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大学数学基礎解説
文献あり

リー代数1.2.1 イデアルと準同型 

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リー代数のイデアル

($\mathrm{Lie}$代数のイデアル)

 $L$$\mathrm{Lie}$代数とする。
 $I$$L$のイデアルであるとは、$I$$L$の部分線型空間であって、
 すべての$x\in L,y\in I$に対し、$[x,y]\in I$を満たすものをいう。

イデアルは$L$の部分$\mathrm{Lie}$代数になっている。
例 $\set{0}$$L$は自明な$L$のイデアルである。

$\mathrm{Lie}$代数のイデアルは、群論の正規部分群、環論のイデアルと対応する。
例えば、準同型の核としてあらわれる。

($\mathrm{Lie}$代数の中心)

$L$$\mathrm{Lie}$代数とする。このとき、
$Z(L):=${$y\in L\,|$すべての$x\in L$に対し、$[x,y]=0$}を$L$の中心という。

中心$Z(L)$$L$のイデアルの例となっている。
また、$Z(L)=L\Longleftrightarrow L$は可換$\mathrm{Lie}$代数 は明らか。

(導来$\mathrm{Lie}$代数)

$L$$\mathrm{Lie}$代数とする。このとき、
$[L,L]:=\mathrm{Span}\set{[x,y]\in L\,|\,x,y\in L}$$L$の導来$\mathrm{Lie}$代数という。

導来$\mathrm{Lie}$代数もイデアルの例となっている。(ので導来イデアルといったりする。)

例 $[\mathfrak{sl}_n(\mathbb{F}),\mathfrak{sl}_n(\mathbb{F})]=\mathfrak{sl_n(\mathbb{F})},[\mathfrak{gl}_n(\mathbb{F}),\mathfrak{gl}_n(\mathbb{F})]=\mathfrak{sl_n(\mathbb{F})}$が成り立つ。

(証明)$X,Y\in \mathfrak{sl}_n(\mathbb{F})$を任意にとると、$\mathrm{Tr}(XY-YX)=0$より、$[X,Y]\in \mathfrak{sl}_n(\mathbb{F})$
したがって、$[\mathfrak{sl}_n(\mathbb{F}),\mathfrak{sl}_n(\mathbb{F})]\subset \mathfrak{sl_n(\mathbb{F})}$が成り立つ。($[\mathfrak{gl}_n(\mathbb{F}),\mathfrak{gl}_n(\mathbb{F})]\subset \mathfrak{sl_n(\mathbb{F})}$もわかる)

$\mathfrak{sl}_n(\mathbb{F})$の基底として、$\set{E_{ij},E_{ii}-E_{jj}\,|\,i\neq j}$を選ぶ。
$[E_{ii}-E_{jj},E_{ij}]=[E_{ii},E_{ij}]-[E_{jj},E_{ij}]=E_{ij}+E_{ij}=2E_{ij}$
$[E_{ij},E_{ji}]=E_{ii}-E_{jj}$であるので、$\set{E_{ij},E_{ii}-E_{jj}\,|\,i\neq j}\subset [\mathfrak{sl}_n(\mathbb{F}),\mathfrak{sl}_n(\mathbb{F})]$
したがって、$\mathfrak{sl}_n(\mathbb{F})\subset [\mathfrak{sl}_n(\mathbb{F}),\mathfrak{sl}_n(\mathbb{F})]$($\mathfrak{sl}_n(\mathbb{F})\subset [\mathfrak{gl}_n(\mathbb{F}),\mathfrak{gl}_n(\mathbb{F})]$もわかる)$\Box$

(イデアルの和と積)

 $L$$\mathrm{Lie}$代数とし、$I,J$$L$のイデアルとする。このとき、
 $I+J:=\set{x+y\,|\,x\in I,y\in J},$
 $[I,J]:=\mathrm{Span}\set{[x,y]\,|\,x\in I,y\in J}$と定める。

$I+J$$[I,J]$$L$のイデアルとなる。証明は代数の教科書に載っているので割愛する。

(単純$\mathrm{Lie}$代数)

 $\mathrm{Lie}$代数$L$のイデアルが自明なもの($0$$L$)のみであるとき、$L$は単純であるとか、$L$は単純$\mathrm{Lie}$代数であるという。

この定義に、さらに、$[L,L]\neq 0$(つまり、$L$は可換でない)を課すこともある。
もし、$L$が可換かつ単純であるとすると、$L$の1次元部分線型空間は可換性から、$L$のイデアルとなる。よって、$L$の単純性より、$\dim L=1$となってしまう。
このような定義の齟齬を防ぐために、単純の定義は定義5の通りにして、$[L,L]\neq 0$をつけ加えたものは、非可換単純$\mathrm{Lie}$代数と呼ぶことにする。

