この記事は、様相論理の対応理論を解説するものである。想定している読者は高校生である。集合や論理の記号($\in$、$\subseteq$、$\land$、$\to$など)は、はじめて見る人でも読めるように一から説明する。
この記事では、次の方針をとる。
・後で使う道具だけを説明する。集合と論理の話は、対応理論を理解するのに必要なものに絞る。
・定義のすぐ後に小さな具体例を置く。新しい言葉が出てきたら、世界が二つか三つしかない小さな例で実際に確かめる。
・証明では「なぜそうするのか」を書く。とくに、証明で使う付値の選び方には、たった一つの共通の考え方がある。それを最初の証明で丁寧に説明する。
記事は次の順に進む。すでに知っているところは飛ばしてかまわない。
$1.$ 準備1:集合
$2.$ 準備2:命題論理
$3.$ 準備3:証明で使う論理
$4.$ 様相論理と可能世界
$5.$ $\Box$と$\Diamond$の読み方
$6.$ 本題:対応理論(「フレームにおける妥当性」の章から)
記号について一つ注意しておく。数学の本では証明の終わりに□を置くことが多いが、この記事では□を様相論理の記号として使う。まぎらわしいので、証明の終わりには$\blacksquare$を置くことにする。
「必然的に$A$ならば、$A$である」。これは正しい推論だろうか。
「必然的に」を文字どおりに読むなら、正しそうである。必然的に成り立つことは、現実にも成り立っているはずだからだ。ところが、同じ形の文を「$A$しなければならないならば、$A$である」と読むと、話が変わる。宿題はしなければならないものだが、やってこない人もいる。しなければならないことが、実際に行われているとは限らない。
「必然的に」「しなければならない」のように、ことがらの成り立ち方を表す言葉を様相という。「これから先ずっと」「知っている」なども様相の仲間である。様相を含む推論の正しさを調べるのが様相論理である。
様相論理では、これらの言葉をどれも同じ記号$\Box$で表し、同じ一つの枠組み(可能世界意味論)で扱う。そのうえで、読み方の違いを、世界どうしを結ぶ矢印の形の違いとして表す。たとえば、次のことが成り立つ。
$$
\textbf{推論「$\Box A$ならば$A$」がいつでも正しいのは、どの世界も自分自身へ矢印を向けているときであり、そのときに限る。}
$$
推論の正しさと矢印の形のあいだに成り立つ、このような対応を調べる理論を対応理論と呼ぶ。この記事のゴールは、このような対応を五つ、自分の手で証明できるようになることである。
「世界」や「矢印」が何のことなのかは、これから順に説明していく。まずは、そのための道具である集合と論理から始めよう。
ものの集まりで、何が入っていて何が入っていないかがはっきり決まっているものを集合という。集合に入っている一つ一つのものを、その集合の要素という。
$a$が集合$S$の要素であることを$a \in S$と書き、「$a$は$S$に属する」と読む。$a$が$S$の要素でないことを$a \notin S$と書く。
「背の高い人の集まり」は集合とはいえない。どこからが「背が高い」のかが、はっきり決まっていないからである。
集合は、要素を$\lbrace \ \rbrace$の中に並べて書き表すことができる。たとえば$S = \lbrace 1, 2, 3 \rbrace $のとき、
$$
2 \in S \qquad 5 \notin S$$
である。要素を並べる順番は関係なく、$\lbrace 1, 2, 3 \rbrace$と$\lbrace 3, 1, 2 \rbrace$は同じ集合である。要素は数でなくてもよく、$\lbrace a, b, c \rbrace$のように文字を並べた集合も考える。この記事では、あとで「世界」を要素とする集合を考える。
集合$S$のすべての要素が集合$T$の要素でもあるとき、$S$は$T$の部分集合であるといい、$S \subseteq T$と書く。そうでないときは$S \not\subseteq T$と書く。
たとえば$\lbrace 1, 2 \rbrace \subseteq \lbrace 1, 2, 3 \rbrace$である。一方、$\lbrace 1, 4 \rbrace \not\subseteq \lbrace 1, 2, 3 \rbrace$である。$4$が$\lbrace 1, 2, 3 \rbrace$に入っていないからだ。また、どんな集合$S$についても$S \subseteq S$である。
$S \subseteq T$でないのは、「$S$の要素なのに$T$の要素でないもの」があるときである。つまり、$S \subseteq T$とは、「$S$の要素なのに$T$の要素でないもの」が一つもないことだと言い換えられる。この言い換えは、すぐ次で使う。
(高校の教科書では、同じ意味で$S \subset T$と書くことが多い。この記事では、$S$と$T$が等しい場合も含むことがはっきりするように$\subseteq$を使う。)
要素を一つも持たない集合を空集合といい、$\emptyset$と書く。
空集合については、次の事実が大事である。
どんな集合$T$についても、$\emptyset \subseteq T$である。
$\emptyset \subseteq T$とは、「$\emptyset$の要素なのに$T$の要素でないもの」が一つもないことであった。$\emptyset$にはそもそも要素が一つもないので、そのようなものはない。よって$\emptyset \subseteq T$である。$\blacksquare$
最初は奇妙に感じるかもしれない。しかし、「すべての〜について…」という主張は、破れている例が一つもなければ成り立つ。調べる対象が一つもない場合も、その例外ではない。この考え方は、あとで「行き止まりの世界」を考えるときに、もう一度出てくる。
集合$S$と$T$の両方に属する要素をすべて集めた集合を、$S$と$T$の共通部分といい、$S \cap T$と書く。
たとえば
$$
\lbrace 1, 2, 3 \rbrace \cap \lbrace 2, 3, 4 \rbrace = \lbrace 2, 3 \rbrace, \qquad \lbrace 1, 2 \rbrace \cap \lbrace 3, 4 \rbrace = \emptyset$$
である。$S \cap T \neq \emptyset$は、「$S$と$T$の両方に入っている要素が少なくとも一つある」という意味になる。
二つのものを、順番を決めて並べたものを組(ペア)といい、$(x, y)$と書く。中学校で習う座標と同じで、順番が大事である。点$(1, 2)$と点$(2, 1)$が違う点であるように、組$(1, 2)$と$(2, 1)$は違うものとして扱う。
組を要素とする集合も考えられる。たとえば$\lbrace (1, 2), (2, 3) \rbrace$は、二つの組$(1, 2)$と$(2, 3)$を要素とする集合である。
様相論理は、ふつうの論理(古典命題論理)に新しい記号を付け加えたものである。この章では、その土台になる古典命題論理を説明する。
正しいか正しくないかがはっきり決まる文を命題という。命題が正しいとき、その命題は真であるといい、正しくないとき偽であるという。
たとえば「$2$は偶数である」は真の命題、「$3$は偶数である」は偽の命題である。一方、「数学は楽しい」は命題ではない。人によって答えが変わるからである。
論理学では、命題が真であることを$1$、偽であることを$0$で表す。$1$と$0$を真理値という。
中学校の数学では、値の決まっていない数を$x, y$のような文字で表し、$+$や$\times$でつないで$x + y$のような文字式を作った。論理学でも、これとよく似たことをする。
中身の決まっていない命題を$p, q, r, \ldots$のような文字で表し、これを命題変数と呼ぶ。命題変数を、次の四つの記号でつないで式を作る。
| 記号 | 読み方 |
|---|---|
| $\neg$ | でない |
| $\land$ | かつ |
| $\lor$ | または |
| $\to$ | ならば |
$1.$ 命題変数$p, q, r, \ldots$は論理式である。
$2.$ $A, B$が論理式なら、$\neg A$、$(A \land B)$、$(A \lor B)$、$(A \to B)$も論理式である。
規則2はくり返し使ってよい。たとえば、$p$と$q$から$(p \land q)$ができ、そこから$\neg(p \land q)$ができ、さらに$r$と組み合わせて$(\neg(p \land q) \to r)$ができる。いちばん外側のかっこは省略して、$\neg(p \land q) \to r$のように書く。かっこは、文字式のかっこと同じく、どこからどこまでが一まとまりかを表している。
定義の中の$A, B$のような大文字は、特定の論理式ではなく、「どんな論理式でもよい」という意味の文字である。たとえば$A \land B$と書いたら、$p \land q$や$\neg p \land (q \to r)$など、「$\bullet \land \blacktriangle$」という形の論理式全般を表す。
命題変数に具体的な命題を当てはめると、論理式は日本語の文になる。たとえば$p$を「雨が降る」、$q$を「遠足は中止になる」とすると、次のようになる。
・$\neg p$:雨が降らない
・$p \land q$:雨が降り、かつ、遠足は中止になる
