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大学数学基礎解説
文献あり

軸性ベクトルと極性ベクトル

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軸性ベクトルと極性ベクトル

概要

3次元空間でベクトルの話をするとき、「ベクトル」には「軸性ベクトル」と「極性ベクトル」という2種類のベクトルを考えることができるという話です。
だいたいこんな話をするつもりです。

  1. 3次元空間内の図形に起きる現象とその観察
  2. 軸性ベクトルと極性ベクトルの定義
  3. 「微小領域dS」という言葉の捉え方

背景

安達でベクトル解析を勉強していた時に軸性ベクトルというという概念に初めて触れため、自分の頭を整理するために書いています。また「微小面積」や「微小面積」という言い方に対して「なんかはっきりとしなくて気持ち悪い」という抵抗が弱まったため、同じような気分になっている人がすっきりできるようになることを目指しました。

大きさと方向を持った量

さて、本題に入りましょう。「ベクトル」という考えの説明として「大きさと方向を持った量だ」というような言い方を私は聞いてきました。そしてその具体例は「矢印」ですと。しかし方向と大きさという量を同時に与えられる図形は次のように他にも存在します。

円の面積ベクトル

3次元空間内のある平面内に円があり円周は向きづけられています。このとき

  • 方向:この平面に垂直な方向、ただし円周の向きとは右ネジの関係をなすようにする
  • 大きさ:この円の面積

と2つの量を考えるとこれも「方向」と「大きさ」を備えた量と言えそうです。これを仮に「円の面積ベクトル」と呼びます。

矢印による円の面積ベクトルの図示

このような量を図示する方法としても矢印が使えそうです。「円周の向きに対して右ネジの関係にある法線を、円の中心を基点に面積に比例する長さの矢印を描く」という方法がとれそうです。

もう少し拡げられる

元の図形が円そのものであることは重要ではありません。面積と図形の向きががあれば右ネジの関係から方向が決められます。そのため、このような量はもう少し広範な図形に対して決められそうです。例えば、平行四辺形や多角形のようにS1 を区分的になめらかに平面内に書いて得られる図形ぐらいまでは、この考えを拡げられそうです。ただ、これらの図形に対してのこの「ベクトル」の矢印による図示の方法は捨て置きます。図形のどこを矢印の基点にするかが選びづらそうです。

反転操作による現象と観察

円の面積ベクトルと、よく考えている素朴な「矢印」によるベクトルを定式化し、その定式化を通してある現象(軸の反転)を観察していきます。

記号

図形の置き場所は3次元空間としましょう。これをUと書きます。今後、縦ベクトルと横ベクトルを少し意識して使い分けるため記号を別に用意します。

  • U={(x,y,z)|x,y,zR} :横ベクトルのなす空間
  • R3={t(x,y,z)|x,y,zR}:縦ベクトルのなす空間

また、反転という操作をほどこしそれによる図形の変化を観察します。反転を記述するためにいくつかの記号を準備しておきます

  • R+3で基底 E+:=(e1+,e2+,e3+) を備えた実ベクトル空間R3を表すとします。

    • ただし、e1+:=t(1,0,0),e2+:=t(0,1,0),e3+:=t(0,0,1)R3です。
  • R3で基底 E:=(e1,e2,e3) を備えた実ベクトル空間R3を表すとします。

    • ただし、e1:=t(1,0,0),e2:=t(0,1,0),e3:=t(0,0,1)R3です。
  • vR3R3の基底Eに対してこの基底によるv の座標を[α,β,γ]と[]の数3つ組で表します。座標を座標ベクトルとも言うことにします。

とりあえず使いそうな記号の用意は完了です。次は反転操作を観察してみましょう

反転操作

反転操作T

PUに対して、OUについて点対象の位置にうつす操作をTと書いて、これを反転操作と呼ぶことにします。点Pに対してTにより操作した結果をTPと書きます。

座標ベクトルの場合

U内の点として見ましょうP=(a,b,c)とするとTP=(a,b,c)ですから、座標ベクトルは次のようになります。

  • E+P=[a,b,c]R+3
  • E+TP=[a,b,c]R+3
  • ETP=[a,b,c]R3

つまり、座標ベクトルは反転操作Tにより方向が反転されます。

基底の変換

「操作Tにより基底も変更される」という考え方もあり得ます。この場合は座標を取るための基底はE+からEに変更されます。この場合、上述のように座標ベクトルは反転操作に対して不変です。

