この記事の目的は、一般相対性理論に必要なテンソルおよびテンソル場の理論についてわかりやすく解説することです。
私が一般相対性理論を学ぶ上でつまづいた部分を補完する内容になっていますが、他の文献も合わせて読むことをおすすめします。
前提とする知識は以下です。
・高校までの数学
・線形代数(行列、基底、線形写像)
・解析学(偏微分、重積分)
それではさっそくはじめましょう。
そもそもテンソルってなんなんでしょう?
一言でいうと、行列の拡張バージョンです。
行列には線形性がありましたね。
次が成立:
\begin{eqnarray} &(\text{i})& \, \, \, k\begin{pmatrix} a & b \\ c & d\end{pmatrix}=\begin{pmatrix} ka & kb \\ kc & kd\end{pmatrix} \\ \\ &(\text{ii})& \, \, \, \begin{pmatrix} a & b \\ c & d\end{pmatrix}+\begin{pmatrix} a' & b' \\ c' & d' \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} a+a' & b+b' \\ c+c' & d+d' \end{pmatrix}. \end{eqnarray}
この線形性のおかげで、座標の拡大・縮小や回転ができたのでした。
ですが、行列が使えるのはあくまで直線座標の中だけです。
これから私たちは一般相対性理論で曲線座標を扱います。
そうなると行列ではない新しい概念が必要になってきます。
それこそがテンソルです。
定義を見てみましょう。
$k$をスカラー、$\boldsymbol{a},\boldsymbol{b},\boldsymbol{c}$をベクトルとして次の3条件を満たすように演算$\otimes$を定義する。
\begin{eqnarray} &(\text{i})& \, \, \, k \boldsymbol{a} \otimes \boldsymbol{b}=\boldsymbol{a} \otimes k \boldsymbol{b}=k(\boldsymbol{a} \otimes \boldsymbol{b}) \\ &(\text{ii})& \, \, \, \boldsymbol{a} \otimes (\boldsymbol{b}+\boldsymbol{c})=\boldsymbol{a} \otimes \boldsymbol{b}+\boldsymbol{a} \otimes \boldsymbol{c} \\ &(\text{iii})& \, \, \, (\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b}) \otimes \boldsymbol{c}=\boldsymbol{a} \otimes \boldsymbol{c}+\boldsymbol{b} \otimes \boldsymbol{c} \end{eqnarray}
目を凝らして見てみてください。
線形性と似てる気がしませんか?
行列のときは2つの条件がありましたが、今度は3つです。
つまり、テンソルとは線形性を拡張した概念を取り扱える演算ということなんですね。
定義1のような性質を双線形性といいます。
そして、これを$n$変数に拡張した性質を$n$重線形性(多重線形性)といいます。
テンソルとはつまり多重線形写像のことです。
...と言っても分かりづらいと思うので、例を作って遊んでみましょう。
$V$を$2$次元線形空間とし、$\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2$をその基底とする。
同様に$W$を$2$次元線形空間とし、$\boldsymbol{b}_1,\boldsymbol{b}_2$をその基底とする。
このとき、$V \otimes W$を$\boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{b}_1,\boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{b}_2,\boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{b}_1,\boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{b}_2$を基底とする$4$次元線形空間として定める。
このとき、双線形性から次のような計算ができます。
\begin{eqnarray} (3\boldsymbol{a}_1+2\boldsymbol{a}_2) \otimes (4\boldsymbol{b}_1+\boldsymbol{b}_2)&=&(3\boldsymbol{a}_1+2\boldsymbol{a}_2) \otimes4\boldsymbol{b}_1+(3\boldsymbol{a}_1+2\boldsymbol{a}_2) \otimes \boldsymbol{b}_2 \\ &=& 3\boldsymbol{a}_1 \otimes 4\boldsymbol{b}_1+2\boldsymbol{a}_2 \otimes 4\boldsymbol{b}_1+3\boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{b}_2+2\boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{b}_2 \\ &=& 12 \, \boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{b}_1+3 \,\boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{b}_2+8 \, \boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{b}_1+2 \, \boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{b}_2. \end{eqnarray}
このような計算ができるのがテンソル積の特徴です。
「$\otimes$ってそもそもなに?」と思われるかもしれません。
実は、多重線形性を持つ$\otimes$のような演算は存在してただひとつに定まります。
具体的にそれが何なのかわからなくても(というより具体的に書き下すのは難しいけれど)、そのような演算があるのだと思っておいてください。
この性質があとあと一般相対性理論で大活躍します。
ここで1つ注意ですが、一般的に$\boldsymbol{a} \otimes \boldsymbol{b} \ne \boldsymbol{b} \otimes \boldsymbol{a}$です。
行列の積が交換できないのと同じような理由で、多重線形性(2変数の場合は双線形性)を持つように定義したために積が交換できなくなってしまいました。
なのでテンソル積を計算するときは必ず順序を意識してください。
たとえば、$V \otimes V$の基底は$\boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{a}_2,\boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{a}_2$の4つです。
次にやっていくことは基底の取り換えです。
たとえば、さっき計算した$(3\boldsymbol{a}_1+2\boldsymbol{a}_2) \otimes (4\boldsymbol{b}_1+\boldsymbol{b}_2)$がありましたね。
これではめんどくさいので、$3\boldsymbol{a}_1+2\boldsymbol{a}_2 \mapsto \boldsymbol{a}'_1, \, 4\boldsymbol{b}_1+\boldsymbol{b}_2 \mapsto \boldsymbol{b}'_1$ というふうに変換してしまいましょう。
すると、$(3\boldsymbol{a}_1+2\boldsymbol{a}_2) \otimes (4\boldsymbol{b}_1+\boldsymbol{b}_2)=\boldsymbol{a}'_1 \otimes \boldsymbol{b}'_1$ というふうに簡潔に表せます。
テンソルでは基底を変換することが多くあるので、そのときのルールを見つけようということです。
その前に、簡単な例で基底の変換をやってみましょう。
$\mathbb{R}^2$の基底$\begin{pmatrix}2 \\ 3 \end{pmatrix},\begin{pmatrix}1 \\ 4 \end{pmatrix}$がある。$\begin{pmatrix}2 \\ 3 \end{pmatrix} \mapsto \begin{pmatrix}1 \\ 1 \end{pmatrix}, \, \begin{pmatrix}1 \\ 4 \end{pmatrix} \mapsto \begin{pmatrix}0 \\ 1 \end{pmatrix}$としたときのことを考える。
$a \begin{pmatrix}2 \\ 3 \end{pmatrix}+b \begin{pmatrix}1 \\ 4 \end{pmatrix}=a' \begin{pmatrix}1 \\ 1 \end{pmatrix}+b' \begin{pmatrix}0 \\ 1 \end{pmatrix}$ となるとき、$a',b'$を$a,b$で表せ。
$\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 3 & 4\end{pmatrix} \begin{pmatrix}a \\ b \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 1 & 1\end{pmatrix} \begin{pmatrix}a' \\ b' \end{pmatrix}$ より、
\begin{eqnarray} \begin{pmatrix}a' \\ b' \end{pmatrix}&=&\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 1 & 1\end{pmatrix}^{-1}\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 3 & 4\end{pmatrix} \begin{pmatrix}a \\ b \end{pmatrix} \\ &=& \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ -1 & 1\end{pmatrix}\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 3 & 4\end{pmatrix} \begin{pmatrix}a \\ b \end{pmatrix} \\ &=&\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 1 & 3\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a \\ b \end{pmatrix} \\ &=& \begin{pmatrix}2a+b \\ a+3b \end{pmatrix}. \end{eqnarray}
連立方程式を解けば終わりなんですが、ここでは逆行列を使いました。
テンソルでも同じように逆行列が使えます。
やってみましょう。