・$p \lor q$:雨が降るか、または、遠足は中止になる
・$p \to q$:雨が降るならば、遠足は中止になる
文字式$x + y$は、$x$と$y$に数を代入すると値が決まる。同じように、論理式は、命題変数に真理値を代入すると真理値が決まる。
各命題変数に$1$か$0$を一つずつ割り当てたものを付値という。付値を$v$で表し、$v$が$p$に$1$を割り当てることを$v(p) = 1$と書く。
付値が決まると、どんな論理式の真理値も、次の表に従って計算できる。この表を真理値表という。
| $A$ | $B$ | $\neg A$ | $A \land B$ | $A \lor B$ | $A \to B$ |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 1 | 0 | 1 | 1 | 1 |
| 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 |
| 0 | 1 | 1 | 0 | 1 | 1 |
| 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 1 |
言葉で言うと、次のとおりである。
・$\neg A$は、$A$の真理値を反対にしたもの。
・$A \land B$は、$A$と$B$が両方とも$1$のときだけ$1$。
・$A \lor B$は、$A$と$B$の少なくとも一方が$1$なら$1$。両方とも$1$のときも$1$である。(日常の「または」は「どちらか一方だけ」の意味で使うこともあるが、論理学では両方の場合も含める。)
・$A \to B$は、$A$が$1$で$B$が$0$のときだけ$0$。
$\to$の決め方は、少し不思議に見えるかもしれない。「テストで満点を取ったら、ゲームを買ってあげる」という約束で考えるとわかりやすい。この約束が破られた(偽になった)と言えるのは、満点を取ったのにゲームを買ってもらえなかったときだけである。満点を取れなかったときは、ゲームを買ってもらえてももらえなくても、約束を破ったことにはならない。これが真理値表の$A \to B$の列である。
$A$が偽なら、$B$が何であっても、$A \to B$は真である。
具体的に計算してみよう。$v(p) = 1$、$v(q) = 0$とする。論理式$(p \land \neg q) \to q$の真理値は、文字式の計算と同じく、内側から順に求めればよい。
$$
v(\neg q) = 1 \qquad v(p \land \neg q) = 1 \qquad v((p \land \neg q) \to q) = 0$$
最後の計算では、$\to$の左側が$1$、右側が$0$なので$0$になった。
付値は、世界の様子を一つ決めたものと考えることができる。たとえば$p$(雨が降る)と$q$(遠足は中止になる)の二つだけを考えるなら、付値は次の四通りある。
| $v(p)$ | $v(q)$ | 表す状況 | |
|---|---|---|---|
| $v_1$ | 1 | 1 | 雨が降り、遠足は中止になる |
| $v_2$ | 1 | 0 | 雨が降るが、遠足は中止にならない |
| $v_3$ | 0 | 1 | 雨は降らないが、遠足は中止になる |
| $v_4$ | 0 | 0 | 雨は降らず、遠足も中止にならない |
一つの付値は、ありうる状況(世界のあり方)の一つを表している。この見方は、あとで「可能世界」を考えるときの出発点になる。
いくつかの命題(前提)から、別の命題(結論)を導くことを推論という。二つの推論を比べてみよう。
・推論(1) 前提「忘れ物は教室か部室のどちらかにある」「教室にはなかった」、結論「忘れ物は部室にある」
・推論(2) 前提「今日の夕食はカレーかハンバーグの少なくとも一方だ」「カレーが出た」、結論「ハンバーグは出ない」
推論(1)は正しい。前提が両方とも真なら、結論も必ず真になる。一方、推論(2)は正しくない。カレーとハンバーグが両方出ることもありうるからだ。その場合、前提は両方とも真なのに、結論は偽になる。
推論(1)の正しさは、中身には関係がない。「$p$か$q$のどちらか」「$p$でない」、ゆえに「$q$」という形をしていれば、忘れ物の話でなくても必ず正しい。推論の正しさは、次のように定義される。
前提$B_1, \ldots, B_n$から結論$A$への推論を考える。
・前提がすべて真($1$)になり、結論が偽($0$)になる付値を、この推論の反例という。
・反例が一つも存在しないとき、この推論は妥当であるといい、$B_1, \ldots, B_n \models A$と書く。妥当でないときは$B_1, \ldots, B_n \not\models A$と書く。
$B_1, \ldots, B_n \models A$は「$B_1, \ldots, B_n$から$A$が妥当に導かれる」と読む。妥当な推論とは、「前提は真なのに結論は偽」ということがありえない推論である。
推論(1)は、$p$を「忘れ物は教室にある」、$q$を「忘れ物は部室にある」とすると、$p \lor q, \neg p \models q$という形をしている。
$p \lor q, \neg p \models q$
前提$p \lor q$と$\neg p$がどちらも真になる付値$v$を考える。$v(\neg p) = 1$より$v(p) = 0$である。$v(p \lor q) = 1$だから$p$と$q$の少なくとも一方は$1$であり、$v(p) = 0$なので$v(q) = 1$となる。つまり、前提がすべて真になる付値では、結論$q$も必ず真になる。よって反例は存在せず、この推論は妥当である。$\blacksquare$
推論(2)は、$p$を「カレーが出る」、$q$を「ハンバーグが出る」とすると、$p \lor q, p \models \neg q$という形をしている。
$p \lor q, p \not\models \neg q$
$v(p) = 1$、$v(q) = 1$とする付値$v$(カレーもハンバーグも出た状況)を考える。このとき$v(p \lor q) = 1$、$v(p) = 1$で前提はすべて真だが、$v(\neg q) = 0$で結論は偽である。よって$v$は反例であり、この推論は妥当でない。$\blacksquare$
方程式を解くとは、等式を満たす$x$の値を探すことであった。推論が妥当かどうかを調べることは、「前提をすべて$1$にし、結論を$0$にする付値」を探すことに似ている。そのような付値(解)が見つかれば推論は妥当でなく、解がないことを示せれば推論は妥当である。
この先の証明では、「すべて」「ある」「ならば」を含む主張を何度も扱う。ここで、その扱い方をまとめておく。$P$や$Q$は何かの主張を、$P(x)$は$x$についての何かの主張を表す。
$P \iff Q$は、「$P$ならば$Q$」と「$Q$ならば$P$」が両方成り立つことを表し、「$P$と$Q$は同値である」と読む。$P$が成り立つときにはいつも$Q$も成り立ち、$Q$が成り立つときにはいつも$P$も成り立つ、ということである。
$P \iff Q$を証明するときは、「$P$ならば$Q$」($\Rightarrow$の向き)と「$Q$ならば$P$」($\Leftarrow$の向き)を別々に示す。
定義の中で$\iff$を使うこともある。たとえば「$v(p \land q) = 1 \iff v(p) = 1$かつ$v(q) = 1$」は、左側が成り立つのは右側が成り立つときであり、そのときに限る、という意味である。
・「すべての$x$について$P(x)$」を示すには、$x$を一つ、何の条件もつけずに選び、その$x$について$P(x)$を示せばよい。何の条件もつけずに選んだので、どの$x$についても同じ議論ができるからである。これを「任意の$x$をとる」という。
・「$P(x)$となる$x$が存在する」を示すには、$P(x)$となる$x$を具体的に一つ見つければよい。
「すべて」「ある」「ならば」を含む主張の否定は、次のようになる。
・「すべての$x$について$P(x)$」の否定は、「$P(x)$でない$x$が存在する」である。たとえば「このクラスの全員がメガネをかけている」の否定は、「メガネをかけていない人がこのクラスに少なくとも一人いる」である。「全員がメガネをかけていない」ではない。
・「$P(x)$となる$x$が存在する」の否定は、「すべての$x$について$P(x)$でない」である。
・「$P$ならば$Q$」の否定は、「$P$かつ$Q$でない」である。真理値表で、$P \to Q$が偽になるのは$P$が真で$Q$が偽のときだけだったからである。
これらを組み合わせると、たとえば「すべての整数$x$について、$x$が$4$の倍数ならば$x$は偶数である」の否定は、「$4$の倍数なのに偶数でない整数$x$が存在する」となる。この形の否定は、この先何度も出てくる。
将棋やオセロの解説で、「この局面からは、もう負けが決まっている」「いや、まだ逆転も可能だ」といった言い方を聞くことがある。
「負けが決まっている」と言うとき、解説者は、今の局面から進みうる展開をすべて調べて、どの展開でも負けになる、と言っている。つまり「必ず負ける」ということである。一方、「逆転も可能だ」と言うとき、解説者は、今の局面から進みうる展開の中に、逆転できる展開が少なくとも一つある、と言っている。