どちらでの考え方でもいいのですが反転・不変の結論が互いに入れ替わるため操作Tにより基底が入れ替わるかは選び決めておきましょう。簡単のためこの観察では操作Tにより基底は変えず、座標ベクトルは常に基底E+から取ります。

円の面積ベクトル

座標ベクトルと同じように円の面積ベクトルが反転操作でどうなるか見ていきます。

U内のxy平面上に半径1の円周S1を描きます。円周には原点が左側になるよう向きを考えます。円の面積ベクトルをると次のようになります。

  • 方向は右ネジの関係からz軸に平行でz軸正
  • 大きさはπ

この図形に対して、操作Tを加えます。
P=(x,y,0)S1TP=(x,y,0)
一方、PS1より
(x)2+(y)2+02=x2+y2=1

です。ゆえにTPS1です。続いて円周の向きの変化を確認します。原点を左側とするのが円周の向きです。これはR:[0,2π]S1;t(cost,sint,0)と表せます。これに反転操作を加えると

TR(t)=(cost,sint,0)=( cos(t+π),sin(t+π)),0)

この式から反転操作は円周を描く開始地点を変えるが円周の向きは変更していないことが観られます。また、この表示から反転操作によるS1の像はS1に一致することが分かり、反転操作は面積も変えないことが確認できます。つまり、円の面積ベクトルは反転操作Tで不変です。

これも基底の変換を考慮に入れた場合には結論が逆になります。座標ベクトルで考えても円周の向きは変更されませんが、基底Eにおいてはe1,e2と右ネジの関係にあるのはz軸の負の方向のため、円の面積ベクトルの方向は座標軸(e1,e2)とは左ネジの関係になります。

観察結果

座標ベクトルと円の面積ベクトルの方向が反転操作に対してどう振舞うかをまとめると次の表のようになります。

ベクトル\基底の変換しないする
座標ベクトル反転不変
円の面積ベクトル不変反転

このように、操作に対して基底の変換までするか、しないかで結論が逆になります。ご注意ください。ちなみにベクトルの大きさは反転操作で常に不変です。

極性ベクトル・軸性ベクトル

軸性ベクトル・極性ベクトル
  • 反転操作に対して方向が反転するベクトルを極性ベクトルと言います。
  • 反転操作に対して方向が不変なベクトルを軸性ベクトルと言います。

ただし、反転操作は基底の変化を考慮しません。座標ベクトルの取り方(基底)は常に一定とします。基底の変化を考慮すると定義が逆になります。

座標ベクトル(極性ベクトル)

ベクトル空間R+3,R3を考えます。PUに対してそれぞれの基底により得られる座標ベクトルOPは極性ベクトルです。

ベクトルの外積(軸性ベクトル)

R+3上で考えます。二つの縦ベクトル a,bに対して外積ベクトル
a×b

は軸性ベクトルです。

面積ベクトル(軸性ベクトル)

U上の平面を考え、区分的になめらかで自己交叉のないS1のこの平面への埋め込みを考えます。S1の向きは内側を左側になるようにします。このとき平面に垂直、右ネジと整合する向きを方向、大きさを面積とするベクトルは軸性ベクトルとなります。

微小領域dS

3次元空間における曲面上の関数に対して、積分やリーマン和を考えている時に微小量dSと書き横に図で小さい図形が書いてあるシーンがあります。これはdSは面積ベクトル(的なもの)とみると考えやすいでしょう。実際、面積分を考えるときにとるリーマン和は曲面を分割し、分割のうちの最大面積を0とする分割の極限を考えます。この時考える分割でその形は重要ではなく、

  • 面積の大きさ
  • 考えている法線の方向と関数の正の方向は同じか

の2点です。これはまさに面積ベクトル的な考え方になります。

「面積ベクトル的」について

「的」といっているのは積分内に登場するdSの面積の大きさは「無限に小さい」と形容するような気持ちであり、前述のようなS1の埋め込みがある訳ではないため濁しています。

結局のところはdSというのは「非常に小さい領域に対して「符号付きの面積」を与えるようなもの」と考えられます。これは接平面というベクトル空間上の実数値関数で交代性と多重線形性を持っているものを考えていることにあたり、確かに微分形式だと言えるかと思います。

dSをきちんと定義する話は多様体や微分形式の書籍にゆずり、この話は面積ベクトルというものを観察してみた話でした。

参考文献

投稿日:202446
更新日:202446
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  2. 概要
  3. 反転操作による現象と観察
  4. 極性ベクトル・軸性ベクトル
  5. 微小領域dS
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