2b2+a3b3となります。

ここで注意を2つ。

まず、biは累乗ではなく上付き添字です。添字が上にあると思ってください。

紛らわしい場合は私が注意するので参考にしてください。

そして、添字を足していく範囲は大体0から3または1から3です。

これも紛らわしい場合は注釈をつけるので安心してください。

いくつか練習してみましょう。

添字の動く範囲を0から3とする。このとき次を計算せよ。

  1. aibi
  2. aibij
  3. aijbij
  4. aijbij
  5. aibj
解答
  1. ルール通りに計算して、aibi=a0b0+a1b1+a2b2+a3b3.
  2. 上と下両方に現れていない添字はそのままにします。なので、aibij=a0b0j+a1b1j+a2b2j+a3b3j.
  3. これは2重シグマと同じだと思いましょう。なので、
    aijbij=a0jb0j+a1jb1j+a2jb2j+a3jb3j=a00b00+a01b01+a02b02+a03b03+a10b10+a11b11+a12b12+a13b13+a20b20+a21b21+a22b22+a23b23+a30b30+a31b31+a32b32+a33b33.
  4. jが2つありますが上下に現れているわけではないのでそのままにします。なので、
    aijbij=a0jb0j+a0jb0j+a0jb0j+a0jb0j.
  5. これはそのままでいいですね。なのでaibjのままです。

この添字ルールを使うと行列さえも簡潔に表すことができます。

たとえば、行列の積は

(a11a21a12a22)(b11b21b12b22)=(a11b11+a21b12a11b21+a21b22a12b11+a22b12a12b21+a22b22)

ですが、この行列のij成分をcjiとおくと

cji=akibjk(k=1,2)

と簡潔に表せます。たとえばc12=ak2b1k=a12b11+a22b12となっていますよね。

同様に、3×34×4行列であってもkの範囲を変えるだけで表現できてしまいます。

では単位行列や逆行列はどう表したらいいのかというと、クロネッカーのデルタを使います。

クロネッカーのデルタ

クロネッカーのデルタδjiを次で定義する:

δji={1if  i=j,0if  ij.

i=jなら1,ijなら0というだけです。

ですが、これを使えば単位行列がcji=δjiの1行で表現できてしまいます。

つまり、単位行列とはij成分がδjiである行列のことなんですね。

これを踏まえij成分がajiである行列の逆行列のij成分を成分をbjiとすると、

akibjk=δji (または bkiajk=δji)

と簡潔に表現できます。

このことを理解してから次に進んでください。

混合テンソルと縮合

まずは定義から。

反変テンソル空間

Vn次元線形空間とし、VVVrを考える。すると、VVVrの基底はnr個になりnr次元線形空間となる。

この空間のことをr階反変テンソル空間といい、Tr(V)で表す。

いわゆる"普通"のテンソルの線形空間が反変テンソル空間です。

ですが、一般相対性理論で扱うリーマン曲率テンソルは"普通"のテンソルではありません。

そこで双対空間、双対基底という概念を導入します。

双対空間・双対基底

n次元線形空間V,Vがある。Vの基底eieiに変換するとき、それに伴いVの基底fifiに変換するとする。ここでei=aijej,fi=bjifjと基底を変換したとき必ずakibjk=δjiが成立していないといけない。

