四元数のオイラーの公式
複素数についてのオイラーの公式はよく知られています。
この公式の四元数版を考えます。四元数とは、虚数単位を3つ含む数 です。
指数関数
まず、オイラーの公式の左辺に出てくる指数関数について見ておきます。
実数の指数関数から始めます。定義のしかたはいろいろありますが、ひとつには、数の自然数乗から始める次の方法があります。
実数の指数関数
実数 を固定します。
- 正の整数 に対して、(右辺は 個の積)と定義する。
- と定義する。
- 正の整数 に対して、 と定義する。
- 有理数 (ここで は整数、 は正の整数)に対して、 と定義する。
- 実数 に対して、 に収束する有理数列 を選び、 と定義する。
このとき、 から への関数 を、 を底とする指数関数、と定義します。
なお、実数の場合の定義は有理数列をひとつ選んでいますが、実際には有理数列の取り方によらず同じ値へ収束するため、この定義はwell-definedです。
特に、ネイピア数 を底とする指数関数を と書きます。つまり、 です。これ以降は、指数関数といえばこの のことを指します。
指数関数は次のように冪級数展開できます。
これを使って、指数関数を複素数に拡張します。
オイラーの公式
指数関数 の が特に純虚数 の場合を考えます。
となります。途中で和の順序を変更できるのは、この無限級数が絶対収束することによります。こうして、複素数のオイラーの公式が導かれました。
四元数の定義
次に、四元数の定義を確認しておきます。
四元数
次の形であらわされる数を四元数と呼びます。ここで 、、、 は実数です。
、、 は虚数単位と呼ばれ、次のルールに従います。
加法や乗法は、多項式の演算と同様に定義されます。四元数では、その定義から乗法の交換法則は成り立ちませんが、加減乗除が行えます。つまり、四元数の集合は加法と乗法で斜体となります。
実数体を 、複素数体を で書くのと同様に、四元数体は と書きます。なお、Hという文字を使うのは四元数を考案したハミルトンに由来しています。四元数は英語でquaternionですが、Qは有理数体で使われているので被りますね。
四元数の指数関数
指数関数を複素数に拡張したときと同様の方法で、指数関数を四元数に拡張します。
四元数のオイラーの公式へ向けての考察
指数関数 の が特に純虚四元数 の場合を考えると、オイラーの公式の四元数版が出てきます。複素数の場合に比べると複雑になるので、少しずつ考察していきましょう。
の場合
まずは、複素数のときと同じ形 の場合。これは を何乗しても虚数単位 、 が出てこないので、複素数と場合と同じになります。
の場合
次に、虚数単位をひとつ増やして の場合。、、などを計算します。
これを使うと、 は次のようになります。
うまく変形してやれば、複素数のオイラーの公式と似たような形に持ち込める様子が見えてきます。
の 乗のかたち
の 乗が循環する様子も見えてきているので、確認します。純虚四元数 について、まず を計算します。
したがって、次が得られます。
四元数のオイラーの公式
純虚四元数 について、 は次のようになります。
四元数のオイラーの公式
純虚四元数 について、次が成り立ちます。
を使わずに書くと次のようになります。
最後の式で、 とすれば、複素数のオイラーの公式になることがわかります。
補足:指数法則は成り立たない
複素数の指数関数は冪級数で定義しても、指数法則 が満たされます。しかし、四元数の指数関数の定義では、指数法則が満たされません。
成り立たない例を挙げます。
したがって、 です。