このように、「必ず」「可能だ」について考えるとき、私たちは現実とは違うかもしれない状況をいくつも思い浮かべている。そうした「ありうる状況」を、論理学では可能世界、または単に世界と呼ぶ。ここでの例では、一つ一つの局面が世界にあたる。
ここで大事なポイントが二つある。
$1.$ 命題の真偽は、世界ごとに違ってよい。 「先手が勝っている」は、ある局面では真で、別の局面では偽かもしれない。
$2.$ どの世界を思い浮かべるかは、いまいる世界によって決まる。 「逆転も可能か」を考えるとき、調べるのは今の局面から実際に進みうる局面だけである。ルール上ありうるすべての局面を調べるわけではない。
まとめると、次のようになる。
・世界$w$で「必ず$A$」が真 = $w$から見てありうるすべての世界で$A$が真
・世界$w$で「$A$は可能」が真 = $w$から見てありうる世界の少なくとも一つで$A$が真
以下では、「$w$から見てありうる世界」を、$w$から出る矢印で表す。これが、導入で述べた「世界どうしを結ぶ矢印」である。
準備2で、命題論理の付値は世界のあり方を一つ決めたものだと述べた。可能世界の考え方では、世界をいくつも用意して世界ごとに付値を決め、さらに世界どうしを矢印で結ぶ。これを数学的に定義していこう。
命題論理の論理式の作り方に、次の規則を付け加える。
$3.$ $A$が論理式なら、$\Box A$と$\Diamond A$も論理式である。
$\Box A$は「ボックス$A$」、$\Diamond A$は「ダイヤ$A$」と読む。基本の意味は、$\Box A$が「必然的に$A$(必ず$A$)」、$\Diamond A$が「$A$は可能である」である。たとえば$\Box p$、$\Diamond(p \land q)$、$\Box\Box p$、$\Box\Diamond p$はどれも論理式である。
空でない集合$W$と、$W$の要素$x, y$の組$(x, y)$をいくつか集めた集合$R$を一まとめにしたもの$F = \langle W, R \rangle$をフレームという。$W$の要素を世界という。
組$(x, y)$が$R$に属すること、つまり$(x, y) \in R$を$xRy$と書き、「世界$x$から世界$y$へ矢印が引かれている」「$y$は$x$から到達可能である」という。$R$を到達可能性関係という。
$\langle W, R \rangle$の$\langle \ \rangle$は、いくつかのものを一まとめにして一つのものとして扱う、という意味の記号である。世界は$a, b, c$や$w, x, y, z$などの文字で表す。
$xRy$という書き方は、大小関係$x < y$と同じ形をしている。$1 < 2$は成り立ち$2 < 1$は成り立たないように、$R$は二つの世界の間に「矢印があるかないか」を決めている。このように、二つのものの間に成り立つかどうかが決まっている関係を二項関係という。
例として、世界が$a, b, c$の三つで、矢印が「$a$から$b$」と「$b$から$c$」の2本だけのフレームを考える。つまり$W = \lbrace a, b, c \rbrace $、$R = \lbrace (a, b), (b, c) \rbrace $である。図に描くと次のようになる。
$W = \lbrace a, b, c \rbrace $、$R = \lbrace (a, b), (b, c) \rbrace $
このフレームでは$aRb$と$bRc$が成り立ち、それ以外(たとえば$aRc$、$bRa$、$aRa$)は成り立たない。
フレームについて、注意してほしい点が三つある。
・矢印には向きがある。 $xRy$だからといって、$yRx$とは限らない。上の例では$aRb$だが$bRa$ではない。
・自分自身への矢印もありうる。 $xRx$となる矢印をループと呼び、図では世界の上に$\circlearrowleft$を描く。
・矢印が1本も出ていない世界もありうる。 上の例の$c$がそうである。この「行き止まりの世界」は、後で重要な役割を果たす。
ループのある例も見ておこう。$W = \lbrace a, b \rbrace $、$R = \lbrace (a, a), (a, b) \rbrace $のフレームは次のようになる。$a$にはループがあり、$a$から$b$へも矢印がある。$b$は行き止まりである。
$W = \lbrace a, b \rbrace $、$R = \lbrace (a, a), (a, b) \rbrace $
各世界から矢印1本で行ける世界を集めた集合に、名前をつけておく。
世界$w$から矢印1本で行ける世界をすべて集めた集合を$R(w)$と書き、$w$の行き先と呼ぶ。$x \in R(w)$と$wRx$は同じことである。
たとえば$a \to b \to c$のフレームでは、$R(a) = \lbrace b \rbrace $、$R(b) = \lbrace c \rbrace $、$R(c) = \emptyset$である。ループのある例では、$R(a) = \lbrace a, b \rbrace $、$R(b) = \emptyset$である。
フレーム$\langle W, R \rangle$の各世界$w$と各命題変数$p$の組に、$1$か$0$を割り当てたものを、このフレーム上の付値という。世界$w$で$p$に$1$を割り当てることを$v(w, p) = 1$と書き、「$p$は$w$で真である」という。
フレームと付値を一まとめにした$\langle W, R, v \rangle$をモデルという。
命題論理の付値は、世界のあり方を一つ決めたものだった。様相論理の付値は、世界ごとに命題論理の付値を一つずつ決めたものである。図では、世界の下に$+p$($p$が真)や$-p$($p$が偽)と書き添える。たとえば、フレーム$a \to b \to c$の上で「$p$は$b$だけで真」とする付値は、次のように描く。
これは$v(a, p) = 0$、$v(b, p) = 1$、$v(c, p) = 0$ということである。
付値は、次の規則ですべての論理式に広げられる。$\neg$、$\land$、$\lor$、$\to$については、各世界の中で、命題論理とまったく同じ計算をする。たとえば$v(w, p \land q) = 1 \iff v(w, p) = 1$かつ$v(w, q) = 1$である。新しいのは$\Box$と$\Diamond$である。
$v(w, \Box A) = 1 \iff \text{すべての世界 } x \text{ について「} wRx \text{ ならば } v(x, A) = 1 \text{」}$
$v(w, \Diamond A) = 1 \iff wRx \text{ かつ } v(x, A) = 1 \text{ となる世界 } x \text{ が存在する}$
言葉にすると、次のとおりである。
・$\Box A$が$w$で真 = $w$から矢印1本で行ける世界では、どこでも$A$が真
・$\Diamond A$が$w$で真 = $w$から矢印1本で行ける世界のどこかで$A$が真
たとえば、次の図では、$w$の行き先$x, y, z$のうち$z$で$A$が偽なので、$w$で$\Box A$は偽である。一方、$x$で$A$が真なので、$w$で$\Diamond A$は真である。
$\Box$と$\Diamond$を2回使うと、次のようになる。
・$\Box\Box A$が$w$で真 = $w$から矢印をちょうど2本たどって行ける世界では、どこでも$A$が真
・$\Box\Diamond A$が$w$で真 = $w$から1歩進んだ先のどの世界からも、もう1歩で$A$が真の世界に行ける
この「1歩先」「2歩先」という見方が、この記事全体の基本になる。
真理条件は、集合の言葉でも書ける。$A$が真になる世界をすべて集めた集合を$|A|$と書くことにする(絶対値とは関係ない)。すると
$$
\begin{eqnarray}
v(w, \Box A) = 1 &\iff& R(w) \subseteq |A| \qquad
v(w, \Diamond A) = 1 &\iff& R(w) \cap |A| \neq \emptyset
\end{eqnarray}$$
となる。$\Box A$は「行き先がすべて$A$の世界の中に入っている」、$\Diamond A$は「行き先と$A$の世界に共通部分がある」ということである。
もう一つ、大事な見方がある。付値を決めることは、各命題変数$p$について「$p$が真になる世界の集合」$|p|$を一つ選ぶことと同じである。 $w \in |p|$なら$v(w, p) = 1$、そうでなければ$v(w, p) = 0$と決めればよいからだ。$|p|$としては、$W$の部分集合なら何を選んでもかまわない。
行き先が一つもない世界$w$、つまり$R(w) = \emptyset$となる世界では、何が起こるだろうか。
$w$が行き止まりなら、どの世界$x$についても「$wRx$」は偽である。準備2で見たとおり、「ならば」の左側が偽なら「ならば」の文は真だった。だから、すべての世界$x$について「$wRx$ならば$v(x, A) = 1$」は真であり、$v(w, \Box A) = 1$となる。集合で言えば、$R(w) = \emptyset \subseteq |A|$ということである(空集合はどんな集合の部分集合でもあった)。
一方、$\Diamond A$が真になるには「$wRx$となる世界$x$」が必要だが、そのような$x$はないので、$v(w, \Diamond A) = 0$である。