$\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2$と$\boldsymbol{a}'_1,\boldsymbol{a}'_2$をそれぞれで$V$の基底とする。このとき$(\boldsymbol{a}'_1 \, \, \boldsymbol{a}'_2 )=(\boldsymbol{a}_1 \, \, \boldsymbol{a}_2 )\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 3 & 4\end{pmatrix}$が成り立っている。
基底を変換して$S=\boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{a}_1+\boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{a}_2+2\boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{a}_1+5\boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{a}_2$を$\boldsymbol{a}'_1 \otimes \boldsymbol{a}'_1,\boldsymbol{a}'_1 \otimes \boldsymbol{a}'_2,\boldsymbol{a}'_2 \otimes \boldsymbol{a}'_1,\boldsymbol{a}'_2 \otimes \boldsymbol{a}'_2$の線形結合で表せ。
$\boldsymbol{a}'_1=2\boldsymbol{a}_1+3\boldsymbol{a}_2, \, \boldsymbol{a}'_2=\boldsymbol{a}_1+4\boldsymbol{a}_2$ より
\begin{eqnarray} \boldsymbol{a}'_1 \otimes \boldsymbol{a}'_1&=&4\boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{a}_1+6\boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{a}_2+6\boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{a}_1+9\boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{a}_2, \\ \boldsymbol{a}'_1 \otimes \boldsymbol{a}'_2&=&2\boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{a}_1+8\boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{a}_2+3\boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{a}_1+12\boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{a}_2, \\ \boldsymbol{a}'_2 \otimes \boldsymbol{a}'_1&=&2\boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{a}_1+3\boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{a}_2+8\boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{a}_1+12\boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{a}_2, \\ \boldsymbol{a}'_2 \otimes \boldsymbol{a}'_2&=&\boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{a}_1+4\boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{a}_2+4\boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{a}_1+16\boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{a}_2. \end{eqnarray}
よって
\begin{eqnarray} (\boldsymbol{a}'_1 \otimes \boldsymbol{a}'_1 \, \, \boldsymbol{a}'_1 \otimes \boldsymbol{a}'_2 \, \, \boldsymbol{a}'_2 \otimes \boldsymbol{a}'_1 \, \, \boldsymbol{a}'_2 \otimes \boldsymbol{a}'_2)=(\boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{a}_1 \, \, \boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{a}_2 \, \, \boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{a}_1 \, \, \boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{a}_2)\begin{pmatrix} 4 & 2 & 2 & 1 \\ 6 & 8 & 3 & 4 \\ 6 & 3 & 8 & 4 \\ 9 & 12 & 12 &16 \end{pmatrix}. \end{eqnarray}
一方、
\begin{eqnarray} S=(\boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{a}_1 \, \, \boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{a}_2 \, \, \boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{a}_1 \, \, \boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{a}_2)\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 2 \\ 5 \end{pmatrix}. \end{eqnarray}
より
\begin{eqnarray} S&=&(\boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{a}_1 \, \, \boldsymbol{a}_1 \otimes \boldsymbol{a}_2 \, \, \boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{a}_1 \, \, \boldsymbol{a}_2 \otimes \boldsymbol{a}_2)\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 2 \\ 5 \end{pmatrix} \\ &=& (\boldsymbol{a}'_1 \otimes \boldsymbol{a}'_1 \, \, \boldsymbol{a}'_1 \otimes \boldsymbol{a}'_2 \, \, \boldsymbol{a}'_2 \otimes \boldsymbol{a}'_1 \, \, \boldsymbol{a}'_2 \otimes \boldsymbol{a}'_2)\begin{pmatrix} 4 & 2 & 2 & 1 \\ 6 & 8 & 3 & 4 \\ 6 & 3 & 8 & 4 \\ 9 & 12 & 12 &16 \end{pmatrix}^{-1}\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 2 \\ 5 \end{pmatrix} \\ &=& (\boldsymbol{a}'_1 \otimes \boldsymbol{a}'_1 \, \, \boldsymbol{a}'_1 \otimes \boldsymbol{a}'_2 \, \, \boldsymbol{a}'_2 \otimes \boldsymbol{a}'_1 \, \, \boldsymbol{a}'_2 \otimes \boldsymbol{a}'_2) \, \, \frac{1}{25}\begin{pmatrix} 9 \\ -8 \\ -3 \\ 11 \end{pmatrix}. \end{eqnarray}
この解き方ではセンスが疑われますね。
もっといい方法があります。
\begin{eqnarray}
(\boldsymbol{a}_1 \, \, \boldsymbol{a}_2 )=(\boldsymbol{a}'_1 \, \, \boldsymbol{a}'_2 )\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 3 & 4\end{pmatrix}^{-1}=(\boldsymbol{a}'_1 \, \, \boldsymbol{a}'_2 ) \, \, \frac{1}{5}\begin{pmatrix} 4 & -1 \\ -3 & 2\end{pmatrix}
\end{eqnarray}
より、$S$に代入して
\begin{eqnarray} S=\frac{9}{25}\boldsymbol{a}'_1 \otimes \boldsymbol{a}'_1 -\frac{8}{25}\boldsymbol{a}'_1 \otimes \boldsymbol{a}'_2-\frac{3}{25}\boldsymbol{a}'_2 \otimes \boldsymbol{a}'_1+\frac{11}{25}\boldsymbol{a}'_2 \otimes \boldsymbol{a}'_2. \end{eqnarray}
明らかに方法2のほうが早くてシンプルですが、方法1に出てきた$4×4$行列に注目してください。
\begin{eqnarray} \begin{pmatrix} 4 & 2 & 2 & 1 \\ 6 & 8 & 3 & 4 \\ 6 & 3 & 8 & 4 \\ 9 & 12 & 12 &16 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 2\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 3 & 4 \end{pmatrix} & 1\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 3 & 4 \end{pmatrix} \\ 3\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 3 & 4 \end{pmatrix} & 4\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 3 & 4 \end{pmatrix} \end{pmatrix}. \end{eqnarray}
なにかに気づきませんでしたか?