このような条件を満たすとき、VVの双対空間、fieiの双対基底、fieiの双対基底という。

線形代数の本ではVの双対空間をVからRへの線形写像で定義していると思いますが、ここでは具体的なルールを先に与えておきました。

Vに対してVは一意に定まります。

そこで共変テンソルと混合テンソルを定義しますね。

共変テンソル空間

Vn次元線形空間とし、VVVsを考える。すると、VVVsの基底はns個になりns次元線形空間となる。

この空間のことをs階共変テンソル空間といい、Ts(V)で表す。

混合テンソル空間

Vn次元線形空間とし、VVVrVVVsを考える。すると、VVVrVVVsの基底はnr+s個になりnr+s次元線形空間となる。

この空間のことをr階反変s階共変テンソル空間といい、Tsr(V)で表す。

定義ばっかり見ていてもつまんないですね。

試しに計算してみましょう。

Vの基底をe1,e2その双対空間であるVの基底をf1,f2とします。

基底とその双対基底では添字の上下を逆転させて書いてください。

このとき、T11(V)の基底はe1f1,e1f2,e2f1,e2f2の4つです。

なので、たとえば

(2e1+3e2)(4f1+f2)=(2e1+3e2)4f1+(2e1+3e2)f2=8e1f1+2e1f2+12e2f1+3e2f2

と計算できます。

これも双線形性のおかげですね。

先程同様、一般的にはabbaなので順番には注意してください。

もちろん、混合テンソルにもテンソル積が定義できます。たとえば、

(e1e2f1f2)e2f1=e1e2e2f1f2f1

です。

e1e2f1f2e2f1になるんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、
混合テンソル空間を VVVrVVVs で定義したためefをそれぞれひとまとめにする必要があります。

ここで、eの基底の順番とfの基底の順番はそれぞれ変えてはいけません。

さて、混合テンソル空間の元であるテンソルには縮約という特別な操作ができます。

簡単に言うと、行列でいうところの跡(trace)の一般化です。

実際に2e1e1f1+e2e1f1+e1e1f2を縮約してみましょう。

まず、何番目と何番目を縮約するか決めます。

今回は左から2番目のeと1番目のf(eを除いて数えて左から1番目)にしましょう。

ここでは基底とそれに対応する双対基底(今回の場合はef)を選んでください。

eどうし、fどうしは縮約できません。

次に、添字が上と下で同じ項だけ抜き出してきます。

この場合2e1e1f1+e2e1f1ですね。

最後に添字が同じ2つの基底をバッサリ落とします。

なので結果は2e1+e2です。

他にも練習してみましょう。

次のテンソルを指定した添字で縮約せよ。

  1. 2e1e1f1+e2e1f1+e1e1f2 (1番目のeと1番目のf)
  2. 2e1e1f1f1+e2e1f1f1+4e1e1f2f1+3e2e1f2f2 (1番目のeと1番目のf)
  3. 2e1e1f1f1+e2e1f1f1+4e1e1f2f1+3e2e1f2f2 (1番目のeと2番目のf)
  4. 8e1f13e2f2 (1番目のeと1番目のf)
解答

(1)添字が等しい項は2e1e1f1だけなので、1番目のeと2番目のfを落として2e1となります。
(2)2e1f1+3e1f2
(3)2e1f1+4e1f2+3e1f2=2e1f1+7e1f2となります。
(4)落とした部分が0になるわけではないので、83=5となります。

少しは慣れたと思います。

厳密な定義はこちら。

縮約

r階反変s階共変テンソル
Tj1jsi1irei1eirfj1fjs
について、k番目の反変成分、l番目の共変成分で縮約したテンソルを
Tj1jsi1irδikjlei1eik1eik+1eirfj1fjl1fjl+1fjs

で定義する。

同様に、abのテンソル積を取ってから縮約したものをab縮合といいabで表します。

ですが、ここで1つ注意です。

たとえば3e1e1f1f1+5e2e2f2f2e1f2+e2f1の縮合を計算しようとして真っ先にテンソル積を取ってはいけません。

まずは左右でどの添字を選ぶか決めないといけないですね。

たとえば、左は2番目のe,右は1番目のfを選ぶことにします。

eeffefのように下線を引いた部分を選ぶということです。

次にテンソル積を取ると、

3(e1e1f1f1)(e1f2)+3(e1e1f1f1)(e2f1)+5(e2e2f2f2)(e1f2)+5(e2e2f2f2)(e2f1)

となります。

その次に、さっき選んだ添字が等しい項だけ選んで等しい添字の部分を落とします。

すると3(e1f1f1)e2+5(e2f2f2)e1,

つまり3e1e2f1f1+5e2e1f2f2になります。

たとえば左は最初のe,右は最初のfで縮合するものとすると
(2e1+3e2)(4f1+f2)=11
となります。内積に似てる感じがしますね。

さて、Tsr(V)でも基底の変換ができるのでやってみましょう。

混合テンソルの基底の変換

e1,e2Vの基底、それらに対応する双対基底をそれぞれf1,f2とおく。

このとき(e1e2)=(e1e2)(2134)が成り立っている。

基底を変換してS=e1f1+e1f2+2e2f1+5e2f2e1f1,e1f2,e2f1,e2f2の線形結合で表せ。

方法1 (最後に逆行列)

(e1e2)=(e1e2)(2134)
に連動して、双対基底は
(f1f2)=(f1f2)(2134)1
という変換ルールが成り立っている。

よって、(e1e2)=15(2e1+3e2e1+4e2) および (f1f2)=(4f13f2f1+2f2) を得る。

ゆえに

e1f1=15(8e1f16e1f2+12e2f19e2f2),e1f2=15(2e1f1+4e1f23e2f1+6e2f2),e2f1=15(4e1f13e1f2+16e2f112e2f2),e2f2=15(e1f1+2e1f24e2f1+8e2f2).

