$r$次行列$A$と$s$次行列$B$の行列のテンソル積$A \otimes B$について、このテンソル積を表現行列としてもつ順序基底はなんなのかよくわからなかったので計算した。
線形空間や線形写像のテンソル積や元のテンソル積の計算を実行できる
$r$次行列$A=(a_{ij})$と$s$次行列$B=(b_{i'j'})$に対して、$rs$次行列$A \otimes B$を次のように定める:
\begin{eqnarray}
\left(
\begin{array}{ccc}
a_{11}B & a_{21}B & \cdots & a_{1r}B \\
a_{21}B & a_{22}B & \cdots & a_{2r}B \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
a_{r1}B & a_{r2}B & \cdots & a_{rr}B \\
\end{array}
\right)
=
\left(
\begin{array}{ccc}
a_{11}b_{11} & a_{11}b_{12} & \cdots &a_{11}b_{1s} & a_{12}b_{11} & \cdots & a_{1r}b_{1s} \\
a_{11}b_{21} & a_{11}b_{22} & \cdots &a_{11}b_{1s} & a_{12}b_{21} & \cdots & a_{1r}b_{2s} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots &\vdots & \ddots &\vdots \\
a_{11}b_{s1} & a_{11}b_{s2} & \cdots & a_{11}b_{ss} & a_{12}b_{s1} & \cdots & a_{1r}b_{2s} \\
a_{21}b_{11} & a_{21}b_{12} & \cdots &a_{21}b_{1s} & a_{22}b_{11} & \cdots & a_{2r}b_{1s} \\
\vdots & \vdots & \vdots & \vdots &\vdots & \ddots &\vdots \\
a_{r1}b_{s1} & a_{r1}b_{s2} & \cdots & a_{r1}b_{ss} & a_{r2}b_{s1} & \cdots & a_{rr}b_{ss} \\
\end{array}
\right)
\end{eqnarray}
これを$A$と$B$の(行列の)テンソル積という。
2次行列と3次行列とかで実際に書いてみるのをおすすめします。
$s_1 \crossproduct s_2$型行列と$r_1 \crossproduct r_2$型行列の行列のテンソル積も定義できるはずだけど省略。
$V, V'$を線形空間、$(e_1,e_2, \cdots , e_r)、(e'_1, e'_2, \cdots , e'_s)$をそれぞれの順序基底とする。ある$V$上の線形変換$f$を一つ考える。その線形写像についてこの順序基底による表現行列を$A$とする。同じように、$V'$上の線形変換$g$から表現行列$B$を得る。
それぞれの基底のそれぞれの元同士のテンソル積がなす集合$\{ e_1 \otimes e'_1, e_2 \otimes e'_1, \cdots e_r \otimes e'_1, e_1 \otimes e'_2 \cdots e_r \otimes e_s \} \subset V \otimes V'$はテンソル積$V \otimes V'$の基底をなす。また、$V \otimes V' $上の線形変換$f \otimes g$を考える。このとき、行列のテンソル積$A \otimes B$を表現行列に持つような基底の順番は何だろうか。
順序基底$(e_1 \otimes e'_1, e_1 \otimes e'_2, \cdots e_1 \otimes e'_s, e_2 \otimes e'_1 \cdots e_r \otimes e_s)$による表現行列は$A \otimes B$である
計算すればよい。
としたいが、この計算を今後しなくてよいように簡単にメモをしておこう。今それぞれの順序基底と行列は次のような関係になっている。
\begin{eqnarray}
f(e_{\lambda}) &=& Ae_{\lambda} &=& a_{1\lambda}e_1 + a_{2\lambda}e_2 + \cdots + a_{r\lambda} e_r &=& \sum_{i} a_{i\lambda}e_{i}\\
g(e'_{\lambda '}) &=& Be_{\lambda '} &=& b_{1\lambda '}e'_1 + b_{2\lambda '} e'_2+ \cdots + b_{s\lambda '} e'_s &=& \sum_{i'} b_{i' \lambda'}e'_{i'}
\end{eqnarray}
これを使って$f \otimes g (e_1 \otimes e'_2)$ を計算してみよう
\begin{eqnarray} f \otimes g (e_1 \otimes e'_2) &=& f(e_1) \otimes g(e'_2)$ \\ &=& (\sum_{i} a_{i1}e_{i}) \otimes (\sum_{i'} b_{i'2}e'_{i'}) \\ &=& \sum_{i} \sum_{i'} a_{i1} b_{i'2} (e_i \otimes e'_{i'}) \\ &=& \sum_{i'} \sum_{i} a_{i1} b_{i'2} (e_i \otimes e'_{i'}) \end{eqnarray}
落ち着いて展開していく、以後$e_i \otimes e'_{i'}$を省略して $(e_i e'_{i'})$と書く。
\begin{eqnarray}
\sum_{i} \sum_{i'} a_{i1} b_{i'2} (e_i e'_{i'})
&=& a_{11}b_{12} (e_{1} e'_{1}) &+& a_{11}b_{22} (e_{1} e'_{2}) &+& \cdots &+& a_{11}b_{s2} (e_{1} e'_{s}) & & (i=1)\\
&+& a_{21}b_{12} (e_{2} e'_{1}) &+& a_{21}b_{12} (e_{2} e'_{2}) &+& \cdots &+& a_{21}b_{s2} (e_{2} e'_{s}) & & (i=2)\\
&\vdots& \\
&+& a_{r1}b_{12} (e_{r} e'_{1}) &+& a_{s1}b_{22} (e_{r} e'_{2}) &+& \cdots &+& a_{r1}b_{s2} (e_{r} e'_{s}) & & (i=r)\\
\\
& & (i'=1) & & (i'=2) & & \cdots & & (i'=s) \\
\end{eqnarray}
順序基底$((e_1 e'_1),(e_1 e'_2), \cdots ,(e_r e_s))$において$(e_1 e'_2)$は2番目のため、$f \otimes g (e_1,e'_2)$の係数がなすたてベクトルは表現行列で2列目になる。表現行列の2列目の成分を以下に書きだす。
行列のテンソル積$A \otimes B = (c_{\lambda \lambda '})$と見比べると、
$c_{12} = a_{11}b_{12}$ となり一致する。
順序基底$((e_1 e'_1),(e_2,e'_1), \cdots , (e_r,e'_s))$を考えて
\begin{eqnarray}
\sum_{i'} \sum_{i} a_{i1} b_{i'2} (e_i e'_{i'})
\end{eqnarray}
も書きくだして表現行列がどうなるかを見るのもよいと思う。
順序がない基底を考えて、その$(\lambda, \lambda ')$成分をとるのは写像のように考えればいいじゃないかと思ったのですがそれをやると行列による表示を一つ定めたときとの整合性がよくわからなくなました。その結果、多様体上のベクトル束のテンソル積の共変微分を計算する手が止まりました。というのがこれを書いた背景です。
たぶん、理論的には行列のテンソル積の定義を変えればうまくいくと思いますが、そんなことをすると文献ごとにどちらの順序基底で計算しているかを都度考えることになりそうです。順序をあいまいにしておくのは計算の時に危なさそうです。今回の場合に限るとありえそうな順序付けは次のどちらかになりそうです。
もし本当にすべての順序を無視して考えると$(rs)!$個の表示のバリエーションを同一視することになりそうです。計算を実行するときには$rs$次行列の$(rs)!$個のバリエーションから整合性がとれる表示を一つ選べということになり私の頭にはおさまりそうにないです。