そう、これはテンソル積の一例になっているんです。
\begin{eqnarray} \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 3 & 4 \end{pmatrix} \otimes \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 3 & 4 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 4 & 2 & 2 & 1 \\ 6 & 8 & 3 & 4 \\ 6 & 3 & 8 & 4 \\ 9 & 12 & 12 &16 \end{pmatrix} \end{eqnarray}
が成立しています。
このような行列の積を特別にクロネッカー積と呼びます。
こうして見るとテンソル積が馴染み深いものに見えてくるはずです。
クロネッカー積はあくまで行列に対する特別なテンソル積であって、クロネッカー積ではないようなテンソル積も存在します。
そのような意味でテンソル積とクロネッカー積をはっきり区別していきます。
ここから先は行列の成分が非常に煩雑になりがちなので、アインシュタインの縮約記法という画期的な記法を導入します。
一言でいうと、あるルールのもと総和記号$\Sigma$を省略します。
「上と下に現れた同じ添字は媒介変数と思って総和を取る」というルールです。
たとえば、$a_ib^i$は$i$という添字が上と下に現れていますね。なので、
$a_ib^i=a_1b^1+a_2b^2+a_3b^3$となります。
ここで注意を2つ。
まず、$b^i$は累乗ではなく上付き添字です。添字が上にあると思ってください。
紛らわしい場合は私が注意するので参考にしてください。
そして、添字を足していく範囲は大体$0$から$3$または$1$から$3$です。
これも紛らわしい場合は注釈をつけるので安心してください。
いくつか練習してみましょう。
添字の動く範囲を$0$から$3$とする。このとき次を計算せよ。
この添字ルールを使うと行列さえも簡潔に表すことができます。
たとえば、行列の積は
\begin{eqnarray} \begin{pmatrix} a^1_1 & a^1_2 \\ a^2_1 & a^2_2 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} b^1_1 & b^1_2 \\ b^2_1 & b^2_2 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} a^1_1b^1_1+a^1_2b^2_1 & a^1_1b^1_2+a^1_2b^2_2 \\ a^2_1b^1_1+a^2_2b^2_1 & a^2_1b^1_2+a^2_2b^2_2 \end{pmatrix} \end{eqnarray}
ですが、この行列の$ij$成分を$c^i_j$とおくと
\begin{eqnarray} c^i_j=a^i_kb^k_j \, \, \, (k=1,2) \end{eqnarray}
と簡潔に表せます。たとえば$c^2_1=a^2_kb^k_1=a^2_1b^1_1+a^2_2b^2_1$となっていますよね。
同様に、$3×3$や$4×4$行列であっても$k$の範囲を変えるだけで表現できてしまいます。
では単位行列や逆行列はどう表したらいいのかというと、クロネッカーのデルタを使います。
クロネッカーのデルタ$\delta^i_j$を次で定義する:
\begin{eqnarray} \delta^i_j= \begin{cases} 1 & \text{if \, $i=j$,} \\ 0 & \text{if \, $i \ne j$.} \end{cases} \end{eqnarray}
$i=j$なら$1, \, i \ne j$なら$0$というだけです。
ですが、これを使えば単位行列が$c^i_j=\delta^i_j$の1行で表現できてしまいます。
つまり、単位行列とは$ij$成分が$\delta^i_j$である行列のことなんですね。
これを踏まえ$ij$成分が$a^i_j$である行列の逆行列の$ij$成分を成分を$b^i_j$とすると、
$a^i_kb^k_j=\delta^i_j$ (または $b^i_ka^k_j=\delta^i_j$)
と簡潔に表現できます。
このことを理解してから次に進んでください。
まずは定義から。
$V$を$n$次元線形空間とし、$\underbrace{V \otimes V \otimes \cdots \otimes V}_r$を考える。すると、$\underbrace{V \otimes V \otimes \cdots \otimes V}_r$の基底は$n^r$個になり$n^r$次元線形空間となる。
この空間のことを$r$階反変テンソル空間といい、$T^r(V)$で表す。
いわゆる"普通"のテンソルの線形空間が反変テンソル空間です。
ですが、一般相対性理論で扱うリーマン曲率テンソルは"普通"のテンソルではありません。
そこで双対空間、双対基底という概念を導入します。
$n$次元線形空間$V,V^*$がある。$V$の基底$\boldsymbol{e}_i$を$\boldsymbol{e}'_i$に変換するとき、それに伴い$V^*$の基底$\boldsymbol{f}^i$を$\boldsymbol{f}'^i$に変換するとする。ここで$\boldsymbol{e}'_i=a^j_i\boldsymbol{e}_j, \, \boldsymbol{f}'^i=b^i_j\boldsymbol{f}^j$と基底を変換したとき必ず$a^i_kb^k_j=\delta^i_j$が成立していないといけない。
このような条件を満たすとき、$V^*$を$V$の双対空間、$f^i$を$\boldsymbol{e}_i$の双対基底、$f'^i$を$\boldsymbol{e}'_i$の双対基底という。
線形代数の本では$V$の双対空間を$V$から$\mathbb{R}$への線形写像で定義していると思いますが、ここでは具体的なルールを先に与えておきました。
$V$に対して$V^*$は一意に定まります。
そこで共変テンソルと混合テンソルを定義しますね。
$V$を$n$次元線形空間とし、$\underbrace{V^* \otimes V^* \otimes \cdots \otimes V^*}_s$を考える。すると、$\underbrace{V^* \otimes V^* \otimes \cdots \otimes V^*}_s$の基底は$n^s$個になり$n^s$次元線形空間となる。
この空間のことを$s$階共変テンソル空間といい、$T_s(V)$で表す。
$V$を$n$次元線形空間とし、$\underbrace{V \otimes V \otimes \cdots \otimes V}_r \otimes \underbrace{V^* \otimes V^* \otimes \cdots \otimes V^*}_s$を考える。すると、$\underbrace{V \otimes V \otimes \cdots \otimes V}_r \otimes \underbrace{V^* \otimes V^* \otimes \cdots \otimes V^*}_s$の基底は$n^{r+s}$個になり$n^{r+s}$次元線形空間となる。
この空間のことを$r$階反変$s$階共変テンソル空間といい、$T^r_s(V)$で表す。
定義ばっかり見ていてもつまんないですね。
試しに計算してみましょう。
$V$の基底を$\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2$その双対空間である$V^*$の基底を$\boldsymbol{f}^1,\boldsymbol{f}^2$とします。
基底とその双対基底では添字の上下を逆転させて書いてください。
このとき、$T^1_1(V)$の基底は$\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1, \boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^2, \boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^1, \boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^2$の4つです。
なので、たとえば
\begin{eqnarray} (2\boldsymbol{e}_1+3\boldsymbol{e}_2) \otimes (4\boldsymbol{f}^1+\boldsymbol{f}^2)&=&(2\boldsymbol{e}_1+3\boldsymbol{e}_2) \otimes 4\boldsymbol{f}^1+(2\boldsymbol{e}_1+3\boldsymbol{e}_2) \otimes \boldsymbol{f}^2 \\ &=& 8\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1+2\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^2+12\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^1+3\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^2 \end{eqnarray}
と計算できます。
これも双線形性のおかげですね。
先程同様、一般的には$\boldsymbol{a} \otimes \boldsymbol{b} \ne \boldsymbol{b} \otimes \boldsymbol{a}$なので順番には注意してください。
もちろん、混合テンソルにもテンソル積が定義できます。たとえば、
\begin{eqnarray} (\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^1 \otimes \boldsymbol{f}^2) \otimes \boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^1=\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^1 \otimes \boldsymbol{f}^2 \otimes \boldsymbol{f}^1 \end{eqnarray}
です。
「$\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^1 \otimes \boldsymbol{f}^2 \otimes \boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^1$になるんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、
混合テンソル空間を $\underbrace{V \otimes V \otimes \cdots \otimes V}_r \otimes \underbrace{V^* \otimes V^* \otimes \cdots \otimes V^*}_s$ で定義したため$\boldsymbol{e}$と$\boldsymbol{f}$をそれぞれひとまとめにする必要があります。
ここで、$\boldsymbol{e}$の基底の順番と$\boldsymbol{f}$の基底の順番はそれぞれ変えてはいけません。