よって、

(e1f1e1f2e2f1e2f2)=(e1f1e1f2e2f1e2f2)15(8241643212316496128).

一方、

S=(e1f1e1f2e2f1e2f2)(1125)=(e1f1e1f2e2f1e2f2)(15(8241643212316496128))1(1125)=(e1f1e1f2e2f1e2f2)15(32931).

方法2 (最初に逆行列)

(e1e2)=(e1e2)(2134)
に連動して、双対基底は
(f1f2)=(f1f2)(2134)1
という変換ルールが成り立っている。

よって、(e1e2)=15(4e13e2e1+2e2) および(f1f2)=(2f1+3f2f1+4f2) を得る。

代入して、

S=15((4e13e2)(2f1+3f2)+(4e13e2)(f1+4f2)+2(e1+2e2)(2f1+3f2)+5(e1+2e2)(f1+4f2))=15((8+445)e1f1+(12+16620)e1f2+(63+8+10)e2f1+(912+12+40)e2f2)=15(3e1f1+2e1f23e2f1+31e2f2).

やはり方法2のほうが早くてシンプルですが、双対基底が登場しても先ほどと同じように計算できることがわかりましたね。

一般相対性理論がテンソル方程式で書かれる理由

さて、ここまででテンソル積、基底の変換、縮約、縮合といったテンソルの演算を学んできました。

ですが、基底を変換してからテンソル積をとるのとテンソル積を取ってから基底を変換するのでは結果は同じになるのでしょうか?

縮合についても同じ疑問が湧いてきます。

基底を変換してから縮合するのと、縮合してから基底を変換するのでは結果は同じになるのでしょうか?

もし結果が違えば、テンソルの演算は基底に依存することになり一般性を失います。

そうなると相対性原理に則った物理法則を記述することはできなくなります。

相対性原理とは、「物理法則は観測する座標系に依存しない」という根本的な原理です。

果たして、テンソルは座標系に依存するのか、しないのでしょうか?

結論は、テンソルの演算は座標系に依存しません。

つまり、基底を変換してからテンソル積をとるのとテンソル積を取ってから基底を変換するのでは結果は同じになります。

縮約や縮合についても同じです。

だから一般相対性理論はテンソル方程式で記述されるんですね。

一般的な証明は参考文献に任せるとして、先へ進みましょう。

単位テンソルと対称テンソル

突然ですが、行列には単位行列が存在しますね。

そこから逆行列が定義できたのでした。

同じように、テンソルの世界にも単位テンソルというものが存在します。

単位テンソル

T11(V)の元であるテンソルδjieifjを単位テンソルと呼ぶ。

もちろん、アインシュタインの縮約記法で書いています。

Vの基底をe1,,en,それらのそれぞれに対応する双対基底をf1,,fnというふうに書けば、単位テンソルはδjieifj=e1f1++enfnと書けます。

対称テンソル

r階反変s階共変テンソル
Tj1jsi1irei1eirfj1fjs
があって、任意の置換σSr,πSsに対して
Tj1jsi1irei1eirfj1fjs=Tjπ(1)jπ(s)iσ(1)iσ(r)eiσ(1)eiσ(r)fjπ(1)fjπ(s)
が成立するとき、対称テンソルであるという。

efのそれぞれの添字をどのように入れ替えても変わらないテンソルということです。

たとえばe1f1+e1f2,e1e2+e2e1は対称テンソルで、
e1f1f1+e2f2f1は対称テンソルではありません。

そんな単位テンソルと対称テンソルですが、こんな性質があります。

単位テンソルと対称テンソルの縮合

任意の対称テンソルは単位テンソルとの縮合をとっても変わらない。ここで、縮合のとき落とす添字の組はどれでもよい。

このことを数式で表すと、任意の対称テンソルTに対して

Tδjieifj=δjieifjT=T.