例 $L$を非可換単純$\mathrm{Lie}$代数とする。このとき、$Z(L)=\set0,[L,L]=L$

証明 $Z(L)$$L$のイデアルなので、$L$の単純性より、$Z(L)=\set0$or$L$となる。
$L$は非可換なので、$Z(L)\neq L$.ゆえに、$Z(L)=\set0$
同様に、$[L,L]$$L$のイデアルなので、$[L,L]=\set0$or$L$である。
$L$は非可換なので、$[L,L]\neq \set0$.ゆえに、$[L,L]=L$ $\Box$

(商$\mathrm{Lie}$代数)

 $L$$\mathrm{Lie}$代数とし、$I$$L$のイデアルとする。
 このとき、商線型空間$L/I$を商$\mathrm{Lie}$代数とよぶ。

 これが$\mathrm{Lie}$代数であることを確認しよう。

 $L/I$$\mathrm{Lie}$代数である。

 証明 $x\in L$に対し、$\overline{x}\in L/I$$\overline{x}:=\set{y\in L\,|\,y-x\in I}=x+I$であった。
 $L/I$が線型空間であることは、認めておこう。つまり、和とスカラー倍はwell-definedであるということである。式で書くと、$k\in \mathbb{F},x,y\in L$として、$\overline{x+y}=\overline{x}+\overline{y},\overline{kx}=k\overline{x}$は認めるということである。
かっこ積を定義しよう。$L$のかっこ積を、$[\cdot ,\cdot]_L$と書くことにしよう。
このとき、$\overline{x},\overline{y}$に対し、$[\overline{x},\overline{y}]_{L/I}:=\overline{[x,y]}_L$で定める。

まず、かっこ積がwell-definedかどうかを確認する。つまり、代表元の取り方に依らないことを示す。
$x,x'y,y'\in L$として、$\overline{x}=\overline{x'},\overline{y}=\overline{y'}$としよう。
このとき、商線型空間の定義から、$x'-x,y'-y\in I$であるので、
ある$a,b\in I$が存在して、$x'-x=a,y'-y=b$とかける。
つまり、$x'=x+a,y'=y+b$である。
$[x',y']_L=[x+a,y+b]_L=[x,y]_L+[a,y]_L+[x,a]_L+[a,b]_L$
$I$はイデアルなので、$[a,y]_L,[x,a]_L,[a,b]_L\in I$ 
つまり、$[a,y]_L+[x,a]_L+[a,b]_L\in I$
よって、$ [x',y']_L-[x,y]_L\in I$ これより、かっこ積はwell-definedである。

$k\in \mathbb{F},x,y,z\in L$とする。
$\cdot$かっこ積の双線型性
$\hspace{70pt}\begin{align}[\overline{x}+\overline{y},\overline{z}]_{L/I} &=[\overline{x+y},\overline{z}]_{L/I} \\ &=\overline{[x+y,z]}_L\\ &=\overline{[x,z]_L+[y,z]_L}\\ &=\overline{[x,z]}_L+\overline{[y,z]}_L\\ &=[\overline{x},\overline{z}]_{L/I}+[\overline{y},\overline{z}]_{L/I}\end{align}$

つまり、$ [\overline{x}+\overline{y},\overline{z}]_{L/I}=[\overline{x},\overline{z}]_{L/I}+[\overline{y},\overline{z}]_{L/I}$

$\hspace{80pt}\begin{align} [k\overline{x},\overline{y}]_{L/I} &=[\overline{kx},\overline{y}]_{L/I} \\ &=\overline{[kx,y]}_L \\ &=\overline{k[x,y]}_L \\ &=k\overline{[x,y]}_L \\ &=k[\overline{x},\overline{y}]_{L/I} \end{align}$

つまり、$[k\overline{x},\overline{y}]_{L/I}=k[\overline{x},\overline{y}]_{L/I} $
したがって、第1成分の線型性が言えた。第2成分も同様にしてわかる。

$\cdot$ 交代性$ \hspace{40pt}[\overline{x},\overline{x}]_{L/I}=\overline{[x,x]}_L=\overline{0}$よりわかる。

$\cdot$ $\mathrm{Jacobi}$
$ \begin{align} &\hspace{20pt}[\overline{x},[\overline{y},\overline{z}]_{L/I} ]_{L/I}+[\overline{y},[\overline{z},\overline{x}]_{L/I} ]_{L/I}+[\overline{z},[\overline{x},\overline{y}]_{L/I} ]_{L/I} \\ &=[\overline{x},\overline{[y,z]}_L ]_{L/I}+[\overline{y},\overline{[z,x]}_L ]_{L/I}+[\overline{z},\overline{[x,y]}_L ]_{L/I} \\ &=\overline{[x,[y,z]_L]}_L+\overline{[y,[z,x]_L]}_L+\overline{[z,[x,y]_L]}_L \\ &=\overline{[x,[y,z]_L]_L+[y,[z,x]_L]_L+[z,[x,y]_L]_L}=\overline{0}\end{align}$
よりわかる。したがって、$L/I$$\mathrm{Lie}$代数である。$\Box$