まとめると、行き止まりの世界では、$\Box$で始まる論理式はすべて真、$\Diamond$で始まる論理式はすべて偽になる。誰もいない教室で「この教室にいる人は全員メガネをかけている」と言っても、偽にはならない。メガネをかけていない人が一人もいないからである。これと同じ理屈だ。
フレーム$a \to b \to c$に、「$p$は$b$だけで真」という付値を入れたモデルを考える。
各世界でのいくつかの論理式の真理値を計算すると、次の表のようになる。
| $a$ | $b$ | $c$ | |
|---|---|---|---|
| $p$ | 0 | 1 | 0 |
| $\Box p$ | 1 | 0 | 1 |
| $\Diamond p$ | 1 | 0 | 0 |
| $\Box\Box p$ | 0 | 1 | 1 |
| $\Box\Diamond p$ | 0 | 0 | 1 |
いくつか確かめてみよう。
・$v(a, \Box p)$:$a$の行き先は$b$だけで、$b$では$p$が真。よって$1$。
・$v(b, \Box p)$:$b$の行き先は$c$だけで、$c$では$p$が偽。よって$0$。
・$v(c, \Box p)$:$c$は行き止まりなので$1$。
・$v(a, \Box\Box p)$:$a$の行き先$b$で、$\Box p$が偽(すぐ上で計算した)。よって$0$。
・$v(b, \Box\Diamond p)$:$b$の行き先$c$で、$\Diamond p$が偽($c$は行き止まり)。よって$0$。
残りのマスも、ぜひ自分で確かめてほしい。
命題論理と同じく、前提が真なのに結論が偽になる場合を「反例」と呼び、反例がない推論を「妥当」と呼ぶ。ただし様相論理では、真偽が世界ごとに決まるので、定義は次のようになる。以下では、前提が一つの推論だけを考える。
論理式$B$から論理式$A$への推論を考える。あるモデルのある世界$w$で$v(w, B) = 1$かつ$v(w, A) = 0$となるとき、$w$をこの推論の反例世界、そのモデルを反例モデルという。
反例モデルが一つも存在しないとき、この推論は妥当であるといい、$B \models A$と書く。妥当でないときは$B \not\models A$と書く。
この記事の本題は、次の五つの推論である。
$$
\Box A \models A \qquad \Box A \models \Box\Box A \qquad \Box A \models \Diamond A \qquad A \models \Box\Diamond A \qquad \Diamond A \models \Box\Diamond A$$
たとえば「$\Box A \models A$」は、「どんな論理式$A$についても、$\Box A$から$A$への推論は妥当」という主張である。したがって、これが成り立たないことを示すには、うまくいかない$A$を一つ見つければ十分である(準備3の否定の作り方を思い出そう)。以下では、たいてい$A$として命題変数$p$を選ぶ。
さて、先ほどの表を見直すと、次のことがわかる。
・世界$a$で、$\Box p$が真で$p$が偽。よって$\Box A \not\models A$。
・世界$a$で、$\Box p$が真で$\Box\Box p$が偽。よって$\Box A \not\models \Box\Box A$。
・世界$c$で、$\Box p$が真で$\Diamond p$が偽。よって$\Box A \not\models \Diamond A$。
・世界$b$で、$p$が真で$\Box\Diamond p$が偽。よって$A \not\models \Box\Diamond A$。
・世界$a$で、$\Diamond p$が真で$\Box\Diamond p$が偽。よって$\Diamond A \not\models \Box\Diamond A$。
たった三つの世界からなるこのモデルが、五つの推論すべての反例モデルになっている。矢印の形に何の条件もつけなければ、五つの推論はどれも妥当ではないのである。
導入では、「必然的に$A$ならば$A$」は正しそうなのに、同じ形の「$A$しなければならないならば$A$」は正しくない、という例を見た。同じ形の推論でも、$\Box$をどう読むかによって、正しいと考えるのが自然かどうかが変わるのである。
この章では、$\Box$と$\Diamond$のいくつかの読み方について、五つの推論を日本語に直し、それぞれ正しいと考えるのが自然かどうかを調べる。調べていくと、次のことがはっきりするだろう。
どの推論を正しいと考えるのが自然かは、$\Box$と$\Diamond$をどう読むかで決まる。
なお、この章でいう「正しい」は、日本語に直したときに正しいと感じられる、という直観的な意味である。前の章で定義した「妥当」とは別のものだ。実際、前の章で見たように、五つの推論はどれも妥当ではなかった。この食い違いをどう埋めるかは、次の章から考える。
$\Box$と$\Diamond$の読み方は、別々に勝手に決めてよいわけではない。次の事実があるからである。
どんなモデルのどんな世界$w$でも、次が成り立つ。
$(1)$ $\Diamond A$と$\neg\Box\neg A$は、$w$で同じ真理値をとる。
$(2)$ $\Diamond\neg A$と$\neg\Box A$は、$w$で同じ真理値をとる。
$(1)$ $w$で$\Diamond A$が真であるとは、「$w$の行き先のどこかで$A$が真」、つまり「$w$の行き先のどこかで$\neg A$が偽」ということである。準備3の否定の作り方によれば、これは「$w$の行き先のすべてで$\neg A$が真」が成り立たないこと、つまり$w$で$\Box\neg A$が偽であることと同じである。そしてそれは、$w$で$\neg\Box\neg A$が真であることにほかならない。
$(2)$ 同じように、$w$で$\Diamond\neg A$が真であるとは、「$w$の行き先のどこかで$A$が偽」ということである。これは「$w$の行き先のすべてで$A$が真」が成り立たないこと、つまり$w$で$\Box A$が偽、すなわち$\neg\Box A$が真であることと同じである。$\blacksquare$
$(1)$は、「$\Diamond A$」とは「$A$でないことが$\Box$である、わけではない」ということだ、と言っている。したがって、$\Box$の読み方を一つ決めれば、$\Diamond$の読み方は自動的に決まる。この章で扱う四つの読み方では、次のようになる。
| $\Box A$の読み方 | $\Diamond A$の読み方 |
|---|---|
| 必ず$A$ | $A$でないと決まっているわけではない。つまり、$A$になる可能性がある |
| $A$しなければならない | $A$しないことが義務なわけではない。つまり、$A$してもよい |
| これから先ずっと$A$ | これから先ずっと$A$でない、わけではない。つまり、これから先いつか$A$ |
| $A$を知っている | $A$でないと知っているわけではない。つまり、$A$かもしれない |
この記事で扱う五つの推論に、名前をつけておく。
| 名前 | 推論 |
|---|---|
| $\textbf{T}$ | $\Box A$ならば$A$ |
| $\textbf{4}$ | $\Box A$ならば$\Box\Box A$ |
| $\textbf{D}$ | $\Box A$ならば$\Diamond A$ |
| $\textbf{B}$ | $A$ならば$\Box\Diamond A$ |
| $\textbf{5}$ | $\Diamond A$ならば$\Box\Diamond A$ |
$\Box\Box A$や$\Box\Diamond A$のように記号が重なっているときは、外側から読むとよい。たとえば$\Box\Diamond A$は、「$\Diamond A$」ということが$\Box$である、と読む。
以下では、四つの読み方それぞれについて、五つの推論を日本語に直して判定する。判定には次の記号を使う。
・○:正しいと考えるのが自然
・×:正しくないと考えるのが自然(おかしな例がある)
・△:意見が分かれる
「必然的に」という読み方を、具体的な場面で考えよう。「様相と可能世界」の節で考えた、ゲームの局面の例をもう一度使う。ここではオセロを考える。世界は局面であり、
・$\Box A$:今の局面からどう進んでも、必ず$A$
・$\Diamond A$:今の局面から進んで、$A$になる可能性がある
と読む。ここで「今の局面から進みうる局面」には、まだ1手も進めていない今の局面そのものも含めることにする。
・$\textbf{T}$「必ず$A$ならば、(今)$A$である」:○
今の局面も「進みうる局面」に含まれるので、どう進んでも必ず$A$なら、今の局面でも$A$である。
・$\textbf{4}$「必ず$A$ならば、どう進んでも『そこから必ず$A$』である」:○
進んだ局面からさらに進んだ局面も、今の局面から進みうる局面だからである。
・$\textbf{D}$「必ず$A$ならば、$A$になる可能性がある」:○
進みうる局面が少なくとも一つ(今の局面)あり、そこで$A$だからである。
・$\textbf{B}$「今$A$ならば、どう進んでも『そこから$A$になる可能性がある』」:×
$A$を「盤上の石は4個である」とする。ゲームの最初の局面では、$A$は真である。しかしオセロでは、1手打つごとに石が1個増え、石が減ることはない。1手でも進むと、もう石が4個の局面には戻れない。