さて、混合テンソル空間の元であるテンソルには縮約という特別な操作ができます。
簡単に言うと、行列でいうところの跡(trace)の一般化です。
実際に$2\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1+\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1+\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^2$を縮約してみましょう。
まず、何番目と何番目を縮約するか決めます。
今回は左から2番目の$\boldsymbol{e}$と1番目の$\boldsymbol{f}$($\boldsymbol{e}$を除いて数えて左から1番目)にしましょう。
ここでは基底とそれに対応する双対基底(今回の場合は$\boldsymbol{e}$と$\boldsymbol{f}$)を選んでください。
$\boldsymbol{e}$どうし、$\boldsymbol{f}$どうしは縮約できません。
次に、添字が上と下で同じ項だけ抜き出してきます。
この場合$2\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1+\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1$ですね。
最後に添字が同じ2つの基底をバッサリ落とします。
なので結果は$2\boldsymbol{e}_1+\boldsymbol{e}_2$です。
他にも練習してみましょう。
次のテンソルを指定した添字で縮約せよ。
(1)添字が等しい項は$2\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1$だけなので、1番目の$\boldsymbol{e}$と2番目の$\boldsymbol{f}$を落として$2\boldsymbol{e}_1$となります。
(2)$2\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1+3\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^2$
(3)$2\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1+4\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^2+3\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^2=2\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1+7\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^2$となります。
(4)落とした部分が$0$になるわけではないので、$8-3=5$となります。
少しは慣れたと思います。
厳密な定義はこちら。
$r$階反変$s$階共変テンソル
\begin{eqnarray}
T^{i_1 \cdots i_r}_{j_1 \cdots j_s} \boldsymbol{e}_{i_1} \otimes \cdots \otimes \boldsymbol{e}_{i_r} \otimes \boldsymbol{f}^{j_1} \otimes \cdots \otimes \boldsymbol{f}^{j_s}
\end{eqnarray}
について、$k$番目の反変成分、$l$番目の共変成分で縮約したテンソルを
\begin{eqnarray}
T^{i_1 \cdots i_r}_{j_1 \cdots j_s} \delta^{j_l}_{i_k} \boldsymbol{e}_{i_1} \otimes \cdots \otimes \boldsymbol{e}_{i_{k-1}} \otimes \boldsymbol{e}_{i_{k+1}} \cdots \otimes \boldsymbol{e}_{i_r} \otimes \boldsymbol{f}^{j_1} \otimes \cdots \otimes \boldsymbol{f}^{j_{l-1}} \otimes \boldsymbol{f}^{j_{l+1}} \cdots \otimes \boldsymbol{f}^{j_s}
\end{eqnarray}
で定義する。
同様に、$\boldsymbol{a}$と$\boldsymbol{b}$のテンソル積を取ってから縮約したものを$\boldsymbol{a}$と$\boldsymbol{b}$の縮合といい$\boldsymbol{a} \cdot \boldsymbol{b}$で表します。
ですが、ここで1つ注意です。
たとえば$3\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1 \otimes \boldsymbol{f}^1+5\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^2 \otimes \boldsymbol{f}^2$と$\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^2+\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^1$の縮合を計算しようとして真っ先にテンソル積を取ってはいけません。
まずは左右でどの添字を選ぶか決めないといけないですね。
たとえば、左は2番目の$\boldsymbol{e},$右は1番目の$\boldsymbol{f}$を選ぶことにします。
$ \boldsymbol{e} \otimes \underline{\boldsymbol{e}} \otimes \boldsymbol{f} \otimes \boldsymbol{f}$と$\boldsymbol{e} \otimes \underline{\boldsymbol{f}}$のように下線を引いた部分を選ぶということです。
次にテンソル積を取ると、
$3(\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1 \otimes \boldsymbol{f}^1) \otimes (\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^2)+3(\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1 \otimes \boldsymbol{f}^1) \otimes (\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^1)+5(\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^2 \otimes \boldsymbol{f}^2) \otimes (\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^2)+5(\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^2 \otimes \boldsymbol{f}^2) \otimes (\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^1)$
となります。
その次に、さっき選んだ添字が等しい項だけ選んで等しい添字の部分を落とします。
すると$3(\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1 \otimes \boldsymbol{f}^1) \otimes \boldsymbol{e}_2+5(\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^2 \otimes \boldsymbol{f}^2) \otimes \boldsymbol{e}_1,$
つまり$3\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^1 \otimes \boldsymbol{f}^1+5\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^2 \otimes \boldsymbol{f}^2$になります。
たとえば左は最初の$\boldsymbol{e},$右は最初の$\boldsymbol{f}$で縮合するものとすると
\begin{eqnarray}
(2\boldsymbol{e}_1+3\boldsymbol{e}_2) \cdot (4\boldsymbol{f}^1+\boldsymbol{f}^2)&=&11
\end{eqnarray}
となります。内積に似てる感じがしますね。
さて、$T^r_s(V)$でも基底の変換ができるのでやってみましょう。
$\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2$を$V$の基底、それらに対応する双対基底をそれぞれ$\boldsymbol{f}^1,\boldsymbol{f}^2$とおく。
このとき$(\boldsymbol{e}'_1 \, \, \boldsymbol{e}'_2 )=(\boldsymbol{e}_1 \, \, \boldsymbol{e}_2 )\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 3 & 4\end{pmatrix}$が成り立っている。
基底を変換して$S=\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1+\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^2+2\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^1+5\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^2$を$\boldsymbol{e}'_1 \otimes \boldsymbol{f}'^1,\boldsymbol{e}'_1 \otimes \boldsymbol{f}'^2,\boldsymbol{e}'_2 \otimes \boldsymbol{f}'^1,\boldsymbol{e}'_2 \otimes \boldsymbol{f}'^2$の線形結合で表せ。
\begin{eqnarray}
(\boldsymbol{e}'_1 \, \, \boldsymbol{e}'_2 )=(\boldsymbol{e}_1 \, \, \boldsymbol{e}_2 )\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 3 & 4\end{pmatrix}
\end{eqnarray}
に連動して、双対基底は
\begin{eqnarray}
(\boldsymbol{f}'^1 \, \, \boldsymbol{f}'^2 )=(\boldsymbol{f}^1 \, \, \boldsymbol{f}^2 )\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 3 & 4\end{pmatrix}^{-1}