(正規化代数、自己正規化代数)

 $L$$\mathrm{Lie}$代数とし、$K$$L$部分線型空間とする。
 $[x,K]:=\set{[x,y]\in L\,|\,y\in K}$と定める。
 このとき、$N_L(K):=\set{x\in L\,|\,[x,K]\subset K}$$K$の正規化代数とよぶ。
 特に、$K=N_L(K)$のときは、$K$を自己正規化代数とよぶ。

$K$$L$の部分$\mathrm{Lie}$代数である必要はないというのはオドロキなのだ。

 正規化代数は、部分$\mathrm{Lie}$代数である。

 証明 $L$$K$を定義7のものとして示す。
 $\cdot N_L(K)$が部分線型空間であること
$x,y\in N_L(K)$を任意にとる。
このとき、$[x+y,K]=\set{[x+y,z]\,|\,z\in K}$であるので、
$[x+y,z]=[x,z]+[y,z]$$K$$L$の部分線型空間より$[x+y,z]\in K$
$\therefore [x+y,K]\subset K$ $\therefore x+y\in N_L(K)$
$k\in \mathbb{F},x\in N_L(K)$を任意にとる。
このとき、$[kx,K]=\set{[kx,y]\,|\,y\in K}$であるので、
$[kx,y]=k[x,y]$$K$$L$の部分線型空間より$k[x,y]\in K$
$\therefore [kx,K]\subset K$ $\therefore kx\in N_L(K)$
$\therefore N_L(K)$は部分線形空間である

$\cdot N_L(K)$が部分$\mathrm{Lie}$代数であること
$x,y\in N_L(K)$を任意にとる。
このとき、$[[x,y],K]=\set{[[x,y],z]\,|\,z\in K}$であるので、$\mathrm{Jacobi}$律より、
$[[x,y],z]=-[[y,z],x]-[[z,x],y]=[x,[y,z]]-[y,[x,z]]$
$x,y\in N_L(K)$より、$[x,z],[y,z]\in K$なので、さらに、
$[x,[y,z]],[y,[x,z]]\in K$となり、$K$が部分線型空間より、$[x,[y,z]]-[y,[x,z]]\in K$
$\therefore [[x,y],z]\in K \,\therefore [[x,y],K]\subset K \,\therefore [x,y]\in N_L(K)$
$\therefore$ $N_L(K)$は部分$\mathrm{Lie}$代数である $\Box$

 $L$$\mathrm{Lie}$代数とし、$K$$L$の部分$\mathrm{Lie}$代数とする。
 このとき、$N_L(K)$$K$を含む最小のイデアルである。

 証明 $K$$L$の部分$\mathrm{Lie}$代数より、$x\in K$に対し、$[x,K]\subset K$ $\therefore K\subset N_L(K)$

(中心化代数)

 $L$$\mathrm{Lie}$代数とし、$K$$L$の空でない部分集合とする。
 $C_L(K):=\set{x\in L\,|\,[x,K]=\set0}$$K$の中心化代数という。

定義から明らかに、$C_L(L)=Z(L)$である。

 中心化代数は部分$\mathrm{Lie}$代数である。

 証明 $L$$K$を定義8のものとして示す。
$\cdot C_L(K)$が部分線型空間であること
$x,y\in C_L(K)$を任意にとる。
このとき、$[x+y,K]=\set{[x+y,z]\,|\,z\in K}$であるので、$x,y\in C_L(K)$より、
$[x+y,z]=[x,z]+[y,z]=0$ $\therefore [x+y,K]=\set0$ $\therefore x+y\in C_L(K)$
$k\in \mathbb{F},x\in C_L(K)$を任意にとる。
このとき、$[kx,K]=\set{[kx,y]\,|\,y\in K}$であるので、$x\in C_L(K)$より、
$[kx,y]=k[x,y]=0$より、$[kx,K]=\set0$ $\therefore kx\in C_L(K)$
$\therefore C_L(K)$は部分線型空間である

$\cdot C_L(K)$が部分$\mathrm{Lie}$代数であること
$x,y\in C_L(K)$を任意にとる。
このとき、$[[x,y],K]=\set{[[x,y],z]\,|\,z\in K}$であるので、$\mathrm{Jacobi}$律より、
$[[x,y],z]=-[[y,z],x]-[[z,x],y]$
$x,y\in C_L(K)$より、$[x,z]=[y,z]=0 \,\therefore [[x,y],z]=0$
$\therefore [[x,y],K]=\set0$ $\therefore [x,y]\in C_L(K)$
$\therefore$ $C_L(K)$は部分$\mathrm{Lie}$代数である $\Box$

参考文献

[1]
James E. Humphreys, Introduction to Lie Algebras and Representation Theory
投稿日:23日前
更新日:4日前
OptHub AI Competition

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