・$\textbf{5}$「$A$になる可能性があるならば、どう進んでも『そこから$A$になる可能性がある』」:×
$A$を「黒の勝ちで終局している」とする。最初の局面からは、黒が勝つ可能性がある。しかし、白の勝ちで終局した局面まで進んでしまうと、そこから黒が勝つ可能性はもうない。
世界は起こりうる状況であり、
・$\Box A$:$A$しなければならない
・$\Diamond A$:$A$してもよい
と読む。
・$\textbf{T}$「$A$しなければならないならば、$A$である」:×
宿題はしなければならないが、やってこない人もいる。義務は破られることがある。
・$\textbf{4}$「$A$しなければならないならば、『$A$しなければならない』ということでなければならない」:△
・$\textbf{D}$「$A$しなければならないならば、$A$してもよい」:○
$A$しなければならないのに、$A$してはいけない($A$しないことが義務である)としたら、そのルールは守りようがない。守りようのないルールは課されない、と考えれば、$\textbf{D}$は正しい。
・$\textbf{B}$「$A$ならば、$A$することが許されていなければならない」:×
廊下を走っている人がいるからといって、廊下を走ることが許されていなければならない、ということにはならない。
・$\textbf{5}$「$A$してもよいならば、$A$することが許されていなければならない」:△
$\textbf{4}$と$\textbf{5}$のように$\Box$や$\Diamond$が重なる推論は、義務の読み方では日本語として意味がはっきりせず、正しいかどうかは意見が分かれる。
時点として「日」を考える。世界は日であり、
・$\Box A$:これから先ずっと$A$(明日以降のどの日も$A$)
・$\Diamond A$:これから先いつか$A$(明日以降のある日に$A$)
と読む。「これから先」には今日を含めない。また、時間には終わりがなく、どの日にも次の日があるとする。
・$\textbf{T}$「これから先ずっと$A$ならば、(今日)$A$である」:×
明日から毎日雨が降るとしても、今日は晴れているかもしれない。
・$\textbf{4}$「これから先ずっと$A$ならば、これから先のどの日から見ても『その先ずっと$A$』」:○
今日より後の日の、さらに後の日も、今日より後の日だからである。
・$\textbf{D}$「これから先ずっと$A$ならば、これから先いつか$A$」:○
時間には終わりがないので明日は必ず来て、明日は$A$だからである。
・$\textbf{B}$「今日$A$ならば、これから先のどの日から見ても『その先いつか$A$』」:×
$A$を「今日は、私の高校の入学式の日である」とし、今日がその入学式の日だとする。今日$A$は真である。しかし、明日から見ると、その先に入学式の日が来ることはもうない。
・$\textbf{5}$「これから先いつか$A$ならば、これから先のどの日から見ても『その先いつか$A$』」:×
$A$を「今日は、私の高校の卒業式の日である」とし、今日は卒業式より前の日だとする。これから先いつか卒業式の日が来るので、「これから先いつか$A$」は真である。しかし、卒業式の翌日から見ると、その先に卒業式の日が来ることはもうない。
世界はありうる状況であり、
・$\Box A$:(私は)$A$を知っている
・$\Diamond A$:(私の知っていることからすると)$A$かもしれない
と読む。
・$\textbf{T}$「$A$を知っているならば、$A$である」:○
まちがったことを「知っている」とは言わない。それは「知っている」のではなく、「思い込んでいる」のである。
・$\textbf{4}$「$A$を知っているならば、$A$を知っていることを知っている」:△
何でも見通せる理想的な人なら正しいと考えられるが、人間の知識について正しいかどうかは、意見が分かれる。
・$\textbf{D}$「$A$を知っているならば、$A$かもしれない」:○
$A$を知っているなら、$A$でないと知っているはずはないからである。
・$\textbf{B}$「$A$ならば、『$A$かもしれない』と知っている」:△
理想的な人なら正しいと考えられるが、思い込みの強い人を考えると疑わしい。$A$が本当なのに「$A$ではない」と思い込んでいる人は、「$A$かもしれない」とは考えていないだろう。
・$\textbf{5}$「$A$かもしれないならば、『$A$かもしれない』と知っている」:△
$A$に$\neg A$を入れ、上の定理の$(2)$を使って書き直すと、「$A$を知らないならば、$A$を知らないということを知っている」となる。これは、自分が何を知らないのかをすべて自覚している、という主張である。理想的な人なら正しいと考えられるが、人間には強すぎるように思える。
$\Box A$を「$A$だと信じている」と読むと、$\textbf{T}$は「$A$だと信じているならば、$A$である」となる。これは正しくない。思い込みは、まちがっていることがあるからだ。「知っている」と「信じている」は似た言葉だが、$\textbf{T}$の判定で違いが出るのである。
四つの読み方の判定をまとめると、次のようになる。
| 読み方 | $\textbf{T}$ | $\textbf{4}$ | $\textbf{D}$ | $\textbf{B}$ | $\textbf{5}$ |
|---|---|---|---|---|---|
| 必ず・可能性がある | ○ | ○ | ○ | × | × |
| しなければならない・してもよい | × | △ | ○ | × | △ |
| これから先ずっと・いつか | × | ○ | ○ | × | × |
| 知っている・かもしれない | ○ | △ | ○ | △ | △ |
この表から、次のことがわかる。
・同じ推論でも、読み方によって判定が変わる。 たとえば$\textbf{T}$は、○になる読み方も×になる読み方もある。
・読み方のわずかな違いが、判定を分けることがある。 読み方1と読み方3は、どちらも「この先どうなるか」についての読み方であり、違いは「今」を含めるかどうかだけである。そして、その違いがちょうど$\textbf{T}$の判定の違いになっている。「知っている」と「信じている」の違いも同じである。
・どの読み方でも○の推論もある。 $\textbf{D}$は、四つの読み方すべてで○だった。
したがって、「$\Box A$ならば$A$」のような推論を、読み方を決めずに「正しい」「正しくない」と言うことはできない。どの推論を正しいものとして認めるかは、$\Box$と$\Diamond$の読み方に合わせて選ぶ必要がある。
可能世界の言葉でいえば、読み方を決めることは、矢印が何を表すかを決めることでもある。$\Box A$は「矢印の先のどこでも$A$」、$\Diamond A$は「矢印の先のどこかで$A$」だったから、$\Box A$の読み方に合わせて、「$x$から$y$へ矢印がある」の意味が決まる。
| 読み方 | 世界 | $xRy$の意味 |
|---|---|---|
| 必ず・可能性がある | 局面 | $y$は、$x$から何手か(0手も含む)進んで行ける局面 |
| しなければならない・してもよい | 状況 | $y$は、$x$で決まっているルールをすべて守っている状況 |
| これから先ずっと・いつか | 日 | $y$は、$x$より後の日 |
| 知っている・かもしれない | 状況 | $x$にいる人には、$x$と$y$の区別がつかない |
この表を見ると、推論の判定と矢印の形がつながっていることがわかる。$\textbf{T}$を例にとろう。
・局面の読み方では、0手で今の局面に行けるので、どの世界にもループがある。$\textbf{T}$は○だった。
・知識の読み方でも、自分のいる状況と自分のいる状況の区別がつかないのは当然なので、どの世界にもループがある。$\textbf{T}$は○だった。
・時間の読み方では、今日は今日より後の日ではないので、ループがない。$\textbf{T}$は×だった。
・義務の読み方では、現実の状況がルールをすべて守っているとは限らないので、ループがあるとは限らない。$\textbf{T}$は×だった。
$\textbf{T}$が○になったのは、ちょうど、どの世界にもループがある読み方だったのである。同じように、$\textbf{D}$が四つの読み方すべてで○だったのは、どの読み方でも行き止まりの世界がないからだと考えられる(局面と知識ではループがあり、義務ではルールを守った状況が少なくとも一つあり、時間では次の日が必ずある)。
知識の読み方の矢印「区別がつかない」について考えよう。ほんの少しずつ色が違う三枚の色見本を思い浮かべてほしい。1枚目と2枚目は区別がつかず、2枚目と3枚目も区別がつかない。では、1枚目と3枚目はどうだろうか。もし区別がつくなら、「$x$と$y$、$y$と$z$の区別がつかない」からといって、「$x$と$z$の区別がつかない」とは限らないことになる。矢印のこの性質が推論$\textbf{4}$とどう関係するかは、「推移性と$\textbf{4}$」の章の定理からわかる。
このように、推論が正しいかどうかは、矢印の形と深く結びついている。ところが、前の章で見たように、フレームに何の条件もつけなければ、五つの推論はどれも妥当ではなかった。では、読み方に合わせて矢印の形を選べば、推論は妥当になるのだろうか。この問いに答えるのが、次の章から始まる対応理論である。