\end{eqnarray}
という変換ルールが成り立っている。
よって、$(\boldsymbol{e}'_1 \, \, \boldsymbol{e}'_2)=\frac{1}{5}(2\boldsymbol{e}_1+3\boldsymbol{e}_2 \, \, \boldsymbol{e}_1+4\boldsymbol{e}_2)$ および $(\boldsymbol{f}'^1 \, \, \boldsymbol{f}'^2)=(4\boldsymbol{f}^1-3\boldsymbol{f}^2 \, \, -\boldsymbol{f}^1+2\boldsymbol{f}^2)$ を得る。
ゆえに
\begin{eqnarray} \boldsymbol{e}'_1 \otimes \boldsymbol{f}'^1 &=&\frac{1}{5}( 8\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1-6\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^2+12\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^1-9\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^2), \\ \boldsymbol{e}'_1 \otimes \boldsymbol{f}'^2 &=&\frac{1}{5}( -2\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1+4\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^2-3\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^1+6\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^2), \\ \boldsymbol{e}'_2 \otimes \boldsymbol{f}'^1 &=&\frac{1}{5}( 4\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1-3\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^2+16\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^1-12\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^2), \\ \boldsymbol{e}'_2 \otimes \boldsymbol{f}'^2 &=&\frac{1}{5}( -\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1+2\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^2-4\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^1+8\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^2). \end{eqnarray}
よって、
\begin{eqnarray} (\boldsymbol{e}'_1 \otimes \boldsymbol{f}'^1 \, \, \boldsymbol{e}'_1 \otimes \boldsymbol{f}'^2 \, \, \boldsymbol{e}'_2 \otimes \boldsymbol{f}'^1 \, \, \boldsymbol{e}'_2 \otimes \boldsymbol{f}'^2)=(\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1 \, \, \boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^2 \, \, \boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^1 \, \, \boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^2) \, \, \frac{1}{5}\begin{pmatrix} 8 & -2 & 4 & -1 \\ -6 & 4 & -3 & 2 \\ 12 & -3 & 16 & -4 \\ -9 & 6 & -12 & 8 \end{pmatrix}. \end{eqnarray}
一方、
\begin{eqnarray} S&=& (\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1 \, \, \boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^2 \, \, \boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^1 \, \, \boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^2) \begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 2 \\ 5 \end{pmatrix} \\ &=& (\boldsymbol{e}'_1 \otimes \boldsymbol{f}'^1 \, \, \boldsymbol{e}'_1 \otimes \boldsymbol{f}'^2 \, \, \boldsymbol{e}'_2 \otimes \boldsymbol{f}'^1 \, \, \boldsymbol{e}'_2 \otimes \boldsymbol{f}'^2) \left(\frac{1}{5}\begin{pmatrix} 8 & -2 & 4 & -1 \\ -6 & 4 & -3 & 2 \\ 12 & -3 & 16 & -4 \\ -9 & 6 & -12 & 8 \end{pmatrix} \right)^{-1}\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 2 \\ 5 \end{pmatrix} \\ &=& (\boldsymbol{e}'_1 \otimes \boldsymbol{f}'^1 \, \, \boldsymbol{e}'_1 \otimes \boldsymbol{f}'^2 \, \, \boldsymbol{e}'_2 \otimes \boldsymbol{f}'^1 \, \, \boldsymbol{e}'_2 \otimes \boldsymbol{f}'^2) \, \, \frac{1}{5}\begin{pmatrix} 3 \\ 2 \\ 9 \\ 31 \end{pmatrix}. \end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
(\boldsymbol{e}'_1 \, \, \boldsymbol{e}'_2 )=(\boldsymbol{e}_1 \, \, \boldsymbol{e}_2 )\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 3 & 4\end{pmatrix}
\end{eqnarray}
に連動して、双対基底は
\begin{eqnarray}
(\boldsymbol{f}'^1 \, \, \boldsymbol{f}'^2 )=(\boldsymbol{f}^1 \, \, \boldsymbol{f}^2 )\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 3 & 4\end{pmatrix}^{-1}
\end{eqnarray}
という変換ルールが成り立っている。
よって、$(\boldsymbol{e}_1 \, \, \boldsymbol{e}_2)=\frac{1}{5}(4\boldsymbol{e}'_1-3\boldsymbol{e}'_2 \, \, -\boldsymbol{e}'_1+2\boldsymbol{e}'_2)$ および$(\boldsymbol{f}^1 \, \, \boldsymbol{f}^2)=(2\boldsymbol{f}'^1+3\boldsymbol{f}'^2 \, \, \boldsymbol{f}'^1+4\boldsymbol{f}'^2)$ を得る。
代入して、
\begin{eqnarray} S&=&\frac{1}{5}((4\boldsymbol{e}'_1-3\boldsymbol{e}'_2) \otimes (2\boldsymbol{f}'^1+3\boldsymbol{f}'^2)+(4\boldsymbol{e}'_1-3\boldsymbol{e}'_2) \otimes (\boldsymbol{f}'^1+4\boldsymbol{f}'^2)+2(-\boldsymbol{e}'_1+2\boldsymbol{e}'_2) \otimes (2\boldsymbol{f}'^1+3\boldsymbol{f}'^2)+5(-\boldsymbol{e}'_1+2\boldsymbol{e}'_2) \otimes (\boldsymbol{f}'^1+4\boldsymbol{f}'^2)) \\ &=&\frac{1}{5}( (8+4-4-5)\boldsymbol{e}'_1 \otimes \boldsymbol{f}'^1+(12+16-6-20)\boldsymbol{e}'_1 \otimes \boldsymbol{f}'^2+( -6-3+8+10)\boldsymbol{e}'_2 \otimes \boldsymbol{f}'^1+( -9-12+12+40)\boldsymbol{e}'_2 \otimes \boldsymbol{f}'^2) \\ &=&\frac{1}{5}( 3\boldsymbol{e}'_1 \otimes \boldsymbol{f}'^1+2\boldsymbol{e}'_1 \otimes \boldsymbol{f}'^2-3\boldsymbol{e}'_2 \otimes \boldsymbol{f}'^1+31\boldsymbol{e}'_2 \otimes \boldsymbol{f}'^2). \end{eqnarray}
やはり方法2のほうが早くてシンプルですが、双対基底が登場しても先ほどと同じように計算できることがわかりましたね。
さて、ここまででテンソル積、基底の変換、縮約、縮合といったテンソルの演算を学んできました。
ですが、基底を変換してからテンソル積をとるのとテンソル積を取ってから基底を変換するのでは結果は同じになるのでしょうか?
縮合についても同じ疑問が湧いてきます。
基底を変換してから縮合するのと、縮合してから基底を変換するのでは結果は同じになるのでしょうか?
もし結果が違えば、テンソルの演算は基底に依存することになり一般性を失います。
そうなると相対性原理に則った物理法則を記述することはできなくなります。
相対性原理とは、「物理法則は観測する座標系に依存しない」という根本的な原理です。
果たして、テンソルは座標系に依存するのか、しないのでしょうか?