実際にやってみましょう。

V2次元の線形空間とし、その基底をe1,e2,それらそれぞれに対応する双対基底をf1,f2とする。

このとき、次のテンソルを指定した添字で縮合せよ。

  1. e1e2+e2e1e1f1+e2f2 (左は1番目のeと右は1番目のf)
  2. e1e2f1f2+e2e1f2f1e1f1+e2f2 (左は1番目のeと右は1番目のf)
  3. e1f1+e2f2e1e2f1f2+e2e1f2f1 (左は1番目のeと右は2番目のf)
  4. e1e2f1f2+e1e2f2f1+e2e1f1f2+e2e1f2f1e1f1+e2f2 (左は1番目のeと右は1番目のf)
解答
  1. e2e1+e1e2
  2. e2e1f1f2+e1e2f2f1
  3. e2e1f1f2+e1e2f2f1
  4. e2e1f1f2+e2e1f2f1+e1e2f1f2+e1e2f2f1

(1)と(4)は対称テンソルと単位テンソルの縮合なので変化していないことがわかると思います。

他の添字で縮合しても同様です。

添字の上げ下げ

まずは問題を解いてみましょう。

V2次元の線形空間とし、その基底をe1,e2,それらそれぞれに対応する双対基底をf1,f2とする。

このとき、次のテンソルを指定した添字で縮合せよ。

  1. 2e1e1+5e1e2+e2e1+3e2e23f1f15f1f2f2f1+2f2f2 (左は1番目のe,右は1番目のf)
  2. 3e1f12e1e1+5e1e2+e2e1+3e2e2 (左は1番目のf,右は1番目のe)
  3. (2)で得られたテンソルと3f1f15f1f2f2f1+2f2f2 (左は2番目のe,右は1番目のf)
  4. 3e1f13f1f15f1f2f2f1+2f2f2 (左は1番目のe,右は1番目のf)
  5. (4)で得られたテンソルと2e1e1+5e1e2+e2e1+3e2e2 (左は2番目のf,右は1番目のe)
解答
  1. (65)e1f1+(2+2)e1f2+(1515)e2f1+(5+6)e2f2=e1f1+e2f2
  2. 6e1e1+15e1e2
  3. (1815)e1f1+(30+30)e1f2=3e1f1
  4. 9f1f115f1f2
  5. (1815)e1f1+(4545)e2f1=3e1f1

このように、gg1=δjieifjとなるような2階の反変テンソルおよび2階の共変テンソルg,g1が存在することがあります。

そのとき、縮合する添字を適切に選べば (Tg)g1=T とすることができます。

特に、gが対称テンソルの場合は縮合のとき指定する添字に依らず(Tg)g1=Tが成立します。

これを使い添字を上げ下げしてみましょう。

例として1階反変1階共変テンソルT=Tjieifj,そしてある2階の反変テンソルg=gijeiejとそれに対応してgg1=δjieifjとなるような2階の共変テンソルg1=gijfifjを考えます。

V2次元として考えると、
T=T11e1f1+T21e1f2+T12e2f1+T22e2f2,g=g11e1e1+g12e1e2+g21e2e1+g22e2e2,g1=g11f1f1+g12f1f2+g21f2f1+g22f2f2.

左は1番目の共変成分、右は1番目の反変成分で縮合を取ると

Tg=(T11g11+T21g21)e1e1+(T11g12+T21g22)e1e2+(T12g11+T22g21)e2e1+(T12g12+T22g22)e2e2=Tkigkjeiej=Tijeiej.

ここで、kは媒介変数で消えてしまうのでTkigkj=Tijと改めて置き直しました。

gとの縮合を取ることで、Tの係数であるTjiTijに変わり添字が上がったように思えます。

同様に、左は1番目の反変成分、右は1番目の共変成分で縮合を取ると

Tg1=(T11g11+T12g21)f1f1+(T11g12+T12g22)f1f2+(T21g11+T22g21)f2f1+(T21g12+T22g22)f2f2=Tikgkjfifj=Tijfifj.