「様相論理と可能世界」の章では、次のモデルが五つの推論すべての反例モデルになることを見た。このモデルから付値の書き込み($+p$、$-p$)を取り除いた、世界と矢印だけの部分を、フレーム$F_1$と呼ぶことにする。
フレーム$F_1$に付値を書き込んだもの
前の章で見たように、読み方によっては正しいと考えるのが自然な推論もある。それなのに、なぜこのモデルでは崩れてしまうのだろうか。推論「$\Box A$ならば$A$」を例にして、原因を調べてみよう。
世界$a$では、$\Box p$が真なのに$p$が偽である。$\Box p$が真なのは、$a$の行き先$b$で$p$が真だからだ。$\Box p$が見ているのは行き先の世界だけであり、$a$自身は$a$の行き先に入っていない。だから、$a$自身で$p$が偽でも、$\Box p$は真になれたのである。
もし$a$にループがあれば、$a$自身も$a$の行き先に入る。そうなると、$a$で$\Box p$が真であるためには、$a$自身でも$p$が真でなければならない。これなら、$a$で推論が崩れることはない。
つまり、推論が崩れるかどうかは、矢印の形で決まりそうである。本当にそうなっているか、どの世界にもループがあるフレームで確かめてみよう。
$W = \lbrace a, b \rbrace $、$R = \lbrace (a, a), (a, b), (b, b) \rbrace $のフレームを$F_2$とする。どの世界にもループがある。
フレーム$F_2$
行き先は$R(a) = \lbrace a, b \rbrace $、$R(b) = \lbrace b \rbrace $である。
このフレームの上にいろいろな付値をのせて、推論「$\Box p$ならば$p$」が崩れるかどうかを調べる。$\Box p$と$p$には命題変数$p$しか出てこないので、$q, r, \ldots$の真偽は結果に関係しない。だから、$p$をどの世界で真にするか、つまり$|p|$として$\emptyset$、$\lbrace a \rbrace$、$\lbrace b \rbrace$、$\lbrace a, b \rbrace$のどれを選ぶかの4通りだけを考えればよい。4通りすべてについて計算すると、次の表のようになる。
| $p$が真になる世界 | $v(a, \Box p)$ | $v(a, p)$ | $v(b, \Box p)$ | $v(b, p)$ |
|---|---|---|---|---|
| なし | 0 | 0 | 0 | 0 |
| $a$だけ | 0 | 1 | 0 | 0 |
| $b$だけ | 0 | 0 | 1 | 1 |
| $a$と$b$ | 1 | 1 | 1 | 1 |
反例世界になるのは、$\Box p$が$1$なのに$p$が$0$になる世界である。表を見ると、そのような世界はどの行にもない。
とくに「$b$だけ」の行に注目しよう。これは、$F_1$で$a$を反例世界にしたのと同じ「$p$は$b$だけで真」という付値である。しかし$F_2$では、$v(a, \Box p) = 0$となっている。ループがあるので$a$自身も$a$の行き先に入っていて、その$a$で$p$が偽だからである。ループのおかげで、今度は推論が崩れない。
こうして、$F_2$の上では、$p$をどの世界で真にしても、推論「$\Box p$ならば$p$」は崩れないことがわかった。
$F_1$の上には反例世界の現れる付値があったが、$F_2$の上では、どんな付値をのせても反例世界は現れなかった。$F_2$のような状況を、次のように定義する。
フレーム$F = \langle W, R \rangle$を一つ固定する。$B$から$A$への推論がフレーム$F$において妥当であるとは、$F$上のすべての付値$v$とすべての世界$w$について、「$v(w, B) = 1$ならば$v(w, A) = 1$」が成り立つことをいう。つまり、$F$の上にどんな付値をのせても、反例世界が一つも現れないということである。
このとき$B \models_F A$と書き、そうでないときは$B \not\models_F A$と書く。
上で調べたことは、次のように書ける。
$$
\Box p \not\models_{F_1} p \qquad \Box p \models_{F_2} p$$
準備3の否定の作り方を使うと、$B \not\models_F A$とは「$F$上のある付値のもとで、ある世界が反例世界になる」ということである。したがって、$B \not\models_F A$を示すには、反例世界の現れる付値を一つ見つければよい。実際、$\Box p \not\models_{F_1} p$は、$p$を$b$だけで真にする付値一つで示せた。
これまでの「妥当」との違いは、調べるフレームの範囲だけである。
| 調べるフレーム | 調べる付値 | 調べる世界 | |
|---|---|---|---|
| 妥当($B \models A$) | すべて | すべて | すべて |
| $F$において妥当($B \models_F A$) | $F$だけ | すべて | すべて |
反例を探す範囲がせまいので、「妥当」でない推論でも、「$F$において妥当」にはなりうる。実際、「様相論理と可能世界」の章で見たとおり$\Box p \not\models p$だが、$\Box p \models_{F_2} p$である。
フレームは、世界どうしのつながり方、いわば骨組みを表している。付値は、各世界で何が成り立っているか、いわば中身を表している。「$F$において妥当」は、中身をどう変えても崩れない、骨組みだけで決まる正しさを表している。
付値を一つ調べただけでは、このことはわからない。たとえば$F_1$の上で、$p$をすべての世界で真にする付値を考えよう。$p$がどの世界でも真なので、推論「$\Box p$ならば$p$」はどの世界でも崩れない。しかし、$p$を$b$だけで真にすれば崩れるのだった。この付値で崩れなかったのは、中身がたまたまそうなっていたからにすぎない。
$F_2$のように世界が少なければ、付値をすべて書き出して調べることができる。しかし、世界がたくさんあるフレームや、世界が無限にあるフレームでは、そうはいかない。そこで次の章からは、すべての付値について一度に成り立つことを、証明によって示していく。
$F_1$と$F_2$の違いは、ループがあるかどうかだった。じつは、次のことが成り立つ(次の章で証明する)。
どんなフレーム$F$についても、「$\Box A \models_F A$」と「$F$のどの世界にもループがある」は、両方とも成り立つか、両方とも成り立たないかのどちらかである。
ここで「$\Box A \models_F A$」は、これまでと同じく、「どんな論理式$A$についても、$\Box A$から$A$への推論が$F$において妥当である」という意味である。
このように、推論がフレームにおいて妥当かどうかが、矢印がある性質をもつかどうかとぴったり一致するとき、その推論とその性質は対応するという。
ある推論とある矢印の性質が対応するとは、どんなフレーム$F$についても、次が成り立つことをいう。
$$
\text{その推論が$F$において妥当である$\iff$ $F$の到達可能性関係$R$がその性質をもつ}
$$
これを証明するには、準備3で見たとおり、$\iff$の両方向を示す。
・$(\Leftarrow)$ 矢印がその性質をもっていれば、推論は妥当である。
・$(\Rightarrow)$ 推論が妥当ならば、矢印はその性質をもつ。
推論「$\Box A$ならば$A$」でいえば、$(\Leftarrow)$は「どの世界にもループがあれば、推論は妥当である」($F_2$はその一例)、$(\Rightarrow)$は「推論が妥当ならば、どの世界にもループがある」となる。
それぞれの示し方は、次のとおりである。
・$(\Leftarrow)$の示し方:矢印がその性質をもつと仮定する。付値と世界を任意にとり、その世界で前提が真ならば結論も真であることを示す。
・$(\Rightarrow)$の示し方:推論が妥当だと仮定する。妥当な推論は、どんな付値のもとでも崩れない。そこで、証明に都合のよい付値を一つ選び、「この付値のもとでも推論は崩れない」ということから、矢印の性質を読み取る。
この記事で証明するのは、次の五つの対応である。たとえば$\textbf{T}$の行は、「どんなフレーム$F$についても、$\Box A \models_F A \iff R$は反射的」という意味である。上で見た「どの世界にもループがある」という性質が、反射的である。ほかの性質の意味は、それぞれの章で説明する。
| 名前 | 推論 | 矢印の性質 |
|---|---|---|
| $\textbf{T}$ | $\Box A \models A$ | 反射的 |
| $\textbf{4}$ | $\Box A \models \Box\Box A$ | 推移的 |
| $\textbf{D}$ | $\Box A \models \Diamond A$ | 継続的 |
| $\textbf{B}$ | $A \models \Box\Diamond A$ | 対称的 |
| $\textbf{5}$ | $\Diamond A \models \Box\Diamond A$ | ユークリッド的 |
最初の二つ($\textbf{T}$と$\textbf{4}$)で考え方を丁寧に説明し、残りの三つ($\textbf{D}$、$\textbf{B}$、$\textbf{5}$)では同じ考え方を当てはめる。