結論は、テンソルの演算は座標系に依存しません。
つまり、基底を変換してからテンソル積をとるのとテンソル積を取ってから基底を変換するのでは結果は同じになります。
縮約や縮合についても同じです。
だから一般相対性理論はテンソル方程式で記述されるんですね。
一般的な証明は参考文献に任せるとして、先へ進みましょう。
突然ですが、行列には単位行列が存在しますね。
そこから逆行列が定義できたのでした。
同じように、テンソルの世界にも単位テンソルというものが存在します。
$T^1_1(V)$の元であるテンソル$\delta^i_j \boldsymbol{e}_i \otimes \boldsymbol{f}^j$を単位テンソルと呼ぶ。
もちろん、アインシュタインの縮約記法で書いています。
$V$の基底を$\boldsymbol{e}_1,\cdots,\boldsymbol{e}_n,$それらのそれぞれに対応する双対基底を$\boldsymbol{f}^1,\cdots,\boldsymbol{f}^n$というふうに書けば、単位テンソルは$\delta^i_j \boldsymbol{e}_i \otimes \boldsymbol{f}^j=\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1+\cdots+\boldsymbol{e}_n \otimes \boldsymbol{f}^n$と書けます。
$r$階反変$s$階共変テンソル
\begin{eqnarray}
T^{i_1 \cdots i_r}_{j_1 \cdots j_s} \boldsymbol{e}_{i_1} \otimes \cdots \otimes \boldsymbol{e}_{i_r} \otimes \boldsymbol{f}^{j_1} \otimes \cdots \otimes \boldsymbol{f}^{j_s}
\end{eqnarray}
があって、任意の置換$\sigma \in \mathfrak{S}_r, \, \pi \in \mathfrak{S}_s$に対して
\begin{eqnarray}
T^{i_1 \cdots i_r}_{j_1 \cdots j_s} \boldsymbol{e}_{i_1} \otimes \cdots \otimes \boldsymbol{e}_{i_r} \otimes \boldsymbol{f}^{j_1} \otimes \cdots \otimes \boldsymbol{f}^{j_s}=T^{i_{\sigma(1)} \cdots i_{\sigma(r)}}_{j_{\pi(1)} \cdots j_{\pi(s)}} \boldsymbol{e}_{i_{\sigma(1)}} \otimes \cdots \otimes \boldsymbol{e}_{i_{\sigma(r)}} \otimes \boldsymbol{f}^{j_{\pi(1)}} \otimes \cdots \otimes \boldsymbol{f}^{j_{\pi(s)}}
\end{eqnarray}
が成立するとき、対称テンソルであるという。
$\boldsymbol{e}$と$\boldsymbol{f}$のそれぞれの添字をどのように入れ替えても変わらないテンソルということです。
たとえば$\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1+\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^2, \, \boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{e}_2 + \boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{e}_1$は対称テンソルで、
$\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1 \otimes \boldsymbol{f}^1+\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^2\otimes \boldsymbol{f}^1$は対称テンソルではありません。
そんな単位テンソルと対称テンソルですが、こんな性質があります。
任意の対称テンソルは単位テンソルとの縮合をとっても変わらない。ここで、縮合のとき落とす添字の組はどれでもよい。
このことを数式で表すと、任意の対称テンソル$\boldsymbol{T}$に対して
\begin{eqnarray} \boldsymbol{T} \cdot \delta^i_j \boldsymbol{e}_i \otimes \boldsymbol{f}^j=\delta^i_j \boldsymbol{e}_i \otimes \boldsymbol{f}^j \cdot \boldsymbol{T}=\boldsymbol{T}. \end{eqnarray}
実際にやってみましょう。
$V$を$2$次元の線形空間とし、その基底を$\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2,$それらそれぞれに対応する双対基底を$\boldsymbol{f}^1,\boldsymbol{f}^2$とする。
このとき、次のテンソルを指定した添字で縮合せよ。
(1)と(4)は対称テンソルと単位テンソルの縮合なので変化していないことがわかると思います。
他の添字で縮合しても同様です。
まずは問題を解いてみましょう。
$V$を$2$次元の線形空間とし、その基底を$\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2,$それらそれぞれに対応する双対基底を$\boldsymbol{f}^1,\boldsymbol{f}^2$とする。
このとき、次のテンソルを指定した添字で縮合せよ。
このように、$g \cdot g^{-1}=\delta^i_j\boldsymbol{e}_i \otimes \boldsymbol{f}^j$となるような$2$階の反変テンソルおよび$2$階の共変テンソル$g,g^{-1}$が存在することがあります。
そのとき、縮合する添字を適切に選べば $(\boldsymbol{T} \cdot g) \cdot g^{-1}=\boldsymbol{T}$ とすることができます。
特に、$g$が対称テンソルの場合は縮合のとき指定する添字に依らず$(\boldsymbol{T} \cdot g) \cdot g^{-1}=\boldsymbol{T}$が成立します。
これを使い添字を上げ下げしてみましょう。
例として$1$階反変$1$階共変テンソル$\boldsymbol{T}=T^i_j\boldsymbol{e}_i \otimes \boldsymbol{f}^j,$そしてある$2$階の反変テンソル$g=g^{ij}\boldsymbol{e}_i \otimes \boldsymbol{e}_j$とそれに対応して$g \cdot g^{-1}=\delta^i_j\boldsymbol{e}_i \otimes \boldsymbol{f}^j$となるような$2$階の共変テンソル$g^{-1}=g_{ij}\boldsymbol{f}^i \otimes \boldsymbol{f}^j$を考えます。
$V$は$2$次元として考えると、
\begin{eqnarray}
&\boldsymbol{T}=T^1_1\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^1+T^1_2\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{f}^2+T^2_1\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^1+T^2_2\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{f}^2, \\
&g=g^{11}\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{e}_1+g^{12}\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{e}_2+g^{21}\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{e}_1+g^{22}\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{e}_2, \\
&g^{-1}=g_{11}\boldsymbol{f}^1 \otimes \boldsymbol{f}^1+g_{12}\boldsymbol{f}^1 \otimes \boldsymbol{f}^2+g_{21}\boldsymbol{f}^2 \otimes \boldsymbol{f}^1+g_{22}\boldsymbol{f}^2 \otimes \boldsymbol{f}^2.
