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t分布の性質とF分布の導入

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はじめに

今回はt分布の諸性質を紹介する.さらに,F分布の導入を目指す.

t分布のグラフの形を探る

まず,t分布の定義を思い出す.

t分布

確率変数WVが独立で,Wは標準正規分布に従い,Vは自由度rのカイ二乗分布に従うとき,

T=WVr

は,自由度rt分布に従うという.

さらに,このときのr.v.Tの確率密度関数は

g1(t)=Γ[r+12]πrΓ[r2][1+t2r](r+1)2(<t<)・・・(3.6.2)

とかけるのだった.

これを用いて,t分布の確率密度関数のグラフの形状を考える.

1. g1(t)の対称性

まず,直ちに

g1(t)=g1(t)1

が分かる.

したがって,r.v.Tの確率密度関数は0に関して対称である.

(さらに,このことからTの中央値が0であることも分かる.2)

確率変数Xの中央値とは,

P(Xm)12,P(Xm)12

を満たす実数m.

2. g1(t)の挙動

次に, g1(t)tに関して微分してみると,以下を得る.

ddtg1(t)=Γ[r+12]πrΓ[r2][r+1r]t[1+t2r](r+3)2 (<t<)

符号を司る部分は

t[1+t2r](r+3)2

だが,括弧部は常に正ゆえ,実際に着目すべきはtのみ.

したがって,g1(t)t=0で唯一の最大値をとることが分かる.

同時に,ddtg1(t)の連続性も加味する.

結論:g1(t)のグラフの概形

よって,t分布の確率密度関数のグラフの形状は以下のようと分かる.
[-4,4]で描いた自由度3のt分布のグラフ [-4,4]で描いた自由度3のt分布のグラフ
描画に用いたRのコードは後述.

t分布の諸性質

正規近似

まず,t分布の重要な性質を紹介する.

t分布の正規近似

t分布は,自由度rのとき,標準正規分布に近づく.

(3.6.2)式で書ける確率密度関数が,rのとき,標準正規分布のそれと等しくなることを言えばよい.

まず,rのとき,
[1+t2r](r+1)2=[(1+t2r)r]12(1+t2r)12exp(t22)3

次に,スターリングの公式(下に記載)を用いると,十分大きなrに対して
Γ[r+12]Γ[r2]=[r2]12
が成り立つ.

以上より,r

g1(t)=Γ[r+12]πrΓ[r2][1+t2r](r+1)212πexp[t22]

と分かり,題意を得る.

スターリングの公式

xのときΓ[x+y]Γ[x]xy

平均と分散(Example3.6.1)

t分布の平均と分散

r.v.Tが自由度rt分布に従うとき,

E[T]=0(r>1)
Var[T]=rr2(r>2)

①準備
まず,t分布の定義より,標準正規分布に従うr.v.Wと,自由度rのカイ二乗分布に従うr.v.V(WVは独立とする)を用いて

T=WV/r

とかける.

WVの独立性から,

E[Tk]=E[Wk(Vr)k/2]=E[Wk]E[(Vr)k/2]=E[Wk]1rk/2E[Vk/2]

ここに,(3.3.8)式(下に記載)から得られる

E[Vk/2]=2k/2Γ[r2k2]Γ[r2](k/2>r/2)

を代入すると,
E[Tk]=E[Wk]2k/2Γ[r2k2]Γ[r2]rk/2(k<r)・・・(3.6.4)

②平均を求める
r.v.Wの定義からE[W]=0ゆえ,

E[T]=0(r>1)

③分散を求める
Tの平均が0であることから,
Var[T]=E[T2]E[T]2=E[T2]=rr2(r>2)4

確率変数Xが自由度rのカイ二乗分布に従うとき,

E[Xk]=2kΓ[r2+k]Γ[r2](k>r/2)・・・(3.3.8)

n1の整数に対して, α>0ならば
Γ[α+n]=(α+n1)(α+1)αΓ(α)

コーシー分布

平均が定義されないr=1の場合の分布は,標準コーシー分布と同じ.
fX(x)=1π(x2+1)

t分布がらみのRコマンド

先ほどの図1を描くのに用いたコードは以下.
グラフ描画 グラフ描画
数列tを生成した後,それを自由度3t分布の確率密度関数に代入した値との組をプロットしている.