すべての世界$x$について$xRx$が成り立つとき、$R$は反射的であるという。
どの世界にもループがある、ということである。集合で言えば、すべての$x$について$x \in R(x)$(自分自身が自分の行き先に入っている)となる。たとえば次のフレームは反射的である。
数の関係で言えば、「$x \leqq y$」は反射的($x \leqq x$)だが、「$x < y$」は反射的でない。
どんなフレーム$F = \langle W, R \rangle$についても
$$
\Box A \models_F A \iff R \text{ は反射的}$$
$(\Leftarrow)$:$R$は反射的であるとする。示したいのは、$F$上のすべての付値$v$とすべての世界$w$について「$v(w, \Box A) = 1$ならば$v(w, A) = 1$」が成り立つことである。そこで、付値$v$と世界$w$を任意にとり、$v(w, \Box A) = 1$と仮定する。示すべきことは$v(w, A) = 1$である。
$v(w, \Box A) = 1$より、$w$の行き先のすべての世界で$A$は真である。反射性より$wRw$だから、$w$自身も$w$の行き先に入っている。よって$v(w, A) = 1$である。
(集合で言えば、「$w \in R(w) \subseteq |A|$だから$w \in |A|$」という1行の議論である。)
$(\Rightarrow)$:$\Box A \models_F A$であるとする。示したいのは、すべての世界$x$について$xRx$が成り立つことである。そこで、世界$x$を任意にとる。示すべきことは$xRx$である。
推論が$F$において妥当なので、$A$として命題変数$p$を選んだ推論「$\Box p$ならば$p$」も、$F$上のどんな付値のもとでも崩れない。そこで、こちらで都合のよい付値を一つ選び、この事実を使う。
ここが発想のポイントである。 $p$を「$x$から矢印1本で行ける世界である」という意味にする。つまり、$p$を$x$の行き先ちょうどで真にし、それ以外では偽にする付値$v$を選ぶ。
$$
|p| = R(x)$$
(言い換えれば、各世界$w$について$v(w, p) = 1 \iff xRw$。$p$以外の命題変数は何でもよいので、たとえばすべての世界で偽としておく。)この付値のもとで、順に確かめる。
・$x$の行き先はどれも「$x$から矢印1本で行ける世界」なので、そこでは$p$が真である。つまり$v(x, \Box p) = 1$。
・推論「$\Box p$ならば$p$」はこの付値のもとでも崩れないので、$v(x, p) = 1$。
・$p$が真になるのは$x$の行き先だけだったから、$x$は$x$の行き先である。つまり$xRx$。
$x$は任意にとったものだったから、$R$は反射的である。
$\blacksquare$
$(\Rightarrow)$の証明の考え方をまとめておこう。
$1.$ 付値は自分で選んでよい。 推論が$F$において妥当なら、$F$上のどんな付値のもとでも推論は崩れない。だから、証明する側が都合のよい付値を一つ選び、「この付値のもとでも推論は崩れない」と使ってよい。
$2.$ $p$に矢印の情報をもたせる。 付値は、$p$が「$x$から矢印1本で行ける」という、矢印についての命題になるように選んだ。すると、推論が崩れないことから出てくる「$x$で$p$が真」は、そのまま「$x$から$x$へ矢印がある」という意味になる。こうして、推論の正しさが矢印の性質に翻訳されたのである。
選んだ付値は、前提$\Box p$を$x$で真にするのに必要な最小限だけ$p$を真にしたものになっている($x$で$\Box p$を真にするには、$x$の行き先で$p$が真であればよく、それ以外の世界で$p$を真にする必要はない)。この「ぎりぎりの付値」は、このあと何度も使う。
ちなみに、$x$にループがなければ、この付値のもとで$x$は反例世界になる。「フレームにおける妥当性」の章の$F_1$で$a$が反例世界になった付値は、まさにこの付値($a$の行き先$b$ちょうどで$p$を真にする付値)だったのである。
「$\Box$と$\Diamond$の読み方」の章で、$\textbf{T}$が○になったのは、どの世界にもループがある読み方だった。この定理は、それが偶然ではないことを示している。
すべての世界$x, y, z$について「$xRy$かつ$yRz$ならば$xRz$」が成り立つとき、$R$は推移的であるという。
矢印2本で行ける世界には、矢印1本でも行ける、ということである。図で言えば、$x \to y \to z$と進めるなら、$x$から$z$への近道の矢印もある。
大小関係$<$は推移的である($x < y$かつ$y < z$ならば$x < z$)。一方、「$x$は$y$の親である」という関係は推移的ではない(親の親は、親ではなく祖父母である)。
$\Box A$は「1歩先はどこでも$A$」、$\Box\Box A$は「2歩先はどこでも$A$」という意味だった。推移性は「2歩先の世界は、すべて1歩先の世界でもある」という性質だから、$\Box A$から$\Box\Box A$が導けそうである。
どんなフレーム$F = \langle W, R \rangle$についても
$$
\Box A \models_F \Box\Box A \iff R \text{ は推移的}$$
$(\Leftarrow)$:$R$は推移的であるとする。付値$v$と世界$w$を任意にとり、$v(w, \Box A) = 1$と仮定する。示すべきことは$v(w, \Box\Box A) = 1$、つまり「$w$から矢印2本で行ける世界では、どこでも$A$が真」である。
$wRx$かつ$xRy$となる世界$x, y$を任意にとる。推移性より$wRy$、つまり$y$は$w$から矢印1本で行ける。$v(w, \Box A) = 1$だから、$v(y, A) = 1$である。$y$は$w$から2本で行ける世界の中から任意にとったものだったから、$v(w, \Box\Box A) = 1$である。
$(\Rightarrow)$:$\Box A \models_F \Box\Box A$であるとする。示したいのは、すべての世界$x, y, z$について「$xRy$かつ$yRz$ならば$xRz$」が成り立つことである。そこで、$xRy$かつ$yRz$となる世界$x, y, z$を任意にとる。示すべきことは$xRz$である。
反射性のときと同じぎりぎりの付値$|p| = R(x)$を選ぶ。つまり、$p$を「$x$から矢印1本で行ける世界である」という意味にする($p$以外の命題変数は、すべての世界で偽とする)。$y$は$x$の行き先なので$+p$である。
示したいのは、$x$から$z$へ矢印があること、つまり$z$でも$p$が真であることである。順に確かめる。
・$x$の行き先はどれも「$x$から矢印1本で行ける世界」なので、$v(x, \Box p) = 1$。
・推論「$\Box p$ならば$\Box\Box p$」はこの付値のもとでも崩れないので、$v(x, \Box\Box p) = 1$。つまり、$x$から矢印2本で行ける世界では、どこでも$p$が真である。
・$xRy$かつ$yRz$だから、$z$は$x$から矢印2本で行ける世界である。よって$v(z, p) = 1$。
・$p$が真になるのは$x$の行き先だけだったから、$z$は$x$の行き先である。つまり$xRz$。
$x, y, z$は任意にとったものだったから、$R$は推移的である。
$\blacksquare$
この付値は、「様相論理と可能世界」の章のモデル$a \to b \to c$で使った付値($p$を$a$の行き先$b$だけで真にする付値)と同じ形である。あのモデルでは$aRb$かつ$bRc$なのに$aRc$でなかったので、$a$で$\Box\Box p$が偽になり、推論$\textbf{4}$は崩れたのだった。
「$\Box$と$\Diamond$の読み方」の章で$\textbf{4}$が○だった読み方では、矢印は「何手か進んで行ける」(局面)や「より後の日」(時間)であり、どちらも推移的である。
一方、この定理の$(\Rightarrow)$によれば、推論$\textbf{4}$が妥当なフレームでは、矢印は必ず推移的になる。ところが知識の読み方の矢印「区別がつかない」は、色見本の例のように推移的とは限らない。知識の読み方で$\textbf{4}$が△だったのは、このためだと説明できる。
同じ考え方で、残りの三つの対応を証明する。$(\Leftarrow)$は性質を使って矢印をたどるだけ、$(\Rightarrow)$はぎりぎりの付値を選んで、推論が崩れないことを矢印の言葉に読み直す、という流れは変わらない。
すべての世界$x$について、$xRy$となる世界$y$が存在するとき、$R$は継続的であるという。
どの世界からも少なくとも1本は矢印が出ている、つまり行き止まりの世界がないということである。たとえば、$W = \lbrace 1, 2, 3 \rbrace $で$xRy$を「$x < y$」とすると、$3$より大きい要素はないので$3$は行き止まりになり、$R$は継続的でない。
どんなフレーム$F$についても
$$
\Box A \models_F \Diamond A \iff R \text{ は継続的}$$