\end{eqnarray}
左は1番目の共変成分、右は1番目の反変成分で縮合を取ると
\begin{eqnarray} \boldsymbol{T} \cdot g&=&(T^1_1g^{11}+T^1_2g^{21})\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{e}_1+(T^1_1g^{12}+T^1_2g^{22})\boldsymbol{e}_1 \otimes \boldsymbol{e}_2+(T^2_1g^{11}+T^2_2g^{21})\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{e}_1+(T^2_1g^{12}+T^2_2g^{22})\boldsymbol{e}_2 \otimes \boldsymbol{e}_2 \\ &=& T^i_kg^{kj}\boldsymbol{e}_i \otimes \boldsymbol{e}_j \\ &=& T^{ij}\boldsymbol{e}_i \otimes \boldsymbol{e}_j. \end{eqnarray}
ここで、$k$は媒介変数で消えてしまうので$T^i_kg^{kj}=T^{ij}$と改めて置き直しました。
$g$との縮合を取ることで、$\boldsymbol{T}$の係数である$T^i_j$が$T^{ij}$に変わり添字が上がったように思えます。
同様に、左は1番目の反変成分、右は1番目の共変成分で縮合を取ると
\begin{eqnarray} \boldsymbol{T} \cdot g^{-1}&=&(T^1_1g_{11}+T^2_1g_{21})\boldsymbol{f}^1 \otimes \boldsymbol{f}^1+(T^1_1g_{12}+T^2_1g_{22})\boldsymbol{f}^1 \otimes \boldsymbol{f}^2+(T^1_2g_{11}+T^2_2g_{21})\boldsymbol{f}^2 \otimes \boldsymbol{f}^1+(T^1_2g_{12}+T^2_2g_{22})\boldsymbol{f}^2 \otimes \boldsymbol{f}^2 \\ &=&T^k_ig_{kj}\boldsymbol{f}^i \otimes \boldsymbol{f}^j \\ &=&T_{ij}\boldsymbol{f}^i \otimes \boldsymbol{f}^j. \end{eqnarray}
ここで、$k$は媒介変数で消えてしまうので$T^k_ig_{kj}=T_{ij}$と改めて置き直しました。
$g^{-1}$との縮合を取ることで、$\boldsymbol{T}$の係数である$T^i_j$が$T_{ij}$に変わり添字が下がったように思えます。
これこそが添え字の上げ下げです。
$2$階反変(共変)テンソルとの縮合を取ることにより添字の位置を変えているだけですね。
特に難しいことではないと思います。
ですが、この添字の上げ下げにより一旦添字を上げたり下げたりしてから縮約するといったことができるようになります。
その威力は後ほど体感してもらえればと思います。
ここからはテンソル場の始まりです。
テンソル場とは、座標空間の各点にテンソルが与えられた世界です。
定義を見ましょう。
座標$(\boldsymbol{x})$での成分を$x^i,$座標$(\boldsymbol{x}')$での成分を$x'^i$とおく。
それらの間に$x'^i=b^i_jx^j$および$x^i=a^i_jx'^j$が成立している。
このとき、
\begin{eqnarray} T'^{i_1 \cdots i_r}_{j_1 \cdots j_s}(\boldsymbol{x}')=b^{i_1 \cdots i_r}_{k_1 \cdots k_r}a^{l_1 \cdots l_s}_{j_1 \cdots j_s}T^{k_1 \cdots k_r}_{l_1 \cdots l_s}(\boldsymbol{x}) \end{eqnarray}
が成立するならば、$T$を$r$階反変$s$階共変テンソル場と呼ぶ。
基底たちがなくなってしまいテンソルとは全くの別物に見えるかもしれませんが、これがテンソル場です。
これはあくまでテンソルの係数を定義しているのであって、次のように言い直すこともできます。
線形空間$V$の基底$\boldsymbol{e}_i,\boldsymbol{e}'_i$の間に$\boldsymbol{e}'_i=a^j_i\boldsymbol{e}_j,$双対基底$\boldsymbol{f}^i,\boldsymbol{f}'^i$の間に$\boldsymbol{f}'^i=b^i_j\boldsymbol{f}^j$が成立している。
実際、座標$(\boldsymbol{x})$の基底は$\boldsymbol{e}_i$であり座標$(\boldsymbol{x}')$の基底は$\boldsymbol{e}'_i$である。
このとき、
\begin{eqnarray} T'^{i_1 \cdots i_r}_{j_1 \cdots j_s}(\boldsymbol{x}')=b^{i_1 \cdots i_r}_{k_1 \cdots k_r}a^{l_1 \cdots l_s}_{j_1 \cdots j_s}T^{k_1 \cdots k_r}_{l_1 \cdots l_s}(\boldsymbol{x}) \end{eqnarray}
が成立するならば、
\begin{eqnarray} T^{i_1 \cdots i_r}_{j_1 \cdots j_s}(\boldsymbol{x})\boldsymbol{e}_{i_1} \otimes \cdots \otimes \boldsymbol{e}_{i_r} \otimes \boldsymbol{f}^{j_1} \otimes \cdots \otimes \boldsymbol{f}^{j_s}=T'^{i_1 \cdots i_r}_{j_1 \cdots j_s}(\boldsymbol{x}')\boldsymbol{e}'_{i_1} \otimes \cdots \otimes \boldsymbol{e}'_{i_r} \otimes \boldsymbol{f}'^{j_1} \otimes \cdots \otimes \boldsymbol{f}'^{j_s} \end{eqnarray}
もまた成立する。これを$r$階反変$s$階共変テンソル場と呼ぶ。
基底を変換する行列と成分を変換する行列とが互いに逆行列になっていることに注意すれば、全く同じものであることがわかると思います。
なのでこれからは特に事情がない限りは基底を見せない物理流の定義を使っていこうと思います。
基底があったほうがわかりやすい場合はその都度解説していきますね。
この定義でいくと、スカラー場は$0$階反変$0$階共変テンソル場、ベクトル場は$1$階反変$0$階共変テンソル場というふうに一般化できます。
例を挙げましょう。
直線座標上のスカラー場$f(x^1,x^2)=3x^1-2x^2$があって、
\begin{eqnarray}
\begin{pmatrix} x'^1 \\ x'^2 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 3 & -1 \\ -5 & 2\end{pmatrix}\begin{pmatrix} x^1 \\ x^2 \end{pmatrix}
\end{eqnarray}
が成立している。
$f$を直線座標$(x'^1, x'^2)$のもとで表した式を$f(x'^1,x'^2)$とおく。
スカラー場は$0$階反変$0$階共変テンソル場なので、変換せずとも$T(\boldsymbol{x}')=T(\boldsymbol{x})$が成り立ちます。
$r$階反変$s$階共変テンソル場でも同様なことができます。
それは後々やっていくので楽しみにしていてください。
テンソル場での微分を考える前に、スカラー場での微分を考えます。
直線座標$x^1,x^2,$媒介変数$t$で表されたパラメータ曲線$C:(c^1(t),c^2(t)),$スカラー場$f$を考えましょう。
$t=\alpha$としたときの$C$上の点$(c^1(\alpha),c^2(\alpha))$での値は$f(c^1(\alpha),c^2(\alpha))$ですね。
$f(c^1(t),c^2(t))$は曲線$C$に沿ったスカラー場の値を表していると言えます。
これを$t$で微分します。
その前に2変数関数での合成関数の微分(連鎖律)を確認します。
微分可能な関数$f$に対し次が成立:
\begin{eqnarray} \frac{\mathrm {d}f(x(t),y(t))}{\mathrm{d} t}=\frac{\partial f(x(t),y(t))}{\partial x}\frac{\mathrm {d}x}{\mathrm{d} t}+\frac{\partial f(x(t),y(t))}{\partial y}\frac{\mathrm {d}y}{\mathrm{d} t} \end{eqnarray}
ゆえ、
\begin{eqnarray} \frac{\mathrm {d}f(c^1(t),c^2(t))}{\mathrm{d} t}=\frac{\partial f(c^1(t),c^2(t))}{\partial x^1}\frac{\mathrm {d}c^1(t)}{\mathrm{d} t}+\frac{\partial f(c^1(t),c^2(t))}{\partial x^2}\frac{\mathrm {d}c^2(t)}{\mathrm{d} t}. \end{eqnarray}
ここで、
\begin{eqnarray} \nabla f=\left(\frac{\partial f(c^1(t),c^2(t))}{\partial x^1},\frac{\partial f(c^1(t),c^2(t))}{\partial x^2}\right) \end{eqnarray}