ここで、kは媒介変数で消えてしまうのでTikgkj=Tijと改めて置き直しました。

g1との縮合を取ることで、Tの係数であるTjiTijに変わり添字が下がったように思えます。

これこそが添え字の上げ下げです。

2階反変(共変)テンソルとの縮合を取ることにより添字の位置を変えているだけですね。

特に難しいことではないと思います。

ですが、この添字の上げ下げにより一旦添字を上げたり下げたりしてから縮約するといったことができるようになります。

その威力は後ほど体感してもらえればと思います。

テンソル場の変換

ここからはテンソル場の始まりです。

テンソル場とは、座標空間の各点にテンソルが与えられた世界です。

定義を見ましょう。

テンソル場(基底なし)

座標(x)での成分をxi,座標(x)での成分をxiとおく。

それらの間にxi=bjixjおよびxi=ajixjが成立している。

このとき、

Tj1jsi1ir(x)=bk1kri1iraj1jsl1lsTl1lsk1kr(x)

が成立するならば、Tr階反変s階共変テンソル場と呼ぶ。

基底たちがなくなってしまいテンソルとは全くの別物に見えるかもしれませんが、これがテンソル場です。

これはあくまでテンソルの係数を定義しているのであって、次のように言い直すこともできます。

テンソル場(基底あり)

線形空間Vの基底ei,eiの間にei=aijej,双対基底fi,fiの間にfi=bjifjが成立している。

実際、座標(x)の基底はeiであり座標(x)の基底はeiである。

このとき、

Tj1jsi1ir(x)=bk1kri1iraj1jsl1lsTl1lsk1kr(x)

が成立するならば、

Tj1jsi1ir(x)ei1eirfj1fjs=Tj1jsi1ir(x)ei1eirfj1fjs

もまた成立する。これをr階反変s階共変テンソル場と呼ぶ。

基底を変換する行列と成分を変換する行列とが互いに逆行列になっていることに注意すれば、全く同じものであることがわかると思います。

なのでこれからは特に事情がない限りは基底を見せない物理流の定義を使っていこうと思います。

基底があったほうがわかりやすい場合はその都度解説していきますね。

この定義でいくと、スカラー場は0階反変0階共変テンソル場、ベクトル場は1階反変0階共変テンソル場というふうに一般化できます。

例を挙げましょう。

直線座標上のスカラー場f(x1,x2)=3x12x2があって、
(x1x2)=(3152)(x1x2)
が成立している。

fを直線座標(x1,x2)のもとで表した式をf(x1,x2)とおく。

  1. (x1,x2)=(1,1)のとき(x1,x2)を求めよ。
  2. f(x1,x2)を求めよ。
  3. (x1,x2)=(1,1)のときのf(x1,x2)の値と(1)で求めた(x1,x2)のときのf(x1,x2)の値を比較せよ。
解答
  1. (x1,x2)=(2,3)
  2. 左から逆行列をかけて(x1x2)=(2153)(x1x2)を得るからx1=2x1+x2およびx2=5x1+3x2を得る。
    代入して、f(x1,x2)=4x13x2.
  3. 両方とも1になる。

スカラー場は0階反変0階共変テンソル場なので、変換せずともT(x)=T(x)が成り立ちます。

r階反変s階共変テンソル場でも同様なことができます。

それは後々やっていくので楽しみにしていてください。

スカラー場の微分

テンソル場での微分を考える前に、スカラー場での微分を考えます。

直線座標x1,x2,媒介変数tで表されたパラメータ曲線C:(c1(t),c2(t)),スカラー場fを考えましょう。

t=αとしたときのC上の点(c1(α),c2(α))での値はf(c1(α),c2(α))ですね。

f(c1(t),c2(t))は曲線Cに沿ったスカラー場の値を表していると言えます。

これをtで微分します。

その前に2変数関数での合成関数の微分(連鎖律)を確認します。

2変数関数の合成関数の微分

微分可能な関数fに対し次が成立:

df(x(t),y(t))dt=f(x(t),y(t))xdxdt+f(x(t),y(t))ydydt

ゆえ、

df(c1(t),c2(t))dt=f(c1(t),c2(t))x1dc1(t)dt+f(c1(t),c2(t))x2dc2(t)dt.