$(\Leftarrow)$:$R$は継続的であるとし、付値$v$と世界$w$を任意にとって$v(w, \Box A) = 1$と仮定する。継続性より、$wRy$となる世界$y$がある。$v(w, \Box A) = 1$より$v(y, A) = 1$。$w$の行き先のどこか($y$)で$A$が真なので、$v(w, \Diamond A) = 1$である。
$(\Rightarrow)$:$\Box A \models_F \Diamond A$であるとする。示したいのは、すべての世界$x$について、$xRy$となる世界$y$が存在することである。そこで、世界$x$を任意にとる。
反射性のときと同じぎりぎりの付値$|p| = R(x)$を選ぶ($p$以外の命題変数は、すべての世界で偽とする)。この付値のもとで、順に確かめる。
・$x$の行き先はどれも「$x$から矢印1本で行ける世界」なので、$v(x, \Box p) = 1$。
・推論「$\Box p$ならば$\Diamond p$」はこの付値のもとでも崩れないので、$v(x, \Diamond p) = 1$。
・$\Diamond p$の真理条件より、$xRy$かつ$v(y, p) = 1$となる世界$y$が存在する。とくに、$xRy$となる世界$y$が存在する。
$x$は任意にとったものだったから、$R$は継続的である。$\blacksquare$
この証明では、最後の段階で$p$の意味を使う必要すらなかった。$x$で$\Diamond p$が真だとわかれば、$p$が何であっても、$x$から矢印が出ていることがわかるからである。
「$\Box$と$\Diamond$の読み方」の章で、$\textbf{D}$が四つの読み方すべてで○だったのは、どの読み方でも行き止まりの世界がなかったからだった。この定理によって、そのことが確かめられたことになる。
すべての世界$x, y$について「$xRy$ならば$yRx$」が成り立つとき、$R$は対称的であるという。
矢印がいつも両向きに引かれている、つまり行ったら帰ってこられるということである。
「$x$と$y$は同じクラスに所属している」は対称的な関係だが、「$x$は$y$より背が高い」は対称的ではない。
$\Box\Diamond A$は「1歩先のどの世界からも、もう1歩で$A$の世界に行ける」という意味だった。いまいる世界で$A$が真であり、しかもどこへ行っても帰ってこられるなら、帰り道の先に$A$の世界がある、というわけだ。
どんなフレーム$F$についても
$$
A \models_F \Box\Diamond A \iff R \text{ は対称的}$$
$(\Leftarrow)$:$R$は対称的であるとし、付値$v$と世界$w$を任意にとって$v(w, A) = 1$と仮定する。$wRy$となる世界$y$を任意にとる。対称性より$yRw$であり、$v(w, A) = 1$だから、$y$の行き先のどこか($w$)で$A$が真、つまり$v(y, \Diamond A) = 1$である。$y$は$w$の行き先から任意にとったものだったから、$v(w, \Box\Diamond A) = 1$である。
$(\Rightarrow)$:$A \models_F \Box\Diamond A$であるとする。示したいのは、すべての世界$x, y$について「$xRy$ならば$yRx$」が成り立つことである。そこで、$xRy$となる世界$x, y$を任意にとる。示すべきことは$yRx$である。
今度の前提は$p$そのものである。前提を$x$で真にするのに必要なのは$x \in |p|$だけだから、ぎりぎりの付値は
$$
|p| = \lbrace x \rbrace $$
つまり「$p$は$x$だけで真」である(他の命題変数は、すべての世界で偽とする)。$p$を「$x$である」という意味にするわけだ。
示したいのは、$y$から$x$へ矢印があることである。順に確かめる。
・$x \in |p|$なので、$v(x, p) = 1$。
・推論「$p$ならば$\Box\Diamond p$」はこの付値のもとでも崩れないので、$v(x, \Box\Diamond p) = 1$。
・$xRy$なので、$v(y, \Diamond p) = 1$。つまり、$y$の行き先のどこかで$p$が真である。
・$p$が真になる世界は$x$だけだから、$x$は$y$の行き先である。つまり$yRx$。
$x, y$は任意にとったものだったから、$R$は対称的である。
$\blacksquare$
反射性・推移性では前提が$\Box p$だったので「行き先ちょうど」、ここでは前提が$p$なので「その1点だけ」を選んだ。見た目は違うが、どちらも「前提を真にするのに必要な最小限」という同じ考え方である。$p$が真になる世界を$x$の1点に絞ったからこそ、「$y$の行き先のどこかで$p$が真」が「$y$から$x$へ矢印がある」という意味になったのである。
すべての世界$x, y, z$について「$xRy$かつ$xRz$ならば$yRz$」が成り立つとき、$R$はユークリッド的であるという。
同じ世界から見える二つの世界のあいだには矢印が引かれている、ということである。$y$と$z$の役割を入れ替えれば$zRy$も成り立つので、実際には両向きに引かれている。
定義は$y$と$z$が同じ世界の場合も含むので、「$xRy$ならば$yRy$」、つまりどこかの世界から見える世界には、必ずループがあることにも注意しておく。
どんなフレーム$F$についても
$$
\Diamond A \models_F \Box\Diamond A \iff R \text{ はユークリッド的}$$
$(\Leftarrow)$:$R$はユークリッド的であるとし、付値$v$と世界$w$を任意にとって$v(w, \Diamond A) = 1$と仮定する。すると、$wRz$かつ$v(z, A) = 1$となる世界$z$がある。$wRy$となる世界$y$を任意にとる。$wRy$かつ$wRz$だから、ユークリッド性より$yRz$。よって$v(y, \Diamond A) = 1$。$y$は任意にとったものだったから、$v(w, \Box\Diamond A) = 1$である。
$(\Rightarrow)$:$\Diamond A \models_F \Box\Diamond A$であるとする。示したいのは、すべての世界$x, y, z$について「$xRy$かつ$xRz$ならば$yRz$」が成り立つことである。そこで、$xRy$かつ$xRz$となる世界$x, y, z$を任意にとる。示すべきことは$yRz$である。
前提$\Diamond p$を$x$で真にするのに必要なのは、行き先のどこか1か所で$p$が真であることだけなので、ぎりぎりの付値として
$$
|p| = \lbrace z \rbrace $$
を選ぶ(他の命題変数は、すべての世界で偽とする)。$p$を「$z$である」という意味にするわけだ。
示したいのは、$y$から$z$へ矢印があることである。順に確かめる。
・$xRz$かつ$v(z, p) = 1$なので、$v(x, \Diamond p) = 1$。
・推論「$\Diamond p$ならば$\Box\Diamond p$」はこの付値のもとでも崩れないので、$v(x, \Box\Diamond p) = 1$。
・$xRy$なので、$v(y, \Diamond p) = 1$。つまり、$y$の行き先のどこかで$p$が真である。
・$p$が真になる世界は$z$だけだから、$z$は$y$の行き先である。つまり$yRz$。
$x, y, z$は任意にとったものだったから、$R$はユークリッド的である。
$\blacksquare$
証明のコツは、次の二つにまとめられる。
・$(\Leftarrow)$ 性質 ⇒ 妥当:付値と世界を任意にとり、性質を使って矢印をたどる。
・$(\Rightarrow)$ 妥当 ⇒ 性質:性質に出てくる世界を任意にとる(たとえば推移性なら、$xRy$かつ$yRz$となる$x, y, z$をとる)。そして、前提を真にするのに必要な最小限だけ$p$を真にする付値を選ぶ。推論はこの付値のもとでも崩れないので、結論が真になる。それを真理条件と付値の決め方で読み直すと、示したい矢印が出てくる。
選ぶ付値は、次のとおりである。
| 推論 | 前提 | $p$を真にする世界 | $p$の意味 |
|---|---|---|---|
| $\textbf{T}$、$\textbf{4}$、$\textbf{D}$ | $\Box p$ | $x$の行き先$R(x)$ | $x$から矢印1本で行ける |
| $\textbf{B}$ | $p$ | $x$だけ | $x$である |
| $\textbf{5}$ | $\Diamond p$ | $z$だけ($xRz$となる$z$) | $z$である |
$(\Rightarrow)$の証明では、推論が崩れないことから結論が真になり、それを矢印の言葉に読み直した。このとき、$p$を真にする世界が少ないほど、「結論が真」という事実から多くのことがわかる。
たとえば$\textbf{T}$の証明で、$p$をすべての世界で真にしてしまうと、「$x$で$p$が真」は当たり前に成り立ち、矢印については何もわからない。$p$を$x$の行き先ちょうどで真にしたからこそ、「$x$で$p$が真」が「$x$から$x$へ矢印がある」という意味になったのである。
一方で、前提が真にならなければ、推論が崩れないことを使えない。だから、前提が真になるぎりぎりまで、$p$を真にする世界を減らすのである。