という勾配になっています。
また、
\begin{eqnarray} \boldsymbol{c}=\left(\frac{\mathrm {d}c^1(t)}{\mathrm{d} t},\frac{\mathrm {d}c^2(t)}{\mathrm{d} t} \right) \end{eqnarray}
は$C$の方向ベクトルとなっていることが容易にわかりますね。
なので
\begin{eqnarray} \frac{\mathrm {d}f(c^1(t),c^2(t))}{\mathrm{d} t}=\nabla f \cdot \boldsymbol{c} \end{eqnarray}
といえます。
このことを一般化します。
新しくベクトル場$\boldsymbol{A}=(A^1(x^1,x^2),A^2(x^1,x^2))$を与えると、そのベクトル場$\boldsymbol{A}$に沿ったスカラー場$f$の微分を
\begin{eqnarray} \nabla f \cdot \boldsymbol{A}=\frac{\partial f(x^1,x^2)}{\partial x^1}A^1(x^1,x^2)+\frac{\partial f(x^1,x^2)}{\partial x^2}A^2(x^1,x^2) \end{eqnarray}
で定義できます。
これをベクトル場$\boldsymbol{A}$に沿ったスカラー場$f$の微分係数といいます。
添字を増やして同じことをしましょう。
すると、
\begin{eqnarray} \nabla f \cdot \boldsymbol{A}=\frac{\partial f}{\partial x^i}A^i \end{eqnarray}
となります。
ここで1つ注意です。
ここでもアインシュタインの縮約記法を使うわけですが、偏微分の分母にある添字は逆転するとして$x^i$を$x_i$と解釈します。
そうすると$i$が媒介変数となり
\begin{eqnarray} \nabla f \cdot \boldsymbol{A}=\frac{\partial f}{\partial x^i}A^i=\frac{\partial f}{\partial x^1}A^1+\cdots+\frac{\partial f}{\partial x^n}A^n \end{eqnarray}
となります。
さて、これはスカラー場、つまり$0$階反変$0$階共変テンソル場になるので
\begin{eqnarray} \frac{\partial f}{\partial x'^i}A'^i=\frac{\partial f}{\partial x^i}A^i \end{eqnarray}
が成立します。
これをさらに拡張してテンソル場にも適応してみましょう。
\begin{eqnarray}
\frac{\partial f}{\partial x'^1}A'^1,\frac{\partial f}{\partial x'^1}A'^2,\frac{\partial f}{\partial x'^2}A'^1,\frac{\partial f}{\partial x'^2}A'^2
\end{eqnarray}
と
\begin{eqnarray}
\frac{\partial f}{\partial x^1}A^1,\frac{\partial f}{\partial x^1}A^2,\frac{\partial f}{\partial x^2}A^1,\frac{\partial f}{\partial x^2}A^2
\end{eqnarray}
の間に成立する変換則を示せ。
\begin{eqnarray}
\begin{pmatrix} x'^1 \\ x'^2 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} b^1_1 & b^1_2 \\ b^2_1 & b^2_2 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x^1 \\ x^2 \end{pmatrix}, \, \, \, \begin{pmatrix} x^1 \\ x^2 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} a^1_1 & a^1_2 \\ a^2_1 & a^2_2 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x'^1 \\ x'^2 \end{pmatrix}
\end{eqnarray}
とおくと、$x'^1$を$x^1$の関数、$x'^2$を$x^2$の関数と見て合成関数の偏微分をして
\begin{eqnarray}
\frac{\partial f(x'^1,x'^2)}{\partial x'^1}&=&\frac{\partial f(x'^1,x'^2)}{\partial x'^1} \\
&=& \frac{\partial f(x^1,x^2)}{\partial x^1}\frac{\partial x^1}{\partial x'^1}+\frac{\partial f(x^1,x^2)}{\partial x^2}\frac{\partial x^2}{\partial x'^1} \\
&=& a^1_1\frac{\partial f(x^1,x^2)}{\partial x^1}+a^2_1\frac{\partial f(x^1,x^2)}{\partial x^2} \\
&=& a^j_1\frac{\partial f(x^1,x^2)}{\partial x^j}.
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray} \frac{\partial f(x'^1,x'^2)}{\partial x'^2}&=&\frac{\partial f(x'^1,x'^2)}{\partial x'^2} \\ &=& \frac{\partial f(x^1,x^2)}{\partial x^1}\frac{\partial x^1}{\partial x'^2}+\frac{\partial f(x^1,x^2)}{\partial x^2}\frac{\partial x^2}{\partial x'^2} \\ &=& a^1_2\frac{\partial f(x^1,x^2)}{\partial x^1}+a^2_2\frac{\partial f(x^1,x^2)}{\partial x^2} \\ &=& a^j_2\frac{\partial f(x^1,x^2)}{\partial x^j}. \end{eqnarray}
よって
\begin{eqnarray} \frac{\partial f(x'^1,x'^2)}{\partial x'^i}&=& a^j_i\frac{\partial f(x^1,x^2)}{\partial x^j}. \end{eqnarray}
一方、ベクトル場$\boldsymbol{A}$は曲線$C$の微分で与えられるから
\begin{eqnarray} A'^1(x'^1,x'^2)&=&A'^1(x'^1,x'^2) \\ &=& \frac{\mathrm {d}c'^1(t)}{\mathrm{d} t} \\ &=& \frac{\mathrm {d}}{\mathrm{d} t}(b^1_1c^1(t)+b^1_2c^2(t)) \\ &=& b^1_1A^1(x^1,x^2)+b^1_2A^2(x^1,x^2). \end{eqnarray}
\begin{eqnarray} A'^2(x'^1,x'^2)&=&A'^2(x'^1,x'^2) \\ &=& \frac{\mathrm {d}c'^2(t)}{\mathrm{d} t} \\ &=& \frac{\mathrm {d}}{\mathrm{d} t}(b^2_1c^1(t)+b^2_2c^2(t)) \\ &=& b^2_1A^1(x^1,x^2)+b^2_2A^2(x^1,x^2). \end{eqnarray}
よって
\begin{eqnarray} A'^i(x'^1,x'^2)=b^i_jA^j(x^1,x^2). \end{eqnarray}
これらを使い
\begin{eqnarray} \frac{\partial f(x'^1,x'^2)}{\partial x'^i}A'^j(x'^1,x'^2)&=&a^k_i\frac{\partial f(x^1,x^2)}{\partial x^k}b^j_lA^l(x^1,x^2) \\ &=& b^j_l a^k_i\frac{\partial f(x^1,x^2)}{\partial x^k}A^l(x^1,x^2). \end{eqnarray}
疲れましたね。
ですが、ここでは次の2つのルールを体感してもらいたくてわざわざこんな計算をしていただきました。
それは、
ということです。
これは何階のテンソル場になっても変わりません。
これを一般化しきちんと述べると次のようになります。
$r$階反変$s$階共変テンソル場$T^{i_1 \cdots i_r}_{j_1 \cdots j_s}$を偏微分すると$r$階反変$s+1$階共変テンソル場になる。
また、$r$階反変$s$階共変テンソル場$T^{i_1 \cdots i_r}_{j_1 \cdots j_s}$をベクトル場$\boldsymbol{A}$に沿って微分すると$r$階反変$s$階共変テンソル場$U(\boldsymbol{x})$になる。
このとき、
\begin{eqnarray} U(\boldsymbol{x})=A^k \frac{\partial}{\partial x^k}T^{i_1 \cdots i_r}_{j_1 \cdots j_s}(\boldsymbol{x}). \end{eqnarray}
お疲れ様でした。
直線座標のテンソルの要点はこれでおしまいです。
曲線座標のテンソル場について次の記事でお話します。