ここで、

f=(f(c1(t),c2(t))x1,f(c1(t),c2(t))x2)

という勾配になっています。

また、

c=(dc1(t)dt,dc2(t)dt)

Cの方向ベクトルとなっていることが容易にわかりますね。

なので

df(c1(t),c2(t))dt=fc

といえます。

このことを一般化します。

新しくベクトル場A=(A1(x1,x2),A2(x1,x2))を与えると、そのベクトル場Aに沿ったスカラー場fの微分を

fA=f(x1,x2)x1A1(x1,x2)+f(x1,x2)x2A2(x1,x2)

で定義できます。

これをベクトル場Aに沿ったスカラー場fの微分係数といいます。

添字を増やして同じことをしましょう。

すると、

fA=fxiAi

となります。

ここで1つ注意です。

ここでもアインシュタインの縮約記法を使うわけですが、偏微分の分母にある添字は逆転するとしてxixiと解釈します。

そうするとiが媒介変数となり

fA=fxiAi=fx1A1++fxnAn

となります。

さて、これはスカラー場、つまり0階反変0階共変テンソル場になるので

fxiAi=fxiAi

が成立します。

これをさらに拡張してテンソル場にも適応してみましょう。

テンソル場の変換と微分

fx1A1,fx1A2,fx2A1,fx2A2

fx1A1,fx1A2,fx2A1,fx2A2
の間に成立する変換則を示せ。

解答

(x1x2)=(b11b21b12b22)(x1x2),(x1x2)=(a11a21a12a22)(x1x2)
とおくと、x1x1の関数、x2x2の関数と見て合成関数の偏微分をして
f(x1,x2)x1=f(x1,x2)x1=f(x1,x2)x1x1x1+f(x1,x2)x2x2x1=a11f(x1,x2)x1+a12f(x1,x2)x2=a1jf(x1,x2)xj.

f(x1,x2)x2=f(x1,x2)x2=f(x1,x2)x1x1x2+f(x1,x2)x2x2x2=a21f(x1,x2)x1+a22f(x1,x2)x2=a2jf(x1,x2)xj.

よって

f(x1,x2)xi=aijf(x1,x2)xj.

一方、ベクトル場Aは曲線Cの微分で与えられるから

A1(x1,x2)=A1(x1,x2)=dc1(t)dt=ddt(b11c1(t)+b21c2(t))=b11A1(x1,x2)+b21A2(x1,x2).

A2(x1,x2)=A2(x1,x2)=dc2(t)dt=ddt(b12c1(t)+b22c2(t))=b12A1(x1,x2)+b22A2(x1,x2).

よって

Ai(x1,x2)=bjiAj(x1,x2).

これらを使い

f(x1,x2)xiAj(x1,x2)=aikf(x1,x2)xkbljAl(x1,x2)=bljaikf(x1,x2)xkAl(x1,x2).

疲れましたね。

ですが、ここでは次の2つのルールを体感してもらいたくてわざわざこんな計算をしていただきました。

それは、

  1. 添字が偏微分の分母にあるときは変換すると共変成分が出てくる
  2. 添字が通常のテンソル場の中にあるときは変換してもそのまま反変成分が出てくる

ということです。

これは何階のテンソル場になっても変わりません。

これを一般化しきちんと述べると次のようになります。

テンソル場の微分

r階反変s階共変テンソル場Tj1jsi1irを偏微分するとr階反変s+1階共変テンソル場になる。

また、r階反変s階共変テンソル場Tj1jsi1irをベクトル場Aに沿って微分するとr階反変s階共変テンソル場U(x)になる。

このとき、

U(x)=AkxkTj1jsi1ir(x).

お疲れ様でした。

直線座標のテンソルの要点はこれでおしまいです。

曲線座標のテンソル場について次の記事でお話します。

一般相対性理論に必要なテンソルを大学1年生でもわかるように書いてみた[曲線座標編]

参考文献

[1]
石井俊全, 一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する
投稿日:202431
更新日:202435
OptHub AI Competition

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みつき
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数学が好きな大学1年生です。

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  1. 前置き
  2. テンソルとは
  3. 基底の取り換え
  4. アインシュタインの縮約記法とクロネッカーのデルタ
  5. 混合テンソルと縮合
  6. 混合テンソルの基底の変換
  7. 一般相対性理論がテンソル方程式で書かれる理由
  8. 単位テンソルと対称テンソル
  9. 添字の上げ下げ
  10. テンソル場の変換
  11. スカラー場の微分
  12. テンソル場の変換と微分
  13. 参考文献