また,以下の2つのコマンドも有用である.
その他のコマンド その他のコマンド

上段では,Tが自由度15t分布に従うときのP(T2.0)の値が,
下段では,自由度15t分布の下側確率97.5%点が,それぞれ返却されている.

t分布表

これまで見てきたように,t分布は自由度rにのみ依存する.
つまり,自由度を定めれば,各パーセント点が与えられる.

これを用いて,t分布表が作られている.

Rで作るt分布表 Rで作るt分布表

補足(Remark3.6.1)

t分布は,発明したW.S.Gossetのペンネームから,Studentのt分布とも呼ばれる.

F分布の導入

ここでは,F分布の定義と確率密度関数の導出を行う.

F分布

確率変数UVが独立で,Uは自由度r1のカイ二乗分布に従い,Vは自由度r2のカイ二乗分布に従うとき,

W=U/r1V/r2

は,自由度r1,r2F分布に従うという.

このときのr.v.Wの確率密度関数は

g1(w)={Γ[r1+r22](r1/r2)r1/2Γ[r12]Γ[r22]wr1/21(1+r1w/r2)(r1+r2)/20<w<0elsewhere. ・・・(3.6.6)

とかける.F分布は,パラメータr1およびr2から決まる.

補足

確率変数をWでなくFで表すことも多い.

確率密度関数の導出

最後に,(3.6.6)式の導出を行う.

定義にあるように,確率変数U,VおよびWを定めるとき,UVの結合確率密度関数は

h(u,v)={1Γ[r12]Γ[r22]2(r1+r2)/2ur1/21vr2/21e(u+v)/20<u,v<0elsewhere.5

求めるWの確率密度関数をg1(w)とし,変数変換

w=u/r1v/r2,z=v

を考えると,(u,v)(w,z)とは一対一に対応し,
S={(u,v):0<u<,0<v<}

T={(w,z):0<w<,0<z<}
に写る.

また,
u=r1r2zw,v=z6ゆえ,ヤコビアンを計算すると

|J|=(r1/r2)z7

以上より,WZの結合確率密度関数は

g(w,z)={1Γ[r12]Γ[r22]2(r1+r2)/2(r1zwr2)(r12)/2z(r22)/2exp[z2(r1wr2+1)]r1zr2(w,z)T0elsewhere.8

したがって,Wの周辺確率密度関数は
g1(w)=g(w,z)dz=0(r1/r2)r1/2(w)r1/21Γ[r12]Γ[r22]2(r1+r2)/2z(r1+r2)/21exp[z2(r1wr2+1)]dz9
さいごに,

y=z2(r1wr2+1)

とおけば,
g1(w)=0(r1/r2)r1/2(w)r1/21Γ[r12]Γ[r22]2(r1+r2)/2(2yr1w/r2+1)(r1+r2)/21ey(2r1w/r2+1)dy={Γ[r1+r22](r1/r2)r1/2Γ[r12]Γ[r22]wr1/21(1+r1w/r2)(r1+r2)/20<w<0elsewhere.

以下は補足

歪度と尖度

上で求めた平均と分散を用いて,歪度と尖度を求める.

t分布の歪度

t分布の歪度は0(ただしr>3)

t分布の尖度

t分布の尖度は6r4(ただしr>4)

以下,定義にあるように,確率変数T,W,Vを定め,Tの平均をμ,分散をσ2とする.
先に示した通り,μ=0(r>1),σ2=rr2(r>2)

下の定理を用いると,歪度と尖度はそれぞれ

E[(Tμ)3]σ3=E[T3]σ3=1σ3E[W3](r2)3/2Γ[(r3)/2]Γ[r/2]10=0(r>3)

E[(Tμ)4]σ43=E[T4]σ43=1σ4E[W4](r2)2Γ[(r/2)2]Γ[r/2]113=6r4(r>4)

確率変数Xが標準正規分布に従うとき,Xの中心積率は
E[Xm]={(2k1)531(m=2k,k=1,2,3,...)0otherwise.

定理4より

t分布の尖度は,自由度rが大きいほど小さくなることがわかる.

さらに,自由度rを十分大きくすると尖度が0に収束することから,このときの分布は正規分布とみなすことができる.

投稿日:202457
更新日:2024521
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  1. はじめに
  2. t分布のグラフの形を探る
  3. 結論:g1(t)のグラフの概形
  4. t分布の諸性質
  5. 正規近似
  6. 平均と分散(Example3.6.1)
  7. t分布がらみのRコマンド
  8. t分布表
  9. F分布の導入
  10. 確率密度関数の導出
  11. 以下は補足
  12. 歪度と尖度