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線形写像の転置を考える

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$$\newcommand{Hom}[0]{\operatorname{Hom}} \newcommand{tran}[1]{{}^t\!{#1}} $$

はじめに

 転置というとたいていは行列の転置
\begin{align} A= \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{m1} & a_{m2} & \cdots & a_{mn} \end{pmatrix} ,\quad \tran{A}= \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{m1} & a_{m2} & \cdots & a_{mn} \end{pmatrix} \end{align}
を考えますよね. 行列は線形写像であったことを思い出しましょう. 例えば行列の逆行列は線形写像の逆写像に対応するものでした. このように線形写像の転置も考えることができそうです. 本記事では線形写像の転置写像を定義し, 転置写像の表現行列が元の線形写像の表現行列の転置行列になっていることを示します.
 以降$\mathbb{K}$を体, $V,W$をそれぞれ体$\mathbb{K}$上のベクトル空間として次元を$n,m$とします. また$V,W$の基底をそれぞれ$\{v_1,v_2,\ldots ,v_n\}$, $\{w_1,w_2,\ldots ,w_m\}$とします.

双対空間の復習

線型写像の転置を考えるために双対空間について復習しておきます. 証明は省略します.

双対空間

$V$双対空間(dual space)$V^*$は以下で定義されるベクトル空間である.
\begin{align} V^*:=\Hom_{\mathbb{K}}(V,\mathbb{K})=\{\varphi\colon V\to \mathbb{K}\mid \text{$\varphi$は線形写像}\} \end{align}
和とスカラー倍は$\varphi,\psi\in V,\,k\in\mathbb{K}$として以下のように定まる.
\begin{align} (\varphi+\psi)(v):=\varphi(v)+\psi(v),\quad (k\varphi)(v):=k\varphi(v) \end{align}

双対空間は元のベクトル空間と同じ次元を持つベクトル空間です. そして双対空間の基底は次のように与えられます.

双対基底

$V$の双対空間$V^*$$\{v_1^*,v_2^*,\ldots,v_n^*\}$を基底として持つ. ここで
\begin{align} v_i^*(v_j):=\delta_{ij}=\begin{cases} 1 &(i=j) \\ 0 &(i\neq j) \end{cases} \end{align}
この基底を双対基底(dual basis)という.

線形写像の転置

転置写像

線形写像$f\colon V\to W$転置写像(transpose of a linear map)とは線形写像$\tran{f}\colon W^*\to V^*$であって$\tran{f}(\varphi):=\varphi\circ f$で定まるものである.

本記事のテーマから転置写像としましたが, しばしば双対写像(dual mapping)とも呼ばれます(こっちの方が多い気がする). この転置写像は本当に転置行列を表現行列として持つのか確かめてみます.

$f\colon V\to W$$V,W$の基底$\{v_1,v_2,\ldots ,v_n\}$, $\{w_1,w_2,\ldots ,w_m\}$に関する表現行列を$A$とする. このとき転置写像$\tran{f}\colon W^*\to V^*$の双対基底$\{v_1^*,v_2^*,\ldots ,v_n^*\}$, $\{w_1^*,w_2^*,\ldots ,w_m^*\}$に関する表現行列は$\tran{A}$である.

$A$$(i,j)$-成分を$a_{ij}$とする. $\tran{f}(w_j^*)$はある$b_k\in \mathbb{K}$を用いて
\begin{align} \tran{f}(w_j^*)=\sum_{k=1}^nb_kv_k^* \end{align}
と表される. $b_i=a_{ji}$を示せばよい. まず
\begin{align} \tran{f}(w_j^*)(v_i)=\sum_{k=1}^nb_kv_k^*(v_i)=b_i \end{align}
一方で転置写像の定義を用いてこれを計算すると次のようになる.
\begin{align} \tran{f}(w_j^*)(v_i)=w_j^*(f(v_i))=w_j^*\left(\sum_{k=1}^ma_{ki}w_k\right)=a_{ji} \end{align}
以上より$\tran{A}$$\tran{f}$の双対基底に関する表現行列である.

転置写像の定義から転置行列でも用いる次の性質を示して終わりにしましょう.

$f\colon V\to W$, $g\colon U\to V$を線形写像とする. このとき$\tran(f\circ g)=\tran{g}\circ \tran{f}$が成り立つ.

写像の合成の結合法則より簡単に示される. $\varphi\in W^*$として
\begin{align} \tran(f\circ g)(\varphi)=\varphi\circ(f\circ g)=(\varphi\circ f)\circ g=(\tran{f}(\varphi))\circ g=(\tran{g}\circ \tran{f})(\varphi) \end{align}

次回は 続・線形写像の転置を考える(Hom関手について) です.

投稿日:1019
更新日:1021
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kz
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数学科です 短い数学の話題を不定期